伝説のドラマ「若者のすべて」(フジテレビ系)に木村拓哉さんとW主演し、若手実力派俳優として注目された萩原聖人さん。話題作出演が続き、日本アカデミー賞優秀助演男優賞をはじめ多くの映画賞を受賞。2018年には、Mリーグ(麻雀プロリーグ戦)創設に伴い、日本プロ麻雀連盟からプロデビューし、プロ雀士としても活動。「冬のソナタ」(NHK)のペ・ヨンジュンさんの吹き替えでも知られ、ナレーションなど声優としても定評がある。4月24日(金)には最新主演映画「月の犬」(横井健司監督)が公開される。(この記事は全3回の後編。前編と中編は記事下のリンクからご覧になれます)
■コロナ禍で主演映画が撮影中断「待つしかなかった」
中学生の時に友だちに誘われて麻雀を始めたという萩原さん。1997年から芸能界の雀豪たちが一堂に会してNo.1を決定する「THEわれめDEポン」(フジテレビ系)に出演。最多優勝記録を持っている。
2018年、Mリーグ(麻雀プロリーグ戦)創設に伴い、日本プロ麻雀連盟からプロデビューし、「TEAM RAIDEN/雷電」所属のプロ雀士としても活動。
2022年、映画「島守の塔」(五十嵐匠監督)に村上淳さんとW主演。この作品は、太平洋戦争末期の沖縄を舞台に命や平和の尊さを描いたもの。
萩原さんが演じたのは、軍命に従いながらも沖縄県民の命を守ろうとした戦中最後の沖縄県知事・島田叡(あきら)。コロナ禍直前にクランクインし、その後1年8カ月間の中断を
経て撮影が再開された。
「撮影がコロナの緊急事態宣言を挟んで大変でした。世の中が大きく変わったわけですよね。作品のテーマがすごく重要だったんですけど、僕にはそれよりも監督の情熱というものが本当に大事で。長い中断はありましたが、五十嵐監督だからこそ、ちゃんと成立させることができたと思います。
こういう作品は、残念ながら娯楽作品と違って誰もが見てくれるというわけではない。世代もそうですけど、見る人を選んじゃう。
でも、ありがたいことに映画館がかなり長く上映してくださったんですよね。そういう報われ方って色々あると思うんですけど、本作に関してはやっぱり監督の情熱と愛情の賜物(たまもの)だったなと思います」
――撮影はどのような感じでした?
「僕が撮影に入って3日目ぐらいにスタッフの何人かが体調不良になってしまって。まだコロナという言葉もよくわからなかった頃だったんですけど、世の中がざわついていて。『これは例のあれじゃないか?』『明日の撮影はお休みにします』って言われて、結果そのまま撮影中断に。
実際はコロナじゃなかったんですが。でも、そこから1年8カ月の中断になりました。ただ、とにかく監督は僕とムラジュン(村上淳)と吉岡さん(吉岡里帆)の3人が揃わないと!ということだったので、3人のタイミング(スケジュール)が合う時と、映画の撮影状況、環境が整うまでひたすら待って…という感じでした」
――コロナ禍で撮れなくなってしまった作品もたくさんあったので、不安もあったでしょうね
「そうですね。本当に信じて待つしかなかった。でも、監督が一切弱気にならないで『絶対にやります!』とずっと仰ってくれていました。
多分、監督も不安に思ったことはあったと思うんですが、『だだ黙ってついてくれば何とかなる』ぐらいな、そういう権威のある監督なので、僕はいつ呼ばれてもいいような状態にしておかないといけないなと思って待っていました。完成して本当に良かったですし、自分にとってもすごく大切な作品になりました」
――戦時中の消息がわかっていない実在の人物を演じるというのは、難しかったと思いますが
「ご遺族の方もいらっしゃるので、それはやっぱり考えますよね。(実在の方を演じる時は)僕にできることは、台本にどれだけ誠実に、忠実に演じられるかだと思っています。
その人を再現することはできなくて、自分が演じることで実際に関わった方々にどう映るのかということでしかないので。
島田さんは、沖縄県人じゃないけど沖縄と沖縄県民と関わった生き様、信念に僕はすごく感動しました。ひとりでも多くの沖縄県民に生き残って欲しい、それしかなかったと思います」
■生きることへの絶望を抱えた男を体現
「冬のソナタ」のペ・ヨンジュンさんをはじめ声優としても知られている萩原さん。「ノンフィクションW」(WOWOWプライム)、「報道ステーション SUNDAY」(テレビ朝日系)、ドキュメンタリー番組のナレーションなどでも高い評価を得ている。
2024年、「オートレーサー森且行 約束のオーバル 劇場版」(穂坂友紀監督)でナレーションを担当。
この作品は、元「SMAP」のメンバーで幼少期からの「オートレーサーになる」という夢を叶えた森さんが、2020年、レース中の落車で命が危ぶまれるほどの大ケガを負い、幾度にもわたる手術と壮絶なリハビリに2年間を費やし、足に麻痺(まひ)が残った状態で復帰戦に勝利する姿を描いたドキュメンタリー。
――森さんとは、「3年B組金八先生」(TBS系)で共演されていたのですね
「はい。大人気アイドルグループのメンバーからオートレーサーになるという生き方を選んで厳しい訓練を重ねて今も現役で走り続けている。人間としての生き様がすごいですよね。ずっと気になっていたんです。
頻繁に会うわけではないんですけど、お互いにエールを送り合っていて。あのタイミングで森くんの映画ができるというのもすごい話だなって思いました」
4月24日(金)に公開される映画「月の犬」に主演。この作品は、「月にいる犬が吠えている」と言う一人の少年との出会いで、生きることに絶望した大人たちそれぞれの日常が連鎖的に変わっていく様を描く“ジャパニーズ・ノワール”。
萩原さん演じる主人公・東島は、最愛の伴侶を病で亡くし、生きる気力を失い、極道の世界から離れ、知らない街に流れ着く。何気なく入ったバーで多額の請求をされても何も言わずに金を支払う東島に興味を持った沙織(黒谷友香)は、東島に仕事を任せることに。
一方、組織の一員である南(深水元基)は、繰り返される日常が耐えられずにいた。東島について沙織から報告を受けた南は、東島が景色を変えてくれることを期待し、東島に一人の少年・将吾(渋谷そらじ)の面倒を任せる。黙々と仕事をこなしてきた東島だが、将吾の秘密を知ったことで変化が…。
――「月の犬」の主演のお話が来た時は?
「プレッシャーとかそういうことよりも、『何で僕だったんだろう?』ということと、監督とプロデューサーの方がこだわってくださっていたことが大きかったです。
『こういうのを萩原さんで見たいんです』と言われたのはすごく嬉(うれ)しかったですし、実際に脚本はすごく面白かったです。
ただ、『ATGの匂いを感じる映画』とのことで、世界観としては現代とどこまでマッチしているかというのは、ちょっと別の話になってくるじゃないですか。あえて今、これをやるというのはどういうことなのか。
それで、ジャパニーズ・ノワールというものをどう表現するかということについて、話し合いを幾度か監督としました」
――過去の極道時代については敢えて描いていませんが、ただ者ではない感じが漂っていて
「そうですね。かなりのことをやっていたのでしょうね。
でも、やっていたというか、やらざるを得なかったんじゃないかな。基本、とても誠実な人で、人を大事にしないわけでもない。
ただ、そういう世界で生きていくうちに、心の中の何かが一つ死に、二つ死に…ということになっていったのではないかと。でも、一番大事な妻の病気に気づかず亡くしてしまったことを悔やんで極道の世界を離れることに」
――病気に気づいてあげられなかったという罪悪感も
「そうです。もう守るものがなくなった時に、人はどう生きるのかというか。生ける屍(しかばね)とはよく言ったもので、何かゾンビに近いという感じですね。そういうところから物語が始まるんです。運命の受け入れ方ですよね。
やっぱり彼には目的がない。そうなってしまった男の迷いというか、破滅願望ですよね。ただ、悪事にはいかないんですよ。破滅願望があったとしても。決して人に迷惑をかけないというか、そこが東島という男の魅力だなと思います」
――それにしても流れ着いた知らない町で入った「ぼったくりバー」で会計が30万円。(東島は)よく払いますよね、文句も言わず
「これはもう守るものがなくなったから、どうでもいいということですよね。いろいろ監督と話し合って東島の像も変わってきて仕上がったという感じです。ちゃんとその世界観を感じながらも没入してもらえるような作品になったと思っています」
監督も「抗(あらが)いようのない喪失感を抱えた男を、そのたたずまいや生きながらえることを切望しないそのまなざしで、見事に演じきってくれました。萩原聖人さんはまさに東島龍そのものでした」と絶賛。生きることへの絶望を抱えた男の生き様が心に突き刺さる。
若い頃、複雑な問題を抱える若者を演じさせたら右に出る者がいないと言われ、やんちゃな雰囲気も印象的だった萩原さん。実力派俳優として30年以上第一線で活躍を続け、主演映画「月の犬」の公開に加え、公開待機作に映画「君が最後に遺した歌」(三木孝浩監督)、映画「2126年、海の星をさがして」(金子修介監督)がある。3月29日より舞台「ケムリ研究室no.5『サボテンの微笑み』」(作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ)に出演。多忙な日々が続く。(津島令子)
ヘアメイク:小口あづさ(NANAN)
スタイリスト:中山浩一郎
衣装:1PIU1UGUALE3




