創業123年の老舗駅そば店を復活へ 31歳娘の奮闘 大手企業を決意の退職【詳細版】[2023/09/29 08:19]

 横浜・桜木町で120年以上にわたって愛され、今年3月に閉店した駅そば店。再オープンに懸ける家族に密着しました。

■SNSで情報拡散 約1800人が閉店惜しむ

 しょうゆベースの関東風のつゆに、甘辛いたれに一晩漬けこんだ鶏肉が乗った「とり肉そば」430円。老舗の駅そばが復活しました。

 今年3月に惜しまれながら閉店しましたが、半年後に復活。大手企業の職を投げうち、駅そば復活にかけた娘の思いとは?

 東京・新橋から横浜・桜木町に日本で初めて鉄道が通った明治5年。その後、まもなく開店したのが川村屋です。

 桜木町駅の改札を抜け、すぐの場所に店を構えています。川村屋は明治33年(1900年)に創業。明治、大正、昭和、平成、そして令和と看板を守ってきました。しかし今年3月に閉店。

 川村屋6代目 笠原成元さん(70):「私が今年70歳になる。妻経由で(聞くと)誰も継ぐ気がないってことだったので“じゃあこれでやめにしましょう”と」

 閉店の際には、SNSで情報が拡散。普段のおよそ3倍、1800人が店を訪れ閉店を惜しみました。

■父は「賛成しない」声も…“執念”の復活

 6代目・成元さんの次女、加々本愛子さん(31)です。大学卒業後、大手通信会社に就職し、同僚の男性と結婚。子育てをしながら順風満帆な日々を送っていました。

 しかし、去年9月に両親から突然、川村屋を閉めることを聞かされます。

 愛子さん:「経営不振で立ち行かなくなってやめるとかじゃなくて、父が高齢で閉店するっていうことが一番の理由だったので」

 閉店が迫るなか、愛子さんの心は揺れ動きます。

 愛子さん:「これを見送ったら本当に終わっちゃうんだなと、日に日に実感するようになって。(夫と)2人で川村屋を継ぎたいという伝え方をしました」

 夫・雄太郎さんはこう話します。

 雄太郎さん:「自分の意思で『やりたい』『挑戦してみたい』と強く感じたので、それだったら自分も応援したいし、一緒に挑戦したいなと」

 父・成元さんはよく考えるよう諭しました。

 成元さん:「あんまり賛成しなかった。サラリーマンだったら会社の経営がうまくいっていなくても給料が入ってくるじゃないですか」

 しかし、愛子さんの決意は変わらず、6月に退社。その覚悟は、成元さんの心も動かしました。

 成元さん:「親として知っている愛子よりも、(自分に)執念深く交渉してきたのが1つ。ご主人が一緒に愛子の手助けをしてくれることが伝わってきた。『みんなで助けていこうよ』と合意も得たうえで再オープンしようと決めました」

■「同じ味」待ち望んだ常連客 半年ぶり活気

 川村屋の一番の特徴は、色の濃いつゆ。かつお節とさば節でとっただしに、しょうゆベースのタレを加えた、こだわりの味です。通常、駅そばは既製品のつゆを使うことが多いといいますが、川村屋はつゆの仕込みも自分たちで行います。

 復活オープンの10日前。成元さんと愛子さんは、そばの仕入れ先との打ち合わせに追われていました。

 愛子さん:「一緒に働いてみることによって父の計画の綿密さだったりとか、そういうことを知ることができて偉大な存在だなと」

 厨房(ちゅうぼう)では、つゆの仕込みが進んでいました。仕込むのは長年店を支えてきたベテランスタッフ。昔と変わらぬ味に仕上げていきます。

 成元さん:「川村屋の味がする」
 
 愛子さん:「川村屋の味する」「(Q.不安なことは?)7代目が名乗り出てきたのに期待と違ったとか、お客様の期待に応えられるか」

 迎えた川村屋復活の日。

 愛子さん:「おはようございます」「(Q.ワクワクとドキドキ何%?)きのうまではドキドキ90%ワクワク10%くらい。ドキドキしていたんですけど、きょうはワクワク100%くらいで楽しみに」

 開店15分前。すでに行列ができていました。

 先頭で待つ男性は、開店1時間前から並んでいました。

 常連客:「(普段は)朝ごはんを抜いているけど、ここのそばはなんとしても食べたい」

 午前7時半、復活オープンです。川村屋の復活を待ち望んでいた客で店内は大にぎわい。

 客はただ無心にそばをすすります。果たして客の反応は?

 常連客:「味も前と同じだね。おいしい、一言、おいしい」「(Q.きょうが復活初日って知っていた?)はい。(初日を)めがけてきました。普段は在宅なんですけど、きょうからだと思って出社しました。出社が楽しみになりました」

■親子で守った伝統の味 娘「着実に一歩ずつ」

 午前11時を過ぎ、ランチタイムに入ると、さらに大勢の客が来店。接客していた愛子さんも厨房に入ります。

 成元さん:「こちら最後尾になります!こちらにお並びください!」

 雄太郎さんは、つゆをどんぶりにかける作業でサポート。

 常連客:「おいしかった!さわやかでいいね!」

 愛子さん:「また、いらしてください。お待ちしてます」

 午後5時過ぎ。閉店までまだ時間はありますが、店を父と夫に任せ、子どものお迎えに行きます。

 愛子さん:「(Q.今からはどちらに?)保育園のお迎えに行きます」「(Q.初日お疲れ様でした)ありがとうございます!やってみるとお客様と接するのがすごく楽しくて、味も『変わってない』って言ってくださるお客様も多くて安心しました」

 閉店間際まで、客足が途絶えることはありませんでした。

 成元さん:「つゆが切れちゃう。次のを作っているけど」「いか天売り切れになりました!」

 初日、店に訪れた客はなんと1100人!半年ぶりに活気が戻りました。

 親子で守った“伝統の味”。

 成元さん:「150年なり200年なり、川村屋の歴史もずっと守り続けていけると思う」

 愛子さん:「まだまだ始まったばかりで、これから先の方が長いと思うので、毎日着実に一歩ずつ進んでいければなと思います」

(「グッド!モーニング」2023年9月29日放送分より)

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