“ガソリン補助金”に政府内からも「バラマキ」批判 “段階的”縮小案が消えたワケは[2022/09/14 14:30]

政府は、9月末に期限を迎える「ガソリン補助金制度」を年末まで延長すると9日に発表したが、この延長をめぐり政府内ではこんな不満の声が渦巻いている。

「こんなバラマキ政策を一体いつまで続けるつもりなのか?」

政府内では、この「ガソリン補助金」について、現在の「上限35円」(1リットルあたり)を12月にかけて段階的に引き下げる案を検討していた。
しかし今回の発表にはこの「段階的縮小案」はない。

取材を進めると、岸田総理が最終調整の会議の場で、「段階的縮小案」に不快感を示していたことがわかった。

一体、何が起きていたのか。そして「バラマキ政策」はいつまで続くのか。
政府関係者の証言などから検証する。

■国費すでに約2兆円投入 「出口の見えないトンネルだ」

今回、岸田政権が延長を決めた「ガソリン補助金制度」とは、ガソリンなどの価格を抑えるため石油元売り会社に補助金(現在は1リットルあたり「上限35円」)を支給する制度。

ウクライナ情勢や円安などの影響で、5月以降はレギュラーガソリンの全国平均価格がほぼすべての週で200円(過去最高値)を超えているのだが、この補助金の投入によって、170円前後に抑えられている。
つまり、一定の抑制効果は発揮してきたのだ。

ただ、今年1月に始まったこの補助金制度は、これまで延長と拡充を繰り返し、今回で3回目。
4月下旬からは「上限35円」の制度を適用し、1日100億円の国費を投入している。
その結果、制度開始から投入してきた総額は約2兆円にのぼる。

しかも、CO2を排出するガソリンに多額の国費をかけて支援するこの政策は、政府が推進する脱炭素化に明らかに逆行している。

政府関係者A「このバラマキをいつまで続けるつもりなのか?」
政府関係者B「出口のみえないトンネルに入ってしまった」
政府関係者C「いい加減に縮小させないとガソリンに補助金が当たり前になって市場がおかしくなる」

政府内でもそろそろ終わらせるべきだという声が根強いのだ。

■経産省が恐れる制度終了時の“大混乱”

このガソリン補助金制度を続けることで、経産省などが最も恐れているのは「段差」だ。
仮に、上限である35円の補助金を支給していて、この制度を終わらせる場合、単純計算でガソリン価格が35円程度、一気に上がることになる。
つまり、週を境目に、170円程度だったレギュラーガソリン価格が200円を超えるのだ。

そうなると制度の終了間際、「安い今のうちに!」とガソリンスタンドに消費者の駆け込みが起き、在庫がなくなるなど流通が大混乱する恐れが出てくる。
石油業界からも「混乱がないように終わらせてほしい」という声が上がっていて、政府は補助金制度の“終わり方”を模索してきた。

折しも中国を中心に世界経済の停滞が予想される中で、原油の先物価格がウクライナ侵攻前の水準にまで落ちていて、補助を縮小する絶好のタイミングが訪れていた。
しかし、政府は今回の延長で、出口戦略を示さなかったのだ。

実は政府は、ガソリン補助金の延長とともに、懸念されている「段差」を緩和するために10月は上限「35円」を維持し、11月は「30円」、12月は「25円」に引き下げる、“段階的な”縮小案を検討していた。

しかし9日、政府が発表したのは、「制度の延長」のみだった。補助金額の上限については「原油価格の動向を見極めながら検討する」という表現にとどめられていた。
もちろん、この表現には、補助金額を引き下げる可能性も含まれてはいるが、明確な出口戦略は事実上、見送られたのだ。

■最後の最後で引っくり返った「縮小案」

なぜ、見送られたのか?
テレビ朝日経済部では、舞台裏で何があったのか複数の政府関係者の証言を得た。

「岸田総理が不快感を示した…」

ガソリン補助金については、物価の高騰対策を検討する中で議論されていた。
8日に行われた最終調整の会議の場で岸田総理が、補助金の「段階的縮小案」について不快感を示したのだという。
それにより「段階的縮小案」は物価の高騰対策決定の前日に引っくり返った。
具体的な数字は出さず、「検討」という形になったのである。

ある政府関係者はこう分析する。
「あえて上限の切り下げを言わなくてもいい。最近政権の支持率が下がり、円安も進み、わざわざ『補助を減らす』と国民の不安をあおるようなことは言いたくなかったのではないか」

たしかに、「物価の高騰対策」と掲げる中で、段階的な縮小とはいえ、補助を減らすと宣言するのは矛盾するという見方もできる。
ガソリン価格を抑えることが、輸送費を抑え、結果的に食品や日用品などの価格高騰を抑えるという一定の効果はあるだろう。

しかし、総額3兆円規模の予算を使い、一部の業界と(車所有者など)一部の消費者が恩恵を受け続ける形となっているこの政策は、いつまで続くのだろうか。明確な“終わり方”を見出せていない。

ある経産省の幹部は吐き捨てるようにこう言った。
「予算についていえば、政権はタガが外れていますから、節度なんてないでしょ。今に始まったことじゃないけど」

テレビ朝日経済部 延増 惇、佐藤 美妃

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