「スタートアップ企業の育成」には急成長企業に集中支援を[2023/01/31 10:15]

 政府が成長戦略の柱とする「スタートアップ企業の育成」について、急成長を続けるスタートアップのトップが特定の企業に集中して支援する必要性を強調しました。

 キャディ・加藤勇志郎代表取締役(31):「スーパー成功企業をどれだけバックアップしてでも、どんな手を使ってでも作れるかがその後、後人を作っていくのにもすごく重要だと思う」

 加藤氏が代表を務める「キャディ」は製造業をデジタル技術で支えるスタートアップで、アナログだった図面の自動読み取りや部品の発注から納品までを効率化する事業を展開しています。

 当初2人だった従業員は創業から5年ほどで600人を超えました。

 加藤代表取締役は「スタートアップへの投資を5年で10兆円にする」などとする政府の成長戦略について、次のように指摘しました。

 キャディ・加藤勇志郎代表取締役:「この10兆円をただばらまいたら、そこから芽が生まれて本当に大きくなるわけではないので、今までの常識を捨てて本当に注力をして、そこに集中的に投下をして伸ばせるかだと思う」

 さらに、育成には大企業などがスタートアップ企業のサービスを積極的に利用することも必要だと述べました。

 以下、加藤代表取締役へのANNインタビューより。

 (Q.キャディとはどんな会社?)
 キャディはですね、「もの作り産業のポテンシャルを解放する」というミッションを掲げておりまして、2つ事業を持っています。1つは創業時からやっている事業で、町工場さん、いわゆる工場の強みというものをすべてデータ化して、それに基づいてお客さんが発注したい図面データを解析して、最適な工場に発注をして、品質検査をして納品をするという、もの作りの受発注におけるプラットフォームの役割のような事業をしております。

 もう1つの事業は製造業におけるデータインフラを作っていくということで、図面が一番重要なデータになるんですけれども、その図面のデータを解析して、お客さんがよりその図面データを活用できるような状態にしていくDXツールのようなものを提供しています。

 (Q.キャディは既存の大企業にはなかった目の付け所で事業を展開している。スタートアップだからできたことは?)
 キャディは「もの作りの現場の力」というものと「テクノロジー、技術の力」というものの掛け算をすごく大事にしています。日本の製造業はものすごく現場が強いし、すごく良い技術を持っていたりしますけれども、一方でソフトウェアのエンジニアが製造業のメーカーに行くかっていうと、本当に優秀な人はGoogleに行ったり、amazonに行ったり、GAFAと言われるところに行ったり、ソフトウェア企業に行くわけですね。

 一方で、ソフトウェアの会社がソフトウェアだけで製造業の非常に重い課題を解決できるかっていうと難しい。現場のことを知っているとか、モノ一つとっても少し形状が違うだけで作り方が全く違うとか、そういったことをちゃんと理解していないと、ここに本当の意味でちゃんと解決策を示せないと思ってるんです。

 キャディは元々、私と小橋というエンジニアの2人で創業しましたけれども、ソフトウェアの部分ともの作りの現場、創業メンバーで工場に3カ月、無給でインターンをして、実際に現場で働くことを最初からやっていたりします。現場の解像度とテクノロジーの2つを持ってるっていうのはキャディのユニークなところだと思いますし、製造業だけでやってきた会社ではないからこそ起こせる変化なのかなと思いますね。

 (Q.2023年、リスクになるのは?)
 1つは米中問題っていうのはすごく大きくなってきてはいるので、もの作りにおいても、そもそもどこからモノを買っていいのかとか、どこにモノを輸出して良いのかっていうことが、本当にこの数カ月で急速に変わってきてるんですね。

 今まで、例えばA国から買っていた会社さんが国策的にその部品を全くそこから買っちゃいけなくなると、今まで作っていたものすべてを洗い替えなきゃいけないという感じになる。

 (Q.日本の製造業にとってこの1年は飛躍の年になる?それとも厳しい1年に?)
 今年、来年にかけてすごく市況が悪くなるということは色んな人が言ってたりするので、そうすると打撃を受ける業界はものすごく受けると思います。市況が悪くなると基本的には投資を控えるので、投資産業、設備だったりとか、投資に使われるようなものを売ってるような会社さんはものすごく難しい局面になるとは思います。

 あとは国際関係で言うと、去年もそうですけれども、引き続きモノがそもそも手に入らないっていうサプライチェーンの問題だったりコロナの問題があるので、例えばモノに関しても手に入らないものを求め続けて高いお金を出しても買った方がいいのか、あるいは設計を変えてそのモノを使わなくするのかっていうことも含めて、抜本的な変化をしていかないと、モノが手に入らない、生産ができない、売り上げが上がらないっていうことは日本企業において当然、起こり得るところだと思うので、そこはものすごい大きなリスクというか、難しさかなと思います。

 (Q.政府も「スタートアップへの投資を5年で10倍の10兆円にする」ことを目標にスタートアップ支援に力を入れている。実際にスタートアップ企業のトップを務めていて、こうした政策をどう見る?)
 資金的な問題は当然スタートアップにはあるので、売り上げよりも先に投資が必要であると、ここをどうやって集めるのかという課題があるので、スタートアップ投資10兆円みたいな話は、すごく分かりやすい数字としてはスタートアップにとっても良いことだと思うんですよね。

 ただ、どういう10兆円なのかっていう中身は当然、重要ではあって、例えば補助金なんかも、良い補助金の活用の仕方と、あんまり効率的ではないものもある。全体にばらまいていった時に、例えば製造業の設備の補助金ってたくさんあるんですけど、1社1000万円を1万社使えますと、全部で1000億予算取りますみたいなやり方が一般的ではあって、でもこれって1000万円を集めた人たちが、それぞれ本当に大きく化けるかっていうと基本的にはすごく難しい。

 アメリカとかを見ていくと、本当に伸びている会社、GAFAのような会社っていうのは何兆円という規模でお金を集めていくわけですね。なので、究極的にはこの10兆円が1兆円×10社の本当に伸びていくような会社に投下された方がもしかしたらいいかもしれない。この10兆円をただばらまいたら、そこから芽が生まれて本当に大きくなるわけではないので、いかに戦略的に伸びるところを見極めて投資していくかっていうのは、国の方針としてもすごく重要だと思ってはいます。

 日本はやっぱりどうしても平等にやっていくっていうことがすごく多いので、皆が平等に1000万円を受け取れる、1億円受け取れるようにしましょうっていうのは、このスタートアップの世界においては成功を作り出す方程式ではないと思います。ある意味割り切って、今までの常識を捨てて本当に注力をして、そこに集中的に投下をして伸ばせるかだと思います。

 アメリカと日本の成長は違うって言われますけれども、日本とアメリカの成長の違いは、GAFA+数社のトップ企業の成長を全部外すと同じだったっていう話が言われるぐらい、結局、アメリカの成長もこの5社とか10社で作られてるわけですね。

 日本もスタートアップをいっぱい生み出せばいいというよりは、この5社とか10社の本当に世界を変えるレベルの会社をどう生み出すかが本質的には一番、重要な課題だと思ってるので、そこにど真ん中になっているかというと、第一歩としてはいいけれども、10兆円なり色んな政策の使い方によって吉とも凶とも出るかなとは思います。

 (Q.スタートアップとして事業を進めてきて、スタートアップならではの苦労は?)
 逆説的ではあるんですけど、スタートアップってなぜ伸びるかといったら、誰かが何かを買うから。スタートアップに対して何かのサービスを買ってお金を払うからなわけで、そうするとそのお金を払う側の方がすごく影響を与えるんですね。

 なので、スタートアップがすごく頑張るということはもちろん大前提、重要なんですけれども、例えばアメリカとかで言うと、20年前にスタートアップだった会社がアメリカのトップを独占してるわけじゃないですか。そうすると、スタートアップをよく知ってるので、あるスタートアップがいいねってなったら、買うんですよね。そのサービスをどんどんどんどん使うわけですね。そうすると売り上げが上がっていくので、その会社が伸びていく。この会社が使ってるならと他の会社も使う。これが本質的にすごく重要だと思ってます。

 日本は隣の会社が使ってたら使うとか、そもそもスタートアップと全く違う大企業の生態系があって、ここはスタートアップとなかなか相容れない部分があって、投資のためにも本当にこの会社は大丈夫?とか、リスクのところから常に始まってしまうっていう部分があるので、実は本当にスタートアップを大きくしていくには、大企業なり既存の企業がどれだけそれを受容して、新しいものにチャレンジするか、できるかっていうところが一番、重要だと思っています。

 (Q.海外から見て日本のスタートアップの魅力はあるのか?)
 我々も挑戦中なので何も偉そうなことは言えないんですけれども「日本が安定したらグローバルに行こう」というよりは、グローバルを最初から大前提に組織も事業も作っていくかが本当に重要だと思うんですね。

 日本とグローバルのマーケットって全然違うので、グローバルも国によって違うので、日本で盤石なものができたからそのまま売れるわけでもないじゃないですか。なので、グローバルにそもそもニーズがあるかどうかを創業段階からどれだけ考えられるかとか、グローバルに活躍できる人をどれだけ経営陣も含めて最初から巻き込めるかどうかがものすごく大事だと思っているので、そういう意味では最初からグローバルを前提にする。

 究極的には日本で創業する必要だってないわけで、最初からアメリカでもシンガポールでもやればいいと思うので、日本とグローバルというものを常に対比で見ている段階においては、そっちに行くことは厳しいと思ってるんですね。そもそもグローバルの中の日本として捉えられるかどうか、日本対グローバルとして捉えているかどうか、この違いは結構あると思うので、我々は創業時からグローバルでやることを大前提にして、グローバルでニーズがあることを大前提にして、グローバルでニーズがあることを確かめたり、グローバルで強みが持てる産業を選んだりしていたので、そこは重要なポイントかなと思いますね。

 (Q.世界では「スタートアップ冬の時代」と言われている。そうした状況のなかで日本のスタートアップが飛躍できる可能性は?)
 普通に行ったら厳しいんじゃないですかね。普通に行ったらですよ。というのは日本って市場が大きいので、ある意味、中途半端にまだ大きいというところがよく言われるんですよね。

 韓国と日本の違いとしてよく言われる、日本はまだ世界3位の市場があって、そうするとわざわざグローバルを考えなくてもそこそこの規模はできてしまう。韓国は本当に小さかったので、グローバルでやらないと韓国内だけでやってても全然大きなものを作れないというところで、グローバル大前提になってすごく大きな会社が生まれたというふうに言われたりしてるんです。それと同じで、普通に行くと、日本語という日本しか使わない言語に縛られていて、かつマーケットもそこそこの規模があるから、一旦ここでやってみようになりやすいなかで、でもマーケットがもう縮むことは確定しているという、こういった市場なので、普通に考えると相当厳しいですよね。

 (Q.日本のスタートアップがこれから羽ばたく可能性は?)
 日本のスタートアップでグローバルで良くなる要素って言語も違うし、そこそこ魅力的な市場もあるし、でもその市場は縮んでいくし、カルチャーも全然違うしってなった時に、普通に考えたら日本だから勝てる理由ってほとんどないと思うんです。

 でも一方で、それは他の国においてもそこそこ一緒であって、もちろん英語を話す国はグローバルで勝ちやすいのはありますけど、国ごとに全然カルチャーが違うわけなんで、逆に言うと日本だから勝てる理由は別に私はないと思いますけど、元々日本に普通にこれだけ経済力がまだあって、人も優秀な人がたくさんいて、人口も多いなかで確率論的に言ったら、いくらでもグローバルで勝てる会社が生まれてきておかしくないわけじゃないですか。やっぱり日本って言わない方が私はいいと思うんですね。日本だからとか日本でどうじゃなくて、もうグローバルで本当に活躍できる人をグローバル大前提で、どんどん創業して、そこにサポートを寄せていくっていうことじゃないかなと思いますね。

 (Q.とはいえ、この国がどうなるかは関心がある。日本が成長力を再び取り戻すには何が必要?)
 日本を代表する大きな企業がどれだけもう1回、成長できるかと、全く新しい企業がどれだけ大きくなれるかの、当然この2つしかほとんどないとは思います。

 大きな企業で言ったらば、やっぱりそこの、まさに生産性を上げていくっていうところが、結局1人あたりの生産性がすごく悪いっていうのは、アメリカに対して3分の2ぐらいとか、もうデータとして分かってるんですよね。これをどれだけ変えられるかで、逆に言うとアメリカと同じ生産性になったらば、今の1.5倍のGDP(国内総生産)になるわけじゃないですか。それだけのポテンシャルを既に持っているところをどうやってテコ入れしていくかは今すぐにやるべきだし、そんなに難しい話でもない。アメリカはそれができてるわけなので。0から1を生み出すっていうのは、より不確実で分からないことだと思うんですけど、これは私は皆、頑張って起業しようというよりは、本当に成功する会社が本当に成功できるように、そこにどれだけ色んな支援があるかとか、色んな大企業の理解があるかだと思っています。

 アメリカはGoogleもFacebookもAmazonもあるからこそ、学生の優秀な人が俺もこれを作ろうと思うわけじゃないですか。野球で言う、野茂がいてイチローがいて大谷がいて、みたいな。そうすると世界で戦うのって当たり前だし、自分もできるんだと思える。これはすごく重要だと思ってるので、いくつかのスーパー成功企業を、どれだけバックアップしてでもどんな手を使ってでも作れるかが、その後、後塵を作っていくのにもすごく重要だと思いますし、日本経済を変える、ある意味、火付け役というか、これによって変わるんだと皆が意識すれば、それがまた大企業を刺激したりとか、そこに人が還流したりとかしていくと思うので。

 大企業の今すぐやるべき生産性(の向上)と、スタートアップに関してはいくつかの大成功例をいかに作っていくかかなとは思いますね。

 (Q.キャディもその大成功例に?)
 なりたいですね(笑)。私はすごく日本という国がどうなっていくかっていうのは本当に重要だと思っていますし、地政学的にも非常にリスクもいろいろある国だと思っているので、経済力がどれだけ強く保てるかとか伸ばしていけるかは、国の存亡にも影響があるぐらいの話だと思ってるんですね。

 去年それがある意味、明るみに出てしまったということだと思ってるので、そういう意味では、我々もそういう代表例になることによって、もっと色んな人がやっぱりスタートアップ盛り上げていこうとか、自分もやってみようって思えることだったり。

 あと、アメリカって本当にGAFAが賃金を押し上げてるんですよね。例えばソフトウェアエンジニアって、GAFAだと、この前レイオフがあった時に平均4000万とかって出てたわけですよ。平均4000万のソフトウェアエンジニアたちが何万人いるわけじゃないですか。こういうことがあると、大企業もここに人を取られちゃうんで、戦わなきゃいけないので賃金を上げるわけですよ。そうすると全体を上げて、上げるための生産性を上げなきゃいけないって、逆説的ですけどこうなってくるわけなので。

 そういう意味ではもっと日本で労働市場としての競争環境も作っていかなきゃいけないと思うんですね。スタートアップがもっと賃金を上げていって、それによって大企業から人をどんどん取ってくると当然なるわけですけども、大企業はそれを守るために賃金上げていくと。そうすると利益が下がるので、じゃあどう生産性上げていくかと。こういう本質的な議論が本質的に良い競争がちゃんと行われていくように、事業でも労働市場でもなっていくと、より活性化していくのかなと思いますね。

 (Q.賃上げはどう考えている?)
 結構難しくて、利益が出るから賃金が上がるという側面と、賃金が上がっていい人が来て、あるいは人のモチベーションが上がるから利益が上がるという、この両方の側面があると思うんですね。

 スタートアップはどうしても利益がどんどんどんどん上がるから賃金上げますっていうのは、そもそも構造上、難しいんですよ。それだったらスタートアップじゃない。もう立派な中規模企業か大企業になってるわけなので。そういう意味では我々も毎年ベースの賃金上げていってますし、昨年も10%とかそういうレベルで上げていっているので。もちろんそれはやっていきます。

 ただキャディはそれをやることによって、より魅力的な人が入ってくるとか、中にいる人がモチベーションを上げることによって後追いで業績が付いてくるっていうサイクルを意図的に投資としてやっている。これはどっちでもいいと思うんですけれども、ほぼすべての企業が普通に考えると利益が出るからボーナス分配しますとかっていう考え方をしてると思うんですけれども、逆の考え方もあるよっていうのは意識してもいいのかなとは思いますね。

 賃金上げるからもっと皆、頑張るし、良い人が入ってきて利益上がるっていう、こっち側を作るための投資として賃金を、賃金を投資として捉えるってあんまりないと思うんですけど、それって別に考えてもいいんじゃないかなとは思います。

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