文化遺産を活用してできた2つの宿泊施設をご紹介します。世界中から観光客を集めていますが、その宿泊施設のもととなっているのが日本酒を造る酒蔵、そして古墳です。
極狭宿「約7万円〜20万円」でも人気
長野県佐久市。田園風景が広がるのどかな町に、世界各国から観光客が集まる珍しい宿があります。
「こんにちは」
続々と集まる宿泊客。予約している部屋を見せてもらうと…。
「ちょっとお部屋が狭くて」
「いやいやいやでもすごいキレイ」
こちらの男性、身長は183センチ。寝転んでみると、広さはギリギリ。部屋はわずか2.5畳しかありません。
田澤麻里香代表取締役
「(Q.この部屋はいくらぐらい?)こちらのお部屋約7万円〜20万円になります」
この部屋がなんと20万円。宿泊客はこのように話します。
チリからやってきたクリスさん(35)。身長は185センチです。案内されたのは、全8室ある客室の中で一番広い部屋ですが、それでもわずか5.5畳。
なぜか皆さん、この狭い部屋を楽しみにしていた様子。その理由が。
「ここは蔵人になって本物の酒造りが体験できる宿泊施設です。この建物は職人の宿舎というかたちで機能していた」
そう、ここは泊まり込みで伝統的な日本酒造りを体験できるという「酒蔵ホテル」。
2.5畳の客室は、かつて出稼ぎに来ていた酒造りの職人「蔵人」たちが寝泊まりをしていた宿舎で、築100年以上の建物をリノベーションしたもの。海外からリピーターが訪れるほど人気となっています。
八ケ岳など雄大な自然に囲まれている佐久地域は、山々からの清らかな水に恵まれた、日本有数のコメの産地。
古くから酒どころとしても知られ、今でも13の酒蔵があります。
その一つ、創業330年以上という「橘倉酒造」の一角に酒蔵ホテルがあります。
約60年前に実際にこの蔵で蔵人たちが暮らしていたころの貴重な映像を見ると、当時は冬の間だけ、蔵人たちが3食をともにしながら共同生活をしていました。
この酒蔵ホテルでは、当時の蔵人たちと同じような環境で日本酒造りをするという、貴重な体験が味わえるのです。
「試飲とか中の蔵を見学して見せてもらうぐらいは(他にも)あるんですけど、ここまで(酒造り体験を)やれるのはここくらいしかイメージがない」
「厳格」な酒造り体験
「清祓(きよはら)いという儀式を執り行います」
古来、神事と深く結び付いていた酒造り。神聖な酒蔵に入る前、神官による「清祓い」から体験がスタート。
それが終わると酒蔵に入り、いよいよ酒造りが始まります。
最初の工程は、ザルを使い、10キロのコメからぬかを洗い流す「米洗い」。
「姿勢がやっぱり中腰風なのがきついですね。昔の人はすごいなと思います。ずっとこれをやっていたんだなと」
さらには、かつての蔵人のように、蒸したコメをたるで運んでいきます。
蒸し上がったコメを適温まで下げるための「放冷」。これも昔のように素手で行います。そして…。
「麹(こうじ)菌をまきたいので、コメの載った台から移動して頂いて」
日本酒の肝となる麹づくり。厳重に管理された「麹室(こうじむろ)」で、種麹を蒸し、コメにもみ込みます。
通常であれば、立ち入ることさえ難しい場所での酒造り体験に、宿泊客の皆さんも真剣そのもの。
作業体験のほかにも、夜にはこんな楽しみが。
世界中からも予約が殺到
かつて蔵人たちが卓を囲んだこの場所で、日本酒好きの宿泊者同士で酒盛り。地元の日本酒が飲み放題です。
「素晴らしい体験でした。お酒を造る現場に立ち会うなんて普通ならできません。その点を考えたらとても安いです。蔵人の仕事を自分も体験できるわけですからね」
「より佐久のお酒、ここの蔵のお酒に親しみがわいて、これからも飲んでみたいと思いました」
こうした貴重な体験ができるこの宿は、日本酒好きに広まり、国内だけでなく世界中からも予約が殺到。開業から6年で、世界37の国と地域から850人以上の宿泊客が訪れています。
この蔵人体験の生みの親、田澤さんが酒蔵ホテルを思い付いたきっかけは?
このアイデアを酒蔵の蔵元に相談したところ、快諾してもらい、この宿が実現。
去年、日本政府観光局などが主催する「ジャパン・ツーリズム・アワード」で、最高賞の「国土交通大臣賞」を受賞しました。
“前方後円墳”登って宿泊
こうした地域の文化を再活用した宿泊施設は、先月に「飛鳥・藤原の宮都」が世界文化遺産に登録されるなど、古代の遺跡が数多く残る奈良県でも。
一体どんな場所なのか、宿の共同オーナーに案内してもらうと…。
前田知里さん
「こちらは古墳になります」
ここは6世紀前半につくられたとされる、全長114メートルに及ぶ前方後円墳「西山塚古墳」。
古墳には、皇室の祖先の墓である「陵墓」として、一般人の立ち入りが原則禁止となっているものもありますが、私有地など規制されていない土地もあり、ここ「西山塚古墳」もその一つ。
「あちらを見てもらうと前方部にあたる部分に宿が建っています」
なんとこちらは正真正銘、前方後円墳の中に建つ「古墳ホテル」。建物は地主が所有していた築100年以上の古民家をリノベーション。室内を見せてもらうと…。
この部屋は窓がなく、古墳の石室のような空間となっています。
そしてバスルームは…。
さらに階段を上ると…。
荒れ果てた空き家が…
古墳など歴史や遺跡に興味がある人に喜んでもらおうと、工夫を凝らした客室。実際に宿泊した人はこのように話します。
この宿をつくった前田さんは、古墳の横を通る日本最古の道の1つ「山の辺の道」でインバウンドのツアーガイドをしていました。
この施設を造ったきっかけは?
古墳の土地の所有者が倒壊寸前の空き家の処分に困り、前田さんに声が掛かったのだといいます。
「いったんSNSで(利用法を)呼びかけをしまして。その中で『私は古墳で眠るのが夢だった』という、古墳マニアの一言で宿にしようと」
そこから改修作業のボランティアを募ると、全国から100人以上が集まり、工事は約5カ月で完了。
倒壊寸前まで荒れ果ててしまった空き家を、人が集まるホテルとして再生したのです。
(2026年8月21日放送分より)




















