GWに再エネ「出力制御」 今夏は再び電力需給ひっ迫の恐れ 私たちにできることは?[2022/04/29 10:30]

再生可能エネルギーの発電を一部止める「出力制御」が相次いでいる。4月には東北電力、中国電力、四国電力それぞれの送配電を担う子会社が実施。北海道電力管内でも、ゴールデンウィークに初めて「出力制御」を行う可能性があると発表した。
一方で、今年の夏が猛暑となった場合、電力の需給はひっ迫する恐れがあるという。
日本の電力供給はなぜ安定しないのか?発電量が増える再エネをどうすれば有効活用できるのか?電力の構造的な問題とともに私たちにできることを考える。

●太陽光は「“気まぐれ”なスター投手」?

そもそも「出力制御」は何故行われるのか。
電気は同時同量が原則だ。「需要=使う量」と「供給=発電する量」を一致した状態にしないと、周波数が乱れて大規模な停電が起こる可能性がある。天気がよいと太陽光エネルギーの発電量が増える一方で、気温が上がり暖房などの需要は減るので、需給のバランスが崩れてしまう。
そのため、停電を避けようと各エリアで「出力制御」が行われている。特に連休中は電気を多く使う工場や企業が休みに入って需要が減るため、ここ数年、「出力制御」が行われることが多い。

それにしてもせっかくの再生可能エネルギー、もう少しうまく活用できないものなのか? 現状、なかなか簡単ではないというのが実情のようだ。
経産省の幹部は太陽光について「”最優先で導入”と言われたスター投手だが、気まぐれなところがある」と話す。その日の天候で“気まぐれ”に発電量が変わるという指摘だ。

記憶に新しいのは今年3月に出された「電力需給ひっ迫警報」だ。
「警報」は、電力の需要に対してどれだけ供給に余裕があるかを示す「予備率」が、最低限必要な3%を切ったら出される仕組みとなっている。
3月22日、関東地方ではこの「予備率」が3%を下回ると予想されたため、初めての「電力需給ひっ迫警報」が出された。萩生田経産大臣が、「このままではブラックアウトを避けるために広範囲での停電を行わざるを得ない状況」と呼びかけるなど一時、事態は緊迫した。

この時「警報」が出た要因は福島県沖の地震で火力発電所が停止したことなども挙げられるが、季節外れの悪天候により太陽光の発電量が大きく下がったことも追い打ちをかけた。
実際、「警報」が出た日の東電管内の太陽光発電の最大出力は、発電できる容量の1割程度にとどまった。

●「調整力」としての火力が需給ひっ迫の要因に…

3月の「警報」時には特殊な事情で十分に機能しなかったが、稼働や停止が臨機応変にできる火力発電所は本来、悪天候で減った再エネを補う「調整力」だ。
前出の経産省幹部は火力発電について「最近は批判の的にもなって引退させたいベテラン選手だが、ここぞの時に頼み込んで投げてもらわないと困るリリーフピッチャー」と例える。

ただ、火力発電は今、供給力の低下が続いている。
「調整力」として必要のないときは停止するなど、稼働率が下がっているためだ。収益性の確保が難しくなり、休廃止が加速している。
さらにウクライナ情勢の悪化により、もともと上昇傾向にあったLNGなどの燃料価格も跳ね上がり、火力発電所の運営にかかるコストは増え続けている。76%程度を火力発電に頼る日本にとっては苦しい状況だ。

しかし、脱炭素の大きな流れの中で、政府が示す2030年度のエネルギーミックスでは化石燃料に頼る火力発電の比率を41%程度まで下げる方針だ。依存度を減らしていく、もしくは二酸化炭素を出さない水素やアンモニアを活用するなどの取り組みが求められる。

●「原発の再稼働」世論調査ではほぼ半数が反対

こうした中、再エネの「調整力」としては活用できないが、下支えとなり得るのが原子力だ。
岸田総理もここのところ、「原子力」の活用に言及し始めている。ロシア産の石炭の禁輸を表明した記者会見では「再生可能エネルギー、原子力など脱炭素の効果の高い電源の“最大限の活用”を図る」と、再エネと並べて必要性を訴えた。経産省の幹部も「脱炭素化と安定供給の二兎を追えるのは原発しかない」と強調する。

しかし、ANNの4月の世論調査では、たとえ今後、電気などが値上がりしてもロシアへのエネルギー依存度を減らすべきという回答が6割超となる一方で、原発再稼働を早めることには49%が反対、39%が賛成と、慎重な声が根強いことが分かった。
現状としても東京電力・柏崎刈羽原発での核セキュリティ違反などがあり、東日本の原発の再稼働は進んでいない。

● 電力需給は今夏も次の冬も「ひっ迫」の恐れ

3月の「需給ひっ迫警報」では、政府の呼びかけに対し、節電の取り組みが広がったことで何とか大規模停電は免れた。

しかし、今後も需給のひっ迫による大規模停電の恐れは続くという。
全国規模で電力の需給を調整する電力広域推進機関が4月12日に発表した見通しでは、来年1月と2月に厳しい寒さとなった場合、東京エリアでは、最低限3%必要な予備率がなんと「マイナス」に。さらに今年の夏についても、猛暑だった場合、東京・中部・東北エリアで「3.1%」とぎりぎりの状況だ。

政府関係者は「警報を何度も出すような事態は避けないといけない」と危機感を募らせるが、経産省の幹部からは「再エネへの移行に進むこの数年は、日本国内は電力の安定供給という課題に、ずっと向き合い続けることになる」との声も上がる。

● 再エネに課題山積 消費する側の意識改革も

発電しすぎた再エネをうまく使うためには、送電網のさらなる増強も必要そうだ。
電気の供給が足りない場合、電力会社は他社からの融通を受ける仕組みとなっている。増強は徐々に進んでいるものの、十分とは言えない状況だ。
太陽光や風力の発電量が多いエリアと、電気を使う量が多いエリアの距離が離れていることもあり、送電線の果たす役割は大きい。

さらに、蓄電池もカギになる。住宅や工場に設置された太陽光パネルで発電した電気を貯めて使うなど、再エネを「蓄電する」取り組みは全国各地で進んでいる。
経産省も今月、2030年までに今の10倍程度にあたる600ギガワットアワー分の生産能力の確保を目指す方針を示した。

ただ、いずれもコストの問題は切り離せない。
送電線の多額な建設費用は電気料金に上乗せされることになるし、蓄電池はまだまだ高価格という実態がある。政府関係者は「再エネを増やしていく限り、費用負担が増えるのは覚悟しないといけない」と話す。

電力自由化により発電・送配電・小売が分割され、新たなエネルギーのあり方を模索する中で、電気を消費する私たちも「しばらくはこういう事態が起こるもの」と考え、需給がひっ迫した際には、効果的な節電を心がけるなど意識を切り替えていく必要がありそうだ。

経済部 中村友美 延増惇

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