バブル崩壊後の就職氷河期に社会に出た世代の多くが、現在も非正規雇用のまま不安定な生活を強いられている。労働者派遣法の改正などを経て非正規労働者が拡大した背景を巡り、「当時の国の政策が非正規雇用を拡大させた」との指摘や、当事者に対する「自己責任」といった厳しい声が交錯している。この問題の背景や責任の所在、そして今後の支援のあり方について、『ABEMA Prime』で議論が行われた。
【映像】「底辺だと思う」ぎりぎりで生活する氷河期世代の給与明細
■3人に1人が非正規に…氷河期世代を直撃した過酷な現実

現在、労働者の約36.5%が非正規雇用として働いている。バブル崩壊前から非正規雇用自体は存在したが、その後の不況によって企業が採用を抑制し、さらに労働者派遣法の改正により非正規領域が拡大していった歴史がある。
40代で派遣社員のゆかさとさんは、大学卒業後に正社員として就職したものの、営業職が合わずに1年で退職。その後は正社員を目指して何社も面接を受けたが落とされ続け、現在まで派遣社員として企業を転々としているという。週5日のフルタイム勤務で年収は約240万円。現在の境遇について「底辺だと思っている。非正規はボーナスや退職金がなく、休みもあまり取れないのが一番辛い。給料も安く、いつ契約を切られるかわからない」と苦労を明かした。
一方、50代で派遣社員のとりさんは、専門学校卒業時に就職難に直面し、アルバイトからキャリアをスタートさせた。「求人が一気に減り、クラスの3割程度しか就職できなかった。新卒の時点でアルバイトだと、人生の落伍者扱いをされ、鼻で笑われることもあった」と当時の過酷な状況を振り返る。
さらに、女性ならではの構造的な壁も立ちはだかった。とりさんは、「同じ待遇のアルバイトで入った男性が正社員になる時、『彼は今後、家庭を持たなければいけないから』と言われ、女性は非正規のまま据え置かれた」と語り、性別による不平等が存在していたことを指摘した。現在も週5日のフルタイム勤務で年収は約260万円にとどまり、「時給制なので祝日や長期休暇があると給料が減り、毎月全然安定しない。生活の先行きが見えない」と不安を口にした。
■非正規拡大は国の責任か?

氷河期世代の苦境に対し、ネット上などでは「自己責任ではないか」との声も上がる。これに対し、経済学者の島澤諭氏は「当時の自己責任という言葉は非常に厳しい。就職活動は椅子取りゲームだが、そもそも椅子の総数が足りない中で過酷な競争を強いられてきた。そこを無視して自己責任と片付けるのは厳しい」と反論した。
また、当時の小泉政権で規制改革の中心にいた竹中平蔵氏は、「国が非正規雇用を推進した事実はない」と明確に否定。その上で、日本の厳しい解雇規制を要因として挙げ、「1979年の東京高裁の判例があり、日本の企業は業績が悪くなってもリストラができない。正社員は固定費になるため、バブル崩壊で売上が変動する中、企業は判例に縛られない人たちを雇わざるを得なかった。それが非正規だ」と構造的な問題を指摘した。
これに対して、東京大学大学院准教授の斎藤幸平氏は企業の姿勢を問題視し、「企業はこの間、労働者に払う賃金を減らし、浮いたお金で研究開発や設備投資をせずに、内部留保を溜め込んできた。それが日本の長期停滞を長引かせた原因であり、企業側に責任がある」と追及した。
竹中氏は企業の責任を認めつつも、「外資系企業や中小企業は平気でリストラをしているが、純粋な大企業は訴訟リスクを恐れてリストラしない。企業がちゃんとした行動をとらなかった側面もあるが、法律を変えてくれないとできないという両方が重なっている」との見方を示した。
■「普通に生活したい」当事者の悲痛な叫びと労働市場改革の壁

過酷な労働環境に置かれたゆかさとさんは、「一部の儲かっている人の生活のために、私たちが歯車として働いているのかと思ったら、やりきれない」と率直な思いを吐露した。また、とりさんは「(平日)フルタイムだけだと赤字になってしまうため、土日・祝日も働いている。ほとんど休みがなく、その中での転職活動も確実に無理な状態だ」と実情を明かした。現状の生活を維持するだけで精一杯であり、自発的に労働運動を起こす余裕すらない現実が浮き彫りとなった。
労働市場のあり方について、竹中氏は「正規と非正規の制度的な差別があってはいけない。同一労働・同一賃金を目指すべきだ」と主張しつつ、解決には「金銭解雇のルール」が必要だと説いた。「揉めたらお金で解決するルールがないのはOECDの中で日本と韓国だけだ。しかし、これを作ろうとすると『金でクビを切るのか』と叩かれ、政治のリーダーシップと民意が伴わず改革が進まない」と苦言を呈した。
EXITの兼近大樹は、「真面目にやってきたのに報われていない。教育も政策も失敗のど真ん中にさせられている人たちが、もっと自由な感じで契約できるようになればいい。全然時代と合っていない雇用が続いていると感じる」と指摘した。
■求められる「セーフティネット」と今後の支援のあり方
今後の支援について、ゆかさとさんは「お金がとても苦しいので、立ち直っていくための原資となる仕組みをぜひ作ってほしい」と要望した。
竹中氏は制度面での究極の解決策として「就業者負担軽減支援金」や「ベーシックインカム」の導入を提唱。「既存のさまざまな控除をなくせば90兆円規模の財源が出てくる。月6〜 7万円程度であれば、増税しなくても可能だという試算も出ている。最低賃金を上げつつ、ベーシックインカムで保障し、自由な働き方ができるようにすべきだ」と具体的な案を示した。
島澤氏は、「氷河期世代が苦境にあるのは、企業や労働組合が団塊の世代の職を守ろうとして、負担を氷河期世代に押し付けた側面がある」と指摘。「もし就職氷河期世代を救うのであれば、その費用は団塊の世代から徴収すればいい。一方で、困っているのは彼らだけではないため、困った人は全員救う制度にするのが当然だ」とまとめた。
(『ABEMA Prime』より)