経済

ABEMA TIMES

2025年12月12日 19:00

きぬた歯科はなぜ集客できる? おもしろ看板で人気集めるローカル中華チェーン「サンコック」 アナログ広告ならではの強みとは

きぬた歯科はなぜ集客できる? おもしろ看板で人気集めるローカル中華チェーン「サンコック」 アナログ広告ならではの強みとは
広告
1

 東京・首都高速を走ったことがある人なら、一度は目にしたであろう看板。男性の顔に、「きぬた歯科」「インプラント」の文字が大きく書かれている。

【映像】首都高に次々と現れるきぬた歯科の看板

 同じような看板が都内を中心に設置されているが、その数は300枚以上。広告を出しているのは大病院などではなく、八王子市に1つだけある歯医者だ。広告費約2.5億円をかけているこの戦略が、約18億円にも及ぶ売上を支えているという(一般的な歯科医院の年間売上は約4800万円)。

■「厳しい現場です 1ミリも楽しくありません」おもしろ看板が話題に

 デジタル全盛と言われる今、看板のようなアナログ広告にはどこまで効果があるのか。SNSで先日、パート・アルバイト募集としながら、「厳しい現場です 1ミリも楽しくありません」と書かれた看板が話題になった。ネット上では「この求人を見て 来る人はいるのだろうか」「誰も来なさそう」「不思議 これにOK出す会社、絶対に楽しいだろうと思えてくる」といった声が出ていた。

サンコックの看板が話題(左列中段、中島玄裕専務)

 この看板を出したのは、岐阜県にある中華料理のローカルチェーン「サンコック」だ。店先には写真を撮る客の姿があり、「これは来たいなと思う。『厳しい現場です』とは今の時代なかなか言えない」「ご飯もおいしい。味と看板の印象が残ってまた来たくなる」と話す。

 サンコックは現在、岐阜県西部に5店舗展開し、お昼時にはいつも満席となる人気店。看板には他にも「F1で15秒」「雑巾掛けで8分」「ヘリコプターで4.3秒」といったものもある。

 このおもしろ看板は2021年、台風で看板が損失し、客数が減少したことから誕生した。社長の「どうせ作るならふざけた看板を作ってみろ」という一声から制作すると、反応は上々。看板見たさに新規客も増加し、今ではネタ看板9枚(通常看板3枚)が掲示されている。売上効果は、客数が2〜3割アップし、売上も1店舗あたり月100万〜200万円上がった。なお維持費は12枚で月80万円だという。

 サンコックの中島玄裕専務によると、「看板自体をSNSに上げたことはなく、みんなお客さまの投稿。岐阜県は車を1人1〜2台持っているほどの車社会だが、うちの看板は交通量が多いところではなく、田んぼ道のど真ん中にいきなり出てきて、『またサンコックがなんかやってるぞ』となる」という。

 先日、コンビニで「子どもが見つけたから」と車から降りて記念撮影をしていた親子に遭遇したそうで、「売上にもしっかり影響が出ている」と効果を語った。

■デジタルにない、アナログ広告ならではの強みとは?

 経済評論家の鈴木貴博氏は、きぬた歯科が成功した理由として、「大規模なマス広告として機能したこと」「突き抜けて目立つデザインであること」「競合の参入を防いだこと」をあげる。

アナログ広告・デジタル広告のでメリット・デメリット

 また、「インプラント治療は高額。だからこそ、ローカルなはずの歯医者でも広域のマーケットが狙える。広域になると、テレビより看板のほうがマス広告として効く。インプラントを初めてやる時に『きぬた歯科かな』と思ってしまうわけだ。競合は増えているが、1番手の認知は圧倒的に強い。同じようなデザインでも、2番手、3番手は効果が少なくなる」と解説した。

 中島氏は「看板づくりを勉強していくうちに、きぬた歯科にたどり着いた。社長からも『きぬた歯科って知っているか』と聞かれた。看板ビジネスをやっていれば、大体きぬた歯科にたどり着く」と話す。

 一方、鈴木氏はサンコックの看板も「新しくて面白い。やってみたくなる。テレビでも『雑巾掛けで8分』を検証したが、その後に『雑巾掛けのプロでないと行けない』と注意書きが加わった。この看板はインタラクティブなところが新しい」と評価した。

 文筆家で情報キュレーターの佐々木俊尚氏は、「デジタル広告は限界に達している。1980〜1990年代の広告業界は、コピーライターの糸井重里さんのように文化的存在で、ソニーや日立もブランド広告を打っていた。しかしデジタル広告は、ひたすら露出すればいい世界だ」と時代の流れに触れる。「ウェブメディアの記事を読もうとしても、広告が次から次へと出てきて、どこをクリックすれば消えるかわからない。オンラインで『広告は罪』となっているからこそ、リアルの広告が新鮮に見えるのではないか」。

 鈴木氏は「アイボール(目玉)シェア」という用語について話す。「スマホ使用時間が平均4時間で、16時間起きているなら、アイボールシェアは25%程度しかとれていない。残りの時間は、ぼーっといろんなものを見ている。アナログは時代遅れに見えるが、アイボールシェア的には半分程度の力を持っている」と指摘する。

 さらに、アナログ広告は「どうすれば新しくなるのかの戦い」なのだそうだ。「バニラの車体広告は画期的だった。トラックから『バーニラ、バニラ』という曲を流しながら、グルグルと回る。新しいことを考える戦いは、無限に続いていくのだろう」とした。(『ABEMA Prime』より)

広告