芸能人自殺で相談が急増「とにかく全部聴く」[2020/10/04 21:00]

東京・渋谷区にあるビルの一室。自殺を考える人からの電話やLINEの相談が相次ぐ。ここは、東京都などの自治体の相談窓口を運営するNPO法人、メンタルケア協議会の事務所だ。一日約200人から電話が寄せられるが、芸能人が自ら命を絶ったというニュースが報じられると、その影響は顕著に表れるという。

「あのような人も死にたいと思うくらいだから、自分も」
「同じような家庭環境のあの人が頑張れないならば、私も頑張れないと思う」

亡くなった人と年齢が近い。性別が同じ。生い立ちや家族構成。境遇に少しでも似たところがあると、その人に自分を重ね、自殺という選択を肯定するような内容の相談が多く寄せられる。中には「こういう方法ならば、死ねますか?」と、自殺の方法を模倣した写真を送ってくる人もいるという。

日々相談に対応している、メンタルケア協議会の理事で精神保健福祉士の西村由紀さん(52)は、自分たちの役割について「否定しないで、とにかく受け止めること」と話す。「本人が悩みに悩んで出ない結論に対して、あれやこれやと提案をしたり、考えを否定するようなことは、おこがましいと思うんです」

電話をかけてくる人の多くは、身近に相談できる人がいない。もしくは、近しい人に相談するとその人を困らせてしまうことを心配したり、「ばかなこと言ってるんじゃないよ」とあしらわれてしまうことを恐れるのだという。そんな時に、一人で抱え込まずにここを頼ってほしい、と呼びかける。電話やLINEでの相談は顔が見えないが、相談した人からは「話を聞いてもらって少し気持ちが晴れた」「人に話したことによって自分の気持ちが整理された」と話す人もいる。

相談の中には衝動的なものも多いため、相談者が冷静になるまで時間をかける。だから、「とにかく全部聴く」と西村さんは繰り返した。


▽メンタルケア協議会理事・精神保健福祉士 西村由紀さんの話

心の問題や、死にたいくらい辛い方の悩みをお聞きして、これからどうやって生きる希望を持っていこうかお話を聞きながら一緒に悩んで一緒に考えます。

新型コロナウイルスの感染者が増え始めた3月下旬以降、相談の件数が増えています。これまでに抱えていた悩みが深刻化したり、体の症状が悪化したという人も増えました。家にいる時間が長くなったことも影響しているのかもしれません。また、悩みを抱えている人にとっては、すべてのことが自分にとってネガティブなメッセージに聞こえてしまうことがあります。そのときは一人で考えすぎないで、誰かと話をしましょう。自分のことをよく知っている人に、もしお話できる人がいなければ、電話相談やSNSの相談を利用してください。

話すことで解決のきっかけになるかもしれません。一人で頭の中で考え過ぎるよりも、言葉にして誰かに伝えるだけで、自分の気持ちや考えが整理できることもあります。話したことで、気持ちが晴れたという相談者もいます。生きるのが辛くなるほどの悩みを、一回の相談で解決するのは簡単なことではないかもしれません。でも、1人で考えるよりは2人の方がより良い答えが浮かぶかもしれません。

体に影響が出たら、躊躇しないで相談してください。眠れない、食欲がない、体がだるくて動きにくい…。問題が深刻になればなるほど相談するのが難しくなることが多いです。このぐらいで相談していいのかな?と迷っているならば、早めに相談してください。

お子さんをはじめ、電話がかけづらい方、電話代が気になる方などは、LINEなどのSNSでの相談窓口もあります。電話やSNSでは顔が見えませんが、その人の状況をよく理解して、一緒に考えていきたいと思っています。

【こころの健康相談統一ダイヤル】0570−064−556
 ※全国共通の電話番号で、電話をかけた所在地の公的な相談窓口に繋がります。
東京都所在の場合は、メンタルケア協議会に繋がります。(毎日午後2時〜午前5時半)

【東京都のLINE相談】アカウント:相談ほっとLINE@東京
「生きるのがつらいと感じたら…」という項目を選択してください。
(毎日午後3時〜午後9時半)

(取材:社会部 鈴木彩加)

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