少子化で市場低迷も…新規参入ピアノメーカーの“独自戦略”[2023/12/14 16:35]

 少子化などでピアノの市場は縮小が続いています。その市場にあえて参入したピアノメーカーの独自戦略を取材しました。

 高層ビルのエントランスに置かれたストリートピアノ。そのピアノには見慣れないメーカーの名前が。

 ピアノを弾いた人:「すごく柔らかくてきれいな音で、弾きに来て良かったなと思いました」「すごい柔らかい音が出て繊細な表現ができるので、すごい好きなピアノです」

 ストリートピアノ愛好家の間で話題という、このグランドピアノ。製造した「遠州楽器制作」は令和の時代になって誕生した日本で一番新しいピアノメーカーです。

 本社は楽器の製造が盛んな静岡県浜松市にあります。ピアノを作っているのは本社の中にある小さなスペースで、職人の数は約5人と多くはないといいます。4年前に会社を立ち上げた岩佐真社長です。

 遠州楽器制作 岩佐真社長:「(Q.会社立ち上げについて周りから反対はあった?)ありました。たくさんありました。『なんで今の時代で日本でピアノの会社を立ち上げるの?』って」

 実はこの数十年、住環境の変化や少子化によって日本でのピアノの販売台数は低迷が続いています。子どもの習い事として定番だったピアノもサッカー、野球、水泳などのスポーツと習い事が多様化するなかで選ばれることが前より少なくなったといいます。

 それでも岩佐社長は…。

 遠州楽器制作 岩佐真社長:「私たちが作るピアノを好む一定層の人たちがいるという確信がありました。ターゲットは一般家庭。丸く深みのある温かいピアノ作りを目指しました」

 新規参入メーカーとして目指したのは“より多くの家で楽しんでもらえるピアノ”。それは、その大きさにも表れています。

 カモイピアノ教室 講師 木幡千尋さん:「大きさ(横幅)150センチほどなんですね。奥行きも4畳半・6畳間ぐらいでも入れられます。小ぶりながら、すごく響きが良いんですね」

 日本の住宅に合わせた小型のサイズ。実際にピアノ教室でグランドピアノを使っているという講師がもう一つの魅力だと話すのは…。

 カモイピアノ教室 講師 木幡千尋さん:「音楽をやる側にとってみると、やりやすい環境、用意しやすい値段の楽器、そういうものが間近にあるととてもありがたいです」

 値段は約126万円と、グランドピアノとしては手頃な価格帯だといいます。すべて受注してから職人が一つひとつ手作りで生産します。在庫を持たないことでコストを抑えています。他にも…。

 遠州楽器制作 岩佐真社長:「広告費もかけない、受注生産でやってます。私の給料をできるだけ抑えてます」

 広告費はゼロ、自社の店舗も持たないといいますが、どのように新たなピアノブランドを知ってもらうのでしょうか。そのヒントはストリートピアノにありました。イベント会場には必ず訪れるという岩佐社長。弾いた人と話をする姿も…。

 遠州楽器制作 岩佐真社長:「また1カ月くらい(ストリートに)グランドピアノ出しますんで」

 ピアノを演奏した人:「東京駅は大行列ですよね」

 ストリートピアノを弾いた人:「きょう、せっかく最終日だったのでちょっと寄ってみた感じです」

 遠州楽器制作 岩佐真社長:「セールスはしていません。ただピアノを弾いて、その感想を聞いてます」

 この数年、イベントとしても盛り上がっているストリートピアノ。そこに積極的にピアノを提供しています。ストリートピアノを演奏した人が自分で動画を撮影してSNSにアップし、それがシェアされて口コミで話題になることを営業につなげる独自の戦略を取っています。

 遠州楽器制作 岩佐真社長:「ピアノ好きの人たちがネットで盛り上げてくれています」

 この日はシンガポールに15台のピアノを送り出すため、社長自らも出荷作業を行います。

 遠州楽器制作 岩佐真社長:「うちのピアノがどんどん海外で色々な人に携わることができるということがうれしいです」

 売り上げの9割を占めるのは海外での販売です。会社を設立した当初に中古ピアノの輸出で販路を開拓し、現在では自社ブランドのピアノをシンガポールなどのアジアやアフリカ、スペインなどに出荷しています。

 遠州楽器制作 岩佐真社長:「製品はもちろん、日本人の仕事ぶりが海外では信頼されていると思います」

 特にアフリカでは、まとまった数の契約が入るとピアノ1台を無償で提供し、現地の孤児院などに寄付しています。養子として育てられたという岩佐社長。自分は恵まれていたと振り返ります。今度は自分が世界の子どもたちのために何かできればとの思いからだそうです。

 遠州楽器制作 岩佐真社長:「私たちは楽器作りだけを目指しているのではありません。美しい音色の流れる世界そのものです。街角から音楽が流れる世界が広まればいいなと思っています」

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