1998年、「卓球温泉」(山川元監督)で映画デビューを果たし、映画「ハッシュ!」(橋口亮輔監督)、映画「運命じゃない人」(内田けんじ監督)など話題作出演が続き注目を集めた山中聡さん。津川雅彦さんがマキノ雅彦名義で監督した映画「次郎長三国志」、「鈴木先生」(テレビ東京系)、大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」(NHK)などに出演。現在、映画「『桐島です』」(高橋伴明監督)が公開中。(この記事は全3回の中編。前編は記事下のリンクからご覧になれます)
■津川雅彦さんとの出会い「聡ちゃん、聡ちゃんって…」
2008年、叔父であるマキノ雅弘監督の「次郎長三国志」シリーズを引き継いだ津川雅彦さんがマキノ雅彦名義で監督した映画「次郎長三国志」に出演。この作品は、結婚したばかりの妻・お蝶(鈴木京香)を置いて、世渡り修行へ出かけた駆け出し博徒の次郎長(中井貴一)が道中、様々な仲間に出会い、東海道中にその名を轟かせるようになっていく様を描いたもの。山中さんは、次郎長と旅の途中で出会い、子分となる関東綱五郎役を演じた。
「津川さんが『運命じゃない人』を見て、気になって会ってみたいというところがスタートで、『ご飯を食べに行こう』ってチームを誘ってくれたんです。(内田けんじ)監督、板谷(由夏)、(中村)靖日くんもいました。
僕は、仕事で地方に行っていたので、『すみません。遅くなりました』って遅れて行ったんですけど、そのときから『聡(そう)ちゃん、聡ちゃん』って言ってくれて。すごく恐縮したんですけど、津川さんは本当にいろいろなところに連れて行ってくれました。
津川さんはお肉が大好きなので、『あそこのお肉屋さんに行こう』とか、『あそこのしゃぶしゃぶに行こう』とか、『横浜の花火大会に行こう』とか…本当にいろいろ連れて行ってもらいました」
――「次郎長三国志」のお話はどのように?
「津川さんが、『僕はちょっと映画を撮りたいなと思っているんだけど、出てくれないかな?』みたいな感じで。(岸部)一徳さんは前に何度かご一緒させてもらったことがあるんですけど、主演が(中井)貴一さんで佐藤浩市さん、鈴木京香さん…本当にすごい人たちがいっぱいいて、『やばいなあ』という感じでした。
赤坂の高級なお店に連れて行ってもらって、そこで『ちょっと何かしゃべって』と言われて、ご挨拶をさせてもらったんですけど、撮影に入るまでにいろんな食事会がいっぱいありましたね。すごく緊張しました」
――撮影が始まったときはいかがでした?
「マキノ監督がものすごく的確で。やっぱり俳優さんじゃないですか。だから、監督が『こういう風にやって』というのをちょっとやってみてくれるんですけど、すごいんですよ。『津川さんが演じればいいのに』って何度も思いました。
京香さんにも『京香ちゃん、こうやって』ってやるんですけど、それがすごく色っぽいんですよ。『うわーっ、津川さんは女の人の役もできるんだ。すごいなあ』と思って見ていました」
――すごいですね。撮影は順調でした?
「そうですね。順調に進んでいました。皆さんすごく有名な方ばかりなので、『僕は足を引っ張ってないかな?大丈夫かな?』って思いましたけど。でも、(撮影で)あちこち行かせていただいて、すごく楽しかったです。
それこそ今、中井貴一さんが主演の『先生の背中〜ある映画監督の幻影的回想録〜』という小津安二郎監督をモデルにした舞台をやっていて、そこに僕の兄(山中崇史)が出ていまして、先日見に行ったんです。
そのときに中井さんにご挨拶させてもらったんですけど、『次郎長三国志』以来になるのかな?中井さんのお父さん(佐田啓二)は、中井さんが小さいときに亡くなっているんですけど、『次郎長三国志』のときに、中井さんがお父さんや小津安二郎さんのいろんな話をしてくれました。小津監督は中井さんにとって叔父さんのような存在だと。
『次郎長三国志』では、結構殺陣(たて)のシーンがいっぱいあって、殺陣の前に中井さんがお付きの人と一緒に塩をまいていたんですよ。僕はあのとき中井さんを『親分』って呼んでいたので、『親分さん、何をしているんですか?』って聞いたら、『立ち回りでみんながケガをしないように塩をまいているんだよ』って。
それがすごくカッコ良くて、『僕もそれ真似していいですか?』って聞いたら『真似していいよ』と言ってくれたので、それから僕も塩を神社に持って行ってお祓いをしてもらって、(その塩を)殺陣のシーンがあるときとか、舞台の初日などにまくようにしているんです。
『みんながケガをしないように』って、中井さんに教えていただいて真似していいと言っていただいたので。それで、余った塩を欲しい人には分けてあげています」
■取り調べのシーンが追加され…
2011年、「鈴木先生」(テレビ東京系)に出演。このドラマは、独自の教育理論でさまざまな難問に立ち向かう国語教師・鈴木先生(長谷川博己)が奮闘する様を描いたもの。山中さんは生活指導も担当する熱血体育教師・岡田先生役を演じた。
2013年には、映画「鈴木先生」(河合勇人監督)も公開された。土屋太鳳さん、北村匠海さん、松岡茉優さんをはじめ、今や売れっ子の若手俳優陣が生徒役で出演していたことでも知られている。
「生徒役の子たちが、あのときはみんな中学生ぐらいで、この子たちはもうちょっとしたら偉くなるんだろうなってちょっと思いましたけど、本当にみんな立派になっちゃいましたね」
2015年、「相棒 season16」(第17話)に出演。芹沢刑事役の兄・山中崇史さんとの共演が話題に。大手システム会社の営業マンが自宅で何者かに殺害され、パソコンが奪われるという事件が発生。被害者の職業から、何らかのデータを狙った犯行も疑われ、捜査をめぐって捜査一課と二課が一触即発の対立、特命係が贈収賄疑惑の絡む殺人事件の真相に迫っ
ていくという展開。山中さんは被害者の隣の住人・瀧川役を演じた。
「『相棒』は前に一度出ているし、もうないだろうなと思っていたら呼んでいただいて。僕は兄のことを『たーちゃん』と呼んでいるんですけど、監督が僕とたーちゃんが兄弟だということを知らなくて。周りの人が『この二人は兄弟なんですよ』って教えたら急遽カット割りを変えてくれて、僕とたーちゃんが映り込むようなシーンを作ってくれたんです」
――お兄さんにインタビューさせていただいたときに聞いたのですが、ご実家に取り調べのシーンの写真が飾ってあるそうですね
「はい。大きく引き伸ばした写真が飾ってあります。僕が取調室でたーちゃんの取り調べを受けている写真が(笑)」
――お兄さんがレギュラーのドラマに取り調べをされる役で出演というのはどんな感じでした?
「『おっ、来たか』って思いました。すごく緊張するだろうなと思っていたんですけど、全然緊張しないで、普通の現場と同じ感じでした。
2011年から毎年ちょっとしたライブみたいなのをやってはいたんですよ。篠井英介さんと兄と草野とおるくんと僕の4人で。テレビでは初めてだったんですけど、共演したことはあったので、わりと普通にできましたね」
――私は、お二人がご兄弟だということを知ったのは、結構あとでした
「知らない人が結構多いみたいです。顔があまり似てないんですよね(笑)。兄貴は父親に似ていて、僕は母親にそっくりなんです。だからあまり似てないんです」
――ご家族皆さん仲が良くていいですね
「そうですね。昨日も、うちの奥さんのももちゃん(イラストレーター・やまなかももこさん)の個展に兄貴が来てくれていろんな話をしていました。うちはすごく仲がいいほうだと思います」
■実家のすぐ近くが舞台の短編映画に出演
2019年、短編映画「歩けない僕らは」(佐藤快磨監督)に出演。この作品は、回復期リハビリテーション病院を舞台に、新人理学療法士の主人公・遥と、彼女を取り巻く人々を描いた短編映画。山中さんは、遥の先輩のリハビリの先生・日野智久役を演じた。
回復期リハビリテーション病院1年目の理学療法士・宮下遥(宇野愛海)は、脳卒中を発症し、左半身が不随になった柘植(落合モトキ)を担当することに。初めて入院から退院までを担当する患者となるが、「元の人生に戻れるのか?」と聞かれた遥は、何も答えることができず苦悩することに…。
「落合モトキくんとは、あの作品が最初で、それからご縁があっていろいろな作品で一緒になることが多くなりました。あの作品の舞台は、僕の実家の近くなんですよね。
若くして病気になってしまう人の話じゃないですか。実際にそういうことで悩んだり苦しんでいる人もいっぱいいるわけですから、難しいというか、責任が重いというか…。ちゃんと嘘のないようにやらなきゃいけないと思ったので、プレッシャーは結構ありましたね」
――山中さんは、主人公の先輩でリハビリのベテラン先生という設定でしたね
「そうなんですよ、だから余計にね。そういう人が見たときに『あの人のやりかたはちょっと違う』って思われたらどうしよう?って思ったりして。それで、前日に前乗りして練習をしたりしたんですけど」
――おひとりだけセリフが方言でしたね
「はい。舞台が本当にうちの実家のすぐそばなんですよ。それで、監督に、うちの実家の近くだから、地元の方言にするのはどうかなと思って聞いたんです。モデルになった理学療法士の部長さんも、向こう(地元)の言葉なんですよね。北関東訛りというか。
それだと僕も多少はできるので、その方が本物(モデルになった人)に近づけるんじゃないかなと。監督にそういう風にやってみましょうと言っていただいたので、あのようになりました」
――そこで育って、リハビリ技術を身につけて地元で働いているというリアルな感じがしました
「そうですね。でも、それが良かったのかどうか正解がないですからね。あの作品の板橋(駿谷)くんも立派になられて。『鈴木先生』の生徒役の子たちもそうですけど、本当にみんな立派になっちゃうんですよね」
「歩けない僕らは」は、「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019」国内コンペティション部門 短編部門で観客賞を受賞した。山中さんは、映画「人数の町」(荒木伸二監督)、「おいハンサム!!」(東海テレビ・フジテレビ)、「ハッピー・オブ・ジ・エンド」(フジテレビ系)、大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」などに出演。次回はその撮影エピソード、公開中の映画「『桐島です』」も紹介。(津島令子)