一見、圧倒的な存在感を放つコワモテの風貌だが、実は真面目でチャーミングというギャップが人気を集め、映画、テレビ、バラエティー番組、CMに引っ張りだこになった遠藤憲一さん。主演ドラマ「民王R Inspired by池井戸潤」(テレビ朝日系)、「エンジェルフライト 国際霊柩送還士」(Amazon Prime Video)、「大追跡〜警視庁SSBC強行犯係〜」(テレビ朝日系)など話題作に多数出演。現在放送中の「きっちりおじさんのてんやわんやクッキング」(BS朝日)では料理に挑戦。10月10日(金)に映画「見はらし世代」(団塚唯我監督)の公開が控えている。(この記事は全3回の後編。前編と中編は記事下のリンクからご覧になれます)
■5歳児からおばあちゃんまで入れ替わり「四苦八苦の連続だった」
2007年に妻・昌子さんが事務所を立ち上げてマネジメントを担当するようになってから大幅に路線転向し、コメディセンスも発揮して話題に。主演作品も多く、2024年、「民王R Inspired by池井戸潤」(テレビ朝日系)に主演。
このドラマは、ひょんなことから現職の総理大臣・武藤泰山(遠藤憲一)とおバカな息子(菅田将暉)の心とからだが入れ替わってしまったことで巻き起こる大騒動を描き話題になったドラマ「民王」の9年ぶりとなる続編。
一度は政治家として引退を決意した泰山が、政治家を続けるだけでなく、もう一度総理大臣になるという決断をすることに…という展開。
「今回は本当に大変だった。最初の『民王』は息子と入れ替わるんだったけど、続編は毎回違う人。下は5歳の男の子からおばあちゃんまで、毎回違う人に入れ替わるから毎日四苦八苦の連続。5歳の物静かな男の子が一番難しかった。だって保育園児だからね(笑)」
――最初に入れ替わる、あのちゃんも難しかったのでは?
「みんな難しかったけど、あのちゃんのときはまだね、コメディとして見応えがあるから。
でも、その後が急に若者になっちゃったりとか、並べ方が難しかった。闇バイトの若者はいるわ、5歳児はいるわ、おばあちゃんもだからね。でも、いろんなことをやるいい経験だったかな」
同年、「エンジェルフライト 国際霊柩送還士」(Amazon Prime Video)が放送。この作品は、海外で亡くなった人の遺体を家族のもとへ届けるため、国境を越え、あらゆる障害を乗り越えて国際霊柩送還士が尽力する姿を描いたもの。主演は米倉涼子さん。遠藤さんは国際霊柩送還を執り行う会社「エンジェルハース」の柏木史郎会長役。
「いいドラマだよね。海外で亡くなった人を連れて帰るのは大変だということは、聞いてはいたけど現実でああいう仕事があることを知らなかったからびっくりした」
――第1話で新入社員の松本穂香さんのセリフに「ここは組事務所?」というのがあって、遠藤さんが組長風で米倉さんが姐御風という感じで面白かったです。米倉さんと息もピッタリで
「涼子ちゃんとはもう長年一緒にやっているからね。内容的には結構シリアスなんだけど、俺の場合はちょっと滑稽な方の役だから、その辺のバランスが難しかった。あの役は振り切っていかなきゃいけないんで、そこがちょっと難しい」
■若い監督と出会い「要求される通りにやってみようと思った」
映画「見はらし世代」が10月10日(金)に公開。この作品は、再開発が進む東京・渋谷を舞台に、ランドスケープデザイナーとして街をデザインし、都市の在り方や環境をも変える大きな仕事を手掛けているが、家族の基礎を作り損ねた男と子どもたちの10年にわたる心の彷徨いを描いたもの。
2025年5月に開催された第78回カンヌ国際映画祭「監督週間」に日本人最年少の26歳で選出された団塚唯我監督によるオリジナルストーリーであることも話題に。
10年前、家族旅行の最中、建築コンペの最終選考に残ったため、母・由美子(井川遥)と口論になり、妻子を残してひとり仕事場にとんぼ帰りをした父・初(遠藤憲一)。その決断によって、もう二度と家族4人がそろう機会はなくなってしまい、初は海外へ。国際的に活躍している初が7年ぶりに帰国。長男(黒崎煌代)と長女(木竜麻生)と再会することに…。
「久々にリアリティのある役だなって思った。もちろん最終的には不思議な世界になっているけど、それを『別世界です』という表現ではないし、何とも不思議な作品だなって。
台本を初めて読んだときにはどうなるのかがよくわからなかったよね。しかも会ってみたら、すごく若い監督で。こんなに若い監督とやったことがないから、初めて会った時、一番下っ端だと思ったら監督だった(笑)。
ただ、クランクインしたら、あまりの人間の見方の鋭さにびっくりした。要求することが細かくて鋭くて」
――例えばどんな感じですか
「俺の最初の撮影シーンが、サッカーボールを蹴りながら電話しているシーンだったの。家族旅行に来たばかりなのにコンペの候補に残ったから東京に戻って来てくれという電話を受けているところで、最初にやってみたら『そんなに何度も何度も蹴らないでください。お笑いになっちゃいます』って鋭いわけ。
『ほどほどのところで蹴るのをやめて電話に集中して。それで、そのままどうしようかなっていうのを何となく自分の中で考えてから、あっちに行ってください』とかね。当たり前のことなんだけど、些細(ささい)なことが丁寧。
この年になると、芝居をこうしてああして…とかって言われる現場っていうのはめったにないじゃん。よほどのことがあるとストップとかになるけど、だいたいはお任せだからね。でも、この映画に関しては、監督がものすごく細かい指示を出して、それが人間の生理に全部合っているの。
『何でこんなに若いのに、人間の感情みたいなのをよく知っているんだろう?』って。だから、自分が思い描いていたものとちょっとズレがあったとしても言われるままに。全部彼のアイデア通りに、要求されるままにやろうと思って、やることにしたんだよね。
そして出来上がりを見て、カット割りは想像だにしなかったアングルだったんで、ちょっとびっくりした。不思議な作品で。家族旅行の最中に仕事で戻らなきゃいけないって言って逡巡している心の揺れも見えるよね。言いにくいだろうなって、上手なカット割りしているなあって思った」
――奥さんが亡くなって仕事で海外に何年も行ったまま子どもたちとも疎遠に
「子どもたちは母親が死んだのはおやじのせいだと思っているからね。ギクシャクした家族関係のまま大人になって。その姿に渋谷の街の再開発が上手に重なっていく。台本を読んだ時にはあまりそういうのがわからなかったんだけど、上手にリンクしているよね」
――家族の姿と重なっていますね。ランドスケープデザイナーという仕事は初めて知りました
「ランドスケープデザイナーって公園とか公共の外部空間をデザインする人なんだけど、この言葉はわからないよね。俺もこのワードは初めてだった。でも、説明するんじゃなくて、何となく見終わるとリンクさせているんだなって感じさせるのがすごいなと思うんだよね」
――子どもたち2人の性格、考え方も対照的ですね
「長女は結構現実的で、息子は元の家族に戻れないのはわかっているけど何とかしたいと思っている。父親をすごく憎んでいるのかと思っていたら、3人が会う機会をセッティングしたりするんだから面白いよね」
■毎日教習所のスクールバスに乗って…
――劇中、オートバイに乗っていましたけど、免許は持っていたのですか?
「持ってなかったから、この作品をやることになって打ち合わせした後すぐ教習所に行き始めた。バイクのシーンは、かなりカットされているけど、やっぱり免許がないと道路を運転できないからヘルメットを買って、京王線に乗って教習所のスクールバスに乗って…みたいな(笑)。
全部リズムができてくるんだよね。だいたいちょっと早めに駅に着くから喫茶店でアイスコーヒーを飲んで、それからスクールバスに乗って行く。喫茶店の(従業員の)お姉さんたちに『毎日何をしにいらしているんですか?』って聞かれるから、『今、映画でバイクの免許を取り来ているんです』って(笑)。
最終審査の時、コースが二つあって、どっちのコースをやるのかは当日言われるわけ。これを覚えるのが大変なんだよ。もういい年越えているからなかなか覚えられない。しかも、もともときっちり覚えるということが本当に苦手だからさ。
最終審査の日、試験を受けたのは4人で俺は3番目。ひとりずつやって帰ってくるんだけど、俺はちょっとやばかった。ほかの人みんなはうまくできたみたいだから、すげえなと思って。全員終わってから結果発表で、『俺だけやべえのかな』って思っていたら4人全員合格。俺だけ『やったー』ってガッツポーズしちゃったよ(笑)」
――劇中、井川遥さんと菊池亜希子さんを後ろに乗せて走るシーンがありますね
「トラックの上に乗ってやったけど怖かった。すごく緊張した。何とか無事に終わって本当に良かったよ」
――遠藤さん演じるお父さんは、子どもに対してどんな思いでやっていました?
「仕事を一生懸命やっているということが、奥さんにも社員にもうまく伝わらないぶきっちょな人。申し訳ないって思っているんだろうけど伝えられない。本当に不器用な人だなって思う」
――撮影で印象に残っていることは?
「黒崎くんとの最初のシーンでは、出番の前に黒崎くんが俺のSNSを見ちゃって。俺が踊ったりとか、変なやつをいっぱいあげているのを見ちゃったらしくて笑っちゃって(笑)。俺もゲラ(よく笑う人)だからすぐうつっちゃって、笑うのをこらえてやるのが大変だった。
サービスエリアのシーンではそれが今度は娘(木竜麻生)にまで移っちゃって。3人そろってゲラゲラ笑っちゃって、『ちょっとやべえな』ってなって。『もう1回』ってなったんだけど、スタッフが『また笑うよ』って言っているし、きっとまた笑っちゃうだろうなって思っていたら、やっぱりまたちょっと笑っちゃったんだよ。
そうしたら助監督が近づいてきて、『この映画は、もしかすると海外で評価される映画になるかもしれません。もっと集中してください』って言われちゃった(笑)。実際、カンヌでも上映されたしね」
――完成した作品をご覧なっていかがでした?
「斬新すぎてびっくりしちゃった。こだわりもすごいしね。監督はスタッフの中で1番年下なのに『もういいんじゃない?』っていうようなことを言える雰囲気じゃないんだよね。
『わからない世界がある』ということがだんだんわかってきて、そこからはもう本当に言われた通り、監督の求めるように…っていう感じ。
全体を通して不思議な力があるし、ああいう世界を作る人ってすごいなあって。それがただ奇をてらっているんじゃなく、それは言語の違うところでも何でも力あるものは感じるだろうし、そういう力を持っていると思った。
監督は、これが長編第1作目なんだけど、次に何をやるのかなって。これから長編の2作目、3作目も楽しみな監督。まずはこの作品を見てほしい」
■保護犬のクロミちゃんが家族の一員に
(クロミちゃんと)
愛犬家としても知られ、9月23日(火)に「第9回川島なお美動物愛護賞ワンダフル・パートニャーズ賞」を受賞したばかり。2023年12月からスタンダードプードルのクロミちゃんが家族の一員に。しかし、もともとは犬が苦手だったという。
「子どもの頃に追っかけられて噛まれたことがあったから、それ以来ワンちゃんが苦手で怖かったんだよね。それが、30代後半の時に女房が飼うことにしちゃって。家に帰ったら犬がいたからビックリしたよ(笑)」
――「女房には懐いているのに俺は吠えられて怖い」って言っていたので、どんなに大きなワンちゃんかと思ったらめちゃめちゃ可愛いマルチーズで
「そうそう(笑)。怖かったんだよね。それも最初は1匹だったのに、次の年にはもう1匹増えて2匹になって。でも、慣れるとやっぱり可愛いよね」
――“まめ”ちゃんは16歳、“エレキ”くんは17歳で亡くなりましたが、献身的に介護されていましたね
「女房のほうが大変だったけどね。いろんな薬を潰して液体にして飲ませたりとか。やれることは全部やったから、死んだのは悲しかったけど悔いはなかった」
――クロミちゃんとの出会いは?
「最初は女房に獣医さんから連絡が来て見に行って。保護犬で保護された時には脚にけがをして、栄養失調の診断を受けていたから長く動物病院で暮らしていたんだよね。それで退院したら家で引き取ることになったんだけど、大きさが全然違うからね。後ろ脚で立ったら俺と同じくらいの背たけだし、存在感が違いすぎる(笑)。でも、頭がいいし可愛いよ」
――名前も病院で呼ばれていたクロミちゃんに。優しいですね
「それが最初病院に預けられたときは『五右衛門』という名前だったんだって(笑)。だけど、よく調べてみたら女の子だということがわかって、俺たちがいただく時にはクロミってなっていた(笑)。
基本散歩は女房。暑い夏はすごい早朝だったりするから女房が連れて行って、冬は俺が一緒に行ったりしている。過去にどんなことがあったのかわからないけど、『生きていて良かった』って思ってほしいよね」
現在放送中の「きっちりおじさんのてんやわんやクッキング」(BS朝日)では料理に挑戦中。この番組は、買い出しから料理まですべてひとりで行う様子に密着した“自炊ドキュメンタリー”。ハンバーグ、ロールキャベツなど、さまざまな料理にチャレンジしている。
――毎回料理本を読んでお買い物ノートを書くところから始まる。面白いですよね。1年間ですか?
「そう。あと3分の1ぐらいかな。あれは本当に大変なんだよ、全部自分でやらなくちゃいけないから。最終的にコース料理が目標だけどできるのかな。料理は難しいよ」
――お買い物ノートを書いているところに真面目な性格が出ていますよね
「最初から全部自分でやっているからね。ぶっつけ本番で、1回も練習ナシなんだよ。だから、本当に用心しないと何か忘れたりする。でも、もうそんなに変な失敗できないからね。失敗続きになると、それはちゃんと期待している人を裏切ることになるからそこは今大変。ちゃんとやらないとね」
タイトル通り、てんやわんやしながらも一生懸命料理を作る姿が微笑ましい。さまざまなことにチャレンジを続けている遠藤さん。昔「刑事貴族」(日本テレビ系)の脚本を書いていたこともある遠藤さんが、今また脚本を書いているという。
「この7年ぐらいはまた脚本をずっと書いていて、書きたまったからそれがドラマになるといいなあって。若い時に自主映画とかやっていたけど、自分の中で思いついたドラマがあって、そのドラマを実現するというのが一つの夢かな。
いつ頃実現するのか全然わからないけど、これをいろんな人の意見を聞きながら調整していこうと。どうなるかはきっと出会いだと思うから実現したい」
主役を張る俳優になっても驕(おご)ることなく、誰にでも分け隔てなく接する姿は売れる前と全く変わらない。好感度が高いのもよくわかる。多くの取材にイベントと超過密スケジュールだったこの日は、午前中から昌子さんが現場に付いていたので安心しきった様子。幸せそうな姿にホッコリした。遠藤さん脚本のドラマが実現することも願っている。(津島令子)
※映画「見はらし世代」
10月10日(金) Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺ほか全国公開
配給:シグロ





