AI×海外ファンでスピード翻訳 被害1兆円超…マンガ“海賊版”に奇策で挑む出版社[2022/07/29 23:30]

カドカワや集英社、小学館の出版大手3社は28日、漫画の海賊版サイト『漫画村』を相手取り、共同で損害賠償を求める訴訟を起こしました。

いまや漫画の“タダ読み”は全世界で行われていて、去年の被害額は1兆19億円と、コミック市場の販売金額6759億円を遥かに上回る額となっています。

この海賊版に、意外な方法で立ち向かう日本企業を取材しました。

新型コロナによる世界的なステイ・ホームの流れもあり、急増しているマンガの海賊版被害。こうしたなか、日本の出版各社は、マンガ産業を守り、さらなる発展をさせるべく様々な取り組みを行っていました。

集英社は『週刊少年ジャンプ』などの作品から、冒頭と最新の数話が無料で読める海外限定のプラットホーム『集英社 MANGA Plus by SHUEISHA』を開設。海外のマンガファンの裾野を広げるとともに、結果として、海賊版の抑止にもつながっているといいます。

さらに、小学館でも新たな取り組みを始めていました。

小学館マンガワン編集部・和田裕樹編集長:「もしかしたら勝手に作られる海賊版に対抗できるのではないか。“AI+ファン翻訳”という形で、実際に世の中に出してみる」

最新のAI技術と海外のマンガファンの力を融合させた画期的な取り組みです。

マンガを翻訳するためのシステム『マントラ・エンジン』に日本語原稿を読み込ませると、1ページあたり、10秒ほどで英語に翻訳が完了します。

マントラ株式会社・関野遼平事業責任者:「弊社のシステムには2つのAIの技術が入っています。1つは、吹き出しの中を文字として認識する技術。それをさらに翻訳するための技術。この2つのAIの技術で成り立っています」

独自に開発されたこのシステム。現在、14の言語に対応しているといいますが、いまだ完ぺきとまでは、いかないようです。

マントラ株式会社・関野遼平事業責任者:「10個吹き出しがあったら、3〜5個はそのまま読める精度」

精度を補うために抜てきしたのが、海外に住むマンガファンたちです。

彼らが行うのが、AIが翻訳した原稿の校正。言語の間違いはもちろん、文化的・宗教的なタブーなどが入っていないかなどを細かくチェックし、翻訳版を作っていきます。

かつて海賊版を作っていた人も味方に引き入れました。

マントラ株式会社・関野遼平事業責任者:「元々、いわゆる海賊版を作っていたんですけど、今は完全にやめてもらって一緒に働いています」

海賊版を作ったことがある、クリスさん:「以前は英語版がなかったので、仕方なく海賊版を作っていました。みんなのためにもなるし、良かれと思ってのことでしたが、今は正規の仕事がもらえて、お金ももらえ、夢のようです」

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こうしたマンガ界発展のための取り組みは“漫画家の育成”に対しても注目が集まっています。

特に注目されているのが、最近、自分でWEB上に作品を発表する漫画家の存在です。

出版各社は今、ネット上で活動するこうした“金の卵”を囲い込もうとしています。

例えば、講談社が運営するマンガ家と編集者のマッチングサイト『DAYS NEO』です。

このサイトに作品を投稿すると、出版各社約300人の担当者から直接メッセージが送られてきます。

マッチングが成立すれば、そのままプロの道へ。これまで800組以上のマッチングが成立しているといいます。

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