2001年、映画「自殺サークル」(園子温監督)で俳優デビューし、2005年に映画「YUMENO ユメノ」(鎌田義孝監督)で初主演を果たした菜葉菜さん。「ハッピーエンド」(山田篤宏監督)、「どんずまり便器」(小栗はるひ監督)、「ワタシの中の彼女」(中村真夕監督)などに主演。「インディーズ映画の女王」と称され、劇場で「女優 菜葉菜 特集」が開催されるほど映画ファンから熱い支持を集める存在に。2月28日(土)に主演映画「金子文子 何が私をこうさせたか」(浜野佐知監督)の公開が控えている。(この記事は全3回の中編。前編は記事下のリンクからご覧になれます)
■最強の二人がタッグを組んで
2012年、映画「どんずまり便器」(小栗はるひ監督)に主演。この作品は、過去のトラウマから抜け出せず、不器用な愛情表現しかできない姉弟の姿を描いたもの。菜葉菜さんは、
この作品で「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」最優秀主演女優賞を受賞した。
菜葉菜さん演じる主人公は、凶暴で男にだらしのない女・ナルミ。幼い頃に両親を事故で亡くしたナルミにとって、唯一信じられるのは、たった一人の弟ケイ。一方的な歪んだ愛情をケイに抱いているナルミは同僚を刺して服役していたが、刑期を終えて生まれ故郷に戻って来たことで、ケイと恋人の幸せな日々が不穏なものに…。
――衝撃的でした
「そうですね。いまだに結構言われます。マニアックな方に見ていただいて(笑)」
――主演をされることになった経緯は?
「事務所で監督と初めてお会いして、『ちょっとこれ読んでみてください』みたいなことはあったのかな?それがいわゆるオーディションだったかもしれないですね。そこで意気投合して決まったという感じです。
私は意外と自分で溜め込むタイプでもあるし、自分の元々の性格と、この仕事をしていく上で使われる立場だからちゃんとしないといけないとか、いい子でいないといけないとか、いろいろ考えるところがあって。
それで、そういう時期だったから尚更、本当の自分を出せるような役に出会いたいと思っていた矢先に、ナルミという激しい役をいただきました。しかも小栗さんと韓国映画や好きな女優さんが結構一致していたんです。
そういう女性を描きたいと言うので、『まさに私は今、そういう役をやりたいんです!』みたいな感じで完全に一致したので、決めていただいたというのはあります。
だからあの時の顔と目つきは違っています。自分のあの時の感情というか、心情は違いますし、何か当時の自分を思いっきりさらけ出せる役だと思いました」
――衝撃的なシーンもありましたね
「トイレで踏ん張るシーンまでありますからね(笑)。人前で踏ん張ることなんて普通はないじゃないですか」
――ナルミには最初は憎悪を感じるほど嫌でしたが、自分でもどうしようもなくもがき苦しんでにっちもさっちもいかない、こんな風にしか生きてこられなかった哀しみが心に突き刺さり、愛おしくなりました
「そうそう、そうなんですよ。ありがとうございます。そういう風に見ていただけたら嬉(うれ)しいです。映画が良かったなって思うのは、最初は全然共感できないし、『何?この人』って思ったのが最後愛おしく思えるっていう、最高の褒め言葉をいただいて嬉しいです。
小栗さん(監督)も自分で書いたオリジナルですし、二人で意見を出し合ってナルミを作っていったんですよね。小栗さんも、今はお子さんが生まれて柔らかくなっている部分もあるんですけど、当時はイケイケで反骨精神をもっていて、私もそうだったから最強の二人でした(笑)。
自分でもどうしようもないもどかしさみたいなのがあって、だから『大丈夫だよ』って、最後は抱きしめてあげたくなる。多分小栗さん自身もそういう女性だなって感じたので、私も小栗さんも一緒になって彼女(ナルミ)を作った感じで。それは私たちの思いが出ていたなという感じはあります。
時期的に言ってもそうなんですよね。自分たちが思う通りに世の中っていかないじゃないですか。そういういろんな思いをみんな抱えていると思うんですけど、ちょうど本当にいいタイミングでそういう作品と役と出会えたので、自分にとって財産ですね。
あの時だからできたものだと思います。ある程度いろんな経験をしてきた今、同じような役が来てもできなかった。やっぱりまだ新人の時の自分じゃないと表現できないもので、慣れてうまくなってくるとそういう風に見えないというか。
経験を重ねたことによって巧みになってしまうとピュアなお芝居ができないというか。それはもう致し方ないことなんですよね。『YUMENOユメノ』は本当にあの当時でしかできなかった。『どんずまり便器』もそうですけど、最初の方の作品はまさにあの時の私じゃないとできなかったと思います」
この作品はゆうばり(国際ファンタスティック)映画祭でも上映されたんですけど、当時のゆうばり映画祭はすごく盛り上がっていて。そんな中でベストアクトレス賞もいただいたのでインディーズ界で知っていただけるきっかけになった作品です」
■昔から脱ぐことに抵抗はなかった
2015年、映画「Bad Moon Rising」(喜多一郎監督)に菅田俊さんとW主演。この作品は、
長年寝たきりの母の介護に疲れて殺してしまった中年男・ケイジ(菅田俊)と、記憶の一部を失ったまま家族を探す女・トワコが出会い、母の遺体を乗せた車で旅を続けていく様を描く真冬のロードムービー。
――物語が進む中で、トワコの失われた記憶、悲しい過去が明らかになっていきます
「そうですね。人間ってやっぱりつらいこと、悲しすぎることがあると記憶がなくなることってあるんだなって」
――失われた悲しい記憶が時々フラッシュバックして…という難しい役どころでしたね
「ある部分の記憶がないんだけど、何かあるみたいなのを漂わせなきゃいけなかったので大変でした。でも、脚本があってのことなので、想像しながらですけど難しかったですね。
『これ大丈夫かな?』とか、『説得力があるかな?』とか、『変化していく様がどういう風に見えるかな?』とか、役としてもそうですけど、作品全体としてどう見えるかということも結構考えた作品でした。お芝居に関しては、菅田さんが結構引っ張っていってくださったので、私はわりと自由にやらせていただきました」
――完成した作品をご覧になっていかがでした?
「登場人物それぞれが抱えているものがありながら、生きていく中でいろいろな人と出会ったことによって一歩前進できる、そんな映画になっていると思いました」
2019年、映画「赤い雪Red Snow」(甲斐さやか監督)に永瀬正敏さんとW主演。
この作品は、少年失踪事件で、人生を狂わせた人たちの姿を描いたもの。
30年前に弟が忽然(こつぜん)と姿を消し遺体で見つかった事件により、自分のせいだと思い心に深い傷を負った一希(永瀬正敏)のもとに、当時事件の容疑者として浮かびながら無罪となった女(夏川結衣)のひとり娘で事件を目撃している可能性がある小百合(菜葉菜)が見つかったという知らせが記者(井浦新)から入る。それを機に30年の時を経て思わぬ真実が明らかに…という展開。
菜葉菜さんはこの作品で永瀬正敏さん、井浦新さん、夏川結衣さん、佐藤浩市さんら大先輩と共演することになり、心して挑まないといけないと覚悟を決めたという。「昔から脱ぐことに抵抗はなかった」という菜葉菜さんだが、この作品で初めて濡れ場を演じることに。
――「早く脱ぎたかった」とおっしゃったことが話題になりましたね
そうなんですよ。でも『早く脱ぎたい』が先走ってしまうと真意が伝わらないので、今は言葉を選んで話しますが、当時、昔の邦画を沢山見ていた時、田中裕子さんの『北斎漫画』(新藤兼人監督)を見て衝撃を受けたんです。若くしてこんなにも大人の色気を醸し出せるなんて…。自分も女優として『色気』のある大人な女優を目指したい、それにはエロスを追求しなくては…と(笑)。
田中裕子さんの作品を片っ端から見ては作品によって色気や可愛らしさやカッコ良さや色んな面を持っている姿を見て『うわぁ、素敵だなぁ』と。何というかもう年齢や性別をも超えるくらいの役者としての魅力に憧れていったんです。
だから当時、早く脱ぎたいと思っていたのは田中裕子さんに憧れすぎて(笑)。早くエロスを身に付けて作品でこういう経験をしてみたいとの思いからそう発言していたんだと思います。
もちろんそれは私個人の思いですし、役者に脱ぐ脱がないは関係ないですからね。役者としての心境だったり、思いだったり…私自身の覚悟というか。だから自分の憧れだったんです。単にそういう潔くカッコいい女優になりたいと思って。
もちろん何でもかんでも脱ぎたいわけじゃなくて、この役に必要性があるならばっていう、そこはもう大前提で。脚本に魅力がなくて、ただ脱ぐだけだったら絶対やらないです。あと、どういう監督かとか、一つの映画として脱ぐ必要があるのであれば、そこはもう喜んで脱ぎたいと思っています」
――初めて濡れ場のシーンを撮ってみていかがでした?
「何ということなかったですね(笑)。甲斐さん(監督)との信頼関係もあったからというのと、(相手役の)佐藤浩市さんがすごくケアしてくださいましたし、夏川結衣さんもすごく可愛がってくださったんですよね。
そういう濡れ場のシーンが初めてあるということで、夏川さんが『何かわからないことや不安なことがあったら、私が全部聞くから大丈夫』って常に言ってくださっていて。裏ですごく支えていただきました。
浩市さんは、インする前に、『菜葉菜にとって勝負の作品になると思うから、何でもぶつかってきていいよ』って言ってくださって。
濡れ場のシーンがあるということに関して細かくは話さなかったですけど、もちろんそれを踏まえた上で、『俺もちゃんとやるから頑張ろう』と言ってくださったので、そういう意味ではみんなが味方でいてくれた感じがあって心強かったです。
あの濡れ場のシーンは、好き好んでやっている感じの役じゃないので、無ですよね。役も無だから、そこに感情はないんですよ。彼女の場合は生い立ちでそういう風になっちゃってい るから。
初脱ぎだったから綺麗に撮ってほしかったなとか思うけど、あの作品で綺麗にというのはいらないし、そういう意味では身を委ねて“無”ですよね」
――夏川さんが子どもを虐待する酷い母親役を演じていたのは驚きでした
「最高でしたよね。夏川さんも大好きな女優さんで、憧れの女優さんなんですよ。大好きな夏川さんのお芝居を間近で見たり一緒にできることも嬉しかったですし、影でもそうやって支えてくださっていたので今でも感謝しています。
――永瀬さんとの雪の中のシーンも印象的でした
「私は結構寒い中での撮影が多いんですよ。30年前に何があったのか話して欲しいと追いかけられるんですけど、雪に足跡がついてはいけないから何度もやるわけにはいかなくて。
雪の中の撮影は大変でしたけど、永瀬さんにも本当によくしていただきました。やっぱりカッコいいなと思ってずっと見て来た先輩で、特に『映画の人』という方なのでW主演させていただけて嬉しかったです。『赤い雪〜』は本当に共演者の方に支えていただいたなって思います」
「赤い雪Red Snow」は、「第14回Los Angeles Japan Film Festivalで最優秀作品賞(グランプリ)を受賞。菜葉菜さんは、最優秀俳優賞を受賞して話題に。2016年には、劇場で「女優 菜葉菜 特集」が開催。2023年には、2回目となる特集上映も行われ、映画ファンの圧倒的な支持を集めている。
作品ごとに全く違う顔を見せる菜葉菜さん。次回は、4人の女を演じたオムニバス映画「私の中の彼女」、SMの女王様役にチャレンジした映画「夕方のおともだち」(廣木隆一監督)
の撮影エピソード、2月28日(土)に公開される主演映画「金子文子 何が私をこうさせたか」も紹介。(津島令子)


