子役時代から多くのテレビ、映画、CMで活躍し、2000年、映画「バトル・ロワイアル」(深作欣二監督)で第24回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞して話題を集めた前田亜季さん。映画「リンダリンダリンダ」(山下敦弘監督)、主演映画「最終兵器彼女」(須賀大観監督)、大河ドラマ「風林火山」(NHK)、「ゴンゾウ〜伝説の刑事」(テレビ朝日系)など多くの作品に出演することに。(この記事は全3回の中編。前編は記事下のリンクからご覧になれます)
■高校受験前日に高熱が出てしまい…
映画「バトル・ロワイアル」は、R15指定だったため、公開時は見ることができなかったという前田さん。2005年から「狩矢警部シリーズ」(TBS系)に警部の娘・和美役で2015年まで出演。
「中学生ぐらいからシリーズを長くやっていたので、定期的に京都に行っていました。うちの父と母は、『学生なんだから本分は学業』という教育だったんです。『(仕事は)やりたいならやってもいいけど、学校がおろそかになるならダメよ』みたいな感じで。そういう風にずっと言われていたので、撮影で学校に行けない時は友人にノートを借りたり、必死になって勉強をやっていました」
――子役時代にお姉さんと仕事を続けることについて話したことは?
「『楽しいから続けたいよね。だったら学業頑張らなきゃいけないね』ってお互いに励まし合っていました。姉は私より二つ上なので、常に前を行ってくれる人がいるという感じで。高校受験も姉の方が先に経験するじゃないですか。そういうのも私は次女だから見せてもらっていたので、ありがたく姉が通った道を行かせてもらっていた気がします(笑)」
――小中学校時代はともかく、高校生になると両立するのは結構大変だったのでは?
「芸能の仕事をしている人が行く高校ではなく一般の高校に行ったので、両立がものすごく大変でした。でも、できるだけ普通に学生生活を送りたかったんですよね。地元で生活している友だちも欲しかったので地元の高校に行こうって決めて必死で受験勉強したのですが、受験の前日に緊張とプレッシャーで高熱を出してしまって。自分はそういうタイプだと思ってなかったんですけど…。
その時姉は1年間カナダに留学中だったんですけど、『お姉ちゃんに電話する』ってボロボロ泣きながら『これまで勉強頑張ってきたのに、熱が出てもう無理だ』って電話したんですよ。いま思い返すと笑えるんですけど、当時は本気でした(笑)。
今みたいにネット通話とかもなかったから電話代も高いのに、泣きながら全部姉に喋ったら『亜季ちゃん、何やっているの?早く寝なよ』とだけ言われて(笑)。それだけだったんですけど、何かホッとしてすぐに寝て、次の日には熱も下がっていたので受験に行けました。何かいろんな人に助けてもらって、どうにか行けたという感じです」
――前田さんも留学されたそうですね
「はい。大学の時に単位を外国で取るというプログラムがありまして、学校の一環で3カ月ほど行きました。ボストンに行ったんですけど、街がとても素敵(すてき)なので、ひたすら歩いていました。大学の近くの語学学校にずっと行っていたんですけど、すごく充実した日々でした。
ちょうど映画を撮ってすぐバタバタバタという感じで行ったんですよね。だから、向うに行って気持ち的にもすごく落ち着いたというか、その映画が結構しんどかったのもあったので、続けようかどうかちょっと悩むような時期だったこともあって、色々自分のことをじっくり考える時間にもなりました」
■小さい頃からドラムがやりたくて家にはドラムセットが…
2005年、映画「リンダリンダリンダ」に出演。この作品は、高校生活最後の文化祭で「THE BLUE HEARTS」のコピーバンドをすることになった少女たちの奮闘を描いたもの。
文化祭を目前にしたある日、軽音楽部の5人組ガールズバンドのギタリストが指を骨折し、内輪揉めによってボーカルが脱退。残された3人のメンバー(前田亜季 香椎由宇 関根史織)は、韓国人留学生ソン(ペ・ドゥナ)を新しいボーカルとして迎え、「THE BLUE HEARTS」のコピーバンドを結成。練習を重ねていくが…という内容。前田さんはドラム担当の山田響子役を演じた。
――「リンダリンダリンダ」は、今年20年ぶりに劇場で「映画 リンダリンダリンダ 4K」として再上映されて話題になりました
「20年後に劇場で再上映されることもですが、4人で再会できるとは思っていなかったので、すごく楽しかったです。子どもの頃、『天才てれびくん』(NHK)をやっていた時、ミニバンドを組んでいて、私はキーボードをやっていたんです。でも、ドラムが女の子だったんですけど、ものすごくカッコ良くて。いつも空き時間に、1個上のドラム担当の子に教えてもらっていて、見様見真似で叩くようになって。
練習の時も、私はキーボードなのに『ドラムをたたいてみたい』と言ってドラムの時間を作ってもらったりしていました。それがきっかけで誕生日に電子ドラムを買ってもらって、家でも叩いていたんです。
自己流ですけど好きなように叩いていて、プロフィルの趣味のところに『ドラム』って書いていて、それを多分監督が見つけてくださってこの作品に出ることができたので、子どもの頃の“好き”が繋(つな)がって、趣味の欄に書いていて良かったなあって思いました(笑)。作品作りの楽しさが詰まっていた映画なので、本当に参加できて良かったです」
――ドラムは今も叩いているのですか?
「今はちょっと叩いてないです。でも、できるかもしれないですね。音楽を聞いていても自然に乗るのはバスドラとかスネアの音なので、気になるのは、やっぱりドラムなんですよね。だから好きなんだと思います」
――女の子のドラム、カッコいいですよね。
「そうなんです。やっぱり目がいきますよね。『リンダリンダリンダ』が今年20周年でまた劇場で公開されてみんなでPR活動ができたのは、本当にご褒美みたいな時間でした。20年ってすごくないですか(笑)。何かお祭りみたいな気分になりました。当時は行けなかった韓国でのキャンペーンもさせてもらえて嬉(うれ)しかったです。続けているといいことがあるんだなあって。
『バトル・ロワイアル』も今年25周年だったのかな?先日丸の内TOEIが閉館する時に『さよならTOEI』でイベント上映されたので記念にチケットを取って見に行ったんです。久しぶりに大きなスクリーンで見て、『やっぱりすごい映画だ。衝撃的な話だな』って思いました。
撮影当時は、本も読んでいたし、そんなに抵抗なく入っていたんですけど、『親はこれを見た時どう思ったのかな?』って気になりました。仕事に関してはマネジャーさんに任せていたので両親はノータッチだったんですけど、完成した映画を見た時はびっくりしただろうなあって」
――それにしても子どもの頃から成長する姿が作品として残っているというのはすごいことですよね。新たな世代に支持されて
「嬉しいことです。映画の良さというか、その当時10代の私たちの雰囲気ごとフィルムに焼き付いているというのは、本当に幸せな仕事だなと改めて思いますね」
■印象的な役どころが続いて
2007年、大河ドラマ「風林火山」に出演。この作品は、武田信玄(晴信)の軍師として知られる伝説的人物、山本勘助(内野聖陽)の生涯を描いたもの。前田さんは、原虎胤(とらたね)の末娘・リツ役。父親から勘助の話を聞かされていて(彼に)好意を持つようになる。しかし、勘助はリツを養女とし、父として接するが、リツは勘助を「旦那さま」と呼んで慕い続ける。
――お父さんにあれだけ勘助の話を聞かされていたら好きになっちゃいますよね
「そうですよね。結局、養女になったということですけど、気持ちは絶対あると思います。当時の感覚としては親の言うことは絶対で、すごく意味があったと思うからますます好きになっちゃうでしょうね。本当に面白い役をやらせてもらいました」
――最終回も切なかったです。勘助の死を知らされる前に悟るシーンがはかなげで印象的でした
「ありがとうございます。現場でものすごく緊張したのを今でも覚えています。風の知らせというか、フワーッと風が吹いたことで死んだことを悟る。あの当時はとても難しいことを要求されている気がすると思っていましたね。でも、そうやって1歩ずつ、いろんな役をやらせてもらえていたことはすごくありがたかったと思っています」
2008年、「ゴンゾウ〜伝説の刑事」(テレビ朝日系)に出演。このドラマは、かつて捜査一課7係に在籍しエースと呼ばれた敏腕刑事が、3年前のある事件をきっかけにPTSD(心的外傷後ストレス障がい)を発症。会計課備品係長となった黒木俊英警部補(内野聖陽)が事件を通して仲間たちと共に、悩み、喜び、再生していく様を描いたもの。
前田さんは、新人バイオリニスト・天野もなみ役。ある日、突然新人刑事・遠藤鶴(本仮屋ユイカ)と共に何者かに銃撃され命を落とすことに。やがて単なる銃撃事件ではなく、黒木がPTSDを発症することになった3年前の事件に関わりがあることも発覚し、衝撃の真相が明らかになっていく。
――一話完結形式ではなく、複数回に渡っての展開で、さらに主人公・黒木警部補のかつての事件の真相も明かされる…という印象的な話でしたね。
「そうでした。とても面白いつくりのドラマで、初回で撃たれて死んでしまうんですけど。でも、バイオリンには苦労しました。ピアノとドラムしかやったことがなかったので、バイオリンって言われた時はまた新しいジャンルが来たなぁと(笑)。
バイオリンを貸してもらって、家でもずっと触っていられるようにして。弾く格好や動作をからだに染み込ませるように、ひたすら練習していました」
被害者となったもなみには、いろいろな噂(うわさ)があったものの、見た目通り清らかでまっすぐな努力家であることが証明され、強く印象に残る作品だった。2013年には連続テレビ小説「ごちそうさん」に出演。2017年には、ブルガリのWEBCMで姉・前田愛さんと17年ぶりに共演。映画「フロントライン」(関根光才監督)、映画「宝島」(大友啓史監督)など話題作出演が続く。次回は撮影エピソード、1月9日(金)に公開される映画「五十年目の俺たちの旅」(中村雅俊監督)も紹介。(津島令子)
