国会でも取り上げられた「NISA貧乏」という言葉、主に20代から30代の若者が、新NISAへの資金配分を優先しすぎた結果、日常生活が圧迫されている状態を指す。この状況に片山さつき財務大臣も「ショックを受けた。『積み立て自体の目的化』は全く意図していない」と発言し話題となっている。彼らを投資に掻き立てる背景にはなにがあるのか。『ABEMA Prime』では当事者に話を聞き、NISAのあるべき理想型を考えた。
■将来への焦り?NISAに全力投資のワケ

現行のNISA制度では、積立型が年120万円、成長型が240万円で、月平均で30万円投資できる。360万円×5年で総額1800万円が上限になっている。なお2023年までの「つみたてNISA」は年間上限40万円(月平均3.3万円)だった。そんな制度の中で、枠を埋めようと生活費を削ってまで投資を行い、生活が貧しくなる「NISA貧乏」の人もいる。
カエル夫婦の夫さん(43)は、かつては生活費を切り詰めながら投資しつつも、今はNISA貧乏から脱却した一人だ。「“老後2000万円問題”が言われていた時にNISAを始め、知識もないまま漠然と『全額埋めないと』という幻想を抱いた。毎月3.3万円をつぎ込んでいたが、家を買って住宅ローンが始まると、日々の生活がどんどん苦しくなった」。
その後の生活を「2年続けて『このままではダメだ』となり、ライフプランを立て、家計管理を行うと、少しずつ未来が見えてきた。最初は目標もなく、夫婦で『全額入れないと』と考えていた。子どもが生まれたタイミングで、『インフレで2000万円では足りなくなるのでは』と言われて、不安が大きくなった」と振り返るが、「最近は投資よりも、今を楽しみたい」と考えが変わったという。
社会的金融教育家の田内学氏は、「いくらためればいいか、皆不安だろう。例えばコメの生産力が減るとした時、『インフレが不安だ』とお金をためようとしても、コメが作られなければ、それ以上のインフレが起きるだけだ。『すべて投資で解決して』という政府のスタンスも考えないといけない」と指摘する。「人手不足が起きているなら、働くことで報われる状況を作らないといけないが、お金がある人の方が投資で報われる状況になっている。働く気をなくしかねないため違和感を覚える」
文筆家の佐々木俊尚氏は「フランスの経済学者であるピケティ氏は、20世紀は経済成長率より資本収益率が高い時代で、給料より投資のリターンが増える状態になり、どんどん格差が広がると指摘している。マクロとしては『これではダメ』と思うが、個人の自己防衛としては、投資に動かざるを得ない」と語る。
また、日本独自の事情として「長いデフレで『貨幣価値が上がらないなら現金で持つ』が当たり前だった。株価も下がり、投資しても損するだけの状況だったが、完全に反転した。となれば、投資の方向へ行くのも仕方ない」とする。「『自分に投資しろ』と言うのは簡単だが、今の時代はどの仕事がAIに奪われるかわからない。ならば、歴史的に『長い目で見れば必ず上がる』と証明されている株式に振るのは、最適な戦略なのではないか」との考えを示した。「少し前まで『自己実現=仕事』がいいという風潮があった。しかし、そんなことができる人はごく一部だとわかってしまった今では、とりあえず仕事を堅実にやり、その上でお金をためるのが最適解になった」。
■正しく投資と向き合うには?

佐々木氏は「政府は投資に全振りしているわけではなく、賃金上昇も掲げていて、“官製春闘”と言われるほどだ。コロナ禍が明けてから、春闘で毎年4〜5%の賃上げが行われ、初任給も下手すれば30〜40万円にまで上がった。資産形成と賃金上昇を両輪で回しているのが、現状の政府だということは押さえておくべきだ」と説明する。
AICX協会代表理事の小澤健祐氏は「『金融教育』と言われているのが良くない。『人生教育』を考える中で、こういった仕事をして、NISAでどの程度投資するか……と設計できる人がいないのが、本質なのではないか」と話す。
田内氏は「片山大臣も金融経済教育を拡充しようと言っているが、教師に負担を押しつけているだけだ。教育現場は人手不足で、探究学習やキャリア教育をできる状況にない。“子どもへの投資”のためには、公教育への投資が必要だ。教師が集まるように給料を上げるところから始めないといけない」と、政府方針に批判的に捉えている。
また具体的なエピソードとして、「熊本の教育委員会で講演した際に、『半導体工場ができて賃金は上がったが、教師は公的な給与設定のため上がりにくく、待遇が良くないからと人材が流出する』と聞いた。公務員から給与を上げないと始まらない」と語る。
佐々木氏は「世代の問題もあるのではないか。今の30〜40代は投資経験のない人が圧倒的に多い」と推測する。「ネット証券が出てくる以前は、なかなか株を買えなかった。土地を買うにも、まとまった額が必要で、若者の資産形成は馬券を買うしかなかった。それが今では、少額で株を買え、土地も分割で投資できるようになった。“投資の民主化”が進む中で、金融や投資といったミクロな知識と同時に、マクロな『国や社会のあり方』も考えられることが大事だ」。 (『ABEMA Prime』より)