約120年の歴史があり、年間約3000トンもの魚が水揚げされる神奈川県小田原市の水産市場では、ずらりと並ぶ豊富な魚が小田原ならではの光景をつくっています。まだ暗い夜明け前、あまり知られていないけれど実はおいしい“マイナー魚”を求めて、佐藤アナウンサーがこの市場を訪ねます。
今回は特別に市場の中へ入れてもらうことになり、案内役として登場したのが、水産研究家の「ぼうずコンニャク」こと藤原昌高さんです。藤原さんは魚介類の研究歴50年、書籍も多く執筆し、あの「リュウグウノツカイ」まで食べたことがあるという筋金入りの専門家です。
「ぼうずコンニャクってどういう由来なんですか?」
「魚の名前なんです」
前日に「魚を語る会」で4時間にわたり、話し続けたという藤原さんは、声を気にしつつも、市場に並ぶ魚を前にするとすぐに話が止まらなくなります。2人が場内を歩き始めると、まず目に留まったのが口の長い魚です。
「口が長い魚が…」
「ここはスポイトなんです」
「スポイト?」
「シュッて飲み込んじゃう」
これはアカヤガラという魚で、細長い口をスポイトのように使って獲物を丸のみするのが特徴です。秋から冬が旬で、鍋にすると絶品とされています。
さらに進むと、10年前には「幻の魚」といわれ、誰も見たことがなかったチャイロマルハタが並んでいました。この魚は、主に熱帯域や亜熱帯域に生息する大型のハタで、15年ほど前から鹿児島や高知でとれるようになり、近年は小田原でも水揚げされるようになっています。
場内を巡る途中で、藤原さんはクイズを出します。頭に2本の線がある魚を指差して名前を尋ねると、佐藤アナウンサーは 「まゆげ!」 と答えて笑いを誘いますが、正解はカンパチです。頭に八の字のような模様があることが名前の由来で、かつてはここでも珍しかったものの、最近では年間を通してとれるようになってきました。
さらに奥へ入ると、真っ黒で独特の見た目の魚が現れます。
「またすごい見た目の魚ですね」
「これが、スミヤキといいます」
「スミヤキ?」
炭で焼かれたような模様からその名が付いたスミヤキは、正式名をクロシビカマスといい、刺し身が美味な「クサカリツボダイ」とともに、スーパーマーケットではほとんど見かけない魚たちです。そんな市場ならではの魚がずらりと並ぶ中、藤原さんが厳選したマイナー魚を実際に味わうことになりました。
“珍魚中の珍魚”ハシキンメ&ネンブツダイをから揚げで堪能
藤原さんと佐藤アナウンサーが向かったのは、売れる魚と売れない魚を選別しているコーナーです。
「よろしくお願いします。こちら今、何をやっているところなんですか?」
「売れる魚と売れない魚を選別している」
ここで目に留まったのが、ハシキンメの赤ちゃんです。藤原さんによると 「深海魚なんです」 とのことで、地方によっては「珍魚中の珍魚」といわれる存在です。キンメと名が付くものの、キンメダイ科ではなくヒウチダイ科の魚で、大きな口はくちばしのような形をしていて、成長すると体が赤くなりキンメダイのような姿になることからこの名が付けられました。
「これね、おいしいんですよ」
「こんなに小さいのに!?」
このハシキンメをどう食べるのかを確かめるため、市場近くの「漁港の駅 TOTOCO小田原」の一室を借りて調理を始めます。今回使うハシキンメは、二宮定置から好意で譲られたもので、さらにネンブツダイもおまけで手に入りました。
このネンブツダイは、現在のサイズでもう成長しきっていて、水面近くを泳ぐ時にはブツブツとつぶやくような音を立てるうえ、オスが口の中で卵を育てる姿が“念仏”を唱えているように見えることから、その名が付いたとされています。
まずはハシキンメとネンブツダイの2種類を食べ比べることになり、藤原さんが下処理のコツを披露します。
「これはちょっと背びれが硬いので切っちゃいます。尻びれもちょっと硬いんです」
ヒレを切り落とし、頭側に切れ目を入れてからグイッと引っ張ると、ハシキンメは簡単に下処理ができてしまいます。佐藤アナウンサーも同じように挑戦し、引っ張るだけの簡単な作業で、約23尾を5分ほどで下処理を終えました。
続いてネンブツダイは、ヒレが柔らかいため、あごの下あたりに指で切れ目を入れ、そのまま引っ張るだけです。
下処理後は、水で洗ってから水分をていねいに拭き取り、片栗粉を多めにまぶします。
「自宅でやるときはすぐ揚げないんです。表面がしっとりするまで待つ」
数分置いて衣をなじませることで、油が汚れにくくなります。揚げる際は、最初は中温、次に高温と2度揚げし、表面がカリッとしたら塩を振って完成です。ハシキンメとネンブツダイのから揚げを試食します。まずはハシキンメからです。
「おいしいですね。サックサク。結構小さいかなと思っていたんですけど、けっこう身がありますね。骨もまったく気にならないですし、臭みもなくて、淡泊な」
「そうですね」
次にネンブツダイを口にすると、違いがはっきり出ました。
「今食べたネンブツダイのほうが水分がありますね。しっとり感があっておいしいです」
2種類の魚は味わいの傾向が異なり、お酒のおつまみにもぴったりの一品ですが、実はここで扱われる多くがフィッシュミールとして、ほかの魚やニワトリの餌(えさ)に回されてしまうのが現状です。
「フィッシュミールといって魚の餌とかニワトリの餌になっちゃうんです」
「え!もったいないですよね」
「もったいないの」
「ワカサギのような味だなって思ったんですけど。売ってくれたら、きょうも買いにいきます」
「売ってたらね」
「売ってたら」
身近なスーパーでは姿を見ない、こんな“小さな深海魚たち”にも、豊かな味わいと可能性があることが分かってきます。
“世界一うまい”カイワリと幻級リュウキュウヨロイアジの刺し身対決
ハシキンメとネンブツダイを満喫した2人は、再び市場の場内を見て回ります。すると、またも二宮定置から声が掛かります。
「お!」
「おいしそう!」
「ありがとう!」
「めっちゃうまそうだったから入れておきました」
「ありがとう」
「これなんですか?」
「カイワリ。多分、世の中でもっともおいしい魚」
「世の中でもっともですか?」
アジ科の魚・カイワリは、本州各地に生息し関東周辺でも水揚げされますが、流通量が少ないため知名度は高くありません。ただ、その味は「世界一うまい」と近年話題で、特に神奈川では人気が高く、国内でも最も高い値が付くとされています。
さらに、もう一匹用意されていたのがリュウキュウヨロイアジです。
「これはリュウキュウヨロイアジ。めったにとれない」
こちらは主に太平洋沿岸の暖かい海に生息していますが、まとまった量がとれず、小型で商品価値が低いこともあって流通が少なく、入手はかなり難しいといわれます。見た目はカイワリとよく似ていますが、味はどう違うのか。2種のアジを食べ比べることになりました。
「こちらどんな調理をされるんですか?」
「これは刺身ですね」
「刺身〜」
どちらも頭を落として半分に開き、カイワリはそのまま刺し身に、リュウキュウヨロイアジは皮の面だけをあぶってから冷水で締め、焼き霜造りに仕上げます。家庭ではなかなか体験できない贅沢なアジの食べ比べの始まりです。
まずはカイワリから味わいます。
「こっちはコリコリしてますね」
「アジというより白身に近いような味」
「ちょっと淡白な味でした」
「それが小田原の人はすごく好き。非常に人気が高くて、あっという間に売れちゃいます」
同じアジ科でも、小田原で熱烈に愛されるカイワリに対し、リュウキュウヨロイアジは小田原ではまだまだマイナーな存在です。続いて、そのリュウキュウヨロイアジを口にします。
「おいしい!なめらかで脂身がしっかりある」
「うまみがずんとありますよね」
「なかなか家庭では手に入らない?」
「手に入らない。売っているんですけど、珍しいので手に入れるのは大変です」
「すごくおいしいですね、両方」
「未利用魚でも、すごくおいしいのはぜひ食べてほしい。その時季にとれるものを色々、小田原に来てそういうのを探してみてほしい」
藤原さんは、まだあまり利用されていない魚の中にも、感動するほどおいしいものが数多く潜んでいることを、実際の味を通じて伝えます。市場には、地元でしか流通しない魚や、エサ用に回されてしまう小型魚など、一般の店ではまず見かけない“宝物”が並んでいます。
番組では、藤原さん“とっておき”という、小田原でとれる中でも「珍魚中の珍魚」と呼べる特別な魚料理を紹介。知られざるマイナー魚の世界は、まだまだ奥深い広がりを見せていきます。


















