経済

2025年12月15日 19:30

どうなる高市政権「責任ある積極財政」 市場が疑問視…長期金利上昇 高度成長シンボル・池田内閣は“健全財政” 中曽根内閣で“転換”

どうなる高市政権「責任ある積極財政」 市場が疑問視…長期金利上昇 高度成長シンボル・池田内閣は“健全財政” 中曽根内閣で“転換”
広告
1

 長期金利を代表する10年物国債の金利上昇に歯止めがかからない。19年ぶりの2%が目前になってきた。国債の金利上昇は価格下落を意味する。つまり、日本政府の信用が前提である国債の価値が下がり続けているということだ。
 この状況下で、高市政権で初めての補正予算案が国会で成立する見通しになっている。高市総理は、「責任ある積極財政」と自負するが、その一環である補正予算の財源は、結局のところ国債つまり借金頼みだ。補正予算の一般会計歳出18.3兆円に対し、国債を11.7兆円も発行する。

 それにしても、高市氏が総理になって「積極財政」という用語が前面に出てきた。自らの政治家としてのセールスポイントと考えているのだろうか。
 「積極」という言葉はだいたい響きがいい。「仕事に積極的」「考え方が積極的」「ポジティブ」…、周囲の評価が高かったり、自分もそうなりたいと思ったりするものだ。
 そこに「積極財政」のマジックがある。“積極財政はとりあえず「消極財政」よりマシだろう”とか、“積極財政の政治は評価が高いのではないか”と思ってしまう。
 しかし、「積極」の中身こそ重要であって、税金で成り立つ「財政」である以上は、無駄や間違った政策に力を入れるのは筋違いだろう。

所得倍増・池田内閣…実は“健全財政”

 日本人が「積極財政」と聞いて政治的にプラスに感じるのは、「国民所得倍増計画」で知られる池田内閣(1960年)のイメージが大きい。池田内閣こそが戦後の「高度成長」のシンボル。池田内閣⇒積極財政⇒高度成長だっただろう…アッパレという“成功体験”のイメージを持っている。

 しかし、実際には池田内閣は予算の財源に国債発行まではしていない。そもそも当時は「積極策」とか「積極予算」とかは頻繁に出てきても、「積極財政」という用語があまり使われていないのだ。

 国民所得倍増計画を政府で決め、初めて組まれた年度予算編成の方針をめぐる記事を見てみると、「所得倍増策を推進」の下に“健全財政”と書いてある。

 ここでは、財政の役割を「経済の適正な成長に資すること」として“積極的な姿勢”を示しながらも、通貨価値の安定と国際収支の均衡を確保するために、「健全財政」を貫く方針で編成することになった。
 貿易と為替の自由化を控えていたためだ。この予算編成方針では、景気に対する財政の役割は一言も触れていないともされる。

 当時は「積極」と言っても、大規模な国債発行を前提とした“財政膨張”ではなかったのである。その意味で高市内閣で強調される「積極財政」とは性格が異なると言わざるをえない。

 このあと、昭和40年不況による歳入の穴埋めのため戦後初の財政特例法による赤字国債発行(1966年)、石油危機の不況で赤字国債を再開し公債依存度が大幅上昇(1975年)などを経て以降も、“借金財政”はあくまで例外であるという危機感は依然として維持されていた。

バブル拡大・中曽根内閣…「積極財政」転換で財政不再建に

 では、高市政権の言う「積極財政」と同じ意味を持つ概念が出てきたのはいつか。

 中曽根内閣(1987年)ではないか。「積極財政へ事実上転換─建設国債増発へ」。紙面で、「積極財政」の言葉が一面で大きな見出しになった。

積極財政へ事実上転換─建設国債増発へ
中曽根政権が「積極財政へ事実上転換─建設国債増発へ」の見出し(『朝日新聞1987年4月8日』)

 当時、円高不況対策というより、むしろ日米貿易不均衡を是正するために、アメリカから求められた内需拡大のためのものだった。
 しかしそれだけでなく、“借金財政”への危機感から、1980年代に政治的な最重要課題としてきた行財政改革で掲げられた「増税なき財政再建」の旗印を、事実上改めてしまったのである。
 この頃から「積極財政」という用語の意味に、いわば“財政再建は二の次”という発想が生まれたのではないか。財政の都合について“やむなく国債”ではなく“国債が先にありき”というわけだ。

 その中曽根「積極財政」以降に起きたことは何か。
 財政出動は確かに不況対策として効果はあったが、低金利と相まって、財テクやバブル経済の火に油を注ぐことになった。「増税なき」はどこ吹く風で、消費税を導入した。バブル時代には税収も伸びたため、財政的には赤字国債への依存から一時脱却したが、あえなくバブルは崩壊した。

橋本内閣・小泉内閣 財政に「責任」を感じたが… 増え続ける国債残高 1000兆円超える
橋本内閣・小泉内閣 財政に「責任」を感じたが…増え続ける国債残高 1000兆円をはるかに超える

 結局は、一度緩んだタガは元に戻らず、“財政再建は二の次”の「積極財政」の発想は底流で生き残り続けた。各国が財政再建をしている最中も、永田町では「積極財政」で、財政出動の規模、特に直接支出である“真水”の金額が、政治的宣伝材料にされた。
 財政に「責任」を感じた橋本内閣の財政構造改革(1997年)や、小泉内閣の歳出・歳入一体改革(2006年)とも長続きせず、主要先進国で最悪の財政状況が定着することになった。

具体的な数値目標を示してこそ「責任ある」「積極」

 今ここで高市総理が「責任ある積極財政」と、「責任」という言葉を持ち出しても信用できるのか。

 財政悪化を防ぐ第一歩であるプライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化目標を、「数年単位でバランスを確認する方向」に緩めたうえで、新型コロナ収束後として最大規模の補正予算で赤字国債。
 その補正予算と言えば、物価対策とは言え、電気・ガス代支援や「おこめ券」、子ども1人2万円といったバラマキ系が目玉で、それは“各党のご主張のため”とする。
 政府財務の対GDPで考え、財政再建のためには経済成長が必要ということは間違いないが、その経済成長には「国民所得倍増計画」のような具体性も期限もない。

補正予算案が衆議院を通過(2025年12月11日)
補正予算案が衆議院を通過(2025年12月11日)

 要するに、財政再建もそのための経済成長も具体的な数値目標がはっきりしない。
 “変わった感”を出しながら何となくズルズル行くのか…。このままではマーケットから疑問視されて、さらなる円安、インフレが悪化して、政権基盤そのものに影響する事態になりかねない。
 政治家として「積極」で勝負するなら、ぜひ責任を持てるわかりやすい数値目標を示す積極性を持ってもらいたい。
(テレビ朝日デジタル解説委員 北本則雄)

広告