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2025年9月19日 15:21

東ちづる 早期の胃がんの内視鏡手術から半年後に「2020年東京オリンピック・パラリンピック公式文化プログラム」映像作品を総指揮!アート展、映画の企画、プロデュース、出演も…

東ちづる 早期の胃がんの内視鏡手術から半年後に「2020年東京オリンピック・パラリンピック公式文化プログラム」映像作品を総指揮!アート展、映画の企画、プロデュース、出演も…
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俳優、司会、コメンテーター、講演、執筆、CM、プロデュ―サーなど多方面で活躍し、主演ドラマだけでも100本以上ある東ちづるさん。骨髄バンクやドイツ国際平和村など様々なボランティア活動を続けていることでも知られ、2021年には、2020年東京オリンピック・パラリンピック公式映像「MAZEKOZE アイランドツアー」を総指揮。アートや音楽、ファッションなどの各種イベントを通じた幅広い活動を展開。9月25日(木)〜10月1日(水)まで京王百貨店聖蹟桜ヶ丘店で「東ちづるポップアート〜妖怪まぜこぜ原画展〜」が開催される。(この記事は全3回の後編。前編と中編は記事下のリンクからご覧になれます)

■多くの好意的な取材に「世界が変わる」と思ったが…

2012年、あらゆる組織や個人を繋(つな)げながらエンタメで活動する一般社団法人「Get in touch」を立ち上げ、アートや音楽、映像、舞台などのエンターテインメントを通じて、誰も排除しない「まぜこぜの社会」を目指して活動を続ける東さん。さらに2017年には、マイノリティパフォーマー集団「平成まぜこぜ一座」(現・「まぜこぜ一座」)を立ち上げる。

それまでのGetの活動では、車いすパフォーマーや義足のダンサー、全盲のシンガーソングライター、ドラァグクイーンなど、プロのマイノリティパフォーマーの皆さんそれぞれに『Get in touch』のステージで活躍していただいていました。

ある時、サポーターの方に『Getってすごいなあ。これでもか、これでもかっていうくらい、会ったことがない、見たことがないすごいパフォーマーたちを演出している。一堂に会したら世界初だろうね』と言われて、『これだ!』と閃(ひらめ)いたんです。

『生演奏、生歌、素晴らしい衣装とヘアメイク、マイノリティパフォーマーのスキルを、総合芸術的にファンタジックにアングラに演出したい!』と思って、構成、キャスティング、衣装デザイン、プロデュースなど、唯一無二の公演に向けて東奔西走しています。

初舞台は2017年12月10日。品川プリンスホテルの円形ステージ。テレビ局や新聞、週刊誌など多くのメディアが取材してくれました。『すごい!素晴らしい!』と大いにエキサイトして取材してくださり、私も座員もインタビューをたくさん受けました。

『これが放送されたら、“まぜこぜの社会”の扉が開く。日本が変わる!』と期待しました。が、全く放送されなかった。衝撃でした。“まぜこぜの社会の扉”ではなく、壁に気づいた瞬間でした。

“施し”ではなくて、フラットにチャンスがある“メディア業界”になれば、社会にも大きな影響を与えると確信していましたので、とても残念で無念でした」

――東さんは30年以上社会活動を続けてきていらっしゃいますが、世の中の変化はどのように感じていますか

「アップデート、ブラッシュアップしています。このような取材も多くなりましたし、世界的にSDGsや多様性に取り組むようになっていますから、企業もそのことに向き合わなければ発展しないという流れになっています。

テレビ番組などで『障がいを克服して』というナレーションがありますが、『克服しなきゃいけないの?克服するってどういうこと?』と戸惑っている障がい者も少なくありません。

『障がいがあるにも関わらず』と表現されたら、『私のこの特性はネガティブなことなの?それって、他者が決めることではないよね』と。

無自覚な表現にモヤモヤしたり傷ついたりしている人もいるということは、メディアも気づいたほうがいいですよね。表現の幅も広がるし奥行きも深くなると思います」

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■胃がんが見つかったのと同時期にオリパラのオファーが

東さんは、コロナ禍に早期の胃がんが見つかり、2021年2月に内視鏡手術を受けることに。最初に見つかったのは出血性胃潰瘍(かいよう)で「99%良性でしょう」と言われていたが、退院した3日後に早期の胃がんであることがわかったという。

「定期的に検査はしていましたので、見つかった段階では血液検査でもPET検査でもわからないレベルで、本当にラッキーでした。『よくぞ見つけてくれました!』という感じです。内視鏡で除去してもらったのですが、手術室でもなく、胃カメラ検査室で眠る薬を点滴で入れてもらって、目が覚めたら終わっていました。

コロナ禍で仕事のキャンセルが続いて深夜まで起きていたり、食生活のバランスも崩れていました。それに、外出はコロナに感染するのではというストレスもありました。ずっと健康だったので自分を過信もしていたと猛省して、生活スタイルも改めました。今が人生で一番健康的かも」

それから約5カ月後、東さんは、2021年7月23日から8月8日まで開催された「東京2020オリンピック・パラリンピック」のオリパラ公式映像「MAZEKOZEアイランドツアー」の総合構成・演出・総指揮を担当。40名以上のパフォーマー&アーティストが出演。「まぜこぜ=多様性」を可視化して話題に。オファーがあったのは、胃がんが見つかる直前だったという。

「いろいろあったらしく、突然のオファーで驚きました。『多様性と調和』というテーマですから、実践経験を積んでいる人でなければこの映像制作はできないという結論に至ったらしく、演出家ではない私に白羽の矢が立ったとのことでした。受けるかどうかかなり悩みましたが、レガシーに取り組むということでしたし、“まぜこぜの社会”への道に繋がると信じてお受けしました。

準備期間が8カ月間しかなかったんです。しかもコロナ禍。本当に大変でした。入院中はベッドの上でメールや電話でキャストにオファーをして打ち合わせを重ねてキャスティングを固めていき、曲を決めて、衣装デザインをし、台本を書いて、組織委員会さんとはオンラインで会議をして、と夢中でしたね。病室だからこそ集中できたのかもしれませんね(笑)。今もYouTubeで視聴できますし、制作して良かったと思っています」

2024年には映画「まぜこぜ一座殺人事件〜まつりのあとのあとのまつり〜」」(齊藤雄基監督)を企画・構成・プロデュ―ス・出演。この作品は、さまざまな特性を持つ、さまざまなジャンルのプロパフォーマーが集う「まぜこぜ一座」の舞台公演終演後、打ち上げ中に座長(東ちづる)の遺体が楽屋で発見され、事件が思いがけない方向へ展開していく様を描いたもの。現在、「Amazonプライム」他で配信中。

「表現が自由な映画制作にしました。多様性とかSDGsというテーマの多くが表層的。社会は見せかけのヒューマニズムで溢(あふ)れていると感じています。

メディアでマイノリティが活躍できないのはなぜなの?“こびと”という表現がなぜ放送で自粛されることがあるのか?ずっと謎のまま。それでは前に進めないので、その謎をみんなで考えたいと思っています。

そのためには、“まぜこぜの社会”への情熱や想いを大事にしながら、なぜ多様性が必要なのか、なぜ前に進みにくいのかをロジックに冷静に説明できなければならない。誰かや何かを責めるのではなく、チームで分析しながら対策を練りたいという思いで映画制作に踏み切りました。

『障がい者を働かせるのはいかがなものか』、『障がい者を笑い者にするのはいかがなものか』というクレームには怯(ひる)まず、説明ができるようにしています。

私は、絶対に誰かをディスったり敵を作ったりするというやり方はしたくない。ネガティブなことを摘み取ったり回避すると同時に、それに対応できるよう準備もすることが合理的だと思っています」

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■尊敬のない愛は破滅に向かって行く

2026年1月23日(金)に東京池袋・新文芸坐で1週間限定公開後、全国順次公開される映画「愛のごとく」(井土紀州監督)に出演。この作品は、恩師の死をきっかけに再会した元恋人との関係に引き寄せられる小説家の喪失と再生の物語。

かつて新人賞を受賞したものの停滞している小説家のハヤオ(古屋呂敏)は、恩師の死をきっかけに元恋人のイズミ(宮森玲実)と再会。イズミはゼミの仲間・マサキの妻になっていた。ハヤオたちは恩師の妻・あゆ子(東ちづる)に頼まれて蔵書の整理をすることに。顔を合わせているうちにハヤオはイズミとの関係に再び引き寄せられ、過去と現在の境界が曖昧(あいまい)になっていく…。

「好きなテイストの作品です。シナリオを読んで泣きました。私が演じたあゆ子は、亡くなった夫を深く愛しています。そして、夫である教授をリスペクトしていた学生さんたちが、蔵書の整理をするためにまた集まることになる。

原作はもちろん、シナリオがとても良かったので、この作品の仲間に入れてもらえるのはうれしいなと思いました。『愛』を考えることというのは普遍的なことなんだけれども、それぞれに答が違うというか、答がないというか…。

愛は、情とか同志、人生の伴奏者とかさまざまに変化するものだし、元々いろいろなスタイルがあるので、すごく魅力的な作品だと思っています」

――撮影現場の雰囲気はいかがでした?

「とてもあたたかくて居心地良かったです。実は、シナリオから舞台となる我が家を創造していましたが全くハズレていて、慣れるのにちょっと時間がかかりましたが(笑)。

人間関係がとてもリアルで、『からだの関係って?』、『夫婦って?』って、シンプルなことに自分と向き合いながらゆるりと展開していく。湿っている感じがあるけれども、ドライでもある。みんな不器用で魅力的。素敵な作品です。

私は、愛って究極の素敵な錯覚だと思っているんですね。エゴと慈しみが混ざり合っていて、キャストのどの立場の人に感情移入するかで感情を揺さぶられると思います」

――教え子グループの主人公・ハヤオとイズミが元恋人で今はグループ中のマサキとイズミが結婚している。複雑ですよね

「そこ、アルアルだと思います。あゆ子も2人が付き合っていたことがわかっていたからちょっとザワザワしますよね。みんなに気遣いしながらも、悪意なく無邪気にザワザワさせちゃう。だからこそ面白い役だと思いました」

――亡くなった教授と奥さまはいいご夫婦だったんだろうなということがわかりますね

「そうですね。夫が本を読んでいる姿、風情が好きで、安心できる暮らしだったんでしょうね。だからこそ、愛おしい夫なのに、どの本が好きなのかはわからない。私だったら『ねえねえ、何を読んでいるの?』ってすぐ聞いちゃうんですけど(笑)、彼女は彼の世界感をとても大切にしていたのだと思います」

――先生をとても尊敬していて大好きだったんだなというのはすごくよくわかりますね

「尊敬のない愛は疲れるだろうし、やがて破滅に向かっていくと思います。お互いの人権というか、相手を尊重していることがベースにあるんだと思うんです。でも、それを表現するのって難しいですよね、当人同士が」

――可愛い奥さまですよね。夫が亡くなって寂しいんだけど、蔵書の仕分けに来てくれる教え子たちにおやつや食事を用意することがうれしくて

「愛する夫の関係者の皆さんですから、その時間は寂しさを埋めてもらえてうれしいし、ちょっと天然っぽさがあったりしてお茶目ですよね。夫も彼女にとって魅力的な人。やはり夫婦ですからいろいろあったでしょうが、素敵な歳の重ね方をしたのでしょうね」

俳優としてだけでなく、幅広いジャンルで活動を続けている東さん。9月25日(木)〜10月1日(水)まで京王百貨店聖蹟桜ヶ丘店で開催される「東ちづるポップアート〜妖怪まぜこぜ原画展〜」の準備で超多忙な日々が続く。(津島令子)

ヘアメイク:島田万貴子

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