青山学院大学在学中にポーラテレビ小説「おゆき」(TBS系)のヒロインに抜擢され、清純派若手俳優として人気を集めた名取裕子さん。1982年、「けものみち」(NHK)で清純派のイメージを一新。テレビドラマの松本清張ブームを巻き起こす火付け役となり、名取さんは数多くの清張作品に主演。1984年には、映画「序の舞」(中島貞夫監督)に主演。映画「夢千代日記」(浦山桐郎監督)、映画「吉原炎上」(五社英雄監督)など大作出演が続き注目の存在に。2月6日(金)には主演映画「テレビショッピングの女王 青池春香の事件チャンネル」(白川士監督)の公開が控えている。(この記事は全3回の中編。前編は記事下のリンクからご覧になれます)
■京都にひとり置いて行かれたおかげで…
「けものみち」出演を機に、オファーされる役どころも大きく変わったという名取さん。1984年、映画「序の舞」に出演。この作品は、母(岡田茉莉子)との愛憎を軸に、師匠(佐藤慶)・恩師(風間杜夫)・画塾生(三田村邦彦)など三人の男たちと関わりながら、日本画家として大成していく女・津也(名取裕子)の生きざまを描いたもの。
「東映京都撮影所で撮ったのですが、京都の撮影所って大変でしたね。マネジャーが私をひとり置いて東京に帰っちゃって。逆にそれが狙いだったんですけどね。
誰も面倒見てやらないからしょうがないなという感じで、その分(京都の)スタッフに受け入れてもらえたというか。早くにスタッフと打ち解けて、とてもラッキーでした。京都との出会いはありがたいことがいっぱいあったので。
あの当時は東映や松竹も女性ものが多かった。わりとハードな内容の作品が多かったですよね」
同年、映画「彩り河」(三村晴彦監督)、翌年には映画「櫂」(五社英雄監督)、「時代屋の女房2」(長尾啓司監督)、映画「夢千代日記」(浦山桐郎監督)など大作映画出演が続く。
映画「時代屋の女房2」は、東京・大井町にある骨董屋・時代屋の夫婦を中心に、この町に住む人々の人間模様を描いたもの。
この作品で名取さんが演じたのは、安さん(古谷一行)と呼ばれる主人が営む骨董屋にふらりとやってきて居ついた女性・真弓。ある日、安さんの旧友・谷村(加藤健一)が15年ぶりにアメリカから帰って転がりこんで来たのをきっかけに平穏な日常がかき乱されていく…。
――名取さん演じる真弓はミステリアスな役どころでしたね
「ちょっと不思議な感じでね。あれは(前作で)夏目雅子さんがやっていたんですよね。
それでピンチヒッターで出たんですけど、長尾監督とはテレビのシリーズものもずっと一緒に撮っていて、いまだにお付き合いがあるんですけど大好きな監督です」
同年、映画「夢千代日記」に出演。この作品は、吉永小百合さん主演のテレビドラマで人気を集めたヒロイン・夢千代の最期を描いたもの。
山陰のひなびた温泉町で、亡き母の後を継いで芸者置屋・はる家を営む夢千代は、広島で被爆した胎内被爆者。原爆症を発病して余命半年と宣告されている。陰のある旅役者・宗方(北大路欣也)に出会い惹(ひ)かれるが、彼は指名手配中の男だった…という展開。名取さんは、好きな人の本妻の代わりに後継ぎを産む芸者・兎役を演じた。
「(吉永)小百合さんと(樹木)希林さんが出ていて。小百合さんと一緒にロケに行って、ふたりで京都駅に夜、希林さんが夜行で東京に帰るのを見送りに行ったりしていましたね。万歳三唱して、『やめなさい』とか言われて(笑)」
――映像もとても綺麗でした。切ない話ですね。夢千代さんは命の期限が迫っていて
「そうですね。小百合さんも『夢千代日記』には思いがこもった役でしたから浦山監督と夜話し合いもしていらっしゃいました。小百合さんは本当に芯の強い方ですから」
――吉永さんが「夢千代日記」は映画でファイナルを迎えたいとおっしゃって、映画で完結する形になったと聞きました
「小百合さんは映画女優ですから、映画で完結したかったんでしょうね。完結にふさわしい作品だったと思います」
■実際に壮大な吉原のセットを作って燃やして…
1987年、映画「吉原炎上」(五社英雄監督)に主演。この作品は、明治末期の東京・吉原遊廓を舞台に、遊廓の華である花魁たちの華麗でしたたかな生きざまを描いたもの。
名取さん演じる18歳の久乃は、父親の借金を肩代わりするため、遊女として吉原の“中梅楼”に売られ、“若汐”という源氏名で店に出ることに。遊女の仕事を嫌った久乃だが、先輩の花魁・九重(二宮さよ子)から吉原のしきたりを教わるなどして次第に吉原になじむようになるが…。
――とても印象的な映画でしたね
「そうですね。セットとかね。『序の舞』も京都の町家を作るのにすごいセットでしたけど、『吉原炎上』は燃やすために吉原のセットを実際に作ったので、本当に規模の大きい映画でしたね。
今だったら簡単にCGとかでできるんですけど、あの当時はCGがなかったですからね。結局本物のセットを作ってやっているわけですからすごいですよね。燃やしてしまうんですもの。『一発しかできないよ』みたいな感じで」
――吉原が炎上するシーンは真冬に撮ったそうですね
「そうです。川も撮影所のセットの中に掘って作っちゃっていますからね。広い川を作って日が当たらないところで水がずっと汲み置きなので、ものすごく冷たいんですよ。
川の中のシーンは、本当に冷たい水の中で3回か4回NGが出て、撮り直しだったのでものすごく冷たくて大変でした。
吉原から逃げようとする足抜けシーンも大変だった。でも、悪役の人たちが本当に上手に、ケガをしないようにかばってやってくださってね。ちゃんと殴ったり、いじめているように見せかけながら、ケガをしないようにカバーしてくださって、本当にプロだなと思いました」
――かなり乱暴に突き飛ばされたり引きずり回されたりするシーンもありましたものね
「足抜けしようとしたわけですからね。ほかの遊女たちへの見せしめの意味もあるわけですから、やっぱりみんなすごいですよ」
――完成した作品をご覧になっていかがでした?
「3階建てのセットも、外のセット、一つの町も最後に全部燃やしちゃって、映画ってすごいなあって思いました」
――後々まで語られるような主演作品がずっと続いているというのはすごいことですよね。
「それは五社(英雄)監督や中島貞夫監督とか、村松友視さん原作の作品も多かったからですよね。あの頃は、立て続けにそういう大作が作られていました。邦画がだいぶ少なくなってきている頃だったから、『陽暉楼』(五社英雄監督)とか、東映の極道もの、女性の一代記のような路線が流行(はや)り始めていましたね」
1988年、映画「肉体の門」(五社英雄監督)に出演。この作品は、終戦直後の東京で娼婦としてたくましく生きる女たちの姿を描いたもの。
名取さんは、娼婦たちのリーダーで“関東小政”として知られる主人公の娼婦・せん(かたせ梨乃)と敵対している「らくちょう一家」のお澄役を演じた。敵対していた2人がお互いを認め合いジルバを踊るシーンが話題に
「私は銀座を根城にした『らくちょう一家』のお澄という役で出たんですけど、撮影は結構大変でしたね。ジルバを練習しなくちゃいけなくて、かたせさんと二人で習いに行ったりしていました」
■多くの連続ドラマ、2時間ドラマに主演
2時間ドラマの主演作も多く、「法医学教室の事件ファイル」シリーズ(テレビ朝日系)、「地獄の花嫁」シリーズ(フジテレビ系)、「葬儀屋松子の事件簿」シリーズ(テレビ東京系)などさまざまな主演シリーズがあることで知られている。
1992年、「法医学教室の事件ファイル」が1時間の連続ドラマとしてスタートし、1994年からは土曜ワイド劇場で放送されることに。
このドラマは、法医学を駆使して事件捜査に当たる法医学者・二宮早紀(名取裕子)とその夫であり神奈川県警横浜東警察署の警部・二宮一馬(宅麻伸)の活躍を描いたもの。30年近く続く人気シリーズに。
「最初は1時間の連ドラで始まって、そのあと土曜ワイド劇場に。昔は1時間の連続ドラマも2クール、26話だったのに、それがだんだん短くなって1クール、13話になったりとかして。
法医学教室は連続ドラマでも数字(視聴率)が良かったんですけど、2時間ドラマに変えてやりましょうというのは、局の方で考えて活かしてくれたコンテンツだったんですよね」
――毎回楽しみでした。二宮夫妻の息子の愛助くんが段々大きくなって3人くらい俳優さんが代わりましたね
「最初は赤ん坊でしたからね。3人かな?子役から中学ぐらいまでは同じ子がやっていて、
今はもう俳優さんじゃなくて、普通にお勤めしてお父さんになっていますけど。
先日、途中から後半、愛助をやっていた佐野和真くんが宅麻(伸)さんと京都で会ったとかで、『息子と会ったぞ』というメールを送ってきてくれました(笑)」
――名取さんと言うと「二宮早紀」と浮かぶ方も多いでしょうね
「長いですからね。刑事の夫と法医学者の妻という、夫婦のバディものみたいな作品がなかったから新鮮だったんでしょうね。夫婦がコンビで事件に向かうというのが。撮影も毎回楽しかったですよ」
大学時代に俳優デビュー以降、50年以上第一線で活躍を続けている名取さん。俳優業以外にも愛犬がドッグショーで何度もグランプリを受賞したり、マジック、アルゼンチンタンゴなどチャレンジ精神旺盛。「クイズプレゼンバラエティー Qさま!!」(テレビ朝日系)などクイズ番組でも話題に。次回は2月6日(金)に公開される主演映画「テレビショッピングの女王 青池春香の事件チャンネル」も紹介。(津島令子)
ヘアメイク:鈴木將夫(MARVEE)
スタイリスト:深尾きよ美