人口減少やクマ被害のニュースが相次ぐ秋田県鹿角市で、2026年11月1日、市内初となるロックフェス「クロマンタロックフェス」が開かれる。
クロマンタとは「黒又山」の愛称で、いわゆる“ミステリースポット"として県内外から注目される円錐状の山だ。その山の形状から「ピラミッドなのではないか」という都市伝説もある。
加えて、黒又山周辺では未確認飛行物体の目撃が絶えず、「UFOが襲来する山」としてテレビや雑誌などで数多く取り上げられている。
「UFOが飛来してくるように、お客さんもいっぱい来てくれるといいなと思って名づけました」
フェスの主催者はそう語った。
フェスの出演者には、SAKANAMON、サニーデイ・サービス、つじあやの、奈良姉妹らが名を連ねる。
筆者にとって鹿角市は、生まれ育った故郷でもある。帰省するたび、かつてにぎわっていた場所の人通りが減り、地元が少しずつ寂しくなっていくように感じていた。
人口減少ばかりでなく、近年はクマ被害のニュースでも注目された鹿角市。そんな町で開かれる初めてのロックフェスには、どんな思いが込められているのか。
(テレビ朝日報道局 黒沢博)
“ピラミッド伝説”の町 秋田県鹿角市
秋田県の北東部にある鹿角市。「鹿」の「角」と書いて「かづの」と読む。
人口は2026年5月末時点で2万5956人。東京ドームの収容人数の半分にも満たない数だ。
鹿角市には、古くから地域に根づいた音楽文化がある。代表的なのが、秋田県無形民俗文化財に指定されている「花輪ばやし」だ。和太鼓の力強い響きと華やかな囃子が特徴で、鹿角を象徴する祭りとして受け継がれてきた。
また、鹿角の音楽は伝統芸能にとどまらない。市内には「音楽を通じた交流拠点」である”MITプラザ”があり、ポップスやロックミュージックを通じた地域内外の交流も盛んに行われている。伝統の音と現代の音楽が共存していることも、鹿角市の魅力のひとつだ。
そんな音楽文化のある街で開かれるロックフェス。「クロマンタロックフェス」の会場は、温泉街にある「道の駅おおゆ」である。周辺には”大湯環状列石”があり、温泉・自然・文化財を一度に体感できる立地である。
大湯環状列石は、縄文時代後期(約4,000年前)の大規模な石が環状に並べられた遺跡で、墓やいわゆる冠婚葬祭のための特別な場所だったと考えられており、"ストーンサークル"とも呼ばれている。
遺跡に加えて、黒又山(クロマンタ)には“ピラミッド伝説”もある。
山の形が、ほぼ左右対称の円錐形であること、山頂部分が広く平らに削られていることから、「人工的な構造物ではないか?」という説が古くから語られてきた。
このことが、オカルト雑誌や古代文明ファンの間で「日本のピラミッド」として注目を集め、1990年代には学術調査も行われた。
これをきっかけに、テレビなどでも度々取り上げられ、同時に「UFOを見た」という都市伝説は後を絶たず、ミステリアスな山として人気を集めてきた。
今回のフェスは、この黒又山の「クロマンタ」が由来となっており、フェスのロゴのUFOもこうした都市伝説からきている。
人口減少にクマ被害…マイナスイメージに悩む町
そんな鹿角市の出身の私は、帰省するたびに人が減っていく実感があった。
町を歩いても知り合いどころか、人とすれ違うことが珍しくなっていった。
総務省が公表した2025年国勢調査の人口速報集計によると、日本の人口は2020年から約310万人減少した。減少率は2.5%で、国勢調査としては過去最大の減少幅となった。
なかでも秋田県は、2020年の95万9502人から2025年は88万2100人に減少。減少率は8.1%で、全国で最も高くなった。
深刻な少子化に対応するため、10年後の2036年までに小中学校をそれぞれ1校にする大規模な再編案が出されたという。
少子化に加え、クマ被害も深刻化しており、小学校のすぐそばでの出没報告も相次いでいる。小学生は保護者の送迎が必須となり、近頃は外で遊ぶ子どもたちの声も聞こえない。
こうしたニュースを目にして私はどんどん不安が募っていた。生まれ育った秋田県鹿角市は、いつの間にか「懐かしい場所」であると同時に、「この先どうなっていくのだろう」と考えさせられる場所になっていた。
ネガティブなニュースが多く取りざたされる中、鹿角市のある人たちが“音楽の力”で地元を盛り上げようとしている。
「若者に自信を」…音楽でマイナスを覆す
鹿角市の企業に勤めながらフェスの実行委員も務めている奈良明日香さんは、こうした町のマイナスイメージを、音楽イベントを通じて少しでも払拭したいと考えている。
奈良さんは、兵庫、京都、東京での生活を経て鹿角に移り住んだ移住者だ。都会で経験を積むことの大切さを認めつつも、家賃や生活コストの高さ、デジタル依存など、都市部での暮らしにくさも感じてきた。
ただ、その魅力が十分に発信されていないことに課題も感じている。
「元気を与えたい」地元出身アーティストは語る
「クロマンタフェス」には、SAKANAMON、サニーデイ・サービス、つじあやの、奈良姉妹、H.A.T.、VegA、Suspended 4thらが出演する。
出演者の1組で、今月12日には新アルバム「Season of breath」をリリースするボーカルユニット「奈良姉妹」のいつかさん、ひよりさん。
地元を離れて音楽活動を続けてきた2人にとって、鹿角で歌うことの意味とは何だろうか。
初開催となるイベントの幕開けを担うことについて、いつかさんは「地元出身のアーティスト」としての意識をにじませる。
一方で、地元を離れ、外から鹿角を見るようになったからこそ感じる不安もあるという。
奈良姉妹が目指すのは、音楽を通じて鹿角や秋田の存在をより多くの人に知ってもらうことだ。
成功へのカギ…“地方”が抱える課題とは
このフェスが行われることで、鹿角市にどのような効果が得られるだろうか。
明日香さんは「目標は2000人の来場客」と話すが実際に人が集まるのか、不安がないわけではない。
鹿角市によると、年間観光客数は令和5年度以降ほぼ横ばいで推移している。一方、国内のインバウンド需要の高まりを受け、外国人観光客は増加傾向にあり、特に台湾からの観光客が多いという。市としては「クロマンタロックフェス」は民間団体が頑張っていることに感謝と期待の念を持っている。
一方で、クマ被害に関する報道の影響もあり、観光面では風評被害が広がりやすい状況にあると危惧する。
2025年度、全国のクマによる人的被害は238人、うち死亡は13人と、いずれも過去最多となった。
この影響は、音楽イベントとも無関係ではない。
青森県弘前市・岩木山のふもとで開催予定だった音楽イベント「OYAMA NO NEIRO.」は、2025年、会場となるキャンプ場がクマ出没対策のため閉鎖され、開催延期を余儀なくされ、今年無事開催となった。
また、新潟県湯沢町で開かれる「FUJI ROCK FESTIVAL」は、「自然と音楽の共生」を掲げる国内最大級の野外フェスのひとつだ。会場では、クマなどの野生動物を誘引しないため、食べ物を放置しないよう来場者に繰り返し呼びかけている。
地方の野外フェスは、山間部や温泉地、自然公園に隣接する場所で開かれることも多い。都市型フェスとは異なり、“自然の中で開催するイベント”である以上、野生動物との距離感や安全対策も含めて運営が成り立っている。
では、クマ被害が相次ぐ秋田県鹿角市で開かれる「クロマンタロックフェス」は、”クマ対策”をどう考えているのだろうか。
実行委員会の奈良さんによると、クロマンタフェスは「出店、屋台のゴミの"即時回収"」「有料エリアの外周をテントで囲み、クマ侵入を防ぐ」などの対策をするという。
鹿角市自体も「ハンターの雇用強化」「クマ出没情報を市の公式メールで周知」「侵入を防ぐための自動ドア停止」など、様々な対策をしている。
クマ被害という現実と向き合いながらも、“鹿角らしさ”を前向きに発信しようとしている。
クロマンタフェスは、音楽を通じて地域の魅力を見つめ直し、若者が地元に自信を持つきっかけとなるのか。
明日香さんは地方の盛り上げについて力強く語った。
いまや地域の誇りともいわれる「FUJI ROCK FESTIVAL」。ミュージシャンの西川貴教さんが地元・滋賀を盛り上げたいという思いでスタートした「イナズマロック フェス」。
「クロマンタフェス」は、これらのように音楽を通じて地域の魅力を見つめ直し、若者が地元に自信を持つきっかけとなるのか。
初開催の挑戦が鹿角の新たな一歩として注目される。








