キャンピングカーを旅行客に貸し出して独自のツアーを提供する1人の女性がいます。かつては有名な設計事務所に勤めていましたが、一転して新たな取り組みを始めた背景には何があったのでしょうか?
ふるさと復興 30歳女性奔走
東京に住む矢萩さん家族がこの3連休に楽しんだのは、キャンピングカーを使った旅です。
実はこの車はレンタル。キャンピングカーと観光ツアーを提供しているのは、日下あすかさん(30)です。
自身の地元を含む福島県の東側、いわゆる「浜通り」にキャンピングカーの旅を根付かせようと取り組んでいます。
この3連休にも、来年度の本格的な事業化に向けた1泊2日のモニターツアーを企画。初日に用意したのが、絵付けと甲冑(かっちゅう)の着付け体験です。家族で福島県の歴史と文化に触れることができました。
続いてキャンピングカーが向かったのは、車中泊ができるRVパークです。
24時間利用可能なトイレや電源、近隣に入浴施設があります。車で寝泊まり。これぞキャンピングカーの醍醐(だいご)味です。
宿泊場所が決まった後は食事です。
キャンピングカーの旅をプロデュースする日下さんは、福島県東部にある富岡町出身。中学校の卒業式の日に東日本大震災が起き、津波による原発事故で帰宅困難区域に指定されました。
その後、東京芸術大学大学院に進学し、建築を学びました。卒業後は、国立競技場などを手がけた世界的な建築家・隈研吾さんの設計事務所で働き始めます。
転機になったのは、設計事務所に入って2年目の時。福島県浪江町の駅前再開発のプロジェクトに関わったことでした。
浜通り地域に住む人たちに大切にされ、多くの人が集まるのが、1000年以上の歴史を持つといわれる「相馬野馬追(そうまのまおい)」です。
3日間の開催で毎年、全国からおよそ13万人が訪れますが、その多くが日帰り客だといいます。浜通りには宿泊施設が不足しているのです。
宿少ないふるさと逆転発想
宿泊施設を新しくつくるには費用がかかります。建築に携わっていた日下さんはよく知るところです。そこで目を付けたのが、キャンピングカーでした。
そう考えた日下さんは設計事務所を退職し、旅行業の国家資格を取得しました。さらに、キャンピングカーの旅が普及している北海道の会社に2か月間住み込みで「武者修行」しました。
そして自費でキャンピングカーを購入。来年度からこれらを旅行者に貸し出す形で、福島県内でキャンピングカーの旅を楽しんでもらうことを考えています。
手軽に車中泊ができるのがキャンピングカーの醍醐味ですが、勝手気ままに止めていいわけではありません。
RVパークは快適に安心して車中泊ができる場所を提供する施設で、日本RV協会が認定しています。
全国に増えてきていますが、これまで浜通り地区には1施設しかありませんでした。そこで、日下さんはRVパークを増やそうとさまざまな場所を訪れ、1軒1軒、地道に交渉していきました。
RVパークを設置した「遊学の宿いさみや」の菅野功さんはこう話します。
こうした日下さんの熱意もあり、現在、浜通りのRVパークは5施設に増えました。
さらに、日下さんが目を向けたのは観光です。相馬野馬追が開かれている3日間以外も観光に来てほしいと、キャンピングカーの利用者に楽しめるスポットを提案するために色々な施設を回り、こちらも1軒1軒、交渉していきます。
この日訪れたのは、相馬野馬追に出ている馬の乗馬体験ができる「ノーマ・ホースヴィレッジ」です。
日下さんが案内するモニターツアーにも組み入れ、3週間前に客を連れてきたということでした。
“海見える丘”に人集めたい
今後、日下さんが伝えたいのが海の美しさです。
広野町は日下さんが中学時代を過ごした場所です。
大学で建築を学んでいた日下さんが卒業制作で描いた絵本です。小さな女の子の絵とともに「海が消えた…」という言葉があります。
広野町には震災後に防潮堤ができ、海に近づくほど海が見えなくなっています。
かつて隈研吾さんの設計事務所で働いていた日下さん。海が見えるこの丘に、みんなが集まれる施設をいつかつくりたいと話します。
福島県浜通りの魅力を多くの人に伝えたい。日下さんの夢はキャンピングカーとともにあります。
(「グッド!モーニング」2025年10月13日放送分より)