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2025年12月30日 13:40

前田亜季 キャリア30年以上「撮影初日の前日は、緊張して寝られないことも多いです」

前田亜季 キャリア30年以上「撮影初日の前日は、緊張して寝られないことも多いです」
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子役時代から2歳上の姉・前田愛さんとともに“チャイドル”(チャイルドとアイドルの造語)として人気を集めた前田亜季さん。多くのテレビ、映画、CMに出演し、

2000年、映画「バトル・ロワイアル」(深作欣二監督)で第24回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。今年閉館となった劇場「丸の内TOEI」で25年ぶりに上映され、映画「リンダリンダリンダ」(山下敦弘監督)も20年ぶりに劇場で再上映されて話題に。映画「フロントライン」(関根光才監督)、映画「宝島」(大友啓史監督)など話題作出演が続く。2026年1月9日(金)には映画「五十年目の俺たちの旅」(中村雅俊監督)の公開が控えている。(この記事は全3回の後編。前編と中編は記事下のリンクからご覧になれます)

■朝ドラでユニークなお嬢さま役に「台本が来るのが楽しみでした」

2013年、連続テレビ小説「ごちそうさん」(NHK)に出演。この作品は、大正・昭和期を舞台に、東京生まれの江戸っ子のヒロイン・め以子(杏)が大阪生まれの悠太郎(東出昌大)に恋をして結婚。大阪に嫁ぎ、家族の問題や戦争を乗り越えて力強く生きていく姿を描いたもの。前田さんは、め以子の高等女学校時代の級友で専属料理人がいるほど裕福な家のお嬢さま・桜子役を演じた。

――お兄さんの友だちにこっぴどく振られて売れない貧乏小説家の室井幸斎(山中崇)と駆け落ちして大阪のめ以子の家にやって来るという驚きの展開でした

「そうですよね(笑)。あれは森下(佳子)さんの脚本が面白くて、毎週台本が来るのが本当に楽しみでした。『次の週の台本ください』みたいな感じで、みんなでワクワクしながら待っていました。

私がすごく好きだったのは、め以子が夫婦のことで悩んでいる時に、桜子が『みんなが同じ方向向いてるのってよくないわよ。それだけのことよ』って言うんですね。

友だちを想ってふと出る言葉に彼女の優しさを感じますし、桜子というお嬢さまが臆せず発することにすごく説得力があるなあって思いました。森下さんの書くセリフは、やっぱり素敵(すてき)だなとハッとさせられる言葉が多くて大好きでした」

――桜子さんは策士でもありましたね。うだつが上がらない夫に小説を書かせるために一芝居うって

「そうでした。うまくいって彼は作品を完成させるんでしたよね。面白い役をやらせていただいて本当に楽しかったです。撮影が大阪のBK(NHK大阪放送局のスタジオ)だったんですけど、雰囲気がまたいいんですよね。アットホームな感じで。みんな泊まりで大阪に行っているので、おのずと同じご飯屋さんに集まることになって。

食事をながら撮影が終わった人が来るのを待っていて、みんなで1杯飲んでいろいろ話して『お疲れさま!今日は解散。明日も頑張ろう』って。そういう風にどんどんチームになっていく感じもすごく心地よくて、いい思い出がたくさんあります」

――週のうちどのくらい大阪だったのですか?

「月〜金は向こうで、週末東京に帰って来るぐらいでした。学生時代のシーンの撮影時はそんな感じでした。大体月曜日にリハーサルがあって、その分をバーッと撮って、1回帰るみたいな感じだったので、結構行きっぱなしだった感じですね。最初は『女学生の頃です』と言われていたので、その後は出ないと思っていたんですけど、その後も参加できることになってすごく嬉(うれ)しかったです。まだ桜子を演じられるんだと思って」

――あんなに面白い展開になる役だと知らなかったのですか?

「全く聞かされてなかったです。室井さんと結婚することになるなんて思ってなかったのでビックリしました。『えーっ?駆け落ちするの?』って(笑)。視聴者の皆さんと同じで私もびっくりしていました。カフェで働くことになったりね。やりながら知っていく面白さもあって、本当に楽しい期間でしたね」

――スケジュール調整が大変だったでしょうね

「『この後また出ることがありますよ。何月以降で』とか、そういう感じみたいです。事務所は大変だったかもしれませんが、私は嬉しかったです。ロケのシーンを最初に撮った後、しばらくセットで撮影して、季節が変わってからまたロケみたいな感じなので鍛えられましたね、すごく。季節の関係でだいぶ先のシーンを撮ったりするので、想像力も養われますよね。朝ドラって面白いなって思いました」

――め以子のことで、彼女以上に怒りを爆発させたりしてカッコいいお嬢さまでした。大好きなキャラです

「ありがとうございます。言いたいことをズバズバ言うし、単なるお嬢さまじゃないみたいな(笑)」

――衣装も髪型も良く似合っていてきれいでした

「嬉しいです。ありがとうございます。衣装やメイクの方が本当によく考えてくださって。桜子のイメージでいろんなパターンを用意してくださっているので、『今日の衣装も素敵だな』って毎回思いながらやっていました。昔から着物も好きでしたけど、ますます好きになりました。

頼りになる皆さんが集結しているので、本当にプロフェッショナルで素晴らしいと思いました。BKの撮影スタジオから着替え場は、フロアが違ったので、階段の上り下りをひたすらみんなで行って、1シーン撮ったら着替える、撮る…みたいなのをずっと繰り返していて、着物の時は本当にいろんな意味で鍛えられました。体力も(笑)」

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■姉・前田愛さんと17年ぶりにCMで共演

2017年、ブルガリのWEBCMで姉・前田愛さんと共演。2009年に愛さんが中村勘太郎(現・中村勘九郎)さんと結婚し、梨園の妻、そして長男・中村勘太郎さんと次男・中村長三郎さんの母として多忙な日々を送っている愛さんとの共演は17年ぶりだったという。

――愛さんと17年ぶりに共演されましたが、いかがでした?

「本当に久しぶりでした。小さい頃はあまり一緒に出ることがなかったんです。同じ事務所だったんですけど、多分意識的に一緒にならないようにと考えてくれていたみたいで。

なので、姉と現場で一緒というのはこそばゆくて(笑)。一緒にいると私はやっぱり妹になっちゃうんですよね。末っ子特有の甘え体質が出て、『全部お姉ちゃんに任せます』みたいな感じになっちゃうし。だから多分姉はやりにくかったんじゃないかな?(笑)。でも、貴重な本当にいい時間を過ごさせてもらいました」

――姉妹での美しい映像が残るというのもステキですね

「本当ですね。素敵に撮っていただいて得していますよね(笑)。こんな風に残していただけて、家族がものすごく喜んでいました」

――小さい頃からコンスタントにずっとお仕事してきてらして

「そうですね。そして、いろんなことを経験させてもらえていますね。バイオリンを弾いたり、ドラムを叩いたり、三味線を弾いたり…その都度その都度、課題がいつもあるので、本当に面白い仕事だなと思いながらやっています」

――辞めようかなと思ったことはありますか?

「ちょっと考えたことはありますね。壁にぶつかってしんどいなって思い悩むことは結構あって。そういう時は、姉に相談したりして吐き出して話すことで、自分の中でも整理が出来るんだと思うんですけど、それで『よし!』みたいな感じで(笑)。

自分の気持ちがスッキリしたら次に進むみたいな感じですね。何だかんだ言ってもいつも楽しく刺激的で。この仕事が向いてないなって思うこともありますし、本当に難しいです。楽しいけど、難しい仕事だなと思いながらやっています。

撮影初日の前日は、緊張して寝られないことも多いです。『今日も寝られなかったな』みたいな感じで、慣れることがあまりないですけど、その厳しさがあるから飽きずに夢中になってやっているのかなって思います」

――キャリア30年以上のベテランさんですね

「30年と言われると『おーっ!』ってなるんですけど、そんな意識は全然なくて『そんなに続けてきたのか』という感じです。しっかり年齢を重ねてきていますが、みんな小さい頃も知っていますからね。大人になってからの新しい役とも出会っていきたいなというのが、今の心境です」

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■奥さん役、子どもがいる役も多くなって

2025年6月に映画「フロントライン」が公開された。この作品は、日本で初めて新型コロナウイルスの集団感染が発生した豪華客船「ダイヤモンド・プリンセス」での実話を基に、未知のウイルスに最前線で立ち向かった医師や看護師たちの闘いをオリジナル脚本で描いたもの。前田さんは、岐阜に家族を残して駆けつけるDMAT隊員・真田春人(池松壮亮)の奥さん役を演じた。

「奥さん役や子どもがいる役も多くなってきました。この映画は、私は1日での撮影だったのですが、すごく濃い時間でした。監督とも初めてだったので、それこそものすごく緊張して現場に入りました。『どんな現場かな?』と想像しながらも、その1日で家族を作らなきゃならないので…。

船内の何が起きているのかよくわからない現場で任務に当たっていた旦那さんが帰ってきて…という、とても大切な部分を任せてもらい、不安もありました。でも、監督が素晴らしくて、本当に寄り添ってくれる感じで威圧感が全くないんです。

それが現場に伝わって良い緊張感の流れる、信じられる現場だったんですね。池松さんの素晴らしいコミュニケーション能力にも助けられました。娘役の女の子との、その場で生まれる自然なやりとりなどでいろんなものをほぐして、繋げてくれて、少しずつ現場で家族のカタチを創っていったように思います」

――最初にコロナ、「ダイヤモンド・プリンセス」の報道がされた時は、何が起きているのかわからないけど、恐ろしいことが始まりそうな感じがしました。あの時、何が起きていたのか、とてもよくわかりました

「そうですね。本当に誠意をもって淡々と、無理にドラマチックにしないように作ろうと皆さん心がけていたと思うので、そこがすごく好きなところでした。真田という人物が葛藤もある中で行く選択をしたことで今度は家族が差別を受けたりするわけじゃないですか。

作中にもありましたが、子どもが『幼稚園に来るな』と言われたりしてつらいですよね。そういう報道があったなと思って。みんな経験しているからこそ、いろんな人の立場を考えられる作品で、改めて体感し、考えることができました」

2025年9月に映画「宝島」が公開。この作品は、米軍統治下の1952年の沖縄を舞台に、米軍基地を襲撃して物資を奪い、困窮する住民らに分け与える「戦果アギヤー」と呼ばれる若者たちを描いたもの。前田さんは、妻夫木聡さん演じる主人公・グスクの奥さん役で出演。

「物語が持っている力がすごいですよね。ぐいっと引っ張る、その力がすごく大きな作品でした。これまであまり描かれてこなかったけど、ああいうことがあったんだということを伝えようとする大友監督の思いがこもっていましたよね」

――191分という長尺ですが、「国宝」もそうですけど、力のある作品は長さを感じさせないんだということを改めて実感しました今年は日本映画の勢いがすごくて興行収入第1位の記録を「国宝」が塗り替えましたね

「日本映画が盛り上がるのは嬉しいですね。良作も多くて、一(いち)映画ファンとしてもたくさん映画館に通えて幸せでした」

――海外でも話題になって歌舞伎も注目されていますが、歌舞伎はよく見に行かれているのですか?

「はい。すごく好きでよく見に行かせてもらいます。甥(おい)っ子が出る舞台は必ず何度か行くので、かなりの叔母バカになっていますね(笑)」

――お二人とも可愛いですよね。伝統芸能はこうやって受け継がれていくんだなって思います

「幼い頃から芝居の映像なども何時間でも見続けられるんですよね。何よりも好きという気持ちがすごく伝わってくるんです」

――DNAを感じますね。「国宝」がきっかけでこれまで歌舞伎を見たことがない若い人が歌舞伎を見に行かれていると聞きました

「この相乗効果はとても素敵なことだなぁと個人的に思います」

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■青春ドラマの金字塔が映画に!「父がものすごく喜んでいました(笑)」

(C)「五十年目の俺たちの旅」
(C)「五十年目の俺たちの旅」

2026年は、年明け早々1月9日(金)に映画「五十年目の俺たちの旅」(中村雅俊監督)が公開される。この作品は、1975年10月にスタートした青春ドラマ「俺たちの旅」(日本テレビ系)の50年後を描いたもの。

津村浩介“カースケ”(中村雅俊)と、大学時代の同級生の神崎隆夫“オメダ”(田中健)、カースケの小学校の先輩である熊沢伸六“グズ六”(秋野太作)の3人は70代になり、付き合いはすでに50年を過ぎている。カースケは現在、従業員10人ほどの小さな町工場を経営し、オメダは現在も鳥取県の米子市長を務め、グズ六は妻のおかげで介護施設の理事長の座に収まり、それぞれ平穏な日々を過ごしていた。

そんなある日、カースケの工場にオメダがやってくる。カースケは、米子市長を務めるオメダを誇らしい気持ちで従業員に紹介するが、オメダは思いつめた様子ですぐにその場を後にしてしまう。そして20年前に病死したはずのかつての恋人・洋子(金沢碧)の目撃情報が。真相を確かめようとしたカースケの前に現れたのは、精神が不安定になったオメダの妹・真弓(岡田奈々)。やがてオメダはある思いをカースケに打ち明けるが、それは家族もキャリアもすべて捨てるということで…。

「生まれる前だったのでドラマは知らなかったのですが、父親が大好きだったんですよ。(父が)上京したての頃だったらしくて、この作品が青春時代ですごくハマったドラマだというのを力説していて、ものすごく喜んでいました、だからこれは親孝行だなと思って(笑)」

――過去の映像もたくさん使われているので、ドラマを見ていた人にはたまらないですね

「そうだと思います。今、ドラマの再放送がまた始まったので、見た父から思い出話をたくさん聞きました(笑)」

――前田さんは、田中健さん演じるオメダの娘役

「はい。うちの父は若い頃、田中健さんにちょっと似ていたようなんです。『俺たちの旅』にハマったきっかけも友だちに『似ているやつが出ている』みたいなことを言われたらしくて、それで調子に乗って好きになったんだって(笑)。そういう話を聞いていたから、すごく面白くて。確かに昔の映像を見ていると、ちょっと父の若い頃に似ているなって思いました」

――前田さんが演じたオメダの一人娘は、とてもしっかりしているお嬢さんですね

「そうですね。あれも素敵な家族の形だと思いました。ちょっときつい感じもありますが、自分がしっかりしないといけないという覚悟、彼女なりの思いやりがすごく優しかったですね」

――カースケ、オメダ、グズ六、みんな愛しいキャラですね。この作品で中村雅俊さんが映画監督に初挑戦されました

「13、4歳の時やつい最近ドラマでも雅俊さんの娘役をやらせていただいたことがあったので、『お久しぶりです。覚えていらっしゃいますか?』という感じで入ったんですけど、とても誠実な方なので、それが滲み出ているというか、とても気持ちのいい現場でした。

3人が可愛いんです。私が可愛いと言っていいのかわからないですけど、すごくキュートな3人で、やりとりを見ているだけでも何かニヤニヤしてしまうというか(笑)。

前のドラマの映像をDVDで見せてもらったのですが、本当に皆さん若々しくてカッコ良くて。今とはまた違うエネルギーがあり、素敵でした。髪の毛のクルクルした感じとか、裾が広がったデニムのジーンズとかドラマを見て、みんな真似していたというのが、とても理解できました。昔ドラマを見ていた方も見たことがない方も是非、見て欲しい作品です」

子役時代から作品を拝見しているので勝手に近所のおばちゃん感覚になってしまい、月日の流れを感じる。2026年は、1月2日(金)の甥御さんが出演する歌舞伎座公演が楽しみだと笑顔で話す。新年早々1月9日(金)には映画「五十年目の俺たちの旅」の公開、3月14日(土)〜3月29日(日)まで「るつぼThe Crucible」(東京芸術劇場)に出演。2026年も充実した年になりそうで楽しみ。(津島令子)

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