自民党の新総裁に高市早苗氏が就任したところ、日経平均株価は5万円近くまで上昇し、史上最高値を記録している。一方で外国為替市場に目を向けると、円安ドル高が進み、対ユーロでも1999年のユーロ導入以来、最安値を更新した。
この円安傾向のなか、私たちは資産をどう守ればいいのか。「高市トレード」「サナエノミクス2.0」といった言葉も出るなか、『ABEMA Prime』ではエコノミストとともに、現状と今後の展望を考えた。
■株価は高騰、為替は円安 何が起きている?

債券市場では“高市トレード”の動きがある。高市新総裁誕生後、財政拡張への懸念から、長期・超長期国債が売られ金利が上昇。住宅ローン金利などに影響を与え、10年債利回りは一時1.7%超え(17年ぶり高水準)、30年債利回りは一時3.34%(過去最高水準)となった。
内閣府で経済財政分析を担当した経歴を持つ、第一生命経済研究所主席エコノミストの藤代宏一氏は、「高市氏は金融緩和論者で、少なくとも昨年の総裁選までは、日銀の利上げを批判してきた。しかし今年に入り、とくに総裁選が近くなってからは、日銀の金融政策に言及しなくなった。スタンスは変わっているのだろうが、一度付いた強烈なイメージから、総裁選後に円安が進むのは自然だ」と分析する。
一方で、アメリカに目を向けると、「積極的な利下げが織り込まれている」という。「来年後半にかけて、いま4%超の政策金利が、3%程度まで下がる見通しだ。しかしアメリカでインフレがぶり返すと、あまり利下げにならず、ドル高が進む可能性がある。そこで高市氏が日銀に注文を付けると、1ドル160円超えもあり得る」。ドル円以外の為替についても、「ドルに対してどう動くかが圧倒的に重要だ。まずは日米関係を考える必要がある」とした。
高市氏の経済政策のスタンスとしては、「従来から“財政システムの拡大”を積極的に訴えてきた。今回は具体的な指標として、政府の純債務残高対GDPの引き下げを掲げている」と説明する。「表面的には『財政健全化に取り組む』と言っているが、純債務残高対GDPで見ると、日本の財政は2008年のリーマンショック直後程度まで改善している。裏を返すと、『財政支出は結構できる』という含意があるのではないか」。
高市の後ろ盾には、財務大臣を戦後最長の期間務めた麻生太郎副総裁がいる。その影響については、「バランス重視だろう。高市氏と似たような性格の財務大臣になると、国債や円の信認の話に発展する。特定の誰とは言えないが、穏健な人物が財務大臣になると、仕上がりは良くなるのではないか」と予想する。
■“サナエノミクス2.0”とは

高市氏は4年前の著書で「サナエノミクス」を掲げていた。そして最近、さらにバージョンアップした“サナエノミクス2.0”として注目されている。
サナエノミクス2.0では、「責任ある積極財政」を掲げ、国が呼び水的な投資をすると需要が生まれ、税収も上がると見込んでいる。投資先の例としては、国土強靭化(防災対策)、エネルギー安全保障、食糧安全保障、健康医療といったものがあり、「財政健全化が必要ではないと言ったことは1度もない。純債務残高対GDP比を下げることに心を砕く」としている。
近畿大学情報学研究所所長の夏野剛氏は、「安全保障のための経済政策は、投資に対する生産効率があまり良くない」と見ている。また、同じく円安要因として、国土強靱化を挙げる。「あまり人が住んでいない地方に、大きな堤防を作っても、需要や経済効果は極めて薄い“バラマキ”だ。安全保障面で半導体投資をしても、成功率はあまり高くない」。
そして、「『こうしたことに財政を使うたび、日本の国力は弱くなる』と見透かされている。『日本が強くなる』『生産性が上がる』といった方向に、経済政策が向いていないため、世界的に見ると『日本は中長期的に弱くなる』。日本の30年間を追認するような政策だ」と評する。
また、夏野氏は安倍晋三元総理による“アベノミクス”との違いにも触れる。「アベノミクスには“規制改革”が入っていた。規制緩和によって需要が高まり、かなり効果的だったが、サナエノミクスには一番大事なそこが入っていない。経済学的に見ると、将来は厳しく、国力は弱まるだろう」。
藤代氏によると、「アメリカでは『為替を政府主導でコントロールするのには無理がある』ことが常識になっている。日本国内でも、為替を理想的な方向、いまで言うなら“緩やかな円高”に持っていくのは難しいため、為替を直接は狙っていないのでは」という。
経済政策をめぐっては、「高市氏のような積極財政を訴える人の文脈で、よく“財政不安”という言葉が出てくる。金利上昇も『財政の懸念』と言われるが、それは言いすぎではないか。マーケットはより近いところを見ていて、『今年や来年に国債発行量が少し増えるかな』といった観測から金利が上がっている」とした。
リディラバ代表の安部敏樹氏は「ドル高になっても、景気がいいならOKとなる。円安方向のトレンドも変わらないだろう。純債務残高対GDP比も、インフレでGDPが大きくなり、債務残高が減れば、『その分、もうからないところに財政出動してもいい』という話になるが、これは見かけが大きくなっても、実質はあまり強くならない。経済の基本は『好きにやった人たちが稼ぎを作る』ことにある。国が『これをやればもうかる』と言うのは、大体もうからないという大原則を考えると、規制改革は入れて欲しい」と語った。 (『ABEMA Prime』より)