映画、Vシネマ、オリジナルビデオ映画などのコワモテの役どころが多かったが、2007年、妻・昌子さんが個人事務所を立ち上げてマネジャーに就任してから大幅に路線変更し、映画、テレビドラマやバラエティー番組、CMにも引っ張りだこになった遠藤憲一さん。ナレーションやCMなど声の出演も増えていく。2009年に「湯けむりスナイパー」(テレビ東京系)でドラマ初主演を果たして以降、「民王」(テレビ朝日系)、「遠藤憲一と宮藤官九郎の勉強させていただきます」(WOWOW)、「それぞれの断崖」(フジテレビ系)、映画「アウト&アウト」(きうちかずひろ監督)など多くの作品に主演。10月10日(金)に映画「見はらし世代」(団塚唯我監督)の公開が控えている。(この記事は全3回の中編。前編は記事下のリンクからご覧になれます)
■「民王」のエンディングのノリノリダンスは、妻・昌子さんの猛特訓で
2015年、菅田将暉さんと「民王」にW主演。池井戸潤さん原作のこの作品は、ひょんなことから現職の内閣総理大臣・武藤泰山(遠藤憲一)と、大学生の息子・翔(菅田将暉)の心とからだが入れ替わってしまったことで巻き起こる騒動を描いたもの。
突然総理になった翔は、政治には全く興味がなく、漢字もろくに読めないため、国会答弁でも四苦八苦。あげくの果てにとんでもないことを言いだす始末。一方、泰山も学生らしからぬ偉そうな態度で就職活動に不採用になるなど大苦戦することに…。
「この話が来たときはかなりスケジュールがいっぱいだったけど、面白いから絶対にやりたいと思ったんだよね」
“コワモテだけど可愛い”という遠藤さんの特性が生かされたキャラは大人気となり、深夜帯での放送ながら高視聴率を記録。ドラマ終了後も「コンフィデンスアワード・ドラマ賞」や「ギャラクシー賞」など数々の賞を受賞。スペシャル版、スピンオフ版、さらにはネットドラマ版も放送され、2024年には続編も放送されることに。
――「民王」では、エンディングのノリノリダンスも話題になりましたね
「あれは大変だった。俺だけNGを出して何度も撮ったんだよね。俺はセリフも覚えるのに苦労するけど、ダンスなんて全然ダメだから覚えられない。女房は覚えるのがすげえ早いんだよ。1回で覚えちゃう。だから家で練習するしかないじゃん。『だからそこは右!何でできないの?』って怒られてマジギレされながらやったよ」
――そんな風には見えないですよね。ノリノリの楽しそうな笑顔で
「ちゃんと覚えちゃうと楽しいんだよ(笑)。ただ、それまでが大変。ものすごく時間がかかるんだよね」
「民王」ではパンツ一丁でメソメソ泣くシーンなど、それまでのイメージとのギャップも話題に。演じる役柄の幅がさらに広がり、映画「ギャラクシー街道」(三谷幸喜監督)、大河ドラマ「真田丸」(NHK)、「必殺仕事人」シリーズ(テレビ朝日系)など次々と作品が続く。
■元日から3日間消息不明!「家を出て行くか、酒を辞めるか」選択することに…
2018年の元日、なじみの店の新年会に2時間だけ参加すると言って出かけた遠藤さんは、そのまま深酒を繰り返し携帯も繋(つな)がらない状態で3日まで家に帰らず、昌子さんが大激怒。「解雇!事務所は解散。家を出て行くか、酒をやめるか、どっちか選べ」と迫られ、断酒を約束。以来、7年間一切お酒を飲んでないという。
――断酒がこんなに長く続くとは思わなかったので驚きました。昔は飲んでいるところしか見てなかったので
「そうだよね。だから飲めないわけじゃないことをみんな知っているから誘われるんだよ。
でも、全部断っているから友だちがいなくなっちゃったけどね。そこが大変だよ。孤独になるから。撮影が終わった後でも必ず『飲みに行こう』ってなるじゃない。でも行かないから」
――一緒に行くとやっぱり飲んじゃいそうになるからですか
「やっぱりいいなって感じ。楽しむために行くわけじゃん。気分を重くするために食事会に行くっていうのは悪いしね。その辺は酒を辞めた人にしかわからないと思うけど、せっかくみんなが楽しむ場に行って、苦しみと戦う空気なんか出したくないじゃん。嫌な感じにさせるから行かない」
――あれだけ飲んでいたのにピッタリ辞められたのはすごいですね
「『遠藤さんは人が変わってしまいました』って言われた(笑)。でも、からだもしんどかったんだと思う。不安感とかを忘れるために飲んでいたから、あまりいい酒じゃなかったしね」
――でも、遠藤さんの場合は、決して人の悪口は言わないし、妬(ねた)み嫉(そね)みも言わない。きれいな飲み方でしたね。いつの間にかお店で寝ちゃっていたことは多々ありましたが
「そう。だからやっぱり疲れていたんだと思う。あのまま飲んでいたらからだを壊していたかもしれない。酒を飲まなくなって二日酔いがなくなったから頭もクリアになったしね(笑)」
同年、「遠藤憲一と宮藤官九郎の勉強させていただきます」に主演。この作品は、脚本・宮藤官九郎さん×主演・遠藤さんで毎回豪華ゲストが登場するワンシチュエーションコメディ。
撮影終了後、撮り直しをしなければならない事態が発生するが相手役はすでに帰ったあと。そこにたまたま隣のスタジオで撮影をしていた俳優が遠藤さんに挨拶にやって来て、急遽(きゅうきょ)代役をつとめることに…という展開。初回の小栗旬さんをはじめ、そうそうたる豪華俳優陣が繰り広げる役作りの真剣勝負が話題に。
――ドラマの部分も面白かったですけど、最後のトークのところも楽しみでした
「そう?あそこが好きっていう人は珍しいよ。でも、みんな結構本音をしゃべっていたよね」
――ベテランの皆さんが、前日は緊張して眠れなかったとおっしゃっていましたね
「あれは一発本番だからね。すごい優秀な人たちがみんな緊張してくれるんだって驚いた。自分自身ももちろん緊張しているけど、それが面白かったよね」
――遠藤さんは眠れない思いはしなかったですか?
「うん。1本目の時は多少あったけど、こうやって撮っていくんだということがわかったからね。でも、桃井かおりさんまで『すごい緊張した』って言っていたのにはビックリした。
ゲストが全員『前の晩は寝られなかった』って言っていたから、やっぱりすごい作品だったなって」
――面白かったですよね。遠藤さんはああいう作品も臨機応変で
「でも、俺吹いちゃって笑っちゃったけどね(笑)。『笑わないで』って言われているんだけど、俺はゲラ(よく笑う人)だからやばかった」
■パンダにハマり「こんなに可愛いのかって…(笑)」
時間ができると昌子さんと二人でよく旅行に行っているという遠藤さん。2020年、「パンダに会いに行く」という昌子さんと「神戸市立王子動物園」に行ってパンダにハマることに。
「小学生のときにカンカン、ランランは見ていたけど、それ以来だった。(神戸の)タンタンっていうパンダがすごい好きになって、『パンダってこんなにかわいいのか』って思って。
去年死んじゃったタンタンはすごい好きだったけど、パンダ全部に詳しくなったわけじゃない。でも、テレビでパンダの生中継をやらされたことがあるんだよ。使うほうも勇気があるなあって(笑)。『何で俺がやるの?』って思うじゃん」
――みんな同じ顔に見えるのに『顔が全然違う!』と言って全部のパンダの名前を当てていたのでビックリしました
「そう、全部名前を覚えて(笑)。でも、白浜(和歌山)のパンダもみんな中国に行っちゃった。みんな次々に帰っちゃって。やっぱり飼育員の人たちも見たし、ドキュメンタリー番組も見ていたから、これは相当ショックを受けているだろうなって。今もちょっとそこが心配だよね。
中国に帰るパンダのお見送りの時のニュースを見ていたら、切なくて涙が出ちゃうよ。飼育員さんのあの顔を見ているとね。しかもパンダの追っかけの人もいるわけ。毎日のように通っていた人がね。
女性の方がすごい望遠のカメラを持って、ガラスに(自分が)映らないように黒ずくめの格好をして、もうプロフェッショナルなわけ。それで毎日パンダの写真を撮るのが生きがいっていう人たちがいっぱいいたから、この人たちは急にパンダがいなくなっちゃって大丈夫かなって。白浜はもう1頭もいないわけじゃん。だから喪失感がすごいと思うよ」
――遠藤さんは大丈夫ですか?
「とりあえずね。でも(上野動物園以外は)みんないなくなっちゃって、俺でさえショックだからちょっとやばいんじゃないかなって。ちょっとウルっと来たけど、飼育員の人たちは結構立ち直れないぐらいすごいと思うよ。
だからこの先どうなるかわからないけど、早くまた中国からパンダが来てほしいと思う。だって日本は飼育が上手なんだから。システムもちゃんとしているし繁殖も上手。パンダにまた会いたいよ」
■被害者遺族である父親と加害者の母親の禁断の恋
2022年、「それぞれの断崖」(フジテレビ系)に主演。この作品は、被害者遺族である父親(遠藤憲一)が加害者の母親(田中美里)と恋愛に落ちるという衝撃の展開。
「コンプライアンスが厳しい時代に、真逆のヤバい作品で、みんなに『見ていて苦しい』って言われたし、すごい難しい作品だった。ストーリーチックに進めても余計変なことになってくるんで、もうちょっとリアルな状態にしていくために、みんなで毎回一緒になって台本を作り直したりしていた」
――反響がかなりあったと思いますが
「もうめちゃくちゃだよ。だって批判合戦だもん。『一緒になっているんじゃねえ』とか『付き合い出すんじゃねえよ』って」
――田中美佐子さん別れた奥さん役でしたね
「そう。ああいうドラマは、やっぱり役者ってそこに入り込んでいっちゃうから大変。特に美佐子さんは役に入り込むタイプの人だから、現場では俺に『もう見たくない顔』って言い出しちゃうし(笑)」
――オファーが来たときはどう思いました?
「俺はフィクションとして捉えるから、やったことがないものをやるっていうのは楽しいわけ、自分の中で。だから『これは反発食らうな』とは思ったけど、とりあえずはイメージが悪くなるとかそんなことよりも、表現者としてやれるものはやりたいっていうのがあるから、そういう部分ではやりがいがあった」
――役柄の幅が本当に広いですね。悪役も圧倒的な迫力で印象的でしたが、一見怖いけどいい人というイメージもあって
「任侠ものとか怖いジャンルが好きな人は本当に好きだからね。イメージがどうのこうのじゃなく、今ヒットしている『日本統一』とか、ああいうジャンルがめちゃめちゃ好きっていう人もいっぱいいるけど『それぞれの断崖』の場合は全く違う。
普通にホームドラマが好きな人たちが見てショッキングな話だったんで、怖いもの見たさでギリギリ見続けたっていう人もいたと思う」
――演じていて疲労感はかなりありました?
「共演者に気を使ったよね。奥さん役の田中美佐子さんが本当にそういう気分になっちゃったみたいで『何をやっているんだよ、陰で』って言うから『これはドラマだからね』って、どっちにもすり寄らないようにして。
で、美佐子さんとの家族のシーンになると、(田中)美里さんが出番もあって見ていたりもするから、美佐子さんとのシーンをやり終わったら美里さんに声をかけに行ったりして。日常の中で、この2人の女性に対して平等に接するということにすごい気を使っていた。
ラブシーンもこんなおじさんなんであまり生々しくやるとちょっときついじゃん。だからうっすらスモークを入れてもらって、あまり寄らないでアングルも全部指示して。
それで、その後ろに雨を降らせるようなシーンにしてもらって、ずっとレールでカメラが移動して寄りきらないで逆光にしてもらうようにしてもらったりして。そこはちょっと気遣いながらやったよね。そこが、一番反発がくるシーンだから。
いくら夜の大人のドラマだと言っても、見る人が『えーっ?!』ってなっちゃうだろうから、その代わりあまり生々しくやらないである程度綺麗に撮ってもらおうと思って(笑)」
昌子さんのプロデュース能力が冴え渡り、主演作品が多くなっても新たなチャレンジを続けている遠藤さん。「民王R Inspired by池井戸潤」(テレビ朝日系)、「エンジェルフライト 国際霊柩送還士」(Amazon Prime Video)、「大追跡〜警視庁SSBC強行犯係〜」(テレビ朝日系)など話題作に多数出演。次回は撮影エピソード、「きっちりおじさんのてんやわんやクッキング」、10月10日(金)に公開される映画「見はらし世代」、愛犬クロミちゃんも紹介。(津島令子)