全国各地の温泉宿で1泊2食付きの定番スタイルが今、曲がり角を迎えています。夕食を調理して運ぶ人材の確保が難しいなか、旅館に代わって宿泊客に食事を提供する「泊食分離」のプロジェクトが動き出しました。
「夕食は外で食べて」温泉宿
栃木県の鬼怒川温泉にある旅館。2016年にリニューアルした渓谷沿いにたたずむ宿です。26日から、ある新しい取り組みを始めました。
「通常は『1泊2食付き』のプランしかなくて、初めて『1泊夕食なし』というプランを販売しています」
温泉旅館といえば「1泊2食付き」が定番ですが、今回「夕食なし」のプランを導入した理由は…。
観光地でも人手不足は深刻になっています。中には夕食担当のスタッフが確保できず、空室があっても予約を断らざるを得ないケースもあるといいます。
そこで考えたのが、旅館は「泊まる」だけにして「食事」はそれ以外の場所で済ませてもらう「泊食分離」です。
この旅館では「夕食なし」プランにすると、宿泊費が2万1000円から1万5000円に安くなるうえ、街で使える2000円分の食事券も付いてきます。
ただ問題は、周囲に夜遅くまでやっている飲食店が少ないことです。
「ほとんどもう…昼を過ぎたら閉まっちゃいます」
「(Q.ここは夜はやってない?)やってないです。ホテルに皆さん入っちゃうから、夜は人通りが少ない」
「せいぜい夕方4時ごろまで。(客が)出てこなければ、人件費も家賃も大変ですから」
宿泊客の多くがホテルや旅館で夕食をとるため、近くの飲食店は夜の営業をやめたり、閉店したりしていました。
8000円お得 駅前に臨時夜市
そこで、鬼怒川温泉が一体となって動き出しています。
東武線の駅前にある広場に続々と入ってきたのは、さまざまな種類のキッチンカーです。栃木県内で営業している人気の店が期間限定で集まりました。声を掛けたのは、旅行会社のJTBです。
「鬼怒川温泉の夜がまだまだ寂しいってことで、1年ぐらい地元の皆さんと議論をしてきて、夜にもっと店が開いていたら人が来るんじゃないかと。『泊食分離』っていうことで『夜は外で食べる』ということを少し定着させて、人手不足の問題(解決)や、夜のにぎわいを創出する」
夕方5時。初日の「ナイトマルシェ」がスタートしました。すると早速、お客さんたちの姿がありました。次から次へと注文が入り、料理を提供していきます。
「ホテルの近くでやっているというのを知って(来た)」
「いいと思います。“出かける”きっかけになる」
中には、地元から食べに来た人もいました。
「こんなに集まると思ってなくて、これだけにぎわっているのはうれしいです」
このイベントには、鬼怒川の飲食店も参加しています。にぎわっている様子を見て、夜の営業を前向きに考えてもらうのが狙いです。
「ホテルから出ない人もいるけど、10人のうち1人とか、夜に屋台があったり、飲み屋があった方が楽しい。泊まった人も地元の人と飲みたい人もいるし、街の雰囲気を味わいたい人もたくさんいると思うので。夜が楽しめれば鬼怒川ももっと勢いがつく」
宿泊客にとっても「夕食なし」にすれば、「1泊2食付き」の時より6000円から8000円ほど安くなり、食事の選択肢も広がります。
「面白いと思う」
「好きな量を好きなもの食べられていい。『お得だな』と思って。2000円のクーポンも付くし、『これでいいじゃん』みたいな」
まずは10日間の期間限定ですが、何かが変わるきっかけになることが期待されています。
「それぞれの皆さんにとって、価値のある取り組み。鬼怒川だけじゃなくて、全国の観光地でも旅館の人手不足という課題に対応できて、外に出て街が活性化する一石二鳥なところもあるので。ここが何か起点になったらいい」
(「グッド!モーニング」2025年9月29日放送分より)