6歳から子役として活動をはじめ、「天才てれびくんMAX」(現・NHK Eテレ)のてれび戦士として3年間レギュラー出演した前田公輝さん。映画「ひぐらしのなく頃に」(及川中監督)、映画「スラッカーズ 傷だらけの友情」(渡邊貴文監督)、「ダマシバナシ」(日本テレビ系)など主演作も多い。メインキャストのひとりを演じた映画「ホーム スイート ホーム」(吉川鮎太監督)が公開中。9月21日(月)より「リア王 -KING LEAR-」(東京芸術劇場 プレイハウス)への出演も控えている。(この記事は全3回の後編。前編と中編は記事下のリンクからご覧になれます)
■夢だった連続ドラマの主演に!
「赤ひげ」シリーズ(NHK)で個性的な医師、「HiGH&LOW」シリーズのカリスマ不良・轟洋介、連続テレビ小説「ちむどんどん」でヒロインを一途に愛し失恋する幼なじみ、Amazon Original映画「ナックルガール」(チャン監督)でヒロインに戦闘スタイルを教える元カレなど印象的な役どころを演じてきた前田さん。近年は恋愛ドラマにも多数出演。
2024年、「私をもらって〜追憶編〜」(日本テレビ系)に久保田紗友さんとW主演。この作品は、韓国の人気webtoon・web小説が原作のラブストーリー。
前田さん演じる一条稜英は、大企業の創業者一家の御曹司として生まれ、完璧に用意された人生を歩んできたが、ある日突然事故によって意識不明の状態になってしまう。
その同時刻に事故に遭い意識不明になった森川奈津実(久保田紗友)は、数週間後に奇跡的に意識を取り戻す。そんな奈津実の前にゴーストとなった稜英が現れ、とんでもない依頼をされることに…という展開。
「連続ドラマ初主演作です。俳優を志した頃からの『連続ドラマの主演を務める』という
夢が叶った瞬間でした。原作は韓国の漫画で、王子様のようなキャラクターを演じさせていただきました。
ただ当時は、深夜ドラマの主演ならではのタイトなスケジュールを経験したことがありませんでした。それまでは、撮影の1週間ぐらい前から台本をじっくり読み込み、1週間後に本番を迎えるというようなペースで臨んでいたので、僕のやり方は、テンポとしてかなり遅い方だったんです。
そのやり方のままでは深夜ドラマの現場に対応するのが難しく、当時は撮影前に監督に演技を見ていただく、ワークショップのような時間も作っていただいたんです。
でも、当時はかなり忙しく、3作品ほど撮影が重なってスケジュールを縫うように撮っていたので、頭の中はパニック状態でした。今、割とすぐアウトプットができるようになったのは、『私をもらって〜』のおかげだと思っています」
――ゴースト(生霊)の時と人間、両方演じ分けるのは難しかったのでは?
「そうですね。時々どちらなのかわからなくなってしまって、『今の稜英は生霊だっけ?いや、違う、違う』と混乱することもありました(笑)。でも、ゴーストの稜英は奈津実以外の人間には見えない設定だからこそ自由に振る舞える部分もあって、演じていて面白かったです。
実はシーズン1(追憶編)とシーズン2(恋路編)を一気に撮っていたんです。全16話を2カ月ほどで撮り切るかなりタイトなスケジュールだったので、僕も久保田紗友さんも、本当に寝る時間がないくらい大変でした。
生霊の時は、物に触れられなかったり、周りから姿が見えないという設定だったので、そうした役柄を演じるのは初めてで面白かったですね。なりふり構わず大切な存在を守ろうとする稜英には共感できる部分も多かったので、終始楽しみながら演じることができました」
この作品で連続ドラマ初主演を果たした前田さんは、「完全不倫−隠す美学、暴く覚悟−」(日本テレビ系)、「おいしい離婚届けます」(中京テレビ・日本テレビ系)、「もう1度夫婦になりますか?カモフラージュ夫婦〜」(日本テレビ系)など連続ドラマ主演作が続いている。
■週2で号泣していました
現在、メインキャストのひとりを演じた映画「ホーム スイート ホーム」が全国公開中。この作品は、未来の家族が、時間を超えて押し入れからやってくるという“押入れタイムスリップ・ホームコメディー”。
祖父の代から続くせんべい屋を継いだものの、繁盛させられず、再開発のための立ち退きも考えている植木一郎(八村倫太郎)の前に、28年後の未来から息子・英郎(増子敦貴)、56年後から孫・史郎(駒木根葵汰)が突然現れる。
未来が変わり、生まれてこなくなってしまう英郎と史郎は、一郎とともに時空を行き来しながら未来を元に戻そうとするうちに1999年の夏に到着。
そこで会ったのは、一郎の記憶にある「頼りがいのある寡黙な父親」像とはかけ離れた、ギャンブル好きでノリの軽い、べらんめえ口調の若き日の父・耕太郎(前田公輝)。そして耕太郎も巻き込んで歴史の修正に取り掛かることに…。
「一言で言うと、愛すべきダメおやじのようなキャラクターですね(笑)。みんな27歳という設定なのですが、僕だけ実年齢が離れているので、どうしたものかなと思って。一番年上の僕が率先して一番変な顔をしていたら、周りのみんなもやりやすくなるんじゃないかなと考えたんです。
感情を伴った変顔ではあるのですが、とにかく顔の筋肉を今までで一番柔らかくして、からだもあえて大きく動かし、声も一番出すようにしました。最年長の僕が誰よりも若手に見えるぐらいエネルギッシュに演じたら、現場も盛り上がるんじゃないかなと思ったんです」
――熱量がすごかったですね。まさに“昭和のおやじ”という感じで
「はい。撮影中に本当に声が枯れてしまいました(笑)。僕は昔から『喉(のど)が強い』と言われていたので、こんなことは初めてでしたね。
ちょうどその時、喜びを噛み締めるシーンの撮影だったので、アドリブで『喜びすぎて声枯れたわ』と言って、その声を生かしてそのまま撮影を続行させてもらいましたけど、ただ全力で演じた結果、枯れただけなんですよ。
初めての経験で、すごく不安でしたけど、完成した作品を試写で見て、これなら大丈夫だと胸をなでおろしました。『声が枯れていてセリフが聞こえなかったらどうしよう?』と心配していたのですが、意外としっかり聞こえていましたし、逆にハスキーで渋みが出て良かったのかなと思っています(笑)」
――押入れタイムスリップ・ホームコメディーという言葉を初めて聞きました
「そうですよね(笑)。もともとは舞台作品ですが、映像も残っていなかったので、イメージを膨らませて演じるしかありませんでした。でも、だからこそすごく楽しかったですね。
中盤あたりに縁側で4人が座っているシーンがあるのですが、かなり長回しで撮影されたんです。あの瞬間、世代の垣根を超えた絆のようなものが生まれていましたし、みんなで一致団結して一つの総合芸術を作り上げている感覚が強く残っていて、すごく印象的でした。監督にあのシーンをそのまま生かしていただけたことは、本当に嬉(うれ)しかったですね。
――特に印象に残っていることは?
「撮影中、カメラの存在すら忘れて涙が止まらなくなった瞬間があったんです。その時にはもう喉も枯れていたのですが、劇中で息子が生まれて感情が爆発し、『俺がおやじになるんだぜ』というシーンでは、自分の人生の中でも初めての感覚で、自然と涙が溢れ出てきました。
昔は涙を流す演技が苦手だった時代もあったのですが、今はもう全然苦手意識はありません。『もう1度夫婦になりますか?カモフラージュ夫婦〜』では、週2ペースで号泣していたぐらいなんですよ(笑)。
パワハラで、めちゃくちゃどうしようもないクズ夫の役なんですが、物語の後半からは彼の繊細な部分が表に出てきて、週2ペースで泣いていました。撮影中はしっかり役と向き合えている感覚があり、自分自身の意識が入ってくる隙間がないほど『役として生きている』時間を過ごせましたね。
テレビや映画の現場では、どうしてもカメラの存在が頭のどこかにあるものなのですが、
『ホーム スイート ホーム』で初めてカメラの意識が完全に消えていたんですよね。そういう感覚を体験ができたことは、僕の俳優人生においてすごく大きな一歩でしたし、まさにそう思える作品と出会えたことに心から感謝しています」
9月21日(月)から舞台「リア王 -KING LEAR-」(東京芸術劇場プレイハウス)に出演。リア(内野聖陽)の重臣グロスター(山路和弘)の子で親兄弟を裏切り、リアの娘たち(川上友里・内田慈)を篭絡(ろうらく)する悪漢エドマンド役を演じる。
「右も左もわからない新人状態で飛び込みました。今まで僕が学んできたことを一度すべて0(ゼロ)にして挑んでいるので、この舞台を走り抜けたあと、自分がどんな姿になっているのか今からすごく楽しみです。
20代の頃は、犯罪者とかヒール(悪役)が多かったのですが、ここ数年は『善人』の役も増え、幅広い役柄に恵まれて本当に幸せだなと思っています。今回は、久しぶりに本格的な悪役を演じられるので自分自身でもすごくワクワクしています」
現在舞台の稽古真っ最中。公開中の映画「ホーム スイート ホーム」に加え、9月11日(金)には、映画「マッチモンド」(倉橋龍介監督)の公開も控え、多忙な日々が続く。(津島令子)
ヘアメイク:佐藤由貴
スタイリスト:岩田友裕



