いま、日本の退職事情に大きな変化が起きています。
上司などへの仕返しのために、意図的にトラブルを起こして会社を辞める『リベンジ退職』が問題となっています。
また、新たな人員削減策として、企業の間で増加しつつある『黒字リストラ』についても見ていきます。
■会社に仕返し?『リベンジ退職』無断でデータ削除 裁判沙汰も
新しい退職の形『リベンジ退職』です。
リベンジ退職とは、会社への仕返しのため、意図的にトラブルを起こしてから退職することです。
2021年以降、アメリカなどで、SNS上で、退職理由や職場での不満を暴露する動画投稿が増加しました。
アメリカの人材紹介会社によると、2025年3月に3600人以上のアメリカの労働者を対象に調査を行ったところ、半数近い47%が、リベンジ退職の経験があると回答しました。
日本でのリベンジ退職と思われる裁判例です。
2025年1月、LED大手企業の元社員の男性が、退職する際に業務に関するデータを無断で削除したとして、会社が損害賠償を求めた裁判で、徳島地裁は男性に約577万円の支払いを命じました。
元社員の男性は、最終出社日の前日に、勤務先の共有サーバー内の業務に必要なデータを含む、232個のフォルダが自身の退職日に削除されるよう、プログラムを設定しました。
その後、企業側がファイルの消失に気付いた時には、復元可能期間が過ぎていて、復旧できず。
再開発やそのための新たな人件費が必要となりました。
■リベンジ退職の実態 繁忙期に退職 就活サイトに悪評書き込み
『リベンジ退職』の実例です。
Aさんのケースです。
Aさんは20代で、現在メーカーに勤務していますが、前職は銀行員でした。
入社2年目の銀行員時代、Aさんは、部署の全員の前で、自分の仕事のミスを報告させられたり、仕事でミスをすると30分ほど怒鳴られるなど、上司3人からパワハラを受け、精神を病んでしまいました。
Aさんは、パワハラに耐えかね、会社の人事担当者に、「パワハラを受けている」と訴えました。
その結果、上司3人は異動になりました。
しかし、上司らに減給などの処分がされず、Aさんは会社に不満を抱き、入社2年目で退職を決意します。
その後、退職を決意したまま、入社4年目に、Aさんは、営業成績も上がり、顧客の管理事務など重要な業務を担うなど会社にとって必要な人材になったタイミングで、リベンジ退職しました。
「ただ退職するだけじゃ、全然何のダメージも与えられないと思い、周りが困るぐらい仕事ができるようになって辞めたら、会社へのダメージが大きいと思った」と話しています。
Aさんの退職後、Aさんの後任が新人しか見つからず、職場では混乱が起きたということです。
経営コンサルタントの日沖健さんに相談が来たという『繁忙期を狙ったリベンジ退職』のケースです。
相談者は、企画担当の公務員20代のBさんです。
Bさんの職場では、給料など処遇に不満があった20代の男性職員が退職しました。
この男性職員が退職した時期は、担当部署の繁忙期で、男性職員が退職したことで人手不足になり、部署内は混乱しました。
その後、退職した男性職員がSNSに、「ざまあみろ」と投稿していたため、リベンジ退職が判明しました。
「『辞めるなら絶対に超繁忙期だよね』という若手職員が増えている」と話しています。
こちらも日沖さんに相談が来た、SNSで会社を誹謗中傷したケースです。
重機メーカーでの事例です。
職場の人間関係に不満を抱いていた設計部署の20代・男性従業員が退職しました。
「人間関係が破綻している」
「談合をしている」
「下請けイジメをしている」
と、会社が特定できる内容で、誹謗中傷を投稿しました。
誹謗中傷を受け、会社は男性従業員に対して、事実と異なる投稿の削除を依頼し、削除しない場合は法的措置を取ると警告しました。
その結果、男性は、投稿を削除しました。
「就活サイトで、ブラック企業という評判が広がってしまった」ということです。
■退職事情に変化 パナソニックHD 黒字なのにリストラ なぜ?
大手企業では、雇用の見直しが起きています。
東京商工リサーチの調査によると、2024年に『早期・希望退職募集』を実施した上場企業は57社で、このうち約6割は黒字企業でした。
決算が黒字なのに、早期希望退職を募集することを『黒字リストラ』と言います。
5月、黒字リストラを発表した企業が、パナソニックホールディングスです。
グループ経営改革のため、2025年度中に、営業や管理部門などで1万人規模の人員を削減することを発表しました。
早期退職も募集します。
しかし、パナソニックホールディングスは、12年連続の黒字で、2024年度は3662億円の黒字です。
「雇用に手を付けることは、本当に忸怩たる思いだが、ここで会社の経営基盤を変えなければ、10年後、20年後にわたって、会社を持続的に成長させていくことは出来ない」と説明しています。
パナソニックホールディングスは、過去には、1929年の世界恐慌の時に、創業以来の深刻な事態に直面しました。
「生産は即日半減する。しかし、従業員は1人も解雇してはならぬ」と発言しました。
人材を大事にしている企業です。
そのパナソニックホールディングスが黒字リストラです。
パナソニックホールディングスの売上構成比です。
『家電・空調など』が4割以上ですが、グループの再編方針として、
▼白物家電や空調などを統括する事業会社を2025年度中に解散し、複数の事業会社への分割
▼テレビ事業の一部撤退や縮小
を検討しています。
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■電機大手 構造改革で生き残り 10年で時価総額に大差■電機大手 構造改革で生き残り 10年で時価総額に大差
パナソニックホールディングスと同業の日立やソニーの構造改革です。
ソニーグループは、2012年3月期に、過去最大となる4567億円の連結最終赤字となり、4期連続の赤字となりました。
これを受け2012年に、構造改革に乗り出します。
▼全世界で1万人の人員削減、
▼ゲーム事業などの強化、
▼テレビ事業の再建などを行い、
事業の軸足を家電製品から、ゲームや音楽などエンタメにシフトしました。
その結果、ソニーの売り上げの構成比は、構造改革前はテレビやカメラなどが65.1%、次いで、ゲームが12.7%でしたが、現在は、ゲームや音楽、映画などエンタメが、売り上げ全体の6割以上です。
日立製作所は、2008年のリーマンショックを受け、2009年の3月期に7873億円という、バブル崩壊を上回る赤字を計上しました。
これを受けて、2009年に構造改革に乗り出します。
▼テレビ生産など低収益事業の譲渡や撤退
▼ITや鉄道・エネルギーなど注力事業を買収などで強化し、従来の製品中心の業務形態から、ITやインフラなどのサービス事業に転換しました。
パナソニックホールディングス、ソニーグループ、日立製作所の時価総額です。
2009年1月では、
パナソニックホールディングスが約3.3兆円、
ソニーグループが、約2.7兆円、
日立製作所が、約1.3兆円、
でした。
構造改革を経て、2025年1月時点では、
ソニーグループが、約22.2兆円、
日立製作所が、約17.4兆円、
パナソニックホールディングスが、約4兆円と、
10年で時価総額に大きな差がつきました。
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■日本の厳しい解雇規制 今後は「金銭解決」の可能性も!?■日本の厳しい解雇規制 今後は「金銭解決」の可能性も!?
労働者の解雇についての法律です。
労働契約法で、
『合理的な理由もなく、解雇せざるを得ないほどのことがなければ、解雇をしても無効と判断される』など、企業が社員を解雇することを厳しく制限しています。
さらに、不況や経営不振など、経営側の事情による労働者の解雇については、
1、本当に解雇の必要性があるか
2、解雇を避けるための努力をしているか
3、対象者の選定が合理的か
4、対象者と十分な協議をしているか
この4つの要件が満たされなければ、原則、解雇は認められません。
「今後は、解雇そのものの規制を緩和して、中国やアメリカのように補償金を支払って解雇する『解雇の金銭解決』ができるよう、法改正が求められていくことになるのでは」
(「羽鳥慎一モーニングショー」2025年5月20日放送分より)