「大谷翔平」で広がるスポーツ観戦ビジネス JTB「交渉は8年前から。『時消費』提供」[2024/03/23 14:47]

 3月20日・21日に韓国・ソウルで行われたMLBの開幕シリーズは、ドジャースの大谷翔平選手、パドレスのダルビッシュ有選手ら4人の日本人選手が見られるということで国内でも連日大きく報道された。

 その中で注目されたのが、日本の大手旅行会社「JTB」がMLBと国際パートナーシップ契約を結び独占提供した「ホスピタリティ・パッケージ」である。MLBはなぜJTBをパートナーとして選んだのか。

 一方でJTBはなぜMLBとの提携を目指したのか。従来の「観戦ツアー」との違いや展望をそれぞれのキーマンに聞いた。

■五十嵐善寿 JTBスポーツビジネス共創部 ホスピタリティプロジェクト長

 (Q.お疲れ様でした(インタビューは22日・第2戦翌日に実施))
 疲れました(笑)。

 (Q.一段落ですね。いかがでしたか?)
 MLBと契約して今回が初めての仕事になった(今年1月に国際パートナーシップを締結)わけですが、無事、お客様も帰国の途に就いていただけますし、試合も滞りなく行われて貴重な体験もして頂けたので、ご満足頂いているというふうに信じています。

 (Q.契約後最初のホスピタリティ・パッケージというだけでなく、大谷選手ら4人も日本人選手がいて俄然注目度が高まったプレッシャーは?またホスピタリティパッケージというものを皆さんに知ってもらうチャンスでもあったと思うが?)
 そうですね。ちょっと話が長くなっちゃうかもしれませんが、私が初めてこのホスピタリティ・パッケージに出会ったのは2011年になります。もう10年以上前です。私はオランダに駐在していたのですが、当時の上司のはからいでパリ行ってこいと1枚チケットを頂きまして。それがローランギャロス(全仏オープンテニス)の招待状だったんですね。気分転換に行ってこいっていうことだと感じて喜んで行ったんですけれども、そこで受けたサービス・おもてなしが最高のものでして。これがやっぱり日本には足りないというのを確信しまして、ぜひこれを自分が日本に戻った時には広めたいという思いからスタートしたのを覚えています。

 (Q.そこからなぜ野球、MLBに?)
 これが日本の中でどういうふうに定着するかというところで試行錯誤をいろいろしてきたんですが、やはり日本のスポーツでは野球が一番人気があるので。ぜひこれを日本の野球に取り入れられないかなという思いがあってMLB機構に交渉に行ったのがちょうど8年ぐらい前です。ですから、昨日、今日決まったわけではなくて実は8年前からMLB機構に足を運んで「こういうサービスをぜひ取り入れたい、もしくは、まずはアジアからやらせて欲しい」ということで交渉に交渉、また交渉を重ねて今日に至ったという。非常に感無量というか、長い道のりだったんですが良いスタートが切れたと思います。

 (Q.ホスピタリティを意識したパッケージは日本でいうとラグビーワールドカップからされてきたと?)
 そうですね。先ほど試行錯誤をしてきたと言いましたが、まず何が一番日本のお客様に取り入れてもらえるか考えました。幸いにも2019年にラグビーのワールドカップが日本で開催されるというところに着目しまして、まずそれを一つのフックにしてホスピタリティ事業を取り入れられないかということで。イギリスの会社に申し出て日本で合弁会社を設立しました。そこがスタートになります。

 (Q.東京オリンピックはなかなか思い通りにいかなかったですね?)
 そうですね。2019年のラグビーのワールドカップでホスピタリティが浸透しつつあって。その流れを受けて東京オリンピック・パラリンピックでももう既に販売を開始していましたから。約250億円の売り上げも立っていたわけですけれども、コロナで無観客になってしまいましたので。ただ、それだけの需要があるということを自分の中では確信を持てました。

 (Q.国内でのホスピタリティ・パッケージの市場規模、見込みは?)
 ラグビーのワールドカップでおかげさまで100億円を超える売り上げを達成させていただきましたので、東京オリンピックの250億円を加味しますとですね、将来的にはスポーツ界に大きなインパクトを残せるんじゃないかと考えています。個人的には約500億円以上の経済効果があると見込んでいますので。ぜひチャレンジしたいなと思っています。

 (Q.経済効果だけでなく、スポーツイベント自体を成立させていく、続けていく上の貢献もできるのでは?)
 当然お客様もですが、主催者側もしくは選手関係者にも一定程度ウィンウィンの関係をもたらさないと全く意味がないので。私どもとしてはスポーツ界に還元して、スポーツ界でそれを再利用して選手の育成であったりスタジアムのリノベーションだったりに生かして頂く。そしてまたそれがお客様を呼び戻すという、そういう再利用を考えていきたいと思っています。

 (Q.「ホスピタリティ・パッケージ」のコンセプトは?)
 これは何度も説明してきましたが、単なる「観戦パッケージ・観戦ツアー」というのは、古くは例えばワールドカップの弾丸ツアーなんかもJTBで開発してきましたが、試合を見てご旅行・ご移動をパッケージ化するということはもう長年やっているんですね。ただそれだけではちょっと物足りないというか。やはりスポーツをもっともっと楽しんで頂くようなプログラムを作りたいということでこのホスピタリティパッケージを開発しました。簡単に申し上げると、コンセプトとしては「期待・感動・余韻」です。試合の前、それから試合中、試合の後も「期待・感動・余韻」を楽しんで頂くようなパッケージを作りたいということを心がけています。

 (Q.今回は事前に贈り物をされた(参加者の自宅にオリジナルのパーカやバッグなどの観戦グッズを送付)。参加者はそういうのもドキドキしたと。あとはやっぱりグラウンドに降りる経験は本当によかったと。ただ、一方では内容がわからなくて、申し込むときに迷ったということも聞いたが?)
 そうですね。やはり種明かしをしてしまうとなかなかサプライズというかワクワク感も続かないものですから。これはもう私どもがいろいろな形でパッケージを販売させて頂いて、紹介させて頂いて、お客様がそれを理解してお申し込み頂くと。ラグビーの時はおかげさまで大半のお客様がご満足して帰って頂けたということがありました。ぜひもっともっと高めていきたいと思っています。

 (Q.今後の展開・成長をどう見るか。金額的にもなかなか気軽に申し込めないと感じる人が多いのも事実。ターゲットは?)
 決してスポーツのコアファンだけに味わって頂くようなパッケージにはしたくありません。ぜひ色々な方にご体験頂きたいと思っています。例えば、法人のお客様がお得意様と一緒にこのパッケージに参加して長い期間そのお客様と様々なお話をする。家族の話もするかもしれませんし、ビジネスの話をするかもしれませんが、そういった貴重な体験時間を提供していきたいと思っています。今回、私が言いたかったのが、ホスピタリティ・パッケージというのは「時(トキ)消費」です。物(モノ)消費や事(コト)消費は過去にありましたけれども、時間を消費頂くと。その貴重な時間をお作りして、例えば家族であったり恋人であったり、お客様企業であったり。その中でエンゲージメント、繋がりを作ることが一番大事なことだと思っています。

 (Q.MLBでのホスピタリティ・パッケージは今後レギュラーシーズンやオールスター、ポストシーズンも予定されていると。アイデアを出し続けないといけない?)
 そうですね。どんどん期待度が高まるのは、私どもにとってある意味緊張もありますしプレッシャーにもなりますが、それを一つ一つ高めていってぜひまた参加したいというお声を頂きたいと思っています。今回はその第一歩だと思っています。

聞き手:経済部・進藤潤耶

※インタビューは3月22日に実施

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