経済

日曜スクープ

2026年1月4日 22:29

【光通信と次世代半導体】IOWNが変える“遠隔医療の未来”2026ニッポンの逆襲は?

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2025年12月、東京ビッグサイトで開かれた世界最大級の半導体国際展示会。北海道で次世代半導体の量産を目指す「ラピダス」をはじめ、国内外の有力企業が一堂に会する中、ひときわ人だかりを集めるブースがあった。NTTが開発を進める次世代通信基盤「IOWN(アイオン)」。現在の通信ネットワークは、光で送られた信号を途中で電気に変換しながら処理する仕組みが主流となる。一方、IOWNは光を電気に変換することなく、光だけで通信と処理を完結させる。この技術により、通信遅延は従来の約200分の1にまで短縮され、データ容量は125倍に拡大。さらに消費電力は100分の1に抑えられることが可能となる。膨大なデータ処理が不可欠となる次の時代のインフラとして、世界が強い関心を寄せている。

IOWNがもたらす変革の一つが医療分野。遠隔医療やリハビリへの応用が現実味を帯びる。東京と福岡をIOWNで接続し、トレーナーの動きを遠隔地に伝える装置を用いたリハビリの実証では、福岡側の担当者が腕を動かすと、東京にいる体験者の腕が、まるで隣で直接サポートを受けているかのように自然に動かされた。低遅延・大容量という特性が、距離の壁を限りなく小さくしている。NTTの担当者は「遠隔地からでもリハビリやサポートが可能になれば、地方の過疎化問題の解決や、移動時間の削減によって新たな労働力の創出にもつながる」と語る。人口減少と過疎化が進む日本にとって、医療インフラの在り方を根底から変え、社会的課題の解決に寄与する可能性を秘めている。

もう一つ、IOWNが持つ大きな強みが「省電力」。生成AIの急速な普及により、世界的に深刻化しているのが電力不足の問題。国の試算では、デジタル化の拡大によって、2050年には日本国内のデータセンターだけで約1万2000テラワット時もの電力が必要となり、現在の総発電量の12倍に達するとされる。消費電力を100分の1に抑えるというIOWNの構想には、インテルやソニーなど、世界を代表する約180社が参画している。NTT・IOWN推進室の荒金陽助室長は、「世界でモノを売り、サービスを展開することが前提。NTTグループ単独で完結するとは考えていない。グローバルな企業と連携しながらも、その中で日本企業が重要なポジションを担うことを実現したい」と語る。

一方、通信と並び次世代技術のもう一つの柱となるのが半導体。仙台市に本部を置く東北大学では、消費電力を劇的に抑える次世代半導体の研究が進んでいる。カギとなるのは「スピントロニクス半導体」。電子が持つ「電気」と「磁石」という二つの性質を活用する新しい技術。研究を率いる同大国際集積エレクトロニクス研究開発センター長の遠藤哲郎教授は、「スピントロニクス半導体が社会のあらゆる場面に導入されれば、スマートフォンは一度の充電で2〜3週間使えるようになる」と語る。従来のシリコン半導体では、AI処理時に約2000ミリワットの電力を消費し続けるのに対し、スピントロニクス半導体を用いたAI処理では、ピーク時でも40ミリワットに抑えられる。消費電力は実に50分の1。さらに、この半導体は電源を切ってもデータを保持できるという特性を持つ。

遠藤教授がこの研究に情熱を注ぐ背景には、東日本大震災の経験がある。「家族や学生の安否を確認したくても電話がつながらず、かけるたびにバッテリーが減っていく。災害時に、通信機器がいかに脆弱かを痛感した。性能を向上させるだけでなく、少ない電力で本当に役に立つ技術が必要だと強く思った」。かつて、電機大手「東芝」で半導体開発の最前線で従事した経験があり、日本の盛衰を見つめてきた遠藤教授は、半導体技術の向上を踏まえた日本の進むべき道をこう指摘する。「半導体を持たざる国は、経済安全保障を守れない。基礎研究から、企業が世界で勝ち抜く段階まで、国が支援することが大事」。光でつながる通信、磁石で記憶する半導体。エネルギー制約という世界共通の課題を前に、日本発の技術が挑もうとしている。2026年、日本の逆襲は静かに、確実に加速しつつある。

★ゲスト:永濱利廣(第一生命経済研究所)、ジョセフ・クラフト(経済・政治アナリスト)
★アンカー:末延吉正(ジャーナリスト/元テレビ朝日政治部長)

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