2005年、映画「YUMENO ユメノ」(鎌田義孝監督)で初主演を果たして以降、「どんずまり便器」(小栗はるひ監督)、「ワタシの中の彼女」(中村真夕監督)など主演作も多い菜葉菜さん。薄幸の女子高生からSMの女王まで作品ごとに全く違う顔を見せ「インディーズ映画の女王」として広く知られている。2月28日(土)には、主演映画「金子文子 何が私をこうさせたか」(浜野佐知監督)が公開される。(この記事は全3回の後編。前編と中編は記事下のリンクからご覧になれます)
■エロスを追求していたこともあったが…
映画「北斎漫画」(新藤兼人監督)を見て田中裕子さんに憧れ、エロスを追求することにしたという菜葉菜さん。永瀬正敏さんとW主演を務めた映画「赤い雪 Red Snow」(甲斐さやか監督)で初めて濡れ場を演じて以降もエロスを追求し続けてきたという。
「スペイン語を勉強して、私のテーマであるエロスの追求を当時はしていましたね。なぜなら、憧れの田中裕子さんのエロスを身につけたいからって」
――これまで田中裕子さんと共演されたことは?
「まだお会いしたことはないです。私、田中裕子さんと共演したらどうなっちゃうんだろう?緊張しすぎてお芝居できる自信がないぐらい好きです。だから共演してみたいとは思いますけど怖くもあります」
俳優デビューして以降、多くの映画にコンスタントに出演して来た菜葉菜さんだが、コロナ禍はインディーズ映画もかなり影響を受け頓挫した作品も多い。
「撮影が止まって、その後に遅れてでも撮影できればいいんですけど、できなくなった作品もありましたからね。延期になって、中止になって…。でも、私だけが止まっているわけじゃないから仕方ないという、ある種諦めみたいなものもあって意外と大丈夫でした」
――結構メンタルが…という俳優さんもいらっしゃいましたね
「そう。メンタルがやられちゃう方たちもいっぱいいました。やっぱりずっと最前線を走り続けてきた人は結構きつかったと思います。
私は亀の歩みで一歩ずつ一歩ずつやってきた感じなので、少しお仕事が止まったとしても焦りのようなものはそこまでなかったです。ただ、あのままもっと長い期間止まっていたらそうも言っていられなかったとは思います。
ずっとあったものがなくなったわけじゃなくて、本当に1個ずつ階段を上って仕事が増えてきたという感じなので。そういう意味では、ずっとトップを歩かれている方たちにとっては、『急に仕事がなくなって大丈夫かな?』という不安が相当あったと思います」
2022年映画「ワタシの中の彼女」(中村真夕監督)に主演。この作品は、コロナ禍の中で孤独や不安を抱えながら生きる女性たちを描いたもの。4編からなるオムニバス映画で、菜葉菜さんは主人公の4人の女を演じた。
第1話の「4人のあいだで」は、コロナ禍のちょうどその時を描いた作品で、20年ぶりに連絡を取り合った大学時代の演劇サークルの仲間3人・ナナエ(菜葉菜)、フサエ(占部房子)、コウジ(草野康太)がリモートで語り合い、もうひとりの仲間に思いを巡らせることに。
「ナナエはかつて女優を目指していたけど、結婚して主婦に。20年ぶりに昔の仲間と話しているうちに記憶がよみがえってそれぞれの素性が明らかになっていくというのも面白いと思いました。リモート飲みというのもコロナがなかったら生まれてなかったですよね」
第2話の「ワタシを見ている誰か」は、在宅勤務の女性・メイ(菜葉菜)とフードデリバリーでアルバイトする写真家の青年・カズヤ(好井まさお)の交流を描いたもの。
「摂食障害で自分では食べられないから配達してくれたカズヤに食べてもらうという日々が続く。コロナ禍という状況だからこそ出会った二人の男女の物語です」
第3話の「ゴーストさん」は、2020年に渋谷区のバス停で路上生活者の女性が殴られて死亡した実際の事件を基に、20代後半の風俗嬢・サチ(菜葉菜)と60代の路上生活者・カヨコ(浅田美代子)の出会いを描いたもの。
「当時、いろんな問題とか事件があったし、コロナ禍で経済的にも精神的にも追い詰められた女性たちもたくさんいて…。あの当時の状況が思い出されました」
第4話の「だましてください、やさしいことばで」では40代前半の盲目の女性・トモコ役。
足に障がいを持つ母と暮らす彼女の元に、弟の同僚を名乗るタケオ(上村侑)が現れ、弟が急に入院することになったからお金を工面するようにと訪ねてくる。
「今も大きな社会問題になっていますけど、いわゆるオレオレ詐欺ですよね。トモコは目が不自由な分、敏感だと思うので、多分タケオが受け子だということに気づいていたと思うんです。でも、騙(だま)されたフリをしてお金を渡す。トモコの優しさに触れてタケオは受け子はやめるだろうなと思いますよね」
――ヒロイン4人、全く別人に見えました。4作品すべてのヒロインをと言われた時はどう思いました?
「1話目の作品が最初に出来上がったんですけど、短編一つじゃ公開できないので、あと何作か撮ってオムニバスみたいな感じでやろうということになって。監督が『じゃあ、菜葉菜さん、あと3役やったらどう?』っておっしゃったんですよ。
聞いた時には驚きましたけど、役者としてこんな挑戦ができる機会はないなと思ったので、
『一緒に作りましょう』って。みんなでアイデアを出し合って作っていった感じです。
期間も短かったので、あまり悩む時間もなく、不安になる時間もなく、とにかくひとつひとつの役を全うしようという感じでした。とてもいい経験をさせていただいたと思っています」
■企画から実現まで8年!SMの女王様役に
2022年、映画「夕方のおともだち」(廣木隆一監督)に村上淳さんとW主演。この作品は、寝たきりの母親と暮らす、一見真面目だが“ドM”の男・ヨシオ(村上淳)と、彼が夜な夜な通うSMクラブの女王様・ミホ(菜葉菜)が繰り広げる不思議な愛のカタチを描いたもの。
村上淳さんも大好きな俳優さんだったので(うれ)嬉しかったです。『ヘヴンズストーリー』(瀬々敬久監督)で初めてご一緒させていただいて、そこから先輩でもあり親戚のお兄ちゃんのようでもあり、『ヘヴンズストーリー』は10年間、一年に一回、新宿ケイズシネマさんで上映していただいていて、毎年舞台挨拶をしてみんなで集まっていたんです。なので、いつしか『親戚の集まりのようだね(笑)』と。
だからそれまで撮影でご一緒することはなくても、親戚のお兄ちゃんのように良くしていただいていました。
とはいえ、昔から邦画でたくさん見てきた憧れの俳優さんでもあったので、W主演をさせていただくということに興奮しましたし、本当に嬉しかったです。
何よりもこの映画は、8年ぐらい前に企画が生まれたんですね。原作である山本直樹さんの漫画は有名だったんですけど、うちの(事務所の)社長と廣木さんがたまたま『夕方のおともだち』を映画化したいという思いが一致していたそうです。
それで、『そういえば菜葉菜は主人公に似ているよね。これ映画化しよう。いつかやろう』ってなったんだけど、いろいろ難しくて8年もかかって。(原作の)山本直樹さんにも了承を得ていたのに、いろいろな問題があってなかなか実現しなかったんですよね。私は、その頃、大人の映画を撮りたい、演じたい、大人の映画に参加したいという思いがありました。
若い時はもちろんオーディションもいっぱいあるし、役もすごく多かったりするんですけど、特に日本は大人の恋愛をなかなか描かないことにちょっとムカついていて。別に50代、60代、70代、80代だって、死ぬまで恋愛映画があっていいはずなのにないんですよね。
洋画はそういう作品がいっぱいあるのに、なんで日本映画って少ないんだろうって思っていました。でも、『夕方のおともだち』を読んだ時に、山本直樹さんなのでエロスは大事なんだけど、描きたいのはSMの世界じゃなくて、悩みを抱えてどうにもこうにもうまくいかない大人の2人が出会ったことで、お互いがどこか救われたり変わらない日常の中でもそれぞれ一歩踏み出せたりする大人の物語が凄く良いなぁと思って」
――大人ならではの何とも言えない空気感がありますね
「そうなんですよ。その感じがすごくいいな、映画っぽいなあと思って。何か哀愁のある感じが大人の映画だなって。こういう役もやってみたいというのはあったんですけど、7、8年かかったので、『これはもう絶対ダメだな』って思ったこともあります。
廣木さんに会うたびに、『実現しようね!』という話をするんだけど、『今年もできなかったね』みたいな感じで。でも、8年もかかってようやく実現して完成した作品なので、廣木さんも喜んでくれたし、本当に嬉しかったですね」
――菜葉菜さんは、SMクラブの“バイトの女王様”を演じるにあたって、実際の女王様のもとで技術を学ばれたそうですね
「はい。教えてもらいました。家でも壁に向かって鞭を打つ練習をしたりしていましたね」
――村上さんは、ドMという設定で結構つらい目にあっていましたね。
「そうですね。村上さんとは信頼関係が築けているからこそ、鞭を打つシーンも『全然痛くないから、思いっきりやっていいよ』って言われた時に『言われなくてもやります。もう一回いいですか?』ってやっていました(笑)」
――菜葉菜さんは、バイトのSM女王様という設定でしたね
「バリバリではないのが良いですよね。単なるアルバイトです、という感じが(笑)。どこかに本当にいそうな2人の日常を描いているところにも魅力を感じました。そういった色んな思いのある作品だったので実現できて本当に嬉しかったです」
■「ニューヨーク国際映画賞」にて最優秀主演女優賞など5冠を受賞!
2月28日(土)に主演映画「金子文子 何が私をこうさせたか」が公開される。この作品は、金子文子(虚無主義者/無政府主義者)の死刑判決から獄中での自死に至る121日間を描いたもの。
1923年9月、朝鮮人の虚無主義者/無政府主義者の朴烈(小林且弥)と共に検束され、1926年3月に大逆罪で死刑判決を受けた金子文子(菜葉菜)。恩赦で無期に減刑されたものの、1926年7月23日、栃木女子刑務所の独房で自死してしまう…。
菜葉菜さんは、圧倒的な迫力と緩急自在の繊細な心情表現で壮絶な人生を駆け抜けた女性を演じ切り、「ニューヨーク国際映画賞」にて最優秀主演女優賞など5冠を受賞。海外でも高く評価されている。
「浜野監督から『金子文子の映画を撮りたいと思っている。菜葉菜さんにやってもらいたい』とお話をいただいて、そこで私は初めて金子文子という人物を知りました。
それで、映画が具体的に動きだして、脚本の山崎(サキは立つ)さんに聞いたり、自分でもいろいろ調べたり読んだり…というのを本格的に始めたのが1年前ぐらいだったと思います。
100年前の日本で、たった一人で国家に真っ向から闘いを挑み続けた女性がいたのだというのは本当に衝撃でしたし、知れば知るほどあまりに壮絶すぎてかわいそうでならなくて。
でも、かわいそうだということだけじゃなくて、監督が描きたい強い女性という部分がちゃんとあって。自分は自分であるということを堂々と最後まで貫く強い女性だなって」
――亡くなった時、まだ23歳だったのですね
「見た人に『全然23歳じゃないじゃん』って絶対言われるだろうなとか、印象についてもすごく考えたりしたんですけど、浜野監督が『私が描きたい金子文子は菜葉菜さんでしかできないから』と言ってくださって。背中を押していただきました。
私自身も役者として“何クソ精神”でやってきたタイプなので、どこかで浜野監督と金子文子と重なる部分がすごくあって。
みんな誰もが順風満帆にはいってないと思うんですけど、私は私なりの“悔しいという思い”が原動力になっていたんですよ。役者をやる上で、『この野郎、いつか見てろよ』みたいな怒りが自分の根底にあって、その怒りで頑張ってこられたので、浜野監督はそこを見て託してくださったのかもしれませんね」
――監督も菜葉菜さんも、いい意味で“闘う女”というイメージありますね
「そうですね。私も昔は特に役者としていつも闘う精神、姿勢でいたので。常に『何クソ!』という思いがありましたしそれが原動力にもなっていたのだと思います。
今回、金子文子を知り演じたことで真の強さというものを教えてもらった気がします。
強さを持つ為には努力も責任も覚悟も必要なんだということを。それは浜野監督を見ていても感じていたので、私にとって金子文子は浜野監督でもあると思っています。
文子を演じることは容易ではなかったですけど、誰よりも強い覚悟と思いを持った浜野監督、そして心強いスタッフやキャスト、関わる全ての方々のお陰で最後まで走り抜けることが出来ました。今の時代だからこそ、この映画を通して多くの方に金子文子という人を知ってもらえたらいいなって思います」
――この作品は、吉行和子さんの遺作になりましたね
「そうですね。吉行さんとは、浜野監督の『百合子、ダスヴィダーニヤ』、『雪子さんの足音』でご一緒させていただいているのですが、今回は文子の幼少期に文子を虐待する祖母役だったので残念ながらお芝居はご一緒出来なかったのですが、現場に行かせていただき吉行さんの気迫のお芝居を目の当たりにして改めて凄い方だと驚かされました。
そして、金子文子に興味を持たれ、生身の彼女を知りたいと強く望んだ吉行さんは企画の段階から携わられたのですが、完成した作品を見て『この映画が創られ私は金子文子に会えた。画面の美しさにまず息をのんだ。その美しい世界の中に金子文子は息づいていた。あなただったのね、と私は菜葉菜さんに言った』と感想をいただきました。それはもう自分にとって言葉にならないほどの喜びと幸せでした」
20年以上前から「インディーズ映画の女王」と称されるほど映画ファンから熱い支持を集め、多くの映画監督やスタッフに愛されている菜葉菜さん。2023年には2度目となる特集上映「女優 菜葉菜 特集」が開催された。
「1回目は2016年だったのですが、『私でいいんですか?』って思いました。何か恐れ多すぎて『怖い、怖い!誰が来るんだ?誰か来てくれるのかな?』って不安はありましたけど、ファンの方や映画好きの方々が来てくださったので、続けてきて良かったなって思いました。
毎日トークイベントもやったのですが、ゲストとしていろんな監督や共演者の方々も来てくださって本当に嬉しかったです。幸せな時間でした。現場で育ててもらったという意識はすごく強いですし、映画の楽しさを教えてくれたのはインディーズ映画。劇場でまた上映されたのはうれしかったです」
「金子文子 何が私をこうさせたか」以降も映画「POCA PON ポカポン」(大塚信一監督)、映画「四十九 SEEK2(〇の中の2)」(シェイン・コスギ監督)など公開作が続く。唯一無二の存在感を放つ菜葉菜さんにはスクリーンが良く似合う。(津島令子)




