1985年、「白いバスケット・シューズ」でアイドル歌手としてデビューし、“みっちょん”の愛称で人気を博した芳本美代子さん。今年デビュー40周年を迎え、単独ライブだけでなく、自身のYouTube「みっちょんINポッシブル」がきっかけで同期の網浜直子さん、松本典子さんとユニット「ID85」を結成。2023年から大阪芸術大学短期大学部メディア・芸術学科教授に就任し、講義も担当。2026年1月23日(金)に映画「愛のごとく」(井土紀州監督)の公開も控えている。(この記事は全3回の後編。前編と中編は記事下のリンクからご覧になれます)
■ハマっていくのではなく沼っていく
初舞台「阿国」でゴールデン・アロー賞演劇新人賞を受賞したのを機に、芸能活動の主体を歌からテレビドラマや舞台に切り替え、多くの作品に出演してきた芳本さん。2019年、映画「最果てリストランテ」(松田圭太監督)に出演。この作品は、三途の川を渡る前、人生で一度しか訪れることができないレストランを舞台にしたもの。
そのリストランテで客人をもてなし、現世から来世へと送り出しているのはギャルソンの岬(村井良大)と料理人のハン(ジュンQ)。ある日、店にジュンコ(芳本美代子)という女性が来たことで現世に置き忘れたままだったハンの過去が明らかに…という展開。芳本さんは、30年前にレストランを経営していたハンと結婚の約束をしていたジュンコの30年後を演じた。
「男の人は30年前と全く変わってなかったんですけど、ジュンコの若い時は別の方が演じていますから不思議ですよね。30年前、結婚式の打ち合わせの日にハンくんが事故で昏睡状態に…というせつない話でした。あの映画は、ハン君役のジュンQくんが可愛かった。日本語がちょっとカタコトなところも可愛らしかったですね。韓国の俳優さんは、皆さん日本語をちゃんと勉強しているからすごいです」
同年、土曜ワイド劇場「温泉若おかみの殺人推理」(テレビ朝日系)に出演。この作品は、旅館の若おかみ・美奈(東ちづる)が事件の真相を追う人気シリーズ第30作。美奈の働くホテルで行われる「クラシックステージ別府説明会」の会場にフリーライターの浜谷直樹(寿大聡)が訪れ、あることで美奈を脅す。翌朝、その浜谷が遺体で発見され、美奈が警察に疑われることに…というストーリー。芳本さんは、美奈の夫・新太郎(羽場裕一)の妹で弁護士の中川由紀子役を演じた。
「このシリーズには、その前も一度別の役で出ているんですけど、急に決まったんですよね。羽場さんの妹役で弁護士という設定だったので、専門用語も結構あって覚えるのが大変でしたけど面白かったですね」
2026年1月23日(金)に映画「愛のごとく」が公開される。この作品は、恩師の死をきっかけに再会した元恋人との関係に引き寄せられる小説家の喪失と再生の物語。
かつて新人賞を受賞したものの停滞している小説家のハヤオ(古屋呂敏)は、恩師の死をきっかけに、かつて自分の身勝手な理由で別れた元恋人のイズミ(宮森玲実)と再会。イズミはゼミの仲間・マサキの妻になっていた。
イズミとのことを題材にした小説で賞を受賞したハヤオだったが小説家として行き詰まり、ライターの仕事をして生計を立てている。ハヤオたちは恩師の妻・あゆ子(東ちづる)に頼まれて蔵書の整理をすることに。恩師の家で顔を合わせているうちにハヤオはイズミとの関係に再び引き寄せられ、過去と現在の境界が曖昧(あいまい)になっていく…という展開。芳本さんは、ライターとして働くハヤオの仕事上のパートナーでもある編集者役を演じている。
「井土監督とは前作『痴人の愛』でご一緒させていただいていて、その時も同じような感じの役だったんです。バーのママ役をやらせていただいて。今回はライターの仕事をしているハヤオの編集者。
(ハヤオ役の)古屋(呂敏)くんがすごくナチュラルで、プラス臨機応変な感じでした。私とのシーンの時に、『はい、頑張ります!』みたいなことを言っていたのは面白かったなと思いました。何かすごく優しくてちょっとエロスですけれども、今の若い人たちの沼っていくという感じがよくわかるなと。ハマっていくんじゃなくて沼っていく様が、優しい感じで良く出ている作品だなって思いました。
結構ドロドロしていましたけど、やっぱりあのお二人がやっていると爽やかさはあるんですよね。でも、そこに沼っていってしまう危うさもあって。このズブズブさがここからどうなっていくんだろうって思いますよね。
(大学時代の)サークルの同期に彼女の旦那さんもいるわけじゃないですか。そういうのがズブズブになっていった時に、あの関係がどんなふうに進展するのかって考えてしまいますよね。若いからこそもっと違う形になるかもしれないし、もっと危険なものになるのか。曖昧でちょっとアンニュイな感じが爽やかでもあり、昭和の時代背景が感じられていいなあって思いました」
――編集者役はいかがでした?
「分野が全然違うので面白かったですね。前に連ドラで雑誌の編集長役をやらせていただいたことがあって、偉そうぶることはできるのかもしれないですけど、私の役はそんなに偉そうぶっている人でもないし、ちょっと先輩という感じ。ハヤオは可愛がっている後輩というか、知り合いの流れという感じもあって。ハヤオの作家としての将来のことも考えてあげているので、すごくいい先輩ですよね(笑)。YouTubeとか自分発信のものとかはあるにしても、やっぱりこうやって作品の中で一つの役として出るのは嬉しいです」
■短大の教授として毎週2泊3日で大阪へ
2023年、大阪芸術大学短期大学部メディア・芸術学科教授に就任。現在は2泊3日で大阪に行っているという。
「先輩俳優の加納竜さんから『サポートしてほしい』と声をかけられた時には、『私でいいのかな?』って思ったんですけど、お芝居の楽しさを知ってもらうことが目的だというのでやってみることにしました。でも、自分の後輩に教えるのと生徒に教えるということは、やっぱりすごく違いますね。
広く教えてあげなきゃいけないんだけど、もう知っている子と、そうでない子も含まれていて。例えば後輩だと、俳優になりたいと思ってそれぞれに勉強もしていたりするからガツンガツンと言えたりするけど、学生に対してはコンプライアンスのこともあるので気を使って教えていますよね。あまりきつい言葉で叱るわけにもいかないというか、否定的なことは言えないじゃないですか。
基本、演技に対しての否定はないですけど、正解も不正解もないですしね。だから、いいところを伸ばしてあげるとか、背中を押してあげることぐらいしかできないですけど。
でも、コミュニケーションを取るということが、今すごく少なくなっていて、スマホやパソコンでできちゃうことが多すぎて、人と触れ合うとか、目を見て話す機会が減っている。接触して感じられることとか、そういうことがね。
表情のちょっとした変化で見極めたり、どういう状態なのか対話じゃないとわからないようなこともある。コミュニケーションをあまりうまく取れないからコースにいるという子もいるので、同じように教えていかなきゃいけないというのは難しいなって毎年思います。あと、毎年新しい子が40人近く入ってくると、名前を覚えるだけで結構大変です」
――舞台や映画、テレビなどさまざまな経験をしてきた芳本さんの授業は嬉しいでしょうね
「演劇に対しての知識とか、そういうものは演出家の方の授業があるので、そこで教えてもらって、実際に経験した人がいるのといないのとでは違うかもしれないかなって思っているみたいですね。なので、『演出家に言われたことにどう応えるか』ということや、声の出し方とか、表現方法などを教えています。オーディションに応募するための履歴書の書き方とか。卒業公演もあるので、そろそろその準備の時期になりますね」
――学生さんの親御さんたちはちょうど“みっちょん”世代じゃないですか
「『芳本美代子先生に教わっている』と言ったら『みっちょんに?』って言われたみたいで『先生、みっちょんって呼ばれていたんですか?』って聞かれました(笑)。学生たちは娘と同じくらいの年齢ですからね。みんな可愛いです。いつか一緒に舞台ができるような日が来たらいいなって思っています」
私生活では1996年に結婚し、2001年に長女・葵さんを出産。2013年に離婚してシングルマザーに。2016年に再婚。社会人となった葵さんは一人暮らしを始め、現在は夫とお母さまの3人暮らしだという。芳本さんが5年前から始めたYouTubeチャンネル「みっちょんINポッシブル」には葵さんも登場。母娘で模型パーツ付きマガジンの車の模型作りにチャレンジする様子も披露。仲良し母娘のやり取りが微笑ましい。
「娘は就職したのでひとり暮らしができるってウキウキしながら出て行きました。ヘルメットと作業着で現場に行って測量したり…楽しそうにやっています。YouTubeは手伝ってくれていますけど、めちゃくちゃ私に対する意見は厳しいです(笑)。あの車はヒーヒー言いながら2年半ぐらいかけて完璧にできました」
――同期デビューの網浜直子さん、松本典子さんをはじめ、いろいろな方がゲストでいらして皆さん仲がいいですね
「そうですね、今年が85年組の40周年ということで。それで、松本典子ちゃんにYouTubeをやり始めた時からちょっとお願いしていて、やっと叶ったのが去年でした。今年は
40周年ということもあって同期の子たちが出てくれるようになりました」
――網浜直子さんと松本典子さんと一緒に「ID85」という3人組のユニットも結成されて、10月に2日間ライブも開催。チケットは即完売だったそうですね
「はい。当時それこそ一緒になって応援してくれていた若い人が40年経って来てくれたという人たちもいらっしゃるので、『みっちょーん』という感じでした(笑)。やっぱりその当時、一緒に共有していた楽曲が流れるとバック・トゥ・ザ・フューチャーですよね。
すぐその当時に戻れる感覚というのは、こういう風な周期でライブをやるとすごくよくわかるなって思うし、本当に感謝です。『本当に来てくれてありがとう』って思うんですけど、皆さん『歌ってくれてありがとう』って言ってくれて。いい意味で、アナログの時の一体感っていうのかな?共に歩んできた感があって嬉しかったです。
何か推しの人を応援していた、追っかけをしていたというのと同じなんですよね。その当時のことが皆さんも蘇るみたいで、めっちゃ興奮している方たちと話をするのも楽しいんですよ。『ありがとうね、ありがとう』という感じで、あの頃に戻ったみたいな気分になります」
――すごく生き生きとされていて歌声も変わらないですね
「ありがとうございます。でも、声帯は、やっぱり年齢とともに狭まっていますね。だから歌ったりレッスンしたりして復活させないといけない。そうじゃないと退化していく一方なので。今年40周年迎えて、『ID85』ももちろんそうなんですけど、単独でもライブをさせていただくようになって、今の自分で歌える歌を皆さんにお聞かせできるようなステージをちょっと増やしていきたいなという風に思っています。
『ID85』は、東京でしかライブをやっていないので、3人でまたそういう計画を立てつつ、地方展開とかもできればいいねって話しています。昔より今のほうがちょっと上手になっていっているので、来年はやれたらいいなと思っています。2026年は、新年早々、映画「愛のごとく」も公開されますし、楽しみです」
元気溌剌(はつらつ)とした明るい笑顔で話す姿にアイドル時代の「みっちょん」がオーバーラップする。クリスマスイブの12月24日(水)には六本木BIRDLANDで「CHRISTMAS DINNERSHOW」を開催。2026年も幅広いジャンルでの活動が目白押し。さらに多忙な年になりそう。(津島令子)



