巨大“駄菓子屋”の信念 物価高騰“苦境”の中…10円で買える「世界の奇跡」守る奮闘[2023/04/15 11:00]

岡山県瀬戸内市ののどかな田園地帯に、ポツンと“巨大な駄菓子屋さん”。

2500平米、テニスコート10面分の売り場には、おなじみの駄菓子からレアものまで5000種類以上。全国から“爆買い客”が続出しています。

しかし、その裏では物価高騰の波が押し寄せ、駄菓子メーカーがかつてない苦境に立たされています。

そんな駄菓子業界を支えたい。大きすぎる駄菓子屋の大きな思いを追跡しました。

■住民3万人の町に…外国人も興奮「夢の国」

舞台は、瀬戸内海に面した岡山県瀬戸内市。住民およそ3万人のこの町に、年間70万人以上が訪れる、“ウワサの駄菓子屋さん”があります。

その名も「日本一のだがし売り場」です。

来店客:「私たちにはディズニーじゃなくて、ココが夢の国」「これだけ種類があるのは珍しいから。ズボーンってハマってしまう」

魅力は、日本一の名に恥じない品ぞろえです。駄菓子の王道「うまい棒」だけでワンコーナー、19種類が並びます。週末には、1日1万本が売れるのだといいます。

2500平米、テニスコート10面分の売り場に並ぶのは、なんと5000種類以上。おなじみの駄菓子の滅多にお目にかかれない味など、レアモノもいっぱいです。

45年愛され続ける大ロングセラー「カットよっちゃん」も、色々な種類があるって知っていましたか?

パプアニューギニアから:「これは面白いから選びました!」

外国人も興味津々。日本人にはおなじみのたばこ型ココアシガレット。でも…。

来店客:「えっ待って。あれ?もしかして、アイコス?」

電子たばこバージョンもあったなんて、日本人もびっくりです!

来店客:「多分、ココにしかない。小顔効果ありますかね?」

「おやつカルパス」は見たことがあっても、「原始人カルパス」は、かなりのレアものです。

値上げラッシュが続くなかでも、この店では、財布のひもが緩む爆買い客が続出です。

来店客:「10円、20円とかなんで。気にせず、食べよ食べよみたいな」「自分が小さい時に買えなかった分、オトナ買い」

おじいちゃんは、3人のお孫さんに太っ腹宣言です。

3人の孫と来店:「きょうは特別。もう、好きなだけ取っていいよって」

すると、およそ1時間のノンストップの爆買い。なんと、合計343点で、1万3700円に。おじいちゃん、さすがに想定外では…?

3人の孫と来店:「子どものうれしい顔が何よりで、満足です」

孫の笑顔は、プライスレス!

ここにも爆買い客がいました。大量の駄菓子の使い道は…?

来店客:「隠す?埋める?」

埋める?隠す?一体、どういうことなのかというと…。

この春卒業した6年生のお別れ会イベント。宝探しゲームで、隠されていた「お宝」が駄菓子です。子どもたちにとっては、最高のお宝です。

■駄菓子の火絶やしては…社長の“信念”

週末になると現れるのが、無料でお菓子を配り歩く“チンドン屋さん”。実はこの人が、この店の社長さんです。

日本一のだがし売り場・秋山秀行社長(64):「面白いやろ?子どもが笑うと、最高やんな」

元々、菓子問屋を営んでいた秋山社長が、この店をオープンしたのは9年前の2014年です。

秋山社長:「今は駄菓子屋がなくなったからね。だからここは、とにかくメーカーの商品を全部並べて、メーカーが生き残れるような場所を作っていくのが、僕らの仕事」

子どもたちがお小遣いで買える駄菓子の火を絶やしてはいけない…。それが、秋山社長の信念なのです。

■知られざる奮闘…月4日間“地道作業”

多い時には一日で800万円を売り上げる日本一巨大な駄菓子屋さん。そのスケールゆえに、舞台裏では知られざる奮闘がありました。

店員:「黒で書いているから、見えないんですよ」

月に一度、15人ほどのスタッフで行う、賞味期限チェック。ゆうに5万点を超える商品を一点一点確認。小さな駄菓子に印字された小さな文字に、ルーペやライトを駆使して目を凝らします。

店員:「これ見るまでの焦点が合うまでに時間かかって」「老眼ってことやねん」「そこまで言わんとこ思って」

なんと、毎月4日がかりの地道な作業です…。

さらに、子どもが計算しやすいようにと、10円以外のすべての商品に貼られている値札付けも、大変な作業です。

しかも、駄菓子にも値上げの波が押し寄せ、値札の貼り換えに、頻繁に追われているといいます。

店員:「これだけあるので」「(Q.これ全部?)これ全部値上げした商品(のリスト)です」

■物価高騰…コストカット“地道努力”

物価高騰が続くなか、駄菓子メーカーは、かつてないほどの危機を迎えているといいます。

名古屋にある創業76年の「共親製菓」。看板商品は、40年以上愛され続ける「さくらんぼ餅」ですが、餅粉や水あめ、砂糖などの原材料、さらに光熱費の高騰で、製造コストはおよそ3500万円増加しているといいます。

20年守り続けた、1パック30円という価格を、去年5円値上げせざるを得ませんでした。

共親製菓 安部隆博専務(37):「本当は5円じゃ収まらないくらい、色々なモノが上がっている」

それでも、できる限り価格を維持しようとコストカットに奮闘しています。

従業員:「一日約1000個落ちていたのを約20個に減らして」

これまでむき出しだった機械のすきまを埋めることで、落下による商品ロスを50分の1に。さらに、お餅をかき混ぜるヘラの素材を改良することで、作業時間を短縮するなど、地道な努力を続けています。

そんな製造工程の裏側を店内でPR、大量に販売してくれる「日本一のだがし売場」はありがたい存在だといいます。

安部専務:「駄菓子というのをすごく広めていただいて、ありがたい」

■“駄菓子屋でしか売れない”商品も…

さらにメーカーへの貢献は、売り上げだけでなく、駄菓子の魅力を守ることにあるといいます。

10円なのに、運が良ければ最高100円の大当たりが付いてくる駄菓子、当たり付き「ヤッター!めん」。

製造は、大阪にある、創業75年の「ジャック製菓」。30年以上前から子どもたちに愛される看板商品ですが、実は近年、販売できる店が激減しているといいます。

ジャック製菓 中野幹社長(69):「当たりやハズレの世話をしてくれるのは、量販店やコンビニでは無理なんで。駄菓子屋さんでしか売れない商品なんで」

駄菓子屋が減少するなか、最大のウリである“当たり付き”が敬遠され、スーパーやコンビニでは取り扱えないことが多いのです。

中野社長:「子どもたちが喜ぶような楽しみのあるお菓子を提供するよう努めていますので。やっぱり、100円当たりに子どもは喜ぶんです」

そんな当たり付き「ヤッター!めん」を、「日本一のだがし売り場」は特設コーナーを設け全面バックアップ。5000種類以上の商品の中で、毎月およそ3万個が売れる一番人気の商品なのです。

中野優専務(40):「あそこまでアピールしてくれて、感謝しかないです」

秋山社長:「皆が助け合って、危なくなったらカバーしようみたいな。だから、いまだにこれだけの種類があって、これだけのメーカーある。世界の奇跡!駄菓子は」

大人も子どもも笑顔にする駄菓子。その火を絶やすまいと奮闘する人たちがいます。

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