トヨタ新社長語る「注目浴び眩しい」も、最終目標の「脱炭素、車の未来変える」に意欲[2023/04/25 06:00]

■「蝉が地上に出て来た感じ…」佐藤新社長が単独インタビューで語ったこと

4月1日付で就任した、トヨタ自動車の佐藤恒治新社長(53)が、初めてANNの単独インタビューに答えた。その中で、佐藤社長は、「脱炭素」の取り組みを強化するため、EV=電気自動車の開発を加速すると同時に、ハイブリッド車など、多様な選択肢を提供する、いわゆる「全方位戦略」を進める方針を改めて示した。また、これまで以上に、戦略の発信を強化して行く考えも明らかにした。

13年間、トヨタ自動車を強烈なリーダーシップで率いて来た、豊田章男前社長(66・現会長)の交代劇は突然のことだった。今年の1月末、誰もが予期していない中で、トヨタの社長人事が発表されたのだ。

「若さがあり、私にはできないことでもできる」、発表の会見で、こう話した豊田前社長が、自信を持って引き継いだ佐藤新社長は、53歳。奇しくも豊田前社長が社長に就任した時の同じ年齢だ。佐藤新社長は、「車を作ることが大好き。車を作り続ける社長でありたい」と熱く抱負を語った。

それ以降、4月の正式な就任までの間も、佐藤社長は度々、メディアへの露出の機会があり、筆者も取材を重ねて来た。しかし、今回、こうして単独インタビューという形で、“世界のトヨタ”の佐藤社長と対峙することになり、否が応でも緊張感は高まった。

インタビューを始める前の冒頭の会話で、佐藤社長に「メディアに出るのは慣れたか?」と軽く質問を振ったところ、「慣れませんね、これは。(もともと自分は)エンジニアなので、もう穴倉で車を作って30年って人を、何かこう蝉が地上に出て来た感じ。眩しいですね」と笑顔を覗かせながら応じた。

この人懐っこい笑顔や、これまでエンジニアとして真摯に車の開発に臨んで来た、素朴な人柄や温和な雰囲気が、この人の魅力だと筆者は思っているが、その一方で、これまで豊田章男氏の元で積み重ねて来た経験や成功体験に裏打ちされた、芯の強さや、潔い自信といったものも同時に感じている。


■ガソリン車からEVへ 自動車業界が直面する大変革期の戦い

自動車業界は、100年に一度の大変革期を迎えていると言われる。これまで「内燃機関」と呼ばれるガソリン車が主流だった世の中から、『脱炭素社会』を目指したEV(=電気自動車)化への動きが、急速に欧米や中国で台頭して来た。そうした中で、「トヨタはEV化の動きに乗り遅れている」「周回遅れ」などの指摘や批判も聞こえて来るが、と問うた。これに対し、佐藤社長は、「バッテリーEVも一つの大事な選択肢。バッテリーEVをやらないと言っているのではなくて、バッテリーEVも本気だ。全方位でマルチパスウェイ(多様な選択肢)をしっかりやっていきながらも、バッテリーEVを更に加速していくような動きを今、一生懸命取っている」と答えた。

つまり、佐藤社長は、自身が豊田前社長から期待され、託されたEV化について、車作りのパラダイムチェンジ(根本的転換)は実施して行きつつも、トヨタのこれまでの方針は堅持し、ハイブリッド車や、FCV(=燃料電池車)、水素エンジン車を含めた「全方位戦略」を展開すると共に、もう一つ、重要な要素である「電動化を地域のエネルギー事情に応じて進める」考えを、改めて強調したのである。

さらに、佐藤社長は「実は、“電動車の普及”という意味では(日本は)世界でも有数の普及率の高い国だ。足元でも電動車が40%ぐらい普及している。そのカーボンニュートラリティ(脱炭素)ということに対しては、非常に実績を上げている国であるし、そういうことに対して、先進的な思想を持っている国なのは間違いない」と、これまでトヨタをはじめとする国内自動車メーカーが、ハイブリッド車の開発や普及で、既に脱炭素に向けて積極的に貢献して来た事実を提示し、批判に反論した。


■足りなかった発信力「もっともっとコミュニケーションしていく」

では、そうした中で、「トヨタは果たして、EV化に向けて十分な説明をして来たのか?」という筆者の質問に対しては、「これまで、(EV化について)我々の戦略をお話する機会が少なかったという反省はある」と認めたうえで、「バッテリーEVの取り組みに対しては、加速をして行くので、具体的なテーマを絞って、具体的な形でお示しをして、我々が今どういう段階にいるのか、何を目指しているのかを、もっともっとコミュニケーションしていくべきだと思っている」とした。

トヨタは、今月始めの「新体制方針説明会」で、2026年までに世界でのEVの販売を現在の60倍以上の150万台にすることを明らかにした。それ以前の2020年末には、当時の豊田社長が「2030年までに350万台」の目標を掲げていて、その中間的なマイルストーンを示した格好だ。ただ、周囲で“EV化”の言葉が先行し、ことさら強調されていることについて佐藤社長は、「最後は、CO2を下げて行くということが、我々が実現すべきゴールだと思う」と、方法論や選択肢は幾つもあり、マクロ的な視点で捉える必要性も指摘した。

今後の佐藤社長の手腕が試されている中で、インタビューの最後に、「世界のトヨタを背負うなかで、どうプレッシャーに立ち向かっていくのか?」と質問してみた。佐藤社長は、「豊田現会長が13年作った土台があるので、自分たちは色んな挑戦(車の形を変え、車の未来を変えて行く)を、どんどんやって行く。それは誰か1人が責任を持つということではなく、多くの仲間とともに、色んなアイディアを上手に活かしながらやって行く」と述べると同時に、「業界を超えた連携をしっかり作っていくということ。イノベーションを起こしていくためには、自動車産業内の連携は勿論のこと、産業を超えた連携を実現し、イノベーションを創造するために、チームのキャプテンとして、頑張って行く」と抱負を語った。

新しいトヨタ自動車を、佐藤社長がどう作り上げて行くのか、その動向に大いに注目して行きたいと思っている。(経済部記者・平田淳一)

こちらも読まれています