2010年、「仮面ライダーW」(テレビ朝日系)に第18話から仮面ライダーアクセル(照井竜)役で出演し、話題を集めた木ノ本嶺浩さん。2016年からインディペンデント作品にも出演するようになり、短編映画「追憶ダンス」(土屋哲彦監督)、映画「三尺魂」(加藤悦生監督)などで国内外の映画祭にも出席。現在、主演映画「メモリードア」(加藤悦生監督)が公開中。(この記事は全3回の後編。前編と中編は記事下のリンクからご覧になれます)
■映画祭で監督やスタッフと出会い…
「追憶ダンス」で「FOXムービー短編映画祭2016」でW主演した篠田諒さんとともに審査員特別主演俳優賞を受賞。「三尺魂」では初めて海外の映画祭「上海国際映画祭」に参加したという。
「『追憶ダンス』と『三尺魂』でいろんな映画祭を回らせていただきまして、ノミネートされたり、いろんなところで上映させていただく機会があった中で知り合った方々とともに、のちに映画を作ることになるんですけど、そういうことで映画の縁を感じるきっかけになりました。そういうご縁で出演が決まるというのはありがたいことだなって思いました」
2022年、短編映画「人」(山口龍大朗監督)に出演。この作品は、不慮の事故によって死亡し、幽霊になってしまった青年・健一(吉村界人)と、幽霊が見える健一の母・彩子(田中美里)、そして既に他界し同じく幽霊となっている父・拓郎(津田寛治)が過ごす3日間を描いたもの。木ノ本さんは、彩子に淡い想いを寄せる青年・高橋役を演じた。
「年下ですけど彩子さんのことが好きなんですよね。冷やかされていましたけど(笑)。みんなでいろいろ話し合いながら、『じゃあ、この流れにしようか』みたいなところに行き着きました。
山口監督が撮影に入る前、『人に寄り添う映画にしたい』とおっしゃっていて感銘を受けました。残された人は何を思って生きているのか、自分の経験と照らし合わせて撮影に臨んでいました」
2024年、映画「THIS MAN」(天野友二朗監督)に出口亜梨沙さんとW主演。この作品は、「世界各地で人々の夢に現れた謎の男」として2006年頃から世界的に話題を集めたインターネットミーム「This Man」に、日本独自の解釈を加えて映画化したもの。
ある田舎町で連続変死事件が発生。被害者は全員、眉のつながった奇妙な風貌の男を夢の中で見ていたという。夢に出てくる男は「あの男」と呼ばれ、人々を恐怖に陥れていく。「あの男」の被害が拡大していく中、夫・義男(木ノ本嶺浩)や娘と幸せに暮らしていた女性・八坂華(出口亜梨沙)の身にも危険が…という展開。
「監督がやりたいことがたくさんあって、『夢の中に出てくるあの男を見たら死ぬ』というところから始まって、この日本に巣くっている怨念のようなものと対峙(たいじ)する。撮影前にディスカッションすることができたので、監督がどんな思いでこの映画を作りたいと思っているのか聞くことができて。『このシーンはこういう意図です』ということを話してくださったので、迷いなく役のイメージをつかむことができました。
僕は、この作品に出演する前から『THIS MAN』の都市伝説は知っていたんですよ。前にこの都市伝説をモチーフにしたドラマを見たことがあったので。でも、脚本を読んだ時、こんな形にストーリーが膨らむんだと思って驚きました」
――悲劇が起こる前の家族3人が幸せそうなだけに事件の悲劇性が増しますね
「そうですよね。奥さんや子どもの身に起きるつらい出来事を描くからこそ、日常を丁寧に描くことでそのつらさも引き立つと思いました。もちろん義男も得体の知れないものに対する不安はあるんですけど、それよりも妻の不安に寄り添ってあげようと思っているんですよね」
――家族のシーンの映像もきれいでしたね
「伊豆大島でのロケだったのですが、本当にきれいな場所でした。実際に広く知られている都市伝説では、人は死なないんですけど、この映画では次々と不幸な出来事が起こっていって、殺され方は残酷ですよね。悲しい物語の中に身を置いていたという記憶ですね、撮っていた時は。順撮りではなかったので、感情の動きには気を付けました」
――完成した作品をご覧になっていかがでした?
「見たことがない作品だなって思いました。映像に関しても監督がこだわった色合いがこんなにも際立つんだという驚きがありましたね。自然への畏怖みたいなものを感じて、それがあるからこそ、人々は見えないものに巻き込まれていくんだなって思いました」
■実際に祖父を介護する祖母の姿を見て
現在、主演映画「メモリードア」が公開中。この作品は、「認知症」、「ヤングケアラー」といった社会問題のテーマも盛り込みながら、若年性認知症と向き合う女性と、親の言うままに生きてきた青年の純愛を描いたもの。
27歳のサラリーマン・和也(木ノ本嶺浩)は、親の言うことをよく聞いて期待に応え、安定した人生を歩んでいた。ある日、偶然訪れた「認知症カフェ」で、20歳年上の女性・令子(辻しのぶ)と出会い、若年性認知症を患いながらも笑顔で周囲を照らす令子に、和也は心を奪われる。この出会いをきっかけに、和也は自分を縛っていた親が敷いたレールから解放され、人生で初めて真実の愛を見いだしていく…というストーリー。
「コロナ禍の前に撮り始めて、2020年に一応完成したんですけど、映画祭だとかいろいろ世の中の動きが止まってしまった中だったので、映画自体の動きもうまく進まなくなって。でも、そういうことを経て公開していただけるのは本当にありがたいと思いました」
――「ヤングケアラー」などさまざまな社会問題がテーマになっていますが、それを説教臭くなく描かれているところがいいですね
「そうですね。すごく自然に盛り込まれているなあと思いました」
――木ノ本さんのご家族は、自分がやりたいことを応援して下さったということですが、主人公の和也は真反対ですね。親が敷いたレール通りに進ませようとして
「そうですね。ちょっと考えると、やっぱりそれは楽だろうなと思うんです。親が敷いてくれたレールに乗って生きるというのは。自分の親がどうだったか考えてみると、芸能界に入る時は応援してくれたのですが、そういえば小さい時は、『消防士とか警察官とかになってほしい』と希望を言われていたなあって思い出しました。
僕の姉はしっかりとした企業に勤めたので、母親としてはそのほうが安心だと思っていたのかなって。だから逆に僕が俳優になると言った時に『やってみれば』みたいな風に言ったのかもしれないですけど、親の言う通りにしていたほうが絶対に楽だと思うんですよ。でも、日々生きていくうちにやっぱりハッと気づく時は絶対に訪れると思うので。
その訪れ方というのが、恋愛なのか仕事なのか、いろんな要素が起きると思うんですけど、和也の場合は、令子さんとの出会いというのが美しかったなって思いましたね。
加藤さんの前作の『三尺魂』とも重なるんですけど、悩んでいることに対してなかなか自分でどうにかしていかないというか、他力をちゃんと使える人みたいなのを描くのが素敵ですよね。きっかけが自然なんです。こういうことはあるだろうなって。物語の中ではスーッと入ってきて。
親が決めたレールに乗って生きることが果たして本当に幸せなのかなっていうところもあるし。そうやって幸せを築いていける人はもちろんいらっしゃるとは思うんですけど、和也の選択というのは物語的なというよりも、人として深みを増す選択になれているんじゃないかなって思いました」
――和也はあの時に気が付いて良かったですよね。
「あの時気が付かずに親が勧めるまま生きていて、『自分の人生はこれでいいのか?』って気づくタイミングがとても大事だと思いました。
和也は基本的にすごくいい子だと思うんです。ちゃんと人にも怒れるし、寄り添える。でも、どこか不器用なんですよね。『絶対にうまくいくはずないじゃん』ってみんなが思うことでも頑張ろうと思えるひたむきさもあって。
計算じゃなくて、素直に思って行動しているんだけど、それが裏目に出てしまうこともある。令子さんが車の中で突然和也のことがわからなくなってパニックを起こしてしまうところもそうですよね。やっぱり想像の域と実際とは違うというところが、うまく出ていますよね」
――監督が木ノ本さんをキャスティングしたのは、受けのお芝居もできる人だからだとおっしゃっていました
「本当ですか?初めて聞きました。そんな風におっしゃっていただけて本当に嬉(うれ)しいです」
――令子役の辻しのぶさんとは「三尺魂」でも共演されていますが、今回はいかがでした?
「僕は心を許している本当に素敵な女優さんです。辻さんは、ソッと居てくださるんですよね。『何かしなきゃいけない』というような焦りみたいなものがないんです。
辻さんがただジーッと見ているだけで成立するというか。独特の包みこんでくれる空気を持っていて、僕はその辻さんにというか、令子さんに応えてほしくてやっていました。温かみがすごいんです。辻さんが演じられているので、委ねていけば和也が出来上がっていったと言っていいぐらいでした」
――この作品に出たことによって認知症について考えたことは?
「祖父が実際認知症になって。からだが悪くなって、記憶に認知が入り、要介護がつき…ということが起きて祖母がお世話しているのをずっと見ていたんですね。
それを見て、そんな生半可なものじゃないということはわかっていますし、これがいざ自分とか家族に若年性でも認知症の症状が出てきたらどうするんだろうということは考えました。将来のことを考えるきっかけにもなりましたね。
やっぱり会社に勤めて…という生活をしているわけではないので、本当に一寸先は闇じゃないですけど、来年どうなるかわからない。明日どうなるかわからないという中で生きているわけじゃないですか。家族に対する寄り添い方っていろいろあるなということは、改めて考えました。
撮影している時には和也のことをまず理解するという作業になるので、木ノ本嶺浩としてのことはあまり考えないんですけど、撮影を終えた時に意識しました。
“認知症とは”とか“介護とは”ということに対して正解が決まっていない映画だと思います。認知症だから好きになったわけではなく、ただその人の人柄に惹(ひ)かれただけ。他の人から見たら“偽善”と思われるかもしれません。
何よりも認知症であることが普通であるというのが加藤さんの脚本には描かれていたので、僕はそこに委ねていけば、特別なことなくそこにいられると思いました。ぜひ見てほしい作品です」
誠実な人柄が感じられる真摯な姿勢が心地いい。私生活では2023年に結婚、2024年に第一子が誕生した木ノ本さん。家族という守る者ができて自身のからだに対する意識も変わったという。主演映画の公開という幸先のいいスタートとなった2026年、更なる飛躍に期待が高まる。(津島令子)



