「仮面ライダーキバ」(テレビ朝日系)から10年、「仮面ライダービルド」(テレビ朝日系)に出演したことがきっかけで、俳優として生きていく決意を改めてしたという武田航平さん。BLドラマに初挑戦した「オールドファッションカップケーキ」(フジテレビ系)、カッコ良さを封印して父親役に挑んだ映画「この小さな手」(中田博之監督)など新たな役どころを演じた主演作も続いた。現在、三浦貴大さんとW主演を務めた映画「やがて海になる」(沖正人監督)が公開中。(この記事は全3回の後編。前編と中編は記事下のリンクからご覧になれます)
■ボーイズラブの主演ドラマに初挑戦
2022年、「オールドファッションカップケーキ」に主演。武田さん演じる主人公・野末
は少し憂鬱な思いを抱えている39歳の営業課長。部下にも愛されているが出世欲や結婚願望がなく、単調な日々に憂鬱(ゆううつ)な思いを抱えている。そんな野末に29歳の部下・外川(木村達成)は密かに恋心を抱いている。そんな中、外川による野末のアンチエイジング大作戦として女子に人気のパンケーキ店に二人で行くことに…。
「BL(ボーイズラブ)という文化も、今はだいぶポピュラーになりましたし、アジア圏含めて人気があるジャンルですよね。でも、僕自身、最初はどうなんだろうとか、どうすればいいか、知識がなかったんですよね。その時にBLが流行(はや)っていたのも知らなかったですし。
僕がこのドラマをやる頃にちょうど赤楚(衛二)くんが『チェリまほ(30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい)』(テレビ東京系)をやっていて。そういう流れが来ているみたいな感じだったんですけど、やるのはどうなんだろうと思ったんですよ。『僕でいいのかな?』って。
でも、やらせていただいたら、男性同士の恋というよりも、人間同士の心、人間模様が描かれているので、特別なことではないんだなと思ってすんなり作品に入ることができました。
人それぞれが日常で悩んでいることは一見小さなものに見えるけど、本人にとっては大きなことであったり…そういう日常を描いている作品。友情の先にある感情であったり、愛情というものに対して向き合う作品だったので、僕自身無理なくできた作品です」
――野末さんは女性としか付き合ったことがなくて、男性を好きになったことに対する戸惑いみたいな感じがすごくリアルでした
「野末にとっては初めてのことなので戸惑いますよね。でも、自分に素直になる、自分らしさをちゃんと出すという意味では、現代にとって必要なことであったりするのかなって思うんですよね。
誰かの意見とか、誰かの物差しで測るのではなくて、自分らしく、『自分はこう思います』、『自分はこうやっていきます』ということをちゃんと描いている作品なんじゃないかなって。原作がやっぱり素敵(すてき)なので、そう思いました」
――独身でアラフォーの野末課長は、ひとり暮らしですが、ちゃんと和定食のような朝食を自分で作っていてすごいなと思いました
「意外と料理上手な男性が多いかもしれないです。僕もインスタにもご飯を載せたりしていますけど、洋食屋さんのキッチンでアルバイトをしていたのでご飯を作りますし、結構共感できる部分が多かったんですよね」
――劇中、パンケーキやチョコレートパフェなど美味しそうなスイーツがたくさん登場していましたね
「はい。僕は甘いものが好きなんですけど、木村くんはあまり甘いものが好きじゃないみたいで頑張って食べていましたね。僕はちょっとずつ食べていればいいという感じでしたけど、木村くんはスイーツに詳しくて僕を案内するわけですから、食べなきゃいけない役だったので、結構大変だったと思います」
同年、「晩酌の流儀」(テレビ東京系)が始まりシリーズ化され、今年で4シーズン目に突入。
このドラマは、不動産会社「ホップハウジング」に勤める主人公・美幸(栗山千明)が、「1日の終わりに、いかに美味しくお酒を飲むことができるか」を考え、追及していく様を描いたもの。“宅飲み”でのつまみ、料理の数々も話題に。武田さんは、「ホップハウジング」の社員で美幸の後輩、島村直人役を演じている。
「始まったのがちょうどコロナ禍でパンデミックもあったので、宅飲みとか家飲みが流行(はや)った時だったんです。なので、こうやって作ったらより美味しいものができるとか、お店で食べるような料理が家でもできるというのが、多分世間の感覚とマッチしたんじゃないかなって思います。
僕もそういう家飲みも好きだったので、レシピが参考になったり、自分だったらこうやるななんて思ったりしてやっているんですけど、僕のことを応援してくださるフォロワーの方々も皆さん真似したりしてくれているみたいで、それは僕もすごく嬉しいですね。本当に見て応援してくださる方々のおかげさまです。
今、結構流行っているみたいで業界視聴率も高くてみんな出たいと言ってくださるので嬉しいです。今年も年末まで放送があるので、楽しんでいただけたらと思っています。毎年グレードアップしているので」
ひとり飲みが流行ってきたりとか、家でああいう風に有意義に時間を使って過ごすことができるという意味では、『晩酌の流儀』はシリーズも続いていて僕にとっては、ホーム感があるというか、あったかい場所なんですよね、本当に」
――見ていて楽しいですよね。美味しそうなのでお腹(なか)がすいて、つい何か食べてしまいますが
「深夜は危ないです。お腹がすいたなあってなりますよね(笑)」
■カッコ良さを封印して挑んだ父親役
2023年、映画「この小さな手」に主演。武田さん演じる主人公・和真はイラストレーター。妻(安藤聖)と3歳の娘・ひな(佐藤恋和)と暮らしているが、育児は妻に任せきり。ある日、事故で妻が意識不明の状態で入院したことにより、ひなは児童養護施設に。和真は娘を取り戻そうとする中で、親であることの意味や責任、喜びを知ることに…。
「あれはちょっと困難でしたね。僕はまだ子どもはいないんですけど、親としてというところをやらなきゃいけなかったので、結構大変でしたが、やらせていただける環境にいたことにはすごく感謝しています。
なかなかうまく役を理解することが難しかったんですよね。家庭や子どもに対して愛情をうまく表現できないというのが理解できなくて、その背景も含めてなんですけど。でも、無事に終わって良かったなと思いました。子役の恋ちゃんがすごく素敵だったので、彼女のおかげで乗り切れたのかなと思います。
すごく明るくていい子なので撮影は楽しかったですね。いつもくっついていてくれたので、それが本当に救いだったなと思います」
――武田さんは、背筋が伸びてシャキッとしているイメージでしたが、この作品では常に猫背で雰囲気が全く違いました
「原作者の方の実話に基づいているところがあったので、その方にお会いしてお話ししたり、その方の雰囲気を参考にしてやらせていただきました」
――幼い娘のひなちゃんとの写真は、いつも机に向かっている後ろ姿ばかりで切ないですね
「そうなんですよ。ひなちゃんが見たお父さんはいつも絵を描いている背中だけだから、正面から『ひな』と呼んでもピンと来ない。施設から帰って行く後ろ姿を見て『パパ』って。あれは切なかった。本当に難しかったです。
自分にないところを作るのも俳優のお仕事だと思うんですけど、人生で難しいなって思った役の一つかもしれません」
――家事育児を妻に任せっきりだった和真が変わっていく様がリアルで印象的でした
「ありがとうございます。和真は絵を描く才能はあるけど、子育てや家族と向き合うことが苦手で、それを避けて来た人。一生懸命仕事をしていたら家族のことが見えなくなってしまった。でも、妻が意識不明になってしまったことで、それまで避けてきたことに向き合わざるを得なくなる。
ただ、そういう状況の中でひとりじゃないということにも気づくんですよね。大家さんもそうですけど、助けてくれる人が身近にいたり、娘とちゃんと向き合うことでいろいろなことを学んで成長していく。自分自身と向き合うきっかけになってくれたらいいなと思いました」
――完成した作品ご覧になっていかがでした?
「つらいなと思いました。これは良くないんですけど、見ていて自分が苦しんでいるのもわかるんですよ。だからそれがちょうどいい塩梅(あんばい)になっていればいいなと思うんですけど。
もちろん監督さんや周りのスタッフさんや共演者の方々のおかげで完成して公開しているのですが、自分自身もすごく苦しみましたし、台本をずっと読んでいると、その人みたいになっていくんですよね。台本を毎日読んでいるわけだし、毎日考えているので。そうすると、口調も自分じゃなくなっていったり…。
僕は、(台本を)毎日読んでいると、その人の気持ちになったり、その口調になっていたり…というのが多いみたいです。自分では気づかなかったんですけど、なかなか抜けないみたいで。だから、なるべくニュートラルな自分というのを大切にしようとは思っていますね。
精神的にきつくなってしまう時があると思うんですけど。何かそういう人間みたいです」
■三浦貴大さんとはずっと共演してみたいと思っていた
三浦貴大さんとW主演をつとめた映画「やがて海になる」が現在公開中。この作品は、広島県の離島・江田島を舞台に、中年期に差し掛かって再会した3人の幼なじみの姿を描いたもの。
夢を叶えて映画監督として活躍している和也(武田航平)は、故郷の江田島を舞台に映画を撮ることに。久しぶりに江田島に戻った和也は、父親の死は自分のせいだと責任を感じてうだつの上がらない生活を送っている幼なじみの修司(三浦貴大)、かつて和也の恋人で妻子ある男性と交際している幸恵(咲妃みゆ)と再会。3人それぞれの思いが交錯していく…。
「撮影は去年で他の作品もいろいろやっていたのですが、ぜひやらせていただきたいと思いました。本当に素敵な本ですし、三浦くんとも念願の共演だったので嬉しかったですね。同い年ですし、共演するのは初めてだったんです。
これはいろんなところで言っちゃっているのですが、昔、映画のオーディションで最終的に彼が選ばれたということがあって。その時から1回共演したいなと思っていたんです。
同い年で、しかも見る作品見る作品で本当に素敵な演技というか、パフォーマンスをされているので、何とか会いたいなと思っていた俳優さんだったんですよね。だから、今回それが叶って、僕にとっても念願の作品です。
オーディションの話は10何年も前ですが、回り回ってようやく実現しました。僕自身もいろんな経験をさせていただいて、このタイミングだったのかなって。40歳になる前に出会えて良かったなって思います」
――台本を読んで、ご自身の役柄をどう思いました?
「この作品の登場人物は皆さん本当に日常を生きている。特別劇的なことがあるわけじゃなくて、誰もが抱えている悩みというものに対してちゃんと向き合っていく姿を描いている映画なので、そういった意味では決して困難ではなく、自分に素直になることが大切だなと思いました。
お話をお伺いしたところ、沖監督自身の経験がものすごく投影されている役で、僕は沖監督自身かなと思う役だったので、そこでこれはすごく大変なことだなと思いました。沖監督の人生を描いたような作品にキャスティングしていただいて、『重いぞ、この役は!』って覚悟しました」
――責任重大ですよね。そこに監督がいて、監督自身が投影されている役を演じているわけですから
「そうです。だから、沖監督の背中とか仕草、どういう風に考えているのか、そういうところを大切にしなくてはいけないなと思って挑ませていただきました」
■劇中の制作発表のシーンではグッと来て
(C)2025「やがて海になる」ABILITY
――監督からこういう風にやってくださいという指示は?
「それがないんですよ。監督は本当に優しくて、『武田さんの思う通りにやってください』とか、『三浦さんの思う通りにやってください』って託してくださるんです。
でも、監督の覚悟がわかるから、それを受け取ったら変なことはしないじゃないですか、お互いに。だからその覚悟を共有してくださっていたんだと思うんです。自分が生まれ育った場所で。自分が生まれ育って生活した場所を実際に歩いて、自分の本で自分が監督して撮る。それを全部僕たちに見せてくださっているので、そこかなって思ったんですよね。
それで沖監督の姿をずっと目で追っていたら、『武田さん、ずっと僕のこと見ていますね』って(笑)。でも、『用意、スタート』の言い方であったり、喋り方、頭の下げ方とか、あえてこれは真似したんですね。
こういう態度をとるということは、そういう感情だから体が斜めになるわけで…とか、多分感情って体とリンクしているので。歩き方ひとつにしてもそうなんですけど、そういうところはとにかく沖監督を参考にやらせていただきました。
そうすると、やっぱり沖監督の気持ちとか、この映画に対する思いがやっぱリンクしてくるような気がして。最初のシーン、制作発表のシーンを撮る時に、沖監督のことをずっと見ていたら、何か泣けてきちゃって。
本当に嘘じゃなくて、ここまで来るのにどんな思いだったんだろうって、その時に何かスーッと心が繋がってきた感じがしました。ずーっと見ていたら、本当にグッときたんです。沖監督も僕が見ていることはわかっているから、そこで通じ合えたのかなって僕は信じていましたね。本当に沖監督のおかげです。
選んでいただいたからには、こいつで良かったと思っていただけるようにしなきゃいけないと思ってずっと現場にいましたし、三浦くんとこの作品で出会ったのもご縁ですしね。何かに導かれているんじゃないかなって信じたいです」
――3人とも高校時代とは全く違う人生を送っていて、月日の流れを感じさせますね
「そうですね。周りからしたら大したことがないように見えても、本人たちにとっては実は大きなことで。日常的なことにスポットを当てて、それをないがしろにしないというか、人生に迷った時、何かあった時に、ちゃんと自分の原点、原体験をもう一度見直してみる。
それが故郷であったり、自分にとっての本当の原点、お母さんであったり、人類の、地球の原点の海であったり…そういうことが全て繋がっていて、それを振り返ることによって、自分を取り戻せたりとか、自分の行く道が少し見えたりする。
劇的なことは起きないですけど、そういうことに目を向けるきっかけになるんじゃないかなって思います。見ていただく方々に寄り添っている作品なんじゃないかなって感じています」
2匹のポメラニアンを飼っている愛犬家であり、保護犬や保護猫の支援活動を行っていることでも知られている武田さん。能登半島地震の時には、自ら「石川県獣医師会」に連絡し、何か自分にできることはないかと申し出て震災への備えと対策を取りまとめた「防災マニュアル」を作成。自身のインスタにも投稿している。
「ペットと被災した場合とかに備えて防災意識を高めることができればと思って。大切な家族の一員を守るために飼い主さんたちの防災マニュアルにもなってほしいので、犬や猫だけじゃなく動物と暮らしている方や、今後ペットを迎えたいと考えている方に見ていただきたいと思っています」
――今後はどのように?
「どうなるかわからないですけど、夢は、自分自身で作品を作っていきたいなとは思っているんです。映画であったり、ドラマであったりとか。
自分の人生を振り返れば、周りの方にもちろん助けていただきながら、結構もがいて自分で歩いてきているので。もちろんたくさんの方々にお世話になりながらも、人任せじゃなくて、自分でこういうことをやりたいというテーマと思いを持って生きていかなきゃいけないなって思っています。なので、作品を生み出すことができたらいいなと思っています」
誠実な人柄が言葉の端々にも感じられるステキな人。今後のさらなる活躍に期待している。(津島令子)
ヘアメイク:KEN
スタイリスト:岩田友裕





