経済

日曜スクープ

2026年9月28日 13:47

【フィジカルAI】米中主導の開発…日本の“勝ち筋”カギ握る大規模ロボットセンター

【フィジカルAI】米中主導の開発…日本の“勝ち筋”カギ握る大規模ロボットセンター
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AIとロボットを組み合わせた「フィジカルAI」。中国のロボット運動会で注目されたが、今や、フィジカルAIの開発競争を制す国が今後の国際競争の主導権を握るとも言われている。各国が開発にしのぎを削る中、日本の勝ち筋はどこにあるのか?『BS朝日 日曜スクープ』は「医療や薬」を発展させるフィジカルAIに注目。今後のカギを握るのは大規模ロボットセンターの設立だという。

1)フィジカルAIで「医療や薬」を開発 最前線の研究者は… 

スマホなどで使うことが当たり前になったAIが、今度はロボットという肉体を得て、現実世界に進出しようとしている。2026年は「フィジカルAI元年」とも呼ばれ、世界での開発競争が過熱。アメリカや中国は巨額の資金を投入する構えだ。日本もフィジカルAIを成長戦略に位置づけ、2040年度までに官民で10.5兆円の投資を見込む。日々過熱する開発競争で日本は世界にどう挑むのか。

走る、踊るなどの動きの開発とともに何を実現するフィジカルAIを作るのか、目的も重要だと指摘されている。4月にオープンした東京科学大学・ロボット未来創造センターでは、汎用ヒト型ロボット「まほろ」を10台導入。がんなどの新たな治療方法の研究やワクチン開発などをAIとロボットが行っている。

汎用ヒト型ロボット「まほろ」
汎用ヒト型ロボット「まほろ」

この新しい実験施設で中心的な役割を担うのが、副センター長の神田元紀氏だ。神田氏は2022年、他の研究者とともに世界で初めて細胞培養や再生医療分野で、ロボットとAIによる「人間が介在しない自律実験」を成功させた。フィジカルAIが実験を行い、その結果を自ら評価、改善して再び実験を行う。これを自動で繰り返し、成果につなげる。汎用ヒト型ロボット「まほろ」は、人間と同じ道具を使い、人間では途方もない作業となる実験の試行錯誤を24時間、365日続け、薬剤の量や手順など、膨大な組み合わせの中から最良の方法を探し出す。

神田元紀氏(東京科学大学 ロボット未来創造センター副センター長)
我々が目指しているのは、2040年までにロボット1000台体制のセンターを作ること。国の安全保障を考えたときに、ロボットセンターをきちんと持っていないと実験ができない、という未来になりかねない。中国やアメリカは、多分そういうのを作る。日本にないと、実験環境を中国やアメリカに依存することになり、その状態でコロナの時のようなロックダウンがあれば、国内で創薬研究ができなくなる可能性がある。

神田氏は、学会などで来場者からフィジカルAIと研究者の共存についての質問が相次ぐ現状に、丁寧な説明の必要性も説く。

神田元紀氏(東京科学大学 ロボット未来創造センター副センター長)
今であれば、どういう未来が良いかという、自分たちが望む未来を自分たちが正解として作っていけるかもしれない、そういう段階。これより遅くなると、誰かの作った未来に乗っからなければいけないことになるのではと危惧している。これからは、人間として何がしたいかを言える人たちが強くなっていく。その上で、私たちは、まだフィジカルAIのことをよく知らない人たちに対して、彼らの持つフィジカルAIとの共存についての不安や疑問に答えられないといけない。そういう役割がある。決して、人の仕事を奪うとか社会を悪くしようとしているわけではないので、きちんと説明を尽くす必要があると思う。
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2)米エヌビディアから“忠告”「『2040年までに』では遅い」

2040年までにロボット1000台体制のセンター構築を目指す、東京科学大学・ロボット未来創造センター。センター長の中山敬一氏は、米エヌビディアの経営者から“ある忠告”を受けたという。

中山敬一氏(東京科学大学 ロボット未来創造センター長)
実は、この取材が終わったあとにエヌビディアの副社長と面談することがあり、その際この話をしたら、「『2040年までに』では遅い」と。「中国はもっと早くやる。2030年に2000台規模でやらないと負けますよ」と。なので、そこは訂正したい。大事なところです。
なぜロボットが沢山、必要かというと“集積効果”。同じ環境下に多数台あればデータを沢山、取ることができる。このデータが何よりもロボットの成長に大事なものだ。それを1か所で取れるのは非常な強み。試薬なども皆で使った方が効率がいい。大量発注で納入価格も下がる。また多数台あれば、メンテナンスを順に行いながらセンターの稼働を止めずに運用できる。色々な意味で多数台の集積はロボットセンターの基盤になる。
世界の開発をけん引する米中の強さは、大規模な予算の集中投下。日本はお金があっても徐々に出す、あるいは数か所にばらまく。米中が予算を集中投下する中、日本も集中的かつ短期間に投資していかないと、この戦いには多分負ける。毎年10台、20台ずつ入れましょう、ではとても勝ち目はない。
ロボット1000台体制を確立するには、費用は2〜3000億円。これは収益として返ってくる。そういうビジネスモデルを考えている。さらにその儲けが新しいロボットを買う原資になる、そういう、正のサイクルをどんどん回していきたい。
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3)日本の「勝ち筋」は?“世界的シェア”握る国内企業が動いた…

フィジカルAIの開発競争について、日本にある強みを最大限生かすために企業も動きを見せている。それが再生医療分野だ。グローバル製薬企業のアステラス製薬と、世界的なロボットメーカー 安川電機は、合弁会社セラファ・バイオサイエンスを設立した。

山口秀人氏(セラファ・バイオサイエンス代表取締役社長CEO)
ロボットの世界的なメーカーと、日本で再生医療に強くコミットしたメーカーがタッグを組むことで、これまではできなかったものが生まれる可能性が強み。産業ロボットとiPS細胞、再生医療は、日本のお家芸。それを、フィジカルAIという切り口でつなげることが、日本の勝ち筋の一つの、大きな分野になると個人的には考えている。

東京科学大学 ロボット未来創造センター長の中山敬一氏も、産業用ロボットとiPS細胞に、日本の強みを見出す。

あまり多くの方に認知されていないが、世界の産業用ロボットの製造は、2022年度のデータで日本が約45%を占める。世界の4大メーカーのうち2つは日本だ。自動車業界のシェアが約28%。自動車よりも実は競争力が強く、日本が唯一世界的シェアを握っているのが、この産業用ロボットの世界だ。iPSはご存じのように、日本発の技術。私たちのセンターは、「まほろ」というロボットを使って、完全無人・自動で4か月間、細胞を網膜の細胞に分化させる実験を4〜5年前には成功させていて、世界でもトップクラス。今からは、網膜だけではなく、体中の色んな細胞をこれで作っていく。そうなれば、あらゆる再生医療が、爆発的に進む可能性がある。そういう使い方をしていきたいと考えている。

2014年、世界で初めて患者本人のiPS細胞から網膜の細胞を作り、移植する手術を実現した高橋政代氏(ビジョンケア社長)も、ロボットとAIに大きな手ごたえを感じているという。

今、皆さんがぶち当たっているのは、細胞をいかに上手く安定して、大量に作るか。「まほろ」を入れたところ、本当に一定のものがきちんとできてきて、どのようにしているか、全部数値化された。細胞治療は5000万円から7000万円くらいするが、将来的にはコストダウンにつながると思っている。
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4)どう向き合う「AIの危機管理」 経済安全保障の観点では…

AI開発を主導してきた米国企業からは、「最先端のペースを調整しなくてはならない」と、安全性の確保に向けた問題提起が相次ぐ。「AIの危機管理」の問題だ。

中山敬一氏(東京科学大学 ロボット未来創造センター長)
アンソロピック社のCEOアモデイ氏自身が「速度を落とそう」と言うのは、作っている人たちが言っているのだから相当の危機、実感していることがあるのだろう。
もう一つ、私たちの世界で特に、現実に人間に対して危機が迫るのは、細菌兵器や危険なウイルスをAIが作りかねないということ。ただのAIならコンピューターの中だけの存在だが、それがフィジカルAIとして身体を持った時には実験ができる。悪意がある人が指示を出せば、作ることができる。それをどうやったら、止められるのか。早く国際会議のような場で、何をやってはいけないのかを単なる倫理ではなくて、枠組みとして作っていかないといけない。

その一方で、経済安全保障の観点からもフィジカルAI開発の重要性は増しているという。

中山敬一氏(東京科学大学 ロボット未来創造センター長)
昔は「科学に国境はない」と僕も言っていた。でも、最近はもう、社会の情勢から考えて科学と経済安全保障は切り離せない。
日本でもしこういう基盤がなかったら、将来、様々な事態が起こった時に、日本が科学研究できなくなる事態を懸念する。逆に、日本が巨大なセンターを運営し、世界中から科学実験の注文を受けることができれば、強くなれる。主体的に振る舞える。そういう意味でも、日本に巨大なセンターを作ることは、とても大事なことと考えている。
番組アンカー 末延吉正氏(ジャーナリスト/元テレビ朝日政治部長)
政治と大学等の研究機関と経済が連携して、最終的には利益を生んで、みんなに価値還元することはとても重要だ。政府は、これまでの失敗も含めて経験を活かし、現場の声をよく聞いてコミットしていくべきだ。
来月から臨時国会が始まる。物価高の問題も大事だが、AI開発に関しては長期的な展望をもって、早急に取り組む必要がある。しっかり議論してほしい。日ごとに加速し、大量に出てくる情報をメディアも注視する必要がある。

(「BS朝日 日曜スクープ」2026年9月20日放送分)

■放送内容は動画でもご覧いただけます。

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<出演者プロフィール>

中山敬一(東京科学大学・ロボット未来創造センター長。AI・ロボットで生命科学実験の自動化を推進。大規模「ロボット研究拠点」の実現を目指す。2021年、科学技術・学術分野において優れた研究成果を挙げ、その発展に顕著な功績を残した研究者に贈られる紫綬褒章を受章)

末延吉正(元テレビ朝日政治部長。ジャーナリスト。東海大学平和戦略国際研究所客員教授。永田町や霞が関に独自の多彩な情報網を持つ。湾岸戦争などで各国を取材し、国際問題にも精通)

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