アルマーニなど有名ブランドの海外で行われるファッションショーにも出演経験を持つトップモデルから俳優に転向した前川泰之さん。「半沢直樹」(2013年版・TBS系)、「仮面ライダービルド」(テレビ朝日系)、映画「Fukushima50」(若松節朗監督)などに出演。「痛快TVスカッとジャパン」(フジテレビ系)や旅番組など幅広いジャンルで活躍。映画初主演を果たした「宣誓」(柿崎ゆうじ監督)の公開が3月6日(金)に控えている。(この記事は全3回の中編。前編は記事下のリンクからご覧になれます)
■俳優を始めてから「お前はずっとモデルっぽさが抜けないからダメだ」と言われ
2005年に俳優に転向した前川さんだが、3,4年はモデルとしても活動。2009年に韓国の「アジアモデルフェスティバルアワード」で「モデルスター賞」を受賞している。
「事務所の上の人からは、『役者業を始めてからも、お前はずっとモデルっぽさが抜けないからダメなんじゃないか』ってずっと言われていたので、自分の中でも何か引っかかっている感じがあったんですよね。
それでお世話になっていた雑誌の編集長にもお話をして、役者業に専念したいので、一度モデルの仕事とは間を置きたいという相談をさせていただいたことはあって。30代後半は少し離れていました」
――俳優のお仕事はわりとコンスタントにされてきたイメージがありますが
「でも、やっぱり役者としての下地がなかったので、ドラマも最初は事務所に何本も入れていただいたし、映画も入れていただいたんですけど、自分に力がなかったのはだんだんわかってくることで、30代の後半くらいに苦しんだ時期がありました。
その時は自分でワークショップを探したり、いろんな書物を読んだりとか…とにかくみんな『役作り』という言葉をよく使うんだけど、『役作りって何なの?』ってずっと思っていたんですよね。自分がそれはわからないし、誰も教えてくれないし…。そういうことで結構苦しんだ時期はありましたね。
なかなか仕事がうまく繋(つな)がっていかない、自分もどうしていいかわからないという中で、たまたま39歳の時に『半沢直樹』(TBS系)というお仕事をいただいて、またそこから40代に弾みがついたという感じはありますね」
「やられたらやり返す。倍返しだ!」というセリフで知られる大ヒットドラマ「半沢直樹」で前川さんが演じたのは、半沢(堺雅人)の同期・近藤(滝藤賢一)が出向するタミヤ電機の2代目社長・田宮基紀。虚勢を張る秘密主義者で近藤に会社の内情を知られないように徹底するが、実は大和田専務(香川照之)に利用されていて、近藤に救われることに…。
「最後までどうなるかわからないという面白い役どころでした。最初は近藤にかなりきつく当たるんですけど、その近藤に助けられることになる。あれから役柄の幅も広がった感じがします。だから、『半沢直樹』がなかったら、またちょっと違う展開になっていたかもしれないですね」
――プロフィルを拝見すると40代に入られてかなり忙しくなったのでは?
「僕は全然落ち着いたことが1回もないんです。『自分なんて…』とずっと思い続けて来ていて。でも、そういう風に『忙しいでしょう?』と言っていただくことは多いし、しんどくなった時とか、『本当にやばい、もうダメだ』と思った時に、ありがたいことに面白い役をいただいたり、素敵(すてき)な作品に出会ったり…。
何となく節目節目で声をかけていただくことがあって、すごく助けられてここまで続けて来ているという感じです。ずっと劣等感でやってきたので。
40代後半からはさすがにキャリアもそこそこになってきて、そういうことは言わないようにしようとは思っていましたけど、基本的には下地がない自分という劣等感でやってきた感じですね」
■「仮面ライダービルド」やバラエティー「痛快TVスカットジャパン」出演辺りから役柄の幅が急に広がって
2017年、「仮面ライダービルド」にヒロイン・石動美空(高田夏帆)の父親でカフェ「nascita(ナシタ)」のマスター・石動惣一(いするぎ・そういち)役で出演。
「1年間その世界に浸れるし、そういう意味では楽しんでやろうと思ってやったのと、特撮は特殊な世界ではあるけれど、その中でキャラクターというのは必ず生きているし、見せ方もいろいろある。
やり方があるものなので、結構楽しんでやっていた部分と、あとは脚本がかなり面白かった。仮面ライダー作品の中でもビルドは、作品としてすごく面白かったと言っていただくことが多いので、あの中のマスターの役もまたひとつ大きな出会いだったとすごく感じますね」
――軽妙で粋な感じが印象的でした
「そうですね。その前後くらいからちょっと面白い役とか、人をいじめるような役をいただくようになりましたね。それはお芝居だけじゃなくて、『痛快TVスカッとジャパン』みたいなバラエティー番組でも注目されるようになったりして。その辺から急に役柄の幅が広がっていった感じがします。
(スカッとジャパンは)自分がそれまであまりドラマでは求められなかったキャラだし、『これやっていいんですか?』って(笑)。いろいろ考えてやってみたら結構喜んでいただいて、小学生とかがすごく覚えてくれて。あれで多分認知度が結構広がったかなって思います」
――前川さんのお子さんたちも「仮面ライダービルド」はご覧になっていたのですか?
「ビルドは、娘は喜んでいたかな。今、次男が8歳なんですけど、ちょうどビルドが放送されていた時に生まれたぐらいで。
去年、急にビルドを配信で見始めて『すごい面白い。パパの役カッコいいね』って。一緒に見たら改めて『面白いなあ』って思って。ストーリーも面白いし、2人でどハマりして最終回まで見ました。改めて、やっぱりいい作品に出させていただいたんだなって思いました」
――パパ株がまた上ったでしょうね
「そうですね。次男に去年のクリスマスプレゼントは何が欲しいのか聞いたら、『パパがビルドでつけていたベルトが欲しい』って。ちょっと嬉(うれ)しかったです。
基本的にドラマは小さいうちはあまり見せないんですけど、旅番組などは見せたいなと思っていて。そうやって家族、親子で楽しめる作品に出られたというのも良かったなと思っています」
――お料理や釣りの番組とかいろいろやられていますね
「ありがたいことに20代から釣りも好きだし旅も好きだったので、ライフワークみたいになっていて、仕事に繋がってきているのは、本当にただただ楽しませていただいているというか、ありがたいです」
――旅番組などで行かれたところにご家族を連れて…ということもあるのですか
「あったとは思うんですけど、絶対家族でここにまた来たいなと思っても、なかなかタイミングとか時間がなかったりして難しい。家族が行きたいと言うところがあったらそっちになっちゃう時もあるし。連れて行きたいところはいっぱいありますけどね」
2020年、映画「アパレルデザイナー」(中島良監督)に出演。この作品は、破天荒で個性的なデザイナーとアパレルメーカーの若手社員たちが、ぶつかり合いながらも新しい服を生み出していく姿を描いたもの。
前川さんは、流行に乗り切れず経営危機に陥ってしまった老舗アパレルメーカー「HIRAKATA」の社長(西村まさ彦)の弟で専務の平方祐輔役。独創性を諦め、合理化した大量生産の方向へ突き進もうとする社長を阻止しようと尽力する。
――モデル経験もありますが、ファッション業界が舞台の作品はいかがでした?
「僕らが見てないようなところの話だったから、知っているようで知らないという意味ではすごく新鮮でした。服の行き先の問題とかね。
同じようなものが大量に作られて売れ残ったものは大量に処分されてしまう。そういう部分もストーリーの中で取り上げていたのでちょっと勉強して。そういうこともあるんだということはショックでしたが、意識の改革みたいなところに繋がりました」
――売れ残った新品の洋服が全部処分されるというのはショックでした
「本当にそうですよね。それはなかなか解決できない問題ではあるけど、そういう意識を持つということはすごく大事なことなんじゃないかと思います。あの作品は、兄貴役が西村まさ彦さんで、主人公のデザイナーが高嶋政伸(高はハシゴダカ)さんですからね。濃いキャラに囲まれてとても刺激的な現場でした」
■「Fkushima50」から数年後、主演映画「宣誓」のタイトルを見たとき鳥肌と運命を感じた理由とは
2020年、映画「Fukushima50」に出演。この作品は、2011年3月11日に発生した東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故で、未曾有の事態を防ごうと現場に留まり奮闘し続けた人々の知られざる姿を描いたもの。前川さんは、陸上自衛隊・郡山駐屯地第6特科連隊・辺見秀雄役を演じた。
「今回の映画『宣誓』と同じ自衛官だったのですが、僕は『Fukushima50』で自衛官を演じることになった時に色々調べてく中で、初めて『(自衛隊員の服務の)宣誓』というものがあることを知ったんですよね。
それで、その時に『(自衛隊員の服務の)宣誓』って結構長いんですけど、終わりの3行ぐらいのところに自衛官の心得というものが要約されていたから暗記して、『Fukushima50』の撮影現場に行く時に、いつも口ずさんで役作りとして撮影現場に臨んでいたんです。
それが何年かして主演の話をいただいた映画のタイトルが『宣誓』ってなった時にはちょっと鳥肌が立ちました。運命というか、そういう巡り合わせを感じました」
――『Fukushima50』の撮影はいかがでした?
「僕らは基本的に原発でがれき処理とか、そういうことをやっていたので、タイベックという白い防護服を着て、顔があまり見えない中でやっていて。どっちかというと、からだを酷使してやっていく方だったんですね。
でも、最後に渡辺謙さん演じる所長と対峙(たいじ)した時に『撤退してください』って言われるんだけど、『民間の人たちが頑張っているのに、僕らはそんなことはできない。僕らの仕事は国を守ることです』という、すごく印象的な素敵なセリフをいただいたので、そこは大事にしたいと思っていました。
やっぱり(原子力災害派遣命令により)原発に配属(派遣)されてから何日間かは、多分ほとんど寝ずの作業だったと思うので、その間は僕もあまり家で寝ないようにしていました。ソファーでウトウトするぐらいにして、ちょっと顔もベタベタしたような感じで撮影に行っていたと思います」
――真摯な姿勢で役に向き合っていらっしゃいますね
「それはやっぱりコンプレックスですよね。素養がないというところからワークショップに行ったりして。だから、とにかく誠実に向き合うということだけは怠けちゃいけないなっていうのはすごくあります」
2021年、映画「189(イチハチキュー)」(加門幾生監督)に出演。この作品は、児童相談所虐待対応ダイヤル「189(いちはやく)」に助けを求める小さな命を救うために奔走する児童虐待対策班の活動を描いたもの。
前川さんは、東京都多摩南児童相談所虐待対策班で働く新人児童福祉司の坂本大河(中山優馬)の上司・多摩南児童虐待対策課課長・安川信弘役。
――ご自身もお子さんがいらっしゃいますので精神的にきつかったのでは?
「そうですね。もちろん虐待というものがあることは知っていたけれども、多分かなりの件数、身の回りにあるんだと思うんですよね。
そういう中でSOSを出せない子どもたちがたくさんいるというのはすごくしんどかったですし、とにかくそういうことが世の中にはたくさんあるんだということを知ってほしいっという思いで現場に行っていました」
――「189」番が児童相談所虐待対応ダイヤルだということをこの作品で初めて知りました
「そうですよね。認知度が低いのはやっぱり問題ですよね。被災地のこともそうですけど、やっぱり共感するというのはすごく難しいことなんだと思うんですよね。
みんなそれぞれ自分の生活が大変だったり、日々いろんなことがある中で、自分と直接関係のないところに意識を向けたり共感するというのはやっぱり難しいことだとは思うんだけれども、何かちょっと気になるニュースがあったら目を向けるとか、アンテナをシャットアウトしないように心がけておかないといけないなって。
そうじゃないと、どうしても流れていってしまうというのはすごく感じますし、もっともっと知ってもらうべく何か啓蒙活動みたいなものが必要な部分もあるんじゃないかなって思いました」
演じる役柄の幅も広がり、2022年には、自身も驚いたという映画「おそ松さん」(英勉監督)のイヤミ役にも挑戦した。次回は撮影エピソード、初主演映画「宣誓」も紹介。(津島令子)
ヘアメイク:堀 紘輔(+nine)
スタイリスト:四方章敬



