コメディーセンスを発揮するコミカルなキャラからシリアスで残忍な役どころまで緩急自在に体現している俳優・吹越満さん。2000年、映画「ホワイトアウト」(若松節朗監督)で話題になり、「警視庁捜査一課9係」シリーズ(テレビ朝日系)、「釣りバカ日誌〜新入社員 浜崎伝助〜」(テレビ東京系)、映画「冷たい熱帯魚」(園子温監督)などに出演。「全力坂」(テレビ朝日系)のナレーターとしても知られている。映画「未来」(瀬々敬久監督)が公開中。6月12日(金)に主演映画「鍵」(いまおかしんじ監督)、初夏に映画「バナ穴BANA_ANA」(山内ケンジ監督)の公開が控えている吹越満さんにインタビュー。(この記事は全3回の前編)
■“ソフトモヒカン”の髪型はベッカムより先だった?
青森県で生まれ育った吹越さんは、高校卒業後、映画俳優を目指して上京。1984年、「劇団WAHAHA」本舗に参加したという。
「親に反対される前に家出して上京したんです。嘘をついて。だから、当時は反対はされませんでした。劇団に入った後、そういう方向に行きたいと言った後に、『帰って来い』って言われました。
でも、ずっと帰ってなかったら、本当に田舎ですから変な噂になっちゃって。よくわからない新興宗教の団体に入ったみたいな話になってしまって『オタクの息子は大丈夫か?』って聞かれたことはあったみたいです」
――俳優として認められるようになったのは?
「認められたことはないですね。うちの両親は、この3年で2人とも他界していて。さすがにもうやめて帰って来いと言われてはいなかったですけど、いつまで言われていたんだろう?結婚してからも言われていたような気がするな。帰って来いって。
テレビとか映画に結構出るようになってからも『ガソリンスタンドでも新聞配達でも、仕事は何でもあるから帰って来い』って言われていました。おやじが一度舞台を見に来たことがあるんですけど、『お前の舞台は二度と見ない』って言われて帰られたことがあります。それ以降来てないです(笑)」
2000年、映画「ホワイトアウト」に出演。この作品は、日本最大の貯水量を誇るダムを占拠したテロリストグループを相手にたったひとりで奮闘する男の姿を描いたもの。
大雪に覆われた2月、日本最大の貯水量を誇る新潟県奥遠和ダムがテログループ“赤い月”
に占拠され、ダムの職員を人質に取り50億円を要求、24時間以内に要求が通らない場合はダムを爆破すると通告される。
ダムが決壊すれば下流域の20万世帯が激流に飲まれてしまう。テロリストの見張りを逃れたダムの運転員・富樫(織田裕二)は、猛吹雪と豪雪で閉ざされた中、たったひとりで戦うことに…という展開。
吹越さんは、ダム設備の知識が豊富で、ダム制圧の中心的人物である笠原義人役。かつて、赤い月が仕掛けた爆破テロにより妻子を失われた過去を持ち、復讐をするために小柴拓也という本名を隠してテロの犯行グループである赤い月に潜入したという設定。
――割と早くから映像もやられていますが、初期では映画「ホワイトアウト」が印象的でした
「大きい仕事と言えばそうだったかもしれないですね。撮影自体が新潟の雪山に行ったりとか、スノーモービルに乗らなきゃいけないとか、現場にいる時間が長い役柄だったので、それは嬉(うれ)しかったですよね。携わり方が大きいということで言うと。
それまではやっぱり舞台が多かったし、一番一生懸命やっていたのは、「フキコシ・ソロ・アクト・ライブ」というひとり舞台だったわけですけど、映像では小さい役が結構多かったですね。
――妻子の復讐のためにテロ組織に潜入しているという設定で
「そうです。要は裏がある。復讐するために組織に潜り込んでいるテロリストの役をやるというので髪の毛を切りに行って男性の美容師と相談して、あの髪型にしたんですよ。『この髪型はソフトモヒカンとでも言おうか』という話をその時にしていたんだけど、もちろん全く話題にもならず(笑)。
2002年のサッカーの日韓ワールドカップでベッカムがすごい人気になって、真ん中だけちょっと立たせるヘアスタイルが“ソフトモヒカン”って流行(はや)りましたよね。『あの髪型は、俺ホワイトアウトでやっていたんだけどな』って(笑)。
(美容師の)彼と僕しかその証人はいないけど。つまり、ベッカムで流行ったけど、ソフトモヒカンって言い出したのは俺のほうが早いんだよっていうことが言いたい(笑)。髪型自体はもちろんベッカムの方がカッコいいのかもしれないけど」
――あの時、ベッカムを真似してあの髪型にする人が多くいましたね
「そう。ソフトモヒカンが流行りました。僕が先にやっていたからと言ってもそれを見て真似しようと思う人はいないですけど(笑)」
――「ホワイトアウト」以降、お仕事の状況は変わりました?
「そうでもないんじゃないかな。あまり意識してないんですよ。ただ、僕はアルバイトをしなくてすむようになったのは意外と早いかもしれないですね。25歳ぐらいにはもうバイトしてなかったかな。他の方のそういう苦労話はあまり聞いたことがないですけど、早い方じゃないですかね」
■ナレーションを担当している「全力坂」で自ら走って…
2005年、「全力坂」(テレビ朝日系)の放送がスタート。この番組は、東京の数ある坂をアイドルや俳優などが全力で駆け上がる様を映し出すもの。吹越さんはナレーションを担当。「この坂もまた、実に走りたくなる坂である」というナレーションで知られている。
――ステキな声ですね
「そうですか。ありがとうございます。声の仕事はポツポツやっていましたけど、声に関しては親に感謝ですよね。声は変えられないので」
2022年1月11日(火)の3000回記念放送回では、吹越さんが全力で坂を駆け上がって話題に。
「番組が続けば続くほど、1000回記念、2000回記念、3000回記念という感じで何かやらなきゃいけないみたいな空気になっているから、『3000回の時は吹越さんお願いします』って言われて。最初に聞いた時は『えっ、俺?』って思ったけど、『おー、いいよ』みたいな感じで(笑)」
――坂道を走るのはきつくなかったですか
「あれは分けて撮ったんですけど、サンダルで走ったぐらいですからね。まだ大丈夫でした」
――毎回、皆さんすごいなあと思って拝見させていただいています
「あれは速度とかじゃなくて、一生懸命走ってくれるというのがいいんですよね。特に女の人は、走り姿に特徴ある人がいたりして面白いです」
――同じ坂が登場する時もナレーションは新たに収録されているそうですね
「そうなんですよ。同じ坂の時も使い回しじゃなくてもう1回新たにナレーションを録っているんですよね」
■渡瀬恒彦さんに「監督以外で芝居をこうやれって言ったのは、お前が初めてだよ」と言われ…
2006年、「警視庁捜査一課9係」(テレビ朝日系)の放送がスタート。このドラマは、警視庁が多発する凶悪犯罪を解決するために新設した「第9係」の係長・加納倫太郎(渡瀬恒彦)を筆頭に、浅輪直樹(井ノ原快彦)、小宮山志保(羽田美智子)、村瀬健吾(津田寛治)、青柳靖(吹越満)、矢沢英明(田口浩正)の6人の刑事たちが、難事件を解決していく姿を描いたもの。
「シリーズになるという話は特に聞いてなかったですけど、水曜日の午後9時というのは、長く続いている刑事ものの枠ですよね。歴史もあるし、そこに入るというのは、ちょっと怖いなって思いました。『俺大丈夫かな?』って」
――撮影が始まってからはいかがでした?
「想像していたよりも(撮影の)速度も速いし、監督は怒鳴っているし、慣れるまで大変でした。
20年前だとまだ現場にガンガン(暖をとるための焚火用具で石油缶の上部を開口したもの)が置いてあって、場所が許せばセッティングの時にタバコを吸ったりしていたんだけど、その時間もないくらいで撮っていたので、『こんなに速いの?』って。
僕、撮影初日に熱を出しちゃったんですよ。雨が降っている日で、朝から撮影していたんですけど、ちょっとやばいなって思って。プロデューサーに言って、昼休憩の1時間の間に病院に行かせてもらったんですけど、熱はあるし、めちゃめちゃ具合が悪くて。
1日頑張って帰ってきて、次の日はちょうど僕は撮影がなかったので休めたんですけど、それが離婚した直後でひとり暮らしをまた再開したところだったんですよ。40歳で発熱して家にひとりでいるのはきついな、寂しいなあって(笑)」
――毎シリーズ楽しみでした。皆さん息もピッタリで
「ありがとうございます。毎年2月から6月まで撮影して、終わると皆さんそれぞれ別の仕事に戻って、また次の年に帰ってくるという感じになってくるんですよね、やっぱり。
でも、毎年最終回の撮影が終わった時は、まだ翌年にあるかどうかは知らされていなかったんだけど、これは長く続くだろうなって思い始めて。ちょっと特殊なものにしておかないと、長くやるのは飽きるだろうなと思って、自分でも役に味付けしていきました。
あと、別のドラマとか映画でもそうなんですけど、刑事役の話があった時に絶対被らないキャラクターにしておこうと思っていました」
――(吹越さんが演じた)青柳刑事は、サングラスが印象的でしたね。レンズが上に外れて
「あれはいつからだったろう?僕の私物だったんですけど、それを持ち込んで、『こういうサングラスでいっていいですか?』って使うようになりました。ああいうサングラスの人っていないんじゃないですか、他のドラマでも」
2017年、渡瀬恒彦さんが逝去。Season12は第1話の冒頭に過去の渡瀬さんの映像を使用する形でスタート。係長は、内閣テロ対策室改造準備委員会のアドバイザーを兼務するために不在という設定で放送された。
「2017年は渡瀬さんがやると思って動いていたので、亡くなった後の3カ月は大変だったんじゃないですか。渡瀬さんありきで用意していたので。
僕らも頭の中が整理つかない状態のまま撮影が始まっていましたからね。渡瀬さんが亡くなったと聞いた時は、もう撮り始めていたんじゃないかな。渡瀬さんが戻ってくると思っていましたからね、みんな。
渡瀬さんも撮影現場に戻って来るつもりで病室に台本をずっと置いてあって、読んでいたって聞きました」
――渡瀬さんのことで特に印象に残っていることは?
「まず、怒られましたね。一緒に撮影しているシーンだと、『何を言っているのかわかんない。もう1回やり直せ』って、監督より先にダメ出しを食らってやり直したりしていました。
一緒に出てないロケのシーンとかは、渡瀬さんはオンエアで見るんですよね。それで『何をやっているんだ?あいつらは。あれはレッドカードだ!』って言われたりして。『でも、監督はOK出しましたよ。監督がOKって言ったんだから俺は悪くないっすよ』って言ったりしてね(笑)。
ある回でアイドルが殺されて、正確な名前は忘れちゃったんですけど、例えば、山口ともみちゃんというアイドルがいてファンからは、“山とも”って呼ばれていたとするでしょう?
二人目の被害者のアイドルがたばたくるみちゃんで、『“たばくる”って呼ばれているのかなと思ったら、くるみちゃんだったんだよ』というセリフがあったんです。
でも、僕は、係長に何て言われていたと思うか聞いて『たばくる?』って言ってもらって、『いや、違うんですよ。くるみちゃんなんですよ』っていう会話をやりたかったんです。
そうしたら、渡瀬さんが『そう言ったほうが面白いのか?』って言うから、『面白いと思うんです』って。そうしたらやってくれて。『実はくるみちゃんなんですよ』って言ったら『お前、騙(だま)しやがったな』って手を振り上げて俺が殴られる寸前でカットということに」
――そういうところは割とノリがいい方だったのですか?
「そうですね。プロデューサーさんとかは、『渡瀬さんにそんなのはちょっと大丈夫ですか?』みたいな感じの空気になっていたんですけど、『大丈夫だよ』って。
でも、そのあと渡瀬さんが『監督以外で俺に芝居をこうやれって言ったのは、お前が初めてだよ』と言われたいい思い出があるんです。いい思い出かどうかわかんないけど(笑)。周りは絶対ヒヤッとしたと思います。
渡瀬さんご本人が言っていたんですけど、『お前がボンボンボンボン火をつけて回るから、俺は消火器持って追いかけなきゃいけないんだ』って。だから、もっとやれみたいなことを言ってくれていました」
渡瀬さんの器の大きさを感じさせる。2018年からは、「9係は一度解散し、再び同じメンバーで特別捜査班を組んだ」という設定で「特捜9」としてドラマがスタート。吹越さんも引き続き青柳刑事役で出演。2011年には映画「冷たい熱帯魚」(園子温監督)に主演、2015年には「釣りバカ日誌〜新入社員 浜崎伝助〜」など出演作が続く。次回は撮影エピソードなども紹介。(津島令子)
※吹越満(ふきこし・みつる)プロフィル
1965年2月17日生まれ。青森県出身。近年の主な出演作に、「Winny」(松本優作監督)、「リボルバー・リリー」(行定勲監督)、「Love Will Tear Us Apart」(宇賀那健一監督)、「i ai(アイアイ)」(マヒトゥ・ザ・ピーポー監督)、「アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師」(上田慎一郎監督)、「フロントライン」(関根光才監督)、「アフター・ザ・クエイク」(井上剛監督)、「兄を持ち運べるサイズに」(中野量太監督)、「未来」、ドラマでは「9係」&「特捜9」全シリーズ、「キンパとおにぎり〜恋する二人は似ていてちがう〜」(テレビ東京系)、「東京P.D. 警視庁広報2係」(フジテレビ系)、6月28日から放送の「勿忘草の咲く町で〜安曇野診療記〜」(NHKBS)などがある。6月12日(金)に主演映画「鍵」、初夏に映画「バナ穴BANA_ANA」の公開が控えている。



