コメディーセンスを発揮したコミカルなキャラからシリアスで残忍な役どころまで緩急自在に演じ分け、独特の存在感を放っている俳優・吹越満さん。「警視庁捜査一課9係」&「特捜9」シリーズ(テレビ朝日系)で19年間青柳靖警部補役を演じ、「全力坂」(テレビ朝日系)ではナレーションをつとめて21年目。映画「Winny」(松本優作監督)、映画「フロントライン」(関根光才監督)、「東京P.D. 警視庁広報2係」(フジテレビ系)など多くのドラマ、映画、舞台に出演。現在、映画「未来」(瀬々敬久監督)が公開中。6月12日(金)に主演映画「鍵」(いまおかしんじ監督)、6月27日(土)に映画「バナ穴BANA_ANA」(山内ケンジ監督)の公開が控えている。(この記事は全3回の後編、前編と中編は記事下のリンクからご覧になれます)
■パソコンもスマホも持っていなくて…
2023年、映画「Winny」に出演。この作品は、ファイル共有ソフト「Winny」の開発者が逮捕され、著作権法違反ほう助の罪に問われた裁判で無罪を勝ち取った一連の事件を描いたもの。
2002年、データのやりとりが簡単にできるファイル共有ソフト「Winny」を開発した金子勇(東出昌大)は、その試用版をインターネットの「2ちゃんねる」に公開。瞬く間にシェアを伸ばすが、その裏では大量の映画やゲーム、音楽などが違法アップロードされ社会問題に発展してしまうという事態に。開発者の金子も著作権法違反ほう助の容疑で2004年に逮捕されてしまう。
金子の弁護を引き受けることとなった弁護士・壇俊光(三浦貴大)は、金子と共に警察の逮捕の不当性を裁判で主張するが、第一審では有罪判決を下されてしまう…。
吹越さんは、刑事事件で無罪を10回以上勝ち取った伝説の弁護士で金子さんの主任弁護士をつとめた秋田真志さんを演じた。金子さんは、2004年に逮捕されてから7年後、2011年に無罪が確定する。
「僕は、携帯電話は使っているけど、パソコンもスマホも持っていないので、『Winny』のソフトがどうのとか、専門的な話は何を言っているのか全然わからなかった(笑)。
実際にあった事件で金子さんの話だということもよくわかってなかったので、やりながらだんだんすごいことだったんだということがわかってきた感じで。
僕自身は、パソコンとかSNSとかゲームを全くやらないから、その重要性がわからなかったんだけど、金子さんは、Winnyを『X』になった『Twitter』や『フェイスブック』、『インスタグラム』より先に開発されていたわけでしょう?
それで、本当は悪くないんだけど、悪用されて著作権侵害に当たるということになって。僕は、無罪を勝ち取った弁護チームのリーダー役ということで、光栄なことだなって思いました。でも、逮捕から7年かかって無罪が確定したんですけど、残念なことに、その2年後に金子さんが亡くなったんですよね。
まだ43歳という若さでしたし、Winnyの次のソフトを開発している途中で亡くなったと聞いて、本当にものすごい人だったんだなって思いました」
――この作品を見ると、金子さんには悪意は全くなく、純粋な探求心で開発していたのだということがよくわかりますね
「そう。それこそ目の前に山があるからそこに登ったという感じですよね。セリフでも出てくるんですけど、本当に純粋な探求心で取り組んで来た人だったんだなってわかりますよね。著作権を侵害しようとか、そんな腹なんか全くないということがね。
でも、裁判のことなんて何もわからないから、検察側の『あとで訂正できる』という言葉を信じて事実ではない供述調書に署名してしまう。それで、自白したということになって大変なことになってしまうんですよね」
■裁判シーンは実際に弁護をつとめた先生が監修
裁判のシーンの監修は、実際に金子さんの事件の弁護を担当していた壇俊光先生だったという。
「三浦(貴大)くんが壇先生の役をやっていたんですけど、裁判のシーンで、『僕はそういう風にはやっていない。その時僕は立っていた』という感じで完全に再現なんです。それは面白かったですね。
それで、僕が演じた秋田先生ご本人の実際の裁判がどんな風だったのかを壇先生に聞いてみましたら、ひとり芝居のようだったらしいのです。
裁判長や傍聴人を相手にしたひとり芝居。みんな気持ちを持っていかれるみたいな感じだったらしいのです。そんな本当に魅力のある先生に完成作品を観られるのは大変だぞみたいな(笑)」
――実在の先生を演じることにプレッシャーは感じました?
「本人や知っている人たちから『実際はそうじゃなかったのに』とか言われるのは、やっぱり嫌だなと思いますよね。
でも、原作があるものをやる時に、『全然イメージが違う』とかっていう話って絶対ついて回ると思うんですけど、それに近いのかな。しょうがないですよね」
――完成した作品をご覧になっていかがでした?
「面白いなと思ったし、松本さん(監督)、いい人と出会ったなとも思いました。映画館で完成披露試写の時に、秋田先生と初めてご飯に行ったんですけど、ニコニコしていたから『
良かった。うまくいったんだな』って。
秋田先生に『一緒に写真撮っていいですか?』って言われちゃったりなんかして(笑)。ポケットに携帯が入っていて、可愛いストラップをつけていたし、弁護士先生みたいな固いイメージじゃなかった。試写が始まる前は、『ご本人が来ている。これから見るんだ』って、ちょっとヒヤッとしましたけど(笑)」
それで言うと、前に『土竜の唄 潜入捜査官REIJI』(三池崇史監督)という映画に出たんですけど、原作の漫画を見ると僕がやった酒見路夫というキャラクターが、どう見ても田中邦衛さんなんですよ。顔が似せて書いてあるというか。
それで、『これは監督どうやりましょう?』って聞いたんだけど、なかなか答えを出さずに、撮影に入っちゃったんですよね。田中邦衛さんに寄せた方がいいか、そうじゃない方がいいか答えが出ないまま。
原作があるものだし、描いた漫画家先生の意図もあるだろうし…迷いながら撮り始めて、田中邦衛さんの特徴をたまに入れたり入れなかったりでやっていて。『三池さん、どうしましょう?このまま行くか、やめるか、どうしましょう?』って聞いたら、『まあまあ、ちょっとやってみよう』みたいな感じで、撮って撮って撮って…撮り終わっちゃって(笑)。
それで大きな劇場でお客さんを入れて完成披露試写会をやったんですよ。もちろん原作の先生も来て。で、試写後のレセプションパーティーで先生に『ありがとうございました。どうだったでしょう?』って聞いたら、『あれでいいです』って言ってくれて。
『もしシリーズが続いたら、やっぱりあれでいいですか?』って言ったら『いいです』って言ってくれたから監督に『あれでいいですって言ってくれましたよ』って伝えたの。そうしたらその喜び方がすごかったんですよ(笑)。
監督もちょっと迷いながらだったんじゃないかと思うんだけど、まるで自分が最初から指示したみたいな感じで。そんなに喜ぶんだったら最初に『こういう風にいきましょう』って言ってよって。こっちは『あれは違いますね』とか言われたらどうしようって思っているわけですからね(笑)」
■新型コロナウイルスの感染を描いた映画に出演
2025年、映画「フロントライン」に出演。この作品は、日本が初めて新型コロナウイルスの集団感染に対応した豪華客船「ダイヤモンド・プリンセス」での実話を基に、未知のウイルスに最前線で立ち向かった医師や看護師たちの闘いをオリジナル脚本で描いたもの。
2020年2月3日、乗客乗員3711名を乗せた豪華客船が横浜港に入港した。香港で下船した乗客1名に新型コロナウイルスの感染が確認され、船内では100人以上が症状を訴えていた。
日本には大規模なウイルス対応を専門とする機関がなく、災害医療専門の医療ボランティア的組織「DMAT」が急きょ出動することに。指揮官・結城英晴(小栗旬)、厚生労働省の立松信貴(松坂桃李)、現場で対応にあたるDMAT隊員・真田春人(池松壮亮)、医師・仙道行義(窪塚洋介)をはじめ、多くの医師・看護師が集められる。
彼らは治療法不明のウイルスを相手に自らの命を危険にさらしながらも、乗客全員を下船させるまであきらめずに闘い続けることに…。
吹越さんは、船内の対策を批判する動画を配信し、世論に大きな影響を与えるキーパーソンの感染症専門医・六合承太郎役。
「モデルになった先生の映像を見たんですけど、あれだけバーっと出て持ち上げられていたのに、風向きが変わったら叩かれて映像も削除。怖いというか…。僕自身がそのことを全然知らなかったので、『こういうこともあったんだ』という感じでしたね」
――コロナ禍は撮影などもストップしていたと思いますが、どのように過ごされていました?
「緊急事態宣言の後も不要不急の外出はちゃんと避けて、それこそ『全力坂』のナレーション録りとか、『特捜9』も1回撮影が止まった後にコロナ仕様の撮影をして。それ以外はずっと家にいました。
やることがないから、自分でやっているYouTubeをやったりとかね。事務所でもタレントとか役者を黙ってほったらかすわけにはいかないから、YouTubeチャンネルを進んでやりましょうみたいな話になって。僕も何本か作って配信していました」
――それまで撮影が全部ストップして…ということはなかったですからね
「でも、全部ストップしなきゃいけないって言われると、『ラッキー』って安心しますよ。
『やっちゃいけないんでしょう?』って。ゆっくりもできたし、YouTubeを1週間に1本か、10日に1本ぐらいずつあげようと頑張って考えたりとかして、それはそれで楽しかったような気がする」
――不安はあまりなかったですか?
「だって、青森から東京に出て来て、こういうことをやろうと思った時から不安はずっと抱えているから、今更という感じですよ(笑)」
現在、映画「未来」(瀬々敬久監督)が公開中。この作品は、複雑な家庭環境で育ちながらも教師になる夢を叶えた女性が禁断の計画を立てた教え子を救おうとする姿を描いたもの。
複雑な家庭環境で育ちながらも、祖母の期待に応えて教師になるという夢を叶えた真唯子(黒島結菜)。彼女の教え子・章子(山崎七海=崎はたつさき)のもとにある日、一通の手紙が届く。差出人は――「20年後のわたし」。
半信半疑のまま返事を書くことで、父を亡くした悲しみや、心を閉ざした母との孤独な日々に耐えていた章子だが、母の新しい恋人からの暴力、壮絶ないじめ、そして信じがたい事実が彼女を容赦なく追い詰めていく。章子は唯一心を通わせる友人・亜里沙と「親を殺す」という禁断の計画を立てるが…。
吹越さんは、学校にも顔が利く県議会議員だが、娘が小学校5年生の時から暴行を加えている森本総一郎役。
「あれは内容もさることながら、時間制限というか、ちゃんと時間通りに撮影は終わらなきゃいけないというのを守っている現場だったから、それはそれで大変だったかもしれないですね」
――実の娘に虐待をしていて、そのことを知った妻は心を病んで自死しています
「嫌なお父さんですよね。いろいろ抱えている問題や理由はあるんでしょうけど、許されることではないですから」
――撮影している期間は、役を引きずったりすることは?
「それはないです。カットがかかったら終わりという感じなので、役が抜けないとか、引きずるということはないかな。撮影している時も別にガラッと変わっているつもりはないですけど」
■自分の死後の妻の身を案じながらも嫉妬して…
6月12日(金)より主演映画「鍵」が公開される。この作品は、谷崎潤一郎の小説「鍵」に大胆なアレンジを加え、ある夫婦の愛を描いたもの。
工務店を営む剣持耕三(吹越満)は医者に余命半年の宣告を受ける。歳の離れた妻・郁子(菅野恵)を案じた剣持は、部下の木村(小出恵介)と郁子を浮気させようと画策。「浮気だのなんだの揉めているうちは、俺が死ぬってことを忘れるだろう」と考えたのだが、思惑通り徐々に距離を近づけていく木村と郁子を見て、身体の衰えとは裏腹に次第に嫉妬を募らせていく…。
――オファーがあった時はいかがでした?
「何の作品でも声がかかった時は嬉(うれ)しいです。ただ、舞台の稽古が始まるというスケジュールと被っていたので、参加するのはひょっとすると難しいかもしれないということがあったんですけど、色々予定を動かしていただいてやれるってことになって。
そこまで動いていただけるんだったら、ぜひやりましょうということに。ただ、撮影は5日間だったんです」
――この作品全部5日間で撮ったんですか。それはすごいですね。朝から晩までずっと撮影だったのでは?
「そうです。朝7時に現場に入って、夜11時か12時ぐらいまで撮ってという感じでした。
衣装合わせと本読みが1日あったので、6日間で撮影は5日間。
大変でしたけど、撮影自体は楽しかったですよ。寒かったり、時間はなかったですけど、役としては、はっきり言ってわからないことがなかったので、そんなに悩みもしなかったし。
妻役の菅野恵さんと一緒のシーンが一番多かったんですけど、助けていただいた感があります。とてもやりやすかったですね」
――自分が死んだ後が心配で幸せになってほしいんだけど、でもヤキモチを妬いてしまうというのは人間的でよくわかりますよね
「自分が死んだあと、誰かに抱かれるなんて我慢できない。男の人でいうと年齢的なこともあるんでしょうけど、原因としては切実な問題を抱えていて。最後に死ぬ前に奥さんをもう1回抱きたいって思っている。本音としては、1回だけじゃなく、何回でも抱きたいんでしょうけど、やっぱり切実であるからこそ笑える部分もありますよね」
――「鍵」は、これまでにも何回か映画化されてきましたが、公開を控えていかがですか
「谷崎潤一郎原作であるということがちゃんと描き込まれているので、そういう意味では谷崎ファンも興味を持たれるんじゃないですか。
谷崎潤一郎のあの原作のテイストというか、雰囲気、ちょっとアブノーマルな感じと、時代背景。時代で言うと、ちょっと暗いとか、おじいさんがよだれを垂らして…というのを想像したりしますけど、そうだと思って引いて見に来ない方もいると思うんです。
でも、実はそうではないんですよって。だから、まずは見ていただいて、いろんな感想を言っていただくのがいいかな。変態度が低い分、女性が見やすい作品だと思うから、意外に谷崎さんのイメージとは違いますよということで(お客さんを)呼んでもいいだろうしね。
谷崎さんファンにはどれだけ谷崎潤一郎のイメージと違って現代風にアレンジしているか、ポップになっているかということで文句を言いに来てくれればいい(笑)。とにかくまずは見てほしい。どんな人が来てくれるかなって気になりますね」
■ペディキュア&マニキュア歴15年
吹越さんといえば、マニキュアとペディキュアをしていることでも知られている。この日はブルーがかったホワイト。
「マニキュアは、もう長いですよ。15年ぐらいしているんじゃないかな」
――始めたきっかけは何だったのですか?
「僕は、基本的にビーチサンダルでずっと過ごしているんですよ。よっぽど寒い日以外は
1年中。それで、元の奥さんの広田レオナさんに『ビーチサンダルでいるのはいいんだけど、ただの貧乏だって思われないようにペディキュアでも塗れば?』って言われたのがきっかけで、足の爪を塗っていたんですよ。
ビーサンだと爪が見えるから。『一応見せるためにビーサンだよ』みたいな感じで(笑)。どっちかよくわからないですけど、わからなくていいんですよ。それで、そのうち酔っぱらって、手にも塗るようになって」
――撮影の時には落とすわけですよね
「そう。落とさなきゃいけないんです。撮影の前に落として、その日の夜にまた塗る。で、『明日の朝また現場だ』と思ってまた落として(笑)」
――少しブルーが入って綺麗な白ですね
「これも昨日酒を飲みながら塗ったやつです。暇だからね。女の子じゃないから綺麗に塗る必要はないんですよ。別に可愛くなりたいわけじゃないから楽なんですよ。楽がいいんだったら塗らなくていいだろうって話なんですけどね(笑)。でも、この先もこんな感じなんだろうな」
――今後はどのように?
「いただける仕事は、なるべくたくさんやりたいし、長く身体が動くような身体作りをしてキープするということ。それを仕事のようにやる。時間があるからやるとかじゃなくて、それに伴ってやっぱ自分でモノを作るっていうことは続けていきたいなと思っています」
ボクサーの役を演じたことがきっかけで、ボクシングジムに通い始めて15年。スリムで引き締まった姿がカッコいい。独特の存在感と確かな演技力で映画、ドラマ、舞台、ナレーションなど多忙な日々が続く。(津島令子)





