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2025年10月10日 13:38

蒔田彩珠 8歳の時に是枝裕和監督に見出され、若き実力派俳優としてドラマ、映画に引っ張りだこに。勢いが止まらない!

蒔田彩珠 8歳の時に是枝裕和監督に見出され、若き実力派俳優としてドラマ、映画に引っ張りだこに。勢いが止まらない!
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2012年、「ゴーイングマイホーム」(関西テレビ・フジテレビ系)のオーディションで約400人の中から阿部寛さん演じる主人公の娘役に抜てきされ、類まれな演技力で話題を集めた蒔田彩珠さん。映画「万引き家族」(是枝裕和監督)、映画「朝が来る」(河瀬直美監督<正式な瀬の右側は刀に貝>)、連続テレビ小説「おかえりモネ」(NHK)、「御上先生」(TBS系)、「DOCTOR PRICE」(日本テレビ系)などに出演。「わたしの一番最悪なともだち」(NHK)、映画「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」(湯浅弘章監督)、映画「ハピネス」(篠原哲雄監督)など主演作も多数。11月28日(金)に主演映画「消滅世界」(川村誠監督)が公開される蒔田彩珠さんにインタビュー。(この記事は全3回の前編)

■子役時代はオーディションが楽しいと受かっていた

神奈川県で生まれ育ち、4歳で芸能活動を始めた蒔田さんは、10歳の時に是枝裕和監督・脚本のドラマ「ゴーイングマイホーム」に出演。オーディションで400人の中から選ばれたという。

このドラマは、阿部寛さん演じる40代のサラリーマン・坪井良多が疎遠になっていた父親(夏八木勲)が入院したことをきっかけに、伝説の小さな生き物・クーナを探し始めることになり、家族や地元の人々も巻き込んでいく様を描いたもの。

蒔田さんは、主演の阿部寛さんと山口智子さんが演じる夫婦のひとり娘・萌江役。ちょっとクールで不思議なキャラを繊細に体現して話題に。

――子役時代から活躍されていて15年以上になりますね。是枝監督との出会いは、このドラマだったのですね

「そうです。オーディション自体は8歳の時で、9歳で撮影が始まって撮影中に10歳になりました」

――是枝監督と最初に会った時はどのような印象でした?

「オーディションが4次審査くらいまであって、3次審査あたりから監督が参加して、その時に初めてお会いしましたけど、クマさんみたいな優しい雰囲気の方なので、誰が監督かわからなかったです(笑)」

――オーディションには400人もいたそうですが、決まるという自信はありました?

「子役の頃は、オーディションがすごく楽しいと受かる確率が高かったんです。『ゴーイングマイホーム』のオーディションはすごく楽しくて。

当日セリフの台本を渡されて、その場で覚えて実際にやるみたいな感じでしたが、楽しかったんです。『受かる』とまでは思わなかったですけど、みんなと一緒にお仕事がしたいと思いました」

――是枝監督は、子役の方には台本を渡さないで撮影されるということで知られていますが、撮影現場はいかがでした?

「『覚えてきたセリフを言うのではなくて、その場で相手に言われた言葉を受け取って、新鮮な気持ちで出てくる言葉にしてほしい』というのは言われたことがあります。

台本がないというのは、子役の自分からしたらすごく嬉しかったです。セリフを覚えなきゃいけないというのがなかったので、ただもう楽しくて(笑)。大人のお友だちみんなと遊びに行くような感覚で現場にいました」

――是枝監督は、蒔田さんご本人にはあまり褒めなかったけど、お母さまにはものすごく褒めていたと聞きました

「そうなんですよ。お母さんにはベタ褒めしてくれていたって聞きました(笑)。お母さんが『監督がすごく褒めてくれたよ』って、撮影が終わってから教えてくれました」

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■台本を渡されて大人の俳優の仲間入り

蒔田さんは、2016年に映画「海よりもまだ深く」、2017年には映画「三度目の殺人」、2018年には映画「万引き家族」に出演。是枝監督の作品に欠かせない存在に。

映画「海よりもまだ深く」は、大人になりきれない男・良多(阿部寛)と年老いた母(樹木希林)を中心に、昔夢に描いていた未来とは違う現在を生きている家族の姿を描いたもの。蒔田さんは、良多の姪・彩珠役を演じた。

「この作品は、1シーンとかちょっとだけだったんですけど、(是枝組は)いつ行ってもやっぱりいい現場だなって思いました」

――是枝監督は、子役の方たちの自然な演技を引き出すのが秀逸です。その是枝監督と子役時代から大人になってもコンスタントに…というのはすごいことですね

「そうですね。作品の撮影以外でも一緒にご飯を食べに行ったり、映画を見に行ったりするので、本当に何でも話を聞いてくれるお父さんみたいな感じです。

『そろそろご飯に行こうか?』とか、『何か見たい映画ある?』って聞いてくれるので、見たい映画を言って一緒に見に行きます。芝居以外のふつうのプライベートの話をするほうが多いですね」

――いいご関係ですね

「そうなんです。何でも話を聞いてくれます。仕事以外の話も結構するんですけど、次にまた何か撮る時には『次にこういうのを撮るんだけど、また出てね』みたいな感じで(笑)。

漫画とか原作を渡してきて、『これ、いつかはやりたいと思っているんだよね』って言ってくださったりして。それを読んで、『めっちゃ面白かった』というような感想を連絡しています」

2017年に公開された映画「三度目の殺人」は、是枝裕和監督のオリジナル脚本による法廷サスペンス。勝つことにこだわる弁護士・重盛(福山雅治)は、殺人の前科がある男・三隅(役所広司)の弁護を担当することになるが、面会を重ねるたびに、本当に彼が殺したのか確信が持てなくなっていく…という展開。

蒔田さんは、福山雅治さん演じる主人公・重盛のひとり娘・ゆか役。父親との関係は決して上手くはいっておらず、スーパーで万引きをして弁護士である重盛が呼び出される。

――父親に対する複雑な思い、繊細な心情表現が秀逸だなと思いました

「ありがとうございます。お父さんはお父さんですが、ちょっと嫌な感情もあるわけで、複雑な思いを抱えていて。あの時に初めて『台本を読みたいか?台本いる?』って聞かれて、この作品から台本をもらうようになりました。

それまでは台本すらもらっていなくて。その作品がどんな作品かも知らずに現場に行って、その場でセリフを教えてもらって話す…という感じだったので」

――「三度目の殺人」から大人の俳優の領域に

「はい。大人の仲間入りでしたね(笑)。『台本を読みたい』と言って」

――完成した作品をご覧になっていかがでした?

「自分が出ていないシーンがどうなっているのか、全体がどんな風になっているのか全く知らなかったので、普通に一視聴者として楽しめました。

是枝監督の作品は、台本で読むのと完成した作品を見るのとでは全く変わるという印象なので、いつも楽しく見させてもらっています。

是枝さんの作品には、どんなに小さい役でも出たいですね。仕事というよりも実家に帰る感じというか、みんなに会いたい。スタッフさんも同じ人が結構多いので、みんなに会いたいからどんな役でもやらせていただきます」

――成長過程が作品として残っているというのはすごいことですね

「そうですね。ありがたいです。みんな本当に可愛がってくれますし、監督と一緒にお仕事をして、それがちゃんと形に残っていくのは嬉しいです」

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■賞はあまり意識してなかったが…

2018年、蒔田さんは、映画「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」に南沙良さんとW主演。この作品は、言葉を上手く話せないために周囲となじめずにいた高校1年生の大島志乃(南沙良)と、音痴でコミュニケーションが苦手な岡崎加代(蒔田彩珠)がバンドを組んだことで少しずつ変わっていく様を描いたもの。

「14歳の時だったので、10年近く前ですね。懐かしい。W主演だったんですけど、自分たちが中心になって同年代の子たちと一緒に作品を作ること自体が初めてだったので、そこで大きく意識が変わった気がします」

――この作品のためにギターを習得されて

「そうです。あの作品でギターを始めてハマりました。撮影の4カ月前からギターの練習を始めたのですが、最初全然できなくて大変でした。ちょっとサボり気味だったんですけど、『ちゃんとやって!』って怒られて。そこからはもう気合でめっちゃ練習して劇中で演奏する4曲をマスターしました」

――ギターを弾く姿が絵になっていました

「ありがとうございます。良かったです(笑)。あの時は撮影の休憩時間もずっとギターを練習していました」

――ミュージシャン志望だけど音痴という設定ですが、音を外して歌うというのは大変だったのでは?

「はい。音を外して歌うのは結構難しかったです。駅前で大きい声で下手くそに歌うというのはすごく恥ずかしかった(笑)。でも、いい経験になりました」

――ギターは今も弾いているのですか?

「はい。ずっと弾いています。趣味になりました。いつかまた映画でギターを弾く役がやりたいです」

――蒔田さんは、この作品で「第43回報知映画賞新人賞」と「第33回高崎映画祭最優秀新人女優賞」を受賞されました

「それまで賞というものをあまり意識したことがなかったのですが、初めてそういう賞をいただいた時は、やっぱり評価されるのって嬉しいんだなって思いました。母もとても喜んでくれたので嬉しかったです」

子役時代から演技力の高さで話題を集めてきた蒔田さんは、2020年、河瀬直美監督の「朝が来る」で日本アカデミー賞新人俳優賞をはじめ、多くの映画賞を受賞。見る者の心を揺さぶる秀逸な演技は圧巻だった。蒔田さんは、確かな演技力で連続テレビ小説「おかえりモネ」、「わたしの一番最悪なともだち」など出演作が次々と続く。次回は撮影エピソードなども紹介。(津島令子)

※蒔田彩珠(まきた・あじゅ)プロフィル

2002年8月7日生まれ。神奈川県出身。「ゴーイングマイホーム」でデビュー。映画「朝が来る」(河瀬直美監督)、映画「ハピネス」(篠原哲雄監督)、「舞妓さんちのまかないさん」(Netflix)、連続テレビ小説「おかえりモネ」、「わたしの一番最悪なともだち」、「御上先生」(TBS系)、「DOCTOR PRICE」(日本テレビ系)などに出演。主演短編映画「サラバ、さらんへ、サラバ」(洪先恵監督)が公開中。11月28日(金)に主演映画「消滅世界」の公開が控えている。

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