航空“トップ”に聞く コロナ禍耐え…業界の現状は? 最大のリスクは「米大統領選」[2024/01/05 19:59]

ANAホールディングス 芝田浩二社長

■改めて安全運航の大切さに思い至る

Q:痛ましい出来事が続いた新年。航空業界として現状をどう捉えるか
A:本当に新年から大きな自然災害、事故が起きました。亡くなられた方々へのご冥福をお祈り申し上げるとともに、震災に遭われた方、そして事故に遭われた方、皆様に心からのお見舞いを申し上げたいと思います。私どもも同じ航空事業に携わる者としてですね、改めて安全運航の大切さを思い至りましたので、これからも引き続き気を引き締め、安全運航の堅持に努めていきたいと思っています。

Q:事故が起こってからの対応はどうみていたか
A:私は一報を社内の担当部署から聞くわけですけれども、あとテレビを見ながら皆様の無事をずっとお祈りをしていました。そういう中で今日も関連部署からの報告を聞いていますけれども、当時、事故現場に我々の機材も停まっていてですね、いろいろな整備スタッフあるいは空港スタッフが一緒にいたわけですけれども、できる限りのお手伝いをしたいという思いでそれなりの手助けをしたという報告も受けています。それは非常に我々にとってはなんですかね、やるべきことを少しでもやれたかなという思いはあります。

Q:日々欠航が出るなど滑走路の復旧作業が続く中、成田便の国内線を増やしたりの対応
A:我々はほんとに公共交通機関としてですね、お客様の移動、ここをしっかりと確保するというところが使命だと思っていますので、できる限りのお手伝いをさせていただきたいと思っています。

■コロナ禍で耐えてきた。去年は回復、ことしは成長につなげる「成長のドライバーは国際線」

Q:2024年をどんな1年にしていきたいか
A:これまでコロナ禍でしっかりと耐えてきました。去年はそこから回復をすることができました。今年はその回復を成長に繋げる年にしていきたいというふうには思っています。その成長のドライバーは国際線だと思っています。まだ回復できてない国際線もありますし、新たな地点への新規就航というのも今年はしっかりと図っていきたいと思っています。

Q:インバウンドが戻る中、中国はまだ回復していない。アウトバウンドはまだまだ。その辺りはどうみるか
A:アウトバウンドで言いますと、統計を見ますと去年の11月段階でコロナ前に比べて6割という戻りなんですけれども、それでも去年の1月からは2割戻しているんですね。この流れは当面続くと思っていますのでしっかりした戻りはあるだろうと。足元の状況を見てみますと、年末年始のハワイ、ここはもうコロナ前を超えていますので、アウトバウンドについては今年はしっかり戻ってくるだろうと。インバウンドはご案内の通りすでにコロナ前の状況に戻っていますので、ここに中国の戻り、まだ5割に満たないたないわけですけれども、中国がアドオン(加えて)で戻ってくるとインバウンドは好調が引き続き続くだろうと思います。

Q:.中国は今後どうなっていくか
A:ここはいろいろな国内情勢もあろうかと思いますけれども、先ほど申し上げた通り1月、6月、11月と右肩上がりで中国からの戻りがあるわけです。日本からの中国行きもビザの問題ありますけれども着実に伸びています。そんなに焦ることなくじっくりと需要の戻りを見ていきたいと思います。

Q:戻ってくる客をANAグループとしてどう取り込む
A:そうですね。当然我々は今、航空ブランドとして三つあります。フルサービスのANAとLCC(格安航空会社)のピーチ。あと来月、2月9日から就航します新しいブランドのエアージャパン。この三つのブランドで日本から海外に行くお客様、海外から日本に来るお客様、全てのお客様の需要を満たしていく。特にエアージャパンについては訪日需要をしっかりと取り込んでいくという思いです。

■燃油や為替への大きな懸念は無い

Q:エンジンの問題(アメリカのメーカーが製造した航空エンジンに不具合があり今月から1日30便近く減便する)とエネルギー価格について聞きたい
A:エンジンについてはすでに発表しています通り、この1月・2月をピークに25機程度のエアバス社の機材が地上に待機するという状態ですけれども、この後、点検のスピードアップを徐々に図ってきていますので。それに合わせて予備エンジンの購入ですとかリースエンジンの調達が進んでいます。したがって今年全体を見渡すと、当初の事業計画に大きな影響を与える規模ではないと思っています。燃油につきましても足元のドバイ(市場)やシンガポールケロシン(市場)なりジェット燃料の価格をずっと見てみますとだいぶ落ち着きを取り戻していますので。24年度いっぱい大きな変更・変動というのは、よっぽどの大きな国際情勢の変化がなければないだろうと。ヘッジ(為替)がずいぶん進んでいますので、燃油についても大きな懸念は持っていません。

Q:為替の影響もここ数年は大きいと思うが、今年はどうか
A:そうですね。為替も大体上限を150円程度という見立てで事業計画は立てているんですけれども、従前と比べて私どものいわゆる外貨収入、国際線の規模がずいぶん増えていますので外貨収入が増えています。従ってこの外貨収入で外貨建ての費用を賄うという構図がずいぶん出来上がっていますので。そこに加えて為替のヘッジも進んでいます。為替の上昇下降に対する耐性はずいぶん高まっているんだろうなと思います。

Q:SAF(SustainableAviationFuel=持続可能な航空燃料)など脱炭素の今年の進展は
A:SAFに限らず脱炭素に向けた取り組みというのはありますね。当然機材の効率化もそうですし運航方式の改善、こういったものも必要になります。あとSAF、炭素のクレジットの購入。こういったところを上手に私どもとしては組み合わせてカーボンニュートラルを図っていきたい。SAFについてはは今まで単価が高いですとか量が少ないとかいろいろな問題が実はいくつかあったんですけれども、これは国の方でしっかりと官民協議会を立ち上げて国産のSAFに舵を切っていただいていますので、今年はしっかりとそういった取り組みの深化を図っていきたいと思います。

■人手不足は航空業界全体で取り組む課題委託料の引き上げを通して業界の魅力向上が必要

Q:地上業務をはじめとした人手不足への対応は
A:人手不足については航空業界全体で取り組むべき課題だと思っているんですね。当然そのためには、例えば一番大事なのはデジタル化だと思うんですね。それともう一つは私ども、JALさんも含めて同業他社間のリソースの共有。一緒にできるものは一緒にやろうじゃないかというこういう取り組み。もう一つは私どもからすれば、委託先への業務委託料の引き上げ。こういったところをやりながら、業界全体の魅力度というんですかね、こういったところを上げていく必要があるのではないかと思っています。

Q:一緒にできそうなことは
A:例えば整備部品の融通とか。これは一部やっていますけれども。あと一部の空港でやっている、搭乗端末の共通化・共用ですね。こういったところもできるだけ全国規模で広げていけたらいいなというふうには思っています。

■賃上げはまさに今、組合との交渉テーマ持続的な業績回復を見据えながら

Q:賃上げについては
A:去年も賃上げはしっかりと実施しました。今年も去年に続いてしっかりと対応していきたいと思っています。

Q:社長の考えるしっかりというのはどれぐらいの水準、ラインか
A:これはですね、まさに今、組合との交渉テーマになっていますので。具体的な数字というのは控えさせていただきたいと思いますけれども、去年の業績回復に見合うだけの賃上げをしっかりと図っていきたいと思います。

Q:上半期は過去最高の営業利益、5年ぶりに配当復活と聞く。今の状況を考えるとそれなりの賃上げはされると
A:賃上げも一過性であってはならないわけですので。持続的な業績の回復、ここが大前提になります。そこを見据えながらの賃上げ水準ということになろうかと思います。

■非航空事業のいくつかは事業化を急いでいる

Q:コロナもあり非航空事業にも力をいれている。今後は
A:非航空事業と一括りに言っても、実は既にある事業もあるわけです。商社事業ですとか物流。こういったところにつきましては、それぞれの会社独自で業績回復策をしっかりと立てて、今それなりの業績の回復を図っていただいていますので、ここは非常に力強いと思っています。それに加えて新規の事業ですね。例えば空飛ぶクルマ(eVTOL=イーブイトール=電動垂直離着陸機)ですとかドローンですとか遠隔ロボットのアバターですとか。こういったところは今まさに実証実験の段階ですけれども、ここの事業化をできるだけ急ぎたい。それとこの前、日本でローンチしましたメタバースのグランホエール(GranWhale=バーチャル旅行プラットフォーム)ですね、こういったところの進展をしっかりと見極めていきたいと思っています。

■ことしは「世界選挙年」最大のリスクは「米大統領選」
Q:今年のリスクは。地政学だけでなく大統領選も世界各地で
A:我々航空事業にとって一番大事なことは平和な安定した世界ということですので。「世界選挙年」、この行方が私は個人的に一番気がかりなところですね。

Q:どこが一番気になるのか
A:アメリカです。

Q:それはどのあたりで
A:民主党か共和党か。加えてトランプさんかバイデンさんかということになるのでしょうけど、それによって世界の秩序というのはだいぶ影響を受けるんだろうなと思っています。

Q:最後に社長個人としてこの24年、どんな1年にしたいと思うか
A:それはですね、本当に業績をしっかり回復させて、我々4万人の社員が皆明るい笑顔で迎えられるような年にしていきたいなと思っています。

Q:時には趣味に没頭する時間も作れればいいか
A:いや、あまり笑。そこは時間があればということで。

こちらも読まれています