映画「ヒポクラテスたち」(大森一樹監督)で本格的に俳優デビューして以降、ドラマに欠かせないベテラン人気俳優として広く知られている内藤剛志さん。「警視庁強行犯係 樋口顕」シリーズ(テレビ東京系)、「警視庁・捜査一課長〜ヒラから成り上がった最強の刑事!〜」シリーズ(テレビ朝日系)など主演ドラマシリーズも多数。5月8日(金)に映画「幕末ヒポクラテスたち」(緒方明監督)、6月12日(金)には主演映画「劇場版 旅人検視官 道場修作」(兼崎涼介監督)の公開が控えている。(この記事は全3回の後編。前編と中編は記事下のリンクからご覧になれます)
■単発ドラマから連続ドラマシリーズに
2012年、「警視庁・捜査一課長〜ヒラから成り上がった最強の刑事!」に主演。土曜ワイド劇場の単発ドラマとして5作品放送された後、2016年から連続ドラマとして放送されることに。
内藤さん演じる主人公は、ヒラ刑事から警視庁管内の殺人・強盗・傷害等の凶悪犯罪の捜査を担当する刑事部捜査第一課のトップに這い上がった大岩純一捜査一課長。このドラマは都内で発生する数々の凶悪事件を信頼する部下たちとともに解決していく様を描いたもの。
決めゼリフの「必ず、犯人(ホシ)を挙げる!」も話題に。
――単発のドラマだった作品が連続ドラマになっているというのがすごいですね
「それはやっぱり先輩の渡瀬恒彦さんに『スタッフを含めた全員がやりがいを持って撮影に臨んでいるか。それは必ず映像に出るから、いい現場を作るのは主役の大切な務めだ』と言われたことが大きいです。
僕のことを嫌いな人ももちろんいらっしゃると思います。それは当然で仕方のないことです。そんな方にも好きでいてくださる方にも同じように精一杯頑張ることが僕の役割です」
連続ドラマ「警視庁強行犯係 樋口顕」シリーズ、そしてスペシャルドラマとして放送。内藤さん演じる主人公は、警視庁捜査一課強行犯係の樋口顕警部。樋口警部の盟友にして最大の理解者である警視庁生活安全部少年事件課の氏家譲警部補(佐野史郎)の協力も得て、部下たちと共に数々の事件を解決していく。
――佐野史郎さん演じる氏家警部補との居酒屋シーンも毎回楽しみで
「最高ですよね(笑)。佐野とは20代から親しいですけど、なかなか2人一緒にならないんですよ。大河ドラマとかはいいんだけど、普通のドラマだと、やっぱりどっちかひとりみたいなことになっちゃうんですよ。
例えば、『ちょっと変わった人』の役だったら、佐野か僕かどっちかでいいみたいな感じで、2人が揃(そろ)うことはなかなかない。なくはないんですけど、ほとんどない。
時代劇とか、あるいは『科捜研の女』(テレビ朝日系)のゲストであいつが来るとかね。そうすると、主役のやっちゃん(沢口靖子さん)がいますから、僕と2人になることはないんです。
それで、ある時、松原信吾監督が、『こういう原作があるんだけど』って言ったのが、今野敏さんの樋口顕シリーズだったんです。『男2人のコンビの話だから内藤くんと佐野くんで見たい』って言われて。
こっちももう願ったりかなったりですよ。樋口顕も20年以上やっていますからね。2年ぐらい前に一応オーラスというのはやったんだけど、相当長いです。
『警視庁・捜査一課長』とかに来てもらっても2ショットにならないんですよ。他のドラマに来てもらって一緒にやったことはあるんだけど、VS(バーサス)になるんです。それはそれでいいんだけど、何かまた同サイドでやりたいよねって」
――とてもいいコンビですよね
「ステキでした。いいですよね。あれは本当に映画化してもらいたいと思う。あれが映画として成立するんだったら、やりたいという思いが自分の中ではずっとあります。ああいう地味な刑事ものって本当に面白いです」
■大学の特別講師として年に4回授業も
6月12日(金)に主演映画「劇場版 旅人検視官 道場修作」(兼崎涼介監督・崎は立つ)が公開される。この作品は、亡き妻の残した雑記帳とともに旅に出た内藤さん演じる主人公・元警視庁検視官の道場修作が、旅先で遭遇する事件を解決する様を描いたもの。これまでテレビドラマとして6作品放送され、初の映画化となった。
「こういう形で樋口もやれればいいなと思っています。50歳を過ぎたぐらいから刑事役とか警察関係の役がすごく多くなりました。そうじゃなくても結局事件を解決することになるんですけど(笑)」
――道場さんは亡くなった奥さまが残した雑記帳を手に足跡をたどる旅に
「俳句をたどって行くんですけど、その先々で事件が起きてしまう。そこはしょうがないですよね(笑)。でも、映画にもなるというのはありがたいことです。
スピンオフをやりたいという話はしていたんです。事件が起きないやつとか作りたいねって。基本的には俳句を基にした奥さんとの旅だから。それがスピンオフじゃない形で映画になったという感じですかね。
『ちょっとこういう形でやってみない?』って言われて、映画にするためにはどうするかということをみんなで考えて。テレビとはまた違うやり方をやらなきゃいけないと思ったので、そういう意味では面白い現場になりました」
――亡くなった奥さまへの愛が感じられてステキですよね。食事の時も必ず奥さまのワイングラスも用意してもらって
「そう。いいですよね。あれはテレビシリーズでやっているんだけど、『映画にするってどういうこと?』って。嬉(うれ)しい驚きでした。
もちろん、映画とテレビは違うんです。で、まず言っておきたいのは、ヒエラルキー(階級・階層)として映画が上にあるわけじゃないです。そういう意味じゃ違う、似て非なる媒体だと思っているんですよ。
例えばヒポクラテスをテレビで今後やるんだったら、やっぱり形を変えなきゃダメですよね。そういうことだと思います。それをすごく思いました。スタッフでも監督も含めて、『映画って何?』ということが、常にスタートなんでしょうね」
――ご自身の中では、映画はどのように捉えてらっしゃいますか
「これは物理的な話です。まず暗闇の中で面と向かって見るじゃないですか。それと、人と一緒に見るということ。ここは全然違うし、その時間に映画館に行かなきゃいけない。面と向かうという覚悟みたいなものがいる。
テレビも多くの人で見るかもしれないけど、あんなに知らない他人がいる映画館の中で、もう二度と会わないかもしれない人たちと一緒に時間を共有するというのは、やっぱり全然違うと思いますね。
だって、お客さんは目を背けられないわけじゃないですか。スクリーンと正対するわけだから。その中でどういう表現がもつのかなって、やっぱりどこかで思いますね。そこが一番の違いだと思います」
――内藤さんご自身は、スタートが自主映画ですね
「映画です。『本編』って言うでしょう?昔は、『映画に出てない俳優は…』みたいな、そういうヒエラルキーは、なくはなかったと思う」
――昔は、アメリカなどは特に映画スターとテレビスターでは違いがありましたが、近年はNetflixのようなネット配信もありますし、映画しか出なかったスターがテレビドラマに出るようになりましたね
「そうですね。僕は(日本大学芸術学部)映画学科。中退ですけど、去年からそこで年4回講師をやっているんです。今の若い人たちにとって映画は、僕が思っていた映画とは違うんです。要するに映像だと映画もテレビもNET配信も一緒だと思っている。
僕たちが作っている時は、8ミリがあって、16ミリがあって、35ミリがあって…何が違うかというとそれぞれ情報量が全然違う。
だから本番に向かう時の意識が違ったんです。そこで成立するかどうかというのがあって。
だけど、今はないでしょうね。映像という括りになっちゃっているんだなって。だから『映画学科』だけど、『映像学科』だと思って来ているんじゃないですかね。
映画を公開して何カ月かしたらサブスクで見る人も多いでしょう?スクリーンで見ることとサブスクで見ることが、多分一緒なんですよ。映画マニアは別ですよ。必ず劇場で見るとこだわっている人はいますし、それはそれでいいと思うけど、基本的に今の子たちは映像として括っているでしょうね」
――内藤さんご自身は、そういう変化をどのように思っていらっしゃいますか
「時代と共に変わっていっていいと思います。『昔の映画は…』という気は全くないし、時代に合わせていかなきゃいけないと思いますが、演じる側としては、意識は違いますよ。
映画はお客さんがものすごく大きい画面で見ることが一応前提ですね。目を背けられない状態でわざわざ来ていただいて、お金も払っていただいている。その人たちに対して何をやるかは、自由に寝転がってどんな時間でも録画したら見られるテレビとはちょっと違うよっていう思いはあります」
■大森一樹監督の遺志を受け継いで集結!
5月8日(金)に公開される映画「幕末ヒポクラテスたち」に出演。この作品は、内藤さんの本格デビュー作である映画「ヒポクラテスたち」の大森一樹監督が生前最後に企画した映画。医師免許を持つ大森監督の母校である京都府立医科大学創立150周年記念映画として、幕末の医者たちの物語を企画し、撮影準備を進めていた2022年に監督が急逝。企画は立ち消えになりかけたが、かつて助監督をつとめ、大森監督を師と仰ぐ緒方明監督が遺志を受け継いで実現。内藤さんは、佐々木蔵之介さん演じる蘭方医・太吉と犬猿の仲で、“どんな病も葛根湯”の漢方医・玄斎役を演じた。
幕末、京都の郊外に位置する村。長崎で医学を学んだ大倉太吉(佐々木蔵之介)は、貧富や身分を問わず市井の人々を救おうとする寛容で好奇心旺盛な蘭方医。漢方医・玄斎(内藤剛志)とは、日々激しい論争を繰り広げる犬猿の仲だ。ある日、気性の激しい青年・新左(藤原季節)を太吉が手術で救ったことを契機に、太吉と新左の人生が大きく変化していく。やがて未知の疫病が村を襲い、コロナ禍を想起させる事態に…という展開。
緒方明監督を筆頭に、大森監督を70年代から知る脚本家・西岡琢也さん、京都出身の佐々木蔵之介さん、内藤さん、柄本明さん、大森監督作「風の歌を聴け」で映画デビューを果たした室井滋さんがナレーションを担当するなど、大森監督ゆかりのスタッフ、キャストが結集した。
「1980年に大森さんが、『ヒポクラテスたち』を撮った後、その後というか、『あのまま若い俺らが大人になっていたらどうなんだろうな?』っていう話はしていたんです。80年に撮ったものが答えではなかったような気がするんです。
その答え合わせをしたかったんじゃなくて、やっぱり先へ先へ考え続けることだよねって
言っていたなと思って。それは覚えています。
大森さんは今回いらっしゃらないけど、緒方さんは大森さんの遺志を受け継いでいるわけだから、本当の意味で続編が来たなと思いました。監督が考え続けていたこと。人を救うことはできるのか、人を救うって何なのか、命って何なのかということを今回もやっぱりこだわっていらっしゃる。テーマとしてはね。だけど、非常に面白い。前の『ヒポクラテスたち』もそうでしたけど、よりエンターテインメント性があると思う」
――前作は、学生運動の名残、森永ひ素ミルク中毒事件など80年代の時事ネタも盛り込まれていてシリアスな雰囲気でした。今回は時代劇でチフスの流行という深刻な要素もありますが、エンターテインメント性があってとても面白かったです
「ありがとうございます。良かった。だから時代劇だと思ってアレルギーを起こさないでほしいと思う。時代劇というのは、今でも実際にそうだということをもっと強く言っていることだと思うんです。
この時代からすると170年ぐらい経っているけど、同じことを今も感じられるってことは、その間変わらなかった価値ということじゃないですか。例えば、『人の命は大事だよ』ということ。価値観に関して変わらないよということ。
だから、時代劇を見たことがない人でも楽しんで見られると思います。笑って、手に汗握って、泣いて、スッキリして…みたいなことで楽しんでいただきたいと思います」
――玄斎先生はユニークなキャラですね
「そう。『蘭方医なんて…』って、最初は犬猿の仲だったんだけど、命を助けられて変わる。だからそこもエンターテインメント性強くやろうと緒方監督も思ったろうし、もちろん台本もそういう感じで。ヒール(悪役)から始まって、実はその人が…っていう大きい流れを見せることが今回の僕のテーマでしたね。
だって、蔵之介側は信念があって変わらないわけだから、そこでワーッと動くのが周りだと思って。それも面白くやらなきゃいけないって思っていました」
――蔵之介さんとのディスり合いも絶妙で面白かったです
「そうでしょう?あの役は蔵之介以外考えられないよね。飄々とした雰囲気を漂わせながらも命を救いたいという強い信念を感じさせる。それで適度にとぼけた部分もある。
大森さんの映画はそうなんだよ。基本コメディ感がない人はやっぱりちょっと良くないんだよね。だからやっぱり蔵之介なんだよ。彼は京都出身だし、僕は大阪で、関西独特の雰囲気ってありますよ」
――緒方監督を筆頭に大森監督を70年代から知るスタッフ、俳優さんが集結しました
「柄本(明)さんとは他の現場でも会うんだけど、45年も経つと、人は亡くなるわけですよ。本当はもっとたくさんの人と会いたかったけど、もういないんです。だから、何が言いたいかというと、思ったことはすぐやらなきゃダメだって。『いつか』はないんだなと。
何かやりたいと思ったら、すぐにやらないといけないねって。時間というのはあっという間に経つし、この映画の最後の方で言うじゃないですか。蔵之介と2人のところで、『時は流れているんだな。最前列にいたと思ったら、今最後尾だぜ』という2人の会話がある。時は残酷に流れるよねって。
だからこそ、やれる時には一緒にやろう、やっておくべきだな、ということですね。ある程度の年齢だったらもっと思うでしょう。
若い人があれを見て、いつか『昔映画でさ、最前列だったのが最後列になっている…みたいなことを言っていたね』って思うかもしれない。僕も『ヒポクラテスたち』からの46年は、あっという間だった。クランクインの日も覚えていますよ。その日にやったこともね。だから、学問でも何でもそうだけど、極めるには人生は短すぎるということじゃないですか。
僕は、ヒポクラテスはこれで終わりだとは思ってないんです。僕の夢はもう1本作ること。
ヒポクラテスたちで医者になったばかりの彼らが70歳になった医者で現代の中でどういうところにいるのか。やりたいですよね。だから本作の公開決定時のコメントに『監督!映画化が決定したら、また必ず電話をください。楽しみに待っています』って書きました。多くの人にぜひ見てほしい作品です」
――朗読劇、MC、ラジオパーソナリティー、声優など、幅広いジャンルでいろいろチャレンジされていらっしゃいますね
「そうですね。でも、この頃ちょっと仕事の質が変わってきて、刑事じゃないものがいっぱい来ますね。不思議です(笑)。
でも、選択肢は色々あっていいと思っていて。そのことが僕の場合はですけど、演劇に返ってくるものが大きい気がするんです。何がということじゃないですよ。明文化できるものではないですけど。
それはもちろん自分がやりたいということよりは、言われてやるものが多いわけですけど、そのことが今この年になってみると、やっぱり芝居が1番にあるものだと思いますね。結局そこのためにやっているようなところがあります」
――「千と千尋の神隠し」(宮崎駿監督)や「コクリコ坂から」(宮崎吾朗監督)をはじめ、声優さんとしても多くの作品がありますね
「そうなんです。でも、意外と知られてないんですよ。ああいうのは、声優で見ないで千と千尋を見るわけじゃないですか。だから知らないんですよ。この間もずっと一緒に仕事をしていてジブリ好きな人と話していたら、すごく驚かれて。『俺は豚になってポスターにもなっているんだぜ。あれ俺だから』って言うとすげえ驚く人がいる(笑)。面白いですよね」
――5月と6月、公開作品が続きますね
「そうなんです。だから、まずは宣伝活動も含めていい形で皆さんにお届けしたいです。ぜひ、映画館で見て欲しいです」
「ヒポクラテスたち」で本格デビューしてから46年、映画、テレビ、ラジオ、CMなど幅広いジャンルで活躍を続けている内藤さん。ベテランの域に達しても仕事に対する準備は徹底していて何時間でもセリフの練習をしているという。真摯に取り組む姿勢がカッコいい。(津島令子)
ヘアメイク:長縄希穂〔MARVEE〕




