全国各地で、シニアが旅をしながら仕事をする新たなスタイルが広がっています。宿泊費はかからず、働いた分だけお金がもらえます。さらに、受け入れる側のホテルにも意外な効果が生まれていました。
シニア世代急増…全国を“旅しながら働く”
富山県朝日町のヒスイ海岸。ヒスイの原石が打ち上げられることで有名な場所です。
「海もきれいだし(ヒスイを)探すの楽しい。夢中になっちゃうよね」
千葉県から旅行に来ている星野さん。普通の観光客かと思いきや、夕方になると紺色の作業服を着てホテルで接客していました。
「次は冷たいお料理をお持ちしております」
胸には「おてつたび」の文字が。これは一体?
新潟県との県境近く、山々に囲まれた川沿いに佇む「ホテルおがわ」。400年の歴史を誇る小川温泉の源泉かけ流しの宿です。
千葉県に住む星野さんが、富山県のホテルで働いている理由。それが「お手伝い」と「旅」を掛け合わせた“おてつたび”です。最大の特徴は…。
「(Q.宿泊代は?)かからないです」
現地までの交通費は自己負担ですが、働いた分の給料は支払われます。おてつたびの募集ページには、具体的な働き方やトータルで得られる見込み額が記載されています。
いわゆる「リゾートバイト」は、期間が1〜2カ月と長めですが…。
「最短だと1泊2日だったり2泊3日のものもあるので、少しカジュアル(気楽)に行ける日程で、地域の方も助かる日程で14日間ぐらいが平均になっている」
そのため、全国を“旅しながら働く”という使い方で利用するシニア世代が急増しています。
星野さんが訪れているこちらのホテルでは「夕食の準備と配膳」が主な仕事です。
午後4時半、紺色の服に着替えて、その日の注意点などに関する打ち合わせから始まります。
「『こまくさ』のお客様、結婚記念日でございます」
「えぇ〜、結婚記念日やったことないけど」
さらに、ホテルならではの“きめ細やか”な気配りも。
「先付けは、どこに置きますか」
「箸の横」
「箸の横、こっち?」
「あまり下にさげないで。箸より下げない」
「箸より下げない、はい」
最終チェックを終え、午後6時、夕食のスタートです。
先ほど打ち合わせでも確認した、結婚記念日の宿泊客です。星野さんがメインで担当することになりました。
「トマトの皮を使って作っていて、トウモロコシをすり潰してまんじゅうにしています。スプーンでお召し上がりください」
若い頃から長年、看護師として働いてきた星野さん。ホテルの裏方として働くのも、客に料理の説明をするのも初めてです。しかし、この仕事にはやりがいを感じています。
「年に何回も(旅行に)行ける人もいるけど、年に1回とか大事にされている方もいる。『来てよかったな』と思える接客ができたらなと」
年齢が近いこともあってか、この辺りの景色の話ですぐに打ち解けました。
最後は、お祝いの花を渡して記念撮影です。
こちらのおてつたびには、星野さん以外も参加しています。
「カフェを営業していて、店を休業しておてつたびをしている。普段とは違う仕事ができるのは、すごく楽しい」
夕食の片づけが終わると、あすの朝食の準備へ。午後9時半、すべての仕事が終了しました。
星野さんが無料で寝泊まりしている部屋。おてつたびの期間中は、自由に使うことができます。あとは、大好きな温泉に入って就寝です。
“おてつたび”の意外な効果
おてつたびの醍醐味(だいごみ)といえば、仕事以外の時間に何をするか。この日は、他のおてつたびメンバーと観光に出発しました。
昼食は“地元ならでは”の店に立ち寄って、お値段1000円のお刺身定食を堪能。何度か訪れたことのある星野さんに、代表が近所にあるおいしいしょうゆの店を教えてくれました。
「私は(そのしょうゆで)ずっと生きているんで。これが世の中で一番おいしいしょうゆだと」
その後も、黒部港の魚が中心に集まる直売所に行ったり、周辺の何気ない街を自転車を借りて散策したり、まるで暮らすように旅先で過ごせることも魅力だといいます。
「知らなかった街に行ける。何日も何日も滞在してみると『こんないいとこがあるんだ』とか『あっち行ってみよう』とできる」
これまでに130人ほどを受け入れてきたホテル側。ここにも、おてつたびの意外な効果が生まれていました。
「一番大きいメリットは、僕らが見えない部分を教えてくれる。いい意味で改善点をくれる時もありますし、『こんな観光スポットがある』と発信もしてもらっているので、これから必要不可欠になるスタッフだと」
おてつたびを運営している会社は、次のように話します。
「“おてつたび”を使って地域貢献もしながら、(移住先などの)地域を探しているニーズも結構ある。シニアの方だと“おてつたび”が生きがいになっていて、人生の彩りが豊かになったと言われる」
(「グッド!モーニング」2025年8月11日放送分より)