シニア世代の「リゾートバイト」が今増えています。ホテルの接客で活躍する66歳の元自衛隊幹部。全国各地のホテルや旅館を渡り歩いて、働きながら現地の食や観光を楽しむ人もいるということです。
シニア世代が急増「リゾートバイト」
透明度の高い、美しいエメラルドグリーンやコバルトブルーの海。北海道稚内市から、西におよそ50キロにあるリゾート地「利尻島」。日本最北端の百名山として知られる島のシンボル「利尻山」。富士山を思わせる美しい絶景は、別名“利尻富士”とも呼ばれています。
そんなリゾート地で、今注目を集めているのが「リゾートバイト」です。
全国の観光地にあるホテルやレジャー施設などに数カ月程度の期間限定で住み込みで働く「リゾートバイト」。“人手不足解消の一手”としてシニア世代が急増しています。
元自衛隊指揮官リゾートバイトへ
「残りの人生も半分以上過ぎちゃっているわけで。今までやったことがないことに挑戦しようと」
ホテルのリゾートバイトで働き始めて3週間の新人・津田和彦さん。以前は、航空自衛隊の「1等空佐」。沖縄の那覇基地では、部下800人ほどを率いて弾道ミサイルを迎撃する部隊の指揮官をしていました。
「元々は航空自衛官で、今までやったことがないこと。当然戸惑いはあるんですけれども」
任務で転勤が多かったため、三重県にいる妻と2人の子どもの理解は早かったといいます。
日本の空の安全を守ってきた津田さんの、とある1日のスケジュールは、午前7時から主にチェックアウト時間帯のフロント業務。その後、5時間の中休みをはさみ、再びチェックイン時間帯の午後3時からフロント業務や送迎など客対応がメインで、時給は1100円。月の合計は18万円です。
チェックインの時間帯を迎え、宿泊客でフロントは大忙し。機敏に動き回る津田さん。すると、客室からフロントに緊急の電話が。
「今お伺いしても大丈夫でしょうか?」
出動して、部屋を確認すると…。
「ものすごい風が」
この日の最大瞬間風速は20メートル。強風が窓を打ち付けていたといいます。
「空き部屋がありましたので、そちらに移ってもらうことに」
客の了承を得て、向きが違う別の部屋に移動してもらうことにしました。
「お客様はどんな要望をされてくるかというのは分からないので、すぐに対応できるような態勢を常にとる。そういう自衛官の時の経験が役立ったのかもしれないです」
フェリーでやってきた客を物腰柔らかく迎え入れ、ホテルへと運ぶ送迎車では…。
「ホテル業は初めてですか?」
「初めてです!全く。私、元々航空自衛官だったんです」
「え〜!?すご〜い」
「ふっふっふっ」
“自身の経歴を武器”に、客の心をつかみます。
フロントでは、客の目をしっかりと見て流暢(りゅうちょう)に説明。3週間とは思えないほどの接客ぶりです。
「(Q.元自衛官の経験が生きているところは?)物腰も柔らかく、敬語もしっかりしていて戦力になっている」
「(Q.元自衛官の経験が生きている?)はい」
慣れないパソコン作業に悪戦苦闘
一方、慣れないパソコン作業では…。
「あ〜しまった…」
「(Q.どうしました?)(名前を)カタカナで打つところが、ローマ字になっちゃった…」
紙のコピーを頼まれるもうまくいきません。慣れない機械作業に、四苦八苦です。
「なんで詰まっているんだ?」
「分からない…」
10分後、総支配人に助けを求めます。
「あっ(エラー表示)消えた」
「(Q.いけました?)いけましたね」
「システムとか覚えるのが大変。接客業なので、お客様の喜んで帰られる姿とか非常にやりがいを感じます」
そんな「リゾートバイト」のメリットは中休みを利用して“思い思いの時間”を過ごせるところ。
「仕事がない時間を使ってジョギングをしたり、健康維持ということと、利尻富士の雄姿を見ながら走るというのは非常に。観光地を楽しみながら働けるというのはすごくいい」
美容師35年 60歳でなぜ挑戦?
観光地を楽しみながら働く、別の“シニア世代”も…。
海を眺めながらピザをほおばるのは、静岡県下田市でリゾートバイトをする石川正幸さん(60)。これまで“35年間・美容師一筋”だったといいます。
「本当に美容師のころは時間に追われるのがすごく嫌でした。色々な新しい経験ができているので」
石川さんの職場は、自家源泉かけ流しの秘湯「観音温泉」。主に食器洗いや料理の提供などを担当しています。
常連客へ料理を運ぶ石川さん。35年間美容師として接客業に従事していただけに、屈んで目線を合わせる「気遣い」が光ります。
「人から色々教えてもらうのも会得しているし、ありがたい」
食器洗いでは、こんな“こだわり”も。石川さんの右手には軍手。
「(手が)荒れるから大変ですけど美容師も。自分は爪がキレイでいたいので…」
リゾートバイト“大ベテラン”
“貴重な即戦力”として人生経験豊富なシニア世代の需要が高まっているというリゾートバイト。なかでも子育てが一段落した主婦層のニーズが高いといいます。
雄大な有明海が広がる、長崎県「島原半島」。風光明媚な景色に見惚れていたのは、原直美さん(当時54)。
以前は客船のホールスタッフなど接客業に従事。6年前からリゾートバイトを始め、三重県や山口県、静岡県などを渡り歩き、その数およそ15カ所という“大ベテラン”です。
「子どもを育てて責任も果たして、自分の人生に戻ってきたっていう感じなので。家族はびっくりしていましたけど“多分”理解してくれていると思います」
北海道にいる夫を残して…“自分の人生を謳歌(おうか)”。お昼には、名物の「ちゃんぽん」を堪能しました。
「寮費かからないし、光熱費もかからない。食事はまかないが(出る)」
観光地を旅しながら働くことができるうえ、生活費を大幅に抑えることができるのも魅力です。
「節約してお金貯めようって目標があったら、本当に節約して1日も全然お金使わないでいけると思います」
そんな原さんが勤務するのは、南島原市にあるホテルです。
イクラ、ホタテ、マグロ、さらに“海の幸たっぷり”の「海鮮丼」や、カニの王様「タラバガニ」と「ズワイガニ」が一緒に盛られた“豪華ビュッフェ”も堪能できます。
「いらっしゃいませ、お好きなお皿どうぞ」
主にビュッフェ会場で、食器の片づけや、料理提供の接客を担当する原さん。この日任されたのは“1番人気”の「カニ」コーナーです。
「なんか違うの?」
「脚の長いのが『ズワイガニ』で、脚の短いのが『タラバ』なんです。一緒に盛っていますので」
客の質問にも的確に答えます。さらに、同僚に指示を出したり、“勇気づける言葉”も投げかけたり。
「この中にちょっと(補充して)入れちゃおうか」
「恥ずかしくないよ!」
わずか15分でカニの皿がみるみる減っていくと、冷蔵庫からカニを取り出し補充。これまでの“接客業の経験”を生かした無駄のない動きです。
「経験者でキチッとされていて、丁寧な接客をされるので、すごくこちらとしても参考になっています」
(「羽鳥慎一 モーニングショー」2025年8月13日放送分より)