8日に肺炎のため亡くなった俳優・仲代達矢さんの葬儀・告別式が14日、東京・世田谷区の仲代さんが設立した俳優養成所「無名塾」で営まれた。前日13日には同所で通夜が営まれ、「無名塾」出身の俳優・役所広司(69)、益岡徹(69)が取材に応じた。以下、益岡の一問一答。
――急なお知らせだったと伺ったんですが?
益岡 そうですね、この何年か、これから先何年かは、いつかこういう時が来るだろうという気持ちではいたんですけど、それが今日かっていう驚きはございました。
――いつお知りになったんですか?
益岡 日曜日の夜に、僕、すごく早く寝ていまして、そのときお電話を頂いていたんですが気が付かずに。それで翌朝、早く寝たもんですから早く目が覚めて。で、役所さんとか奈緒ちゃんから連絡があったことが気になって、早いけどちょっと連絡しましたら、また新たに連絡してくださって。ですから、お亡くなりになって…土曜日の未明に、お亡くなりになったんですね、それで月曜日の早朝に知ることになりまして。そのときはやはり覚悟というものを、してたつもりなんですけど、がらがらっと…なんというか、動転するといいますかそういう状態になりまして。その日のうちにお顔を拝見、お別れといいますか、駆けつけたんですけども。
――仲代さんはどんな方でしたか?
益岡 いろんな人間のいろんな面というものをもちろん持ってらっしゃって。とても自分にとっては年数的なことで考えても先生だし、だけど先生という言い方を最初からしないでくれという主義の方でしたんでね。みんな仲代さん仲代さんって言っていたんですけれどもね。師匠は師匠でずっとそういうふうに思ってましたけれども。もう一つやっぱり20年30年40年を超えると、自分の大切な、よって立つべき場所みたいなところに、こっちへ来いよって言ってくださっているような、導いてくれているような親のような何というか、先導してくれているといいますか、そういう大きな存在だったんだなということを、いつも意識したわけではないんですけれども、そういう存在だったんだなというのを、棺(ひつぎ)の中のお顔を見たときにすごく感じまして。そういう部分で、なんていうんですかね…僕は実の親はもう20年以上前に亡くしているんですけれども、またそういう気持ちがふっとよぎったといいますか、そういう次第です。
――一番に教わったこと学んだことって何かありますか?
益岡 やっぱり役者が破天荒であればいいという考え方ってあると思うけれども、仲代さんは、それは置いておいても、それはそれでいいんだとしても、きちんとまともな社会性というか社会人であってほしいというのをすごく思ってらした方なんじゃないかなと思いますね。
――かけられた言葉で印象的に残っていることってありますか?
益岡 これは宮崎さん仲代さんご夫婦から聞いたことですけど、やっぱり役者というのは生涯ずっと続けていくべきもので、ある小さな、小さくてもいいからどこかでこれがって思う自分にとっての鉱脈みたいなものがあると。それをずっとずっと細くても、なんかこう途切れそうな感じになっても、それをずっとコツコツ掘り進んでいく仕事なんだからな、というようなことを言われまして。ある時に、はたと、あ、そうかもしれないというふうに、後から。若い時にはちょっと分からない部分があったんですけれどもね。その言葉というのは今でも残っています。
――「大地の子」をこの後演じられるじゃないですか?
益岡 そうですね。30年ほど前にNHKの岡崎栄さんという方がドラマ化して、上川さんの大出世作になった。それに産みの父親の役で仲代さんが出てらしてね。それを仲代さんにどこかで言いたいなと、思ってたんですけれども、結局お伝えすることができずに、ということがございますので。何でしょう、その思いを一緒に、一緒に、その思いを…二人三脚という言い方はないと思いますけれども、そういう形で舞台で演じられたらいいなというふうに思います。
――やっぱり見ていただきたかったですか?
(泣き出しそうな顔で笑ってみせて)見ていただきたかったですね、すごく。
――最後、今日どういうふうにお別れの言葉をかけてあげたんでしょうか?
益岡 そうですね。思えば30年くらい前に奥さん、仲代さんにとって奥さんの宮崎さんがお亡くなりになって、同じ場所でお通夜と告別式とがあったんですけど。お通夜がすごく…宮崎さんのご遺体を真ん中にしてといいますか、みんなで大酒盛り大会になりましてね。それはその、不謹慎でひんしゅくを買っても当然なんですけど、仲代さんもそういう感じになってまして。それでその…みんなで、何でしょう、言い訳じみたことかもしれないけど、にぎやかに明るく送り出すことができたんじゃないかみたいなことを、みんなで言ってたことを思い出して。今日ももしそういう時間が少しでもあったら、そういう…絶対にもう忘れないことは確実なんですから。そういう瞬間もあればいいなっていうのは思っております。
