防衛省が自衛隊の指揮系統へのAI導入を検討している。導入が検討されているのは、アメリカのデータ解析企業パランティア・テクノロジーズの「メイブン・スマート・システム」だ。
【映像】メイブン・スマート・システムの詳細(10秒でわかる詳細)
画像や現場の隊員からの情報、SNSの投稿まで膨大な戦場データを分析し、標的を特定する指揮統制システムで、アメリカはすでに1月のベネズエラ攻撃、2月のイラン攻撃の際にこのシステムが使用されたとの報道もあり、その後アメリカ軍での正式採用が決まっている。
日本政府も1月の日米共同演習でパランティアのAIを使用したほか、小泉防衛大臣がワシントンのパランティア社を訪問。3月には高市総理がパランティアのピーター・ティール会長の表敬を受け、日米の先端技術分野の現状や展望について話し合った。防衛装備庁は検証用として、パランティア社とおよそ2億8千万円の契約を結んでいる。
軍事・防衛分野でのAI利用をめぐり、Xでは「日本の機密情報がアメリカに筒抜けになる」「誤爆して犠牲が出た時の責任はどうなるのか」といった懸念の声が相次いでいる。『ABEMA Prime』では、軍事・防衛分野におけるAI利用について、専門家に話を聞いた。
■「計画を立てるのが早くなる」メイブン・システムの実像

防衛研究所・上席研究官の高橋杉雄氏は、メイブン・システムについて、「もともとはアフガニスタンの時に、いろんな待ち伏せや即席爆弾で米兵の死者が非常に多く出たので、そういう被害データを一括でまとめてちゃんと予測できるようにするという問題意識から始まっている」と説明する。ただ、「AI に対する抵抗感は実は米軍の中にもあったので、なかなか使われなくて、ようやく使われるようになったのは最近だ」。
メイブン・システムの特徴として挙げるのが、攻撃目標への弾薬割り当ての効率化だ。「例えばターゲットが10隻いたとして、10隻の船に対してこちらのミサイルが100発あったとする。それぞれ性能が違うミサイルをどう割り当てるか、これまで人間が手作業でやったりエクセルを使ってやったりしたものをコンピューターが決めてくれる。何十倍か早くなる」。
同時に、過大な期待をけん制する言葉も添えた。「メイブンで攻撃目標を決めたからといって、いきなりミサイルが10倍のスピードで飛ぶわけではない。計画を立てるのが早くなる。実際にミサイルが飛んで当たるまでの速度は全く変わらない」。
自衛隊への具体的な活用イメージについては、「自衛隊はまだパランティアを入れると決めていなくて、国産も含めてまだ考えているところだ」とした上で、「参謀役は膨大な書類仕事が必要で、どの弾でどこを攻撃するか、給油計画、どこにミサイルを集積するかといった膨大なエクセル仕事を、意思決定支援としてやってもらうというのが一つ考えられる」と述べた。
■「キルスイッチ」の懸念とデータ主権 同盟国共通のジレンマ
アメリカが提供するシステムへの依存について、トランプが一時的にアクセスを止めることがあれば、防衛網がまるごと機能しなくなるのではないか。高橋氏はこれに対して、「そこが心配だ。いわゆるキルスイッチがあるんじゃないかという心配はないわけではない」と答える。
だからこそ、国産のオプションを捨てないことが重要だと強調する。「現状、国産のAIでメイブンと同じくらいの能力があるものはないが、国産のオプションも当然捨てずに考えていきたい。あとデータについての主権の保持というのもやはり大事だ」。
また、国産AI開発の難しさについては、「メイブン・システムの開発はアフガニスタン戦争から始まっていると申し上げたが、時間の差が大きい。特に生成AIと言われる前のディープラーニングやマシンラーニングの時代からやっているので、データを作る作業がやっぱりすごく遅れている。当時の米側はそれこそ数万、数百万のデータを人間が整理してきたので、そこに追いつくのはなかなか大変だろう」と説明する。
そして最後に、「アメリカの同盟国が感じているジレンマそのものだ」と高橋氏は言う。「国内で作れるわけではないけど、いいものがそこにあって、それを一緒に使わないと共同作戦に支障が出るかもしれない」。
(『ABEMA Prime』より)