歌舞伎俳優の中村橋之助と女優・能條愛未が10日、婚約を発表した。二人並んで記者会見を行った姿は、橋之助の両親と重なるものがある。34年前のことだ。
■金屏風の前で汗を拭きながら
橋之助は中村芝翫(三代目中村橋之助)と女優・三田寛子の長男。弟に中村福之助、中村歌之助がいる。
父の中村芝翫は1991年6月に、妻となる三田寛子と並んで婚約会見を行っている。場所は銀座東急ホテルだった。金屏風の前に現れた二人は大勢の報道陣からカメラのフラッシュライトを浴びて、互いを見て、はにかんだように微笑んでいた。
会見で大汗をかいていた中村芝翫は、記者に問われて「実を申しますと、きのう夜は眠れませんでね。なんだか夢を見ているようで。見たらわかるんですけど、手が震えているんですよ」とマイクを握る右手を掲げてみせた。初舞台から20年以上経った彼も、内心ではかなり緊張していた。
終始、なごやかな記者会見で、報道陣は「憶測が出ちゃうと困るから」「この際ですから」と、馴れ初めなどに踏み込んだ。二人は照れながらも、プロポーズは京都・鴨川の川べりだったことを明かした。芝翫の方から「結婚してください」と話したと明かした。
最後に目標とする夫婦を尋ねられ、芝翫は「やっぱりうちの父夫婦」と答えていた。
■譲られた着物と若い二人の決意
それから34年、息子の橋之助と能條愛未も金屏風の前で会見に臨んだ。時代は移り、芸能人が婚約会見を開くのは久々のことだ。
記者の質問に対して、二人の馴れ初めなど、にこやかに答える橋之助の語り口は父と同じ。会見をやりなさいと背中を押したのも、両親だったという。
橋之助がプロポーズしたのはハワイ。シンプルな言葉だったのは父と同じだが、王子様のようにひざまずいて指輪を渡した。時代なのか、あるいは三代目と四代目の個性の違いかもしれない。
変わらないものもある。
能條が着ていたピンクの着物は、三田が婚約会見でまとっていたものだ。能條は「お着物を通してお母さまのパワーを得られている気がして嬉しいです」と語った。
橋之助も「父と母のように、記者会見ができるような子供を二人で育てられるように一生懸命頑張らないとなという気持ちにもなりました」と決意をにじませた。
若い二人が目指す夫婦像には、両親の背中がある。世代は変われども、そこは変わらない。
