「コメを増産した方がいい?」とか「外国人を優遇しすぎではないか」とか「スパイ活動を防止する法律があったほうがいい」など賛否両論あるニュースを最近よく耳にします。そこで是非皆さん自身の意見を持っていただくためにも、今回は特に「外国人優遇問題」について、その内容や意味を解説してまいりたいと思います。
ホント!?ウソ!?「生活保護を受ける外国人が増えている!」
先日の参議院選挙あたりから、「日本は外国人を優遇しすぎではないか!?」なんていうSNSをよく目にするようになりました。
「生活保護で日本人より優遇されている」「日本人の生活も苦しいのに外国人への生活保護はおかしい」なんて生活保護についての意見もたくさんあって、中にはかなり過激なものもあります。そもそも本当に外国人に生活保護費は支払われているんでしょうか。まずはルールを確認しましょう。
2024年に日本にやって来た、もしくはもともと滞在していた外国人は4000万人を超えています。そのほとんどは観光客ですが、ビジネス目的や、ずっと日本に住んでいる外国人、いわゆる中長期在留者も400万人近くいます。日本の人材不足を補うために日本に働きに来ている人も意外とたくさんいて、3年連続で過去最多を記録しています。
そして生活保護ですが、日本人でしたらもちろん様々な条件をクリアすれば受給することができます。(月平均18.2万円)
では外国人の場合はどんな人が受給できるのでしょうか。
観光客はもちろん対象外です。ザックリ言うと日本で長く生活している外国人が対象となります。例えば10年間の在留条件をクリアし、永住権を取得した永住者やその配偶者、日系3世などの定住者や、在日韓国人などの特別永住者、そして難民として認められた人達です。この人たちは日本人と同じ条件で生活保護を受けることができます。一方で日本に長く滞在していても、技能実習生や留学生などは生活保護を受けることはできません。
よくSNSでは「外国人が受給するのは違法だ!」なんて意見も出ていますが、実際法律はどうなっているのでしょうか。
法律には「生活に困窮するすべての国民に対し〜その最低限の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする」(生活保護法・1950年 一部抜粋)と書かれています。この文言を見ればわかるように、もともとは国民、つまりは日本人のみを対象としています。ところがこの法律ができた直後、1954年に厚生省(当時)から「生活に困窮する外国人に対し、保護を準用できる」という局長通知が出されたことで、現在のような形になりました。
戦後間もないこの時期、日本にはかつて植民地支配をしていた朝鮮半島や台湾などからやって来て、望まないまま生活していた人がいました。この人たちの生活が苦しいのであれば、日本人ではないけれど生活保護を与えてもいいのではないか、そういった人道的な観点からこの通知は出されたんです。
外国人の生活保護に反対する人の中には「受給する外国人の数がどんどん増えているんではないか」、と懸念している人が多いんだと思います。でも、実際に受給者数の推移を見てみると、日本にくる外国人は過去最多と増えている一方で、外国人で生活保護を受給している世帯というのはこの10年で見るとほぼ横ばい、そんなに増えていないことが分かります。
情報だけが独り歩きをしてしまっていますが、決して日本人より有利なわけでも、どんどん増えてしまっているわけでもない、ということは確認した上で、果たして必要なのかやめた方がいいのか、考えてみてください。
ホント!?ウソ!?「中国人留学生に月18万渡している」
外国人優遇について、SNSで「中国人留学生に月18万円も渡している!」「日本人学生も奨学金を借りて大学に行っているのになぜ外国人ばかり!」なんて意見を目にしたことはありませんか?でもこれは本当なのでしょうか。
留学生への支援制度はいろいろありますが、18万円と言われているもの、これは博士課程の学生への国の支援制度です。次世代研究者挑戦的研究プログラム・SPRINGと呼ばれるもので、成績や研究内容などの条件をクリアすれば、研究費と生活費を合わせて年間最大290万円、3年間で1000万円近くもらえるという制度です。
このうち生活費としてもらえる月額18万円〜20万円、というのがよくSNSに登場する数字です。でも注意しないといけないのはこれは外国人だけを対象とした制度ではないということです。そもそもは日本の学生のための制度なんです。
日本では博士課程まで進む学生が少なく、高度な知識を持つ技術者などが世界と比べてみても少なくなっているのが問題視されています。そこで将来の日本や世界に貢献する人材の育成のため、たくさんの人にもっと博士課程に進んでもらいたい、そういう狙いで作られた制度なんです。実際この制度を利用している日本人と留学生の内訳を見てみると、日本人が6割、留学生4割と日本人もたくさん利用していることがわかります。
ただ、受給している外国人留学生のうち7割が中国人です。これが「中国人ばかり!」と話題になる理由なんですね。そもそも留学生の多くが中国人なのでこういった結果になっているんですが、この数字が独り歩きしている、というところです。
ただ、税金で留学生の生活費まで出すの?という意見が増えているのも事実です。そこで文科省は今後留学生に対して生活費は支給しない方向で話し合いを進めています。
日本は今、賃金が上がらない、物価が高くて生活が苦しい、などの声が増えています。そんな中、円安で日本は安い!とたくさんの外国人観光客が爆買いをし、ホテルの価格もどんどん上がっているのを見て、外国人への不満の声が多くなってしまう、という傾向があるとの分析があります。ただ、一方で数字が独り歩きしているだけ、というものもたくさんあります。皆さんも情報に踊らされることなく、内容をちゃんと理解して自分の考えを持つようにしていただければと思います。
(池上彰のニュースそうだったのか?9月13日OA分より)
「コメの増産問題」や「スパイ防止法」など賛否分かれるニュースの池上解説はTVerへ?