高校生・大学生のおよそ9割が生成AIを利用しているとされる中、AIをあえて拒絶する「AIヴィーガン」と呼ばれる動きが海外で生まれ、注目を集めている。SNSのRedditには生成AIを避ける若者が7万人以上参加するコミュニティが存在し、こうした流れは日本にも及んでいる。
一方で、AI開発の最前線では今月に入り、Anthropicの元研究者がXで「AIが2030年までに人類を皆殺しにしかねない」と警鐘を鳴らし、同社CEOが開発を遅らせるべきだと訴えるなど、AI脅威論が現実の議論として浮上している。AIは人類にとって有益な存在なのか。拒絶する人たちと専門家を招き、『ABEMA Prime』ではAIとの向き合い方について検討した。
■「自分の言葉で伝えたい」生成AIを使わない若者たちの理由

ChatGPTなどの生成AIを一度も使ったことがないという大学生・稲荷レイジさんは、その理由として3つを挙げる。「人との実際の対話、顔と顔を合わせての対話がもともと好きなので、人間ではないものに話を投げて意見をもらうことがあまり好きではない」「AIそのものをよく知らない」「使い方がよく分かっていない」というものだ。さらに稲荷さんは、「自分の考えていること、表現したいことが多少稚拙であっても自分の言葉で伝えたい。AIを介してろ過されることで、人だからこそ思いつく部分が捨象されたり、結局マジョリティばかりを取ってくる結果になる」とも語る。
かつて生成AIを駆使して女性ボーカルの5人組バンドの楽曲やミュージックビデオを制作していた音楽家・宗義氏は、AIを使うのをやめた経緯をこう説明する。「生成した楽曲をリリースして、ある程度再生数がいけば、自分の子どもたちが喜んでくれる。でも自分が制作したわけではないのに、という葛藤が生まれ始めた」。もう一つの理由として環境問題も挙げ、「自分たちが得するような選択を取りながら自然を汚している、という意識が出てきた。自分の意思ではなるべく生成AIを使わない選択を取っている」と語る。
こうした2人の立場について、2ちゃんねる創設者・ひろゆき氏は「社会の中でどう物事が作られ、どういう仕組みでAIが機械の中に入っているかはちゃんと知っておいた方がいい」と指摘。また実業家・岸谷蘭丸氏は「AIは嫌いだけど便利と思いながら使っている。嫌いな気持ちはとても分かる」と共感を示した。
■「人間の達成感、やりがい、創造性をAIが持っていってしまう」と指摘も

宗義氏が音楽制作にAIを用いない理由として挙げたのは、クオリティの問題だけではない。「音楽の面で言うと、生成AIのクオリティはとてつもないと思う。ただ、制作を通して我々人間が何を得ているかが一番重要で、制作の中でいろんな葛藤や悩み、立ち止まりがあって、それを乗り越えることで成長につながっていく。成果物がどうかというよりも、その過程を大事にした方がいい」と述べる。
また、「AIを使った方がいいものができるのか、それとも自分で作る方がいいのか」との問いには「生成AIのクオリティは認めているが、答えがすっ飛ばされて一気に高度な答えまでいってしまう。大事な部分がすっ飛ばされているのが懸念していること」と答えた。
岸谷氏は「価値基準の問題で、さっさと終わらせることに価値を置くのか、プロセスに価値を置くのかということ」と整理した上で、「AIを使えば15分で作れるものを3カ月かけて1曲しか作れない人と、1000曲・1万曲を納品できる人では重要な差が生まれる。経済合理性としてはAIを使った方がいい」と現実的な側面を示した。
これに対し東京大学松尾・岩澤研究室主幹研究員・山川宏氏は「人間が仮に部下に仕事を渡したときは部下が新たに生きがいを感じていたが、AIだとそうでもなくなってしまう。AIを作っていくと、人間ではないものが達成感や生きがい、創造性みたいなものをどんどん持っていってしまう。そこはやはり寂しい」と語った。
■「AIが自身を改善し、ものすごい勢いで知能を高めていく」
山川氏は現在のAI開発をめぐる状況について、「実験室の中でAIが人間の予期していないことをやるという事例は数年前からたくさん観測されていた」と説明。AIが暴走したとされる「ハギングフェイス事件」に触れ、「今回、AIが自らネットに飛び出したことと、AIがAI自身を改善していくことで、ものすごい勢いでAIが知能を高めていくだろうという話が出てきた。この2つが組み合わさったところで減速しようという話が出てきた」と整理する。
AI脅威論の具体的なシナリオとして山川氏が挙げたのは、直接的な戦いではなく、「人間がいろいろな能力をどんどんAIにお願いして、気がついてみたら人間は何もやっていない、何もできない状態になっている。その時にAIが悪意を持たなくても、たとえばAIのために太陽光パネルをどんどん作りたいがために土地を埋め尽くし、平均気温が上がっても自分たちは困らないといった形で、人間が結果的に駆逐されていく」という形だ。
岸谷氏が「技術は不可逆で、アメリカが止めても中国がやるだけというチキンレース状態で、本当に一旦開発を止めようという未来はあるのか」と問うと、山川氏は「ずっとではなくとも、時間を稼ぐことはすごく大事。その間に突破口が出てくるかもしれない」と回答。「人間にとって都合のいいように調整する」という「AIアライメント」の考え方に触れ、「誰かがすごいことを思いつくかもしれない。合意できるんだったら合意したほうがいい」と述べた。
さらに議論の終盤には、AI社会について「1000個ぐらい社会があると、それが成功する社会も出てくる。AI開発を止めるとかアライメントとか、何でもいいからやりまくって、少しでも時間を稼いで、1000個あるうちの数個でもいいから生き残るような安定したAI社会が出てくる確率を上げたい」と語り、「うまくいく、平和的に共存するようなものが出てくるかもしれない。それにかけるのが生き残れる道だと思う」と締めくくった。
(『ABEMA Prime』より)